'2000年度、私の選んだベスト作品の発表をいたします。昨年と同様、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。なぜこういう方法にしたかについては昨年度('99年度)ベスト20発表のページに掲載してありますのでご参照ください。
 昨年度は、キネ旬に合わせて'99年12月公開作品をはずしましたが、今年度のキネ旬が2000年12月公開作品も対象にした事もあり、それに合わせて選考対象期間は'9912月〜2000年12月としました。ご了承ください。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
ナビイの恋 中江 裕司
あの子を探して チャン・イーモウ
阪本 順治
U−571 ジョナサン・モストウ
スペース・カウボーイ クリント・イーストウッド
トイ・ストーリー2 ジョン・ラセター
はつ恋 篠原 哲雄
アイアン・ジャイアント ブラッド・バード
初恋のきた道 チャン・イーモウ
10 ekiden [駅伝] 浜本 正機
11 十五才 学校W  山田 洋次
12 シュリ カン・ジェギュ
13 バトル・ロワイアル 深作 欣二
14 人狼 JIN−ROH 沖浦 啓之
15 遠い空の向こうに ジョー・ジョンストン
16 岸和田少年野球団 渡辺 武
17 御法度 GOHATTO 大島 渚
18 フォーエバー・フィーバー グレン・ゴーイ
19 五条霊戦記 //GOJOE 石井 聰亙
20 グリーン・マイル フランク・ダラボン
雨あがる 小泉 堯史

 

 個々の作品評については、以下の文中のアンダーライン付作品名をクリックしていただければそれぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

 1位は悩んだ。なんせ昨年は素晴らしい傑作が目白押しで、星5つあげた作品が続出したのである。結局、映画を見た時の至福感が今も鮮明に残っている「ナビイの恋」をベストワンとする事とした。他でも言っている事だが、キネ旬が'99年度の選考期間を'99年12月末までにしておけば(2000年度から12月末までになった)この作品は間違いなく'99年度ベストワンになったはずである。昨年は「顔」が圧倒的な強みを見せた為、どこのベストテンでもあおりを食って2位に甘んじてしまった。せめて私んとこくらいは1位にしておきたいという思いも多少はあると言えるかも知れない。
 洋画のベストワンは「あの子を探して」に決まりである。作者の言いたい思いがひしひしと伝わって来る。教育に携わる人たちは特に見て欲しい。チャン・イーモウは凄い!こういう風格と落ち着きのある演出力を持つ監督は、我が国では山田洋次くらいしか残っていないのではないか。映画全盛期には成瀬、小津、木下恵介、今井正に黒澤明と、きら星の如くいたのに・・・
これは音楽界でも風格のある歌い手が激減(あるいは売れない)している事と根は同じなのかも知れない。
 昨年、映画賞を総なめした「顔」が3位に入った。これも大好きなのだが、個人的には1、2位のような心の温まる爽やかな映画が好きなので結果的にこんな所に落ち着いた。監督賞を選ぶなら阪本順治に決まりである。
 「U−571」は、見た時は大感激して星5つもあげてしまったが、時間が経つにつれだんだん感銘が薄れてしまったのは自分でも意外である。ゲーム的な展開である事が原因しているのかも知れない。しかしアクション映画としての面白さでは随一であるのは間違いない。それにしても洋画専門誌ではことごとく無視されているし、キネ旬でも31位というのは過小評価ではないか。それでもホッとしたのは、敬愛する石上三登志氏、森卓也氏がキネ旬でそれぞれ2位、3位にランクしていたこと。このお二人が揃って誉める作品は絶対に面白いのだから、星5つをあげたのはやはり間違いではなかったと思っている。
 「スペース・カウボーイ」。いまさら言うまでもない。キネ旬でも1位になった。ただ若い人の間ではいま一つ評価は高くない(読者のベストテンでは15位)。そりゃやっぱり、中年以上にならないとこの良さは分からないかも知れない。これは、歳をとっても、少年の頃の夢を忘れない大人たちに捧げる素敵なメルヘンだからである。70才になっても精力的に監督・主演をこなすイーストウッドには素直に尊敬の意を表したい。
 「トイ・ストーリー2」も面白かった。楽しくてハラハラ、ドキドキして、大笑いして、そしてせつなくなる・・・。娯楽映画の王道である。しかもあちこちにパロディやらお遊び映像も隠されていて、それらを探すだけでも楽しい。大人が見ても十分楽しい快作なのだが、どうしても子供向きという先入観がある為か評価が低いのが残念である(キネ旬66位)。
 「はつ恋」は爽やかな秀作。ただミニシアター公開なのが残念。こういう作品こそ全国ロードショーで多くの人に見て欲しい。日本映画のシステム上の欠陥は、いい映画が出来上がって、多くの人に見せるべき作品と思える場合は臨機応変に(また劇場確保に時間がかかってもいいから)じっくりPRし、全国的に展開しヒットに結びつける戦略体制がなかなか実現できない点にある。これは10位の「ekiden[駅伝]」にも言える事で、配給会社に自信がないのか、興行側に勇気がないのか、とにかくせっかくの秀作が多くの観客の目に触れないままひっそりと興行を終える例が目につく。同じ篠原哲雄監督作品ながらガッカリする出来だった「死者の学園祭」なんかをしょーもない愚作と併映で全国チェーン公開して、結局「日本映画はつまらない、ダサい」という悪評を広める結果にしかならない。自殺行為である。
 「アイアン・ジャイアント」も素敵な秀作であった。ただこれも、ワーナー・マイカル・チェーンのみの公開であった為、結果として一部地域でしか公開されず、せっかくの秀作が多くの子供たちの目に触れなかった事が残念である。大阪の例では、ワーナー・マイカルは当時は岸和田にしかなく、見に行こうとすれば2時間もかかるので断念せざるを得なかった。おまけにやっと梅田で公開された時はレイトショーだった。子供に見せる映画をなんでレイトショーでやるのだ!今後もマイカルのみでの公開方式は増えるようだが、ロードショーは仕方ないにしても、2番館方式でできるだけ全国的に公開できる方法を考えて欲しいものである。
 
