あの子を探して (コロムビア(ASIA):チャン・イーモウ 監督)

 心にしみる傑作である。学校とは何なのか、教育とは何なのかというテーマを、さりげなく、しかし力強く語りかけてくる素敵な作品である。主人公の13歳の少女がとてもいい。お金を稼ぐ為に代用教員を引き受けたものの、どう教えていいかも分からず、ふてくされ、言う事を聞かない生徒たちに怒り散らす。こんな仕事もういやだけど、お金が欲しい・・・。最初はそう思っていた少女が、授業を繰り返すうちに次第に生徒たちと心が通い始めるプロセスが実に自然でうまい。聞けばこの少女(ウェイ・ミンジ)も子供たちもみんな素人だと言うからすごい!(ついでながら、登場人物の役名はすべて出演者の名前と同じである)。そして後半、わんぱく坊主が街へ出稼ぎに行き、生徒が減ると割増給料が貰えないので、少女は坊主を連れ戻しに街へ行くことにする。その前、バス代を捻出する為、生徒たちが全員でレンガ運びをする場面がほほえましいし、日当を黒板で計算している所を見て、算数を教えていると村長が誤解するあたりは笑えると同時に、こうしてみんなが協力し合う事も期せずして教育になっているあたりがうまい描き方である。そして最初は金の為だった少年探しが、最後には心から少年の安否を気遣うように変わって行くあたりも絶妙である。テレビに出て「こんなにあなたの事を心配しているのに・・・」と泣くあたりはこちらも泣かされてしまう。それを見てわんぱく坊主も泣き出し、ようやく二人が出会い、そして村へ戻る車の中で互いに手をしっかり握り合っている所でドッと泣けてしまった。これが教師と生徒の本当の姿なのである。これが本当の教育なのである。それを13歳の少女に教えられたのである。テレビを見た人たちから寄付がドッと集まり、それで新しいチョークも手に入り、校舎の建替えも出来るようになるあたりは多少甘いとは思うが、それでもラストの本当に楽しそうにチョークで文字を書く生徒たちの笑顔に免じて許す気になる。そして、あのわんぱく坊主がチョークで書いた3文字(見ていない人の為に敢えて書かない)を見て、私の涙腺は止まらなくなった。(ここで泣けない人とは付き合いたくない)
 我が国の最近の、荒れる学校、キレる子供の実態と比較して、教育とは何なのかをつくづく考えざるを得ないと思う。そして
この映画にあるように、今でも校舎はボロボロ、読み書き出来ない子供たちが3億人もいるという中国の現状に比べ、物に恵まれ過ぎて心を置き忘れてしまったかのようなアジアのリッチ大国、日本は教育に関しては3等国なのだと恥じ入るべきではないかと思う。そういう事まで考えさせられる、珠玉の感動作である。見るべし!