9位の「初恋のきた道」もチャン・イーモウ作品。何も言いません。とにかく見るべし。そして静かに泣くべし。珠玉の傑作。もっと上位でもよかったが、「あの子を探して」があった為にイーモウ作品ばかり上位にするのは気が引けただけ。チャン・ツィイーの可愛らしさは絶品!
 昨年の日本映画は大ベテラン監督の頑張りが目についた。11位の
十五才 学校W」の山田洋次、13位の「バトル・ロワイアル」の深作欣二、17位「御法度」の大島渚、みんな70才前後のお年寄りばかりである。その他、20位に入れられなかったが「どら平太」の市川崑、「三文役者」の新藤兼人はお二人とも80才台である。いずれも年齢を感じさせないエネルギーを感じた。深作のパワーには若い作家でもかなう人はいないのではないか。「BULLET BALLET」の塚本晋也ですら深作の前ではヒヨコである。「五条霊戦記//GOJOE」の石井聰亙がなんとか太刀打ち出来ると感じたが、アクションシーンの演出ではまだまだ深作に追いついていない。石井の原点はアクションなのだから、B級アクションでもビデオシネマでも、とにかく映画を多く撮って腕を磨いて欲しい。
 最近の韓国映画のレベルアップは
目ざましい。前年の「八月のクリスマス」もラブ・ストーリーの秀作だったが、「シュリ」ではハリウッド・アクションに挑み、大成功を収めた。真似でもパクリでもいい、日本映画もこれくらいの力作を作ってはどうか。私は、パクる図太さが映画のエネルギーの源だと思っている。日本映画も全盛期は西部劇やフランス・ヌーベルバーグやフィルム・ノワールをずいぶんパクっていたものだった。香港映画は日本の日活アクションや「座頭市」や「子連れ狼」を徹底的に研究してエキスを吸収した結果面白くなったのである。シンガポールの「フォーエバー・フィーバー」もパクリやパロディが満載である。しかし全体の芯として家族愛をじっくり捉えているので見応えのある作品となっている。日本映画はパクる元気が弱まった事が沈滞の原因だと私は確信している。もっとパクるべし!
 そういう意味では、16位「岸和田少年野球団」が意図したのかどうか、「スタンド・バイ・ミー」とか「泥の河」とか「ダイナマイトどんどん」(岡本喜八)なんかのパクリめいたものが感じられ、しかし全体としては少年たちの友情が泣かせる爽やかなドラマになっていて楽しめた。渡辺武は「極つぶし」でも「レイダース」のあからさまなパクリをやって楽しませてくれたし、この調子で頑張って欲しいと思う。
 14位の「人狼 JIN-ROH」はアニメとは思えないリアルな東京の風景が素晴らしい。そして脚本の押井守お得意のアンジェイ・ワイダへのオマージュがさりげなく散りばめられ、全体の空気としても混乱した戦後のゲリラ戦と政治状況と、それに引き裂かれる男女を描いたワイダの「灰とダイヤモンド」と非常に似通った緊迫したテンションがみなぎっている。
ミニシアターでのヒットは喜ばしい。沖浦啓之監督の次作が楽しみである。
 あと、「遠い空の向こうに」 「グリーン・マイル」 「雨あがる」がいずれも私好みのジーンときてちょっぴり泣ける佳作であった。
こうやって並べてみると、やはり見終わって爽やかな気分になり、元気の出る素敵な作品が多かったのが2000年の特徴であったと言えるのではないか。とにかく楽しませていただきました。

 さて、う〜ん困った。21位まで来たのに まだまだ素晴らしい秀作が紹介しきれていない。とにかく昨年は豊作であった。仕方がないので、 できる所まで以下紹介することとする。
22位「BLOOD The Last Vampire」。できればもう少し長編で見たかった(48分)。それがやや残念。
23位「トゥルー・クライム」(C・イーストウッド)。年初に見た時にはベスト20に入れたいと思ったが、その後秀作が次々登場して印象が薄れたのと、年末の「スペース・カウボーイ」にイーストウッド興味が移ってしまったせいである。それにしてもキネ旬で135位、わずか2点という得点には唖然。捨て難い佳作なので未見の方は是非ビデオででも見てください。
24位「漂流街 The Hazard City」。ファーストシーンの字幕「埼玉県戸田市笹目」は映画史に残るだろう。しかし三池崇史、最近ちょっと撮り過ぎのせいかパワー減速気味なのが気がかり。
25位は「三文役者」。88歳の最高齢監督のパワーに脱帽。なのにこんな順位になったのは、近代映協自賛傾向がやや目立ち過ぎたせい。ジャズとミステリーをこよなく愛した殿山さんの素顔がいま一つ覗えなかったのが惜しい。
26位「オーディション」。これも三池崇史の力作。昨年一番怖かった映画です。
27位「奇人たちの晩餐会」。見た時は大笑いして楽しませて貰ったが、時間が経つと印象が薄れてしまった作品。不思議なのは公開当時結構評判になったのに、年末になると誰も言わなくなったばかりか、キネ旬ではついに1点も取れなかった。何故でしょう?

 28位「ストレイト・ストーリー」、29位「グラディエーター」、30位「グリーン・デスティニー」。 いずれも面白かった力作、佳作。なのにこんな順位に落ち着いてしまった。それだけ昨年は素晴らしい傑作が目白押しだった年であったと言える。

まだまだあるが、キリがないので、あと7本だけ紹介して終わりにさせていただく。
31位「ゴジラ×メガギラス G消滅作戦」(手塚昌明)
32位「カリスマ」(黒澤清)
33位「マルコビッチの穴」(スパイク・ジョーンズ)
34位「13デイズ」(ロジャー・ドナルドソン)
35位「ファンタジア2000」
36位「独立少年合唱団」(緒方明)
37位「オール・アバウト・マイ・マザー」(ペドロ・アルモドバル)

  

 ワーストテンも作りましたのでそちらもご覧ください。

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