十五才・学校W (松竹:山田 洋次 監督)
このシリーズ、1作目はまずまずだったものの、以降1作ごとにボルテージが落ちて来たように思える。今回はガラリ、スタイルを変えてロードムービー仕立てにしたのが成功し、山田作品としても近来にない秀作となった。
学校とは、本来どうあるべきなのだろうか。毎日面白くもない授業を受け、重苦しい受験勉強をして大学に受かればそれで事足れリでいいのだろうか・・・。主人公の少年はそれに疑問を感じ、不登校の末に家を飛び出し旅に出る。何の疑問も抱かず登校しているだけの普通の中学生に比べれば彼の問いかけの方がよっぽど真摯だし正しいと言える。少年は旅の途中、さまざまな大人たちのさまざまな人生と出会い、人の善意に涙し、自然の怖さを知り、大人のエゴに怒り、学校では絶対に学んでこなかった体験を経てちょっぴり成長する。旅こそが彼にとっての本当の学校となったのである(この間見たチャン・イーモウ監督「あの子を探して」ともテーマとして共通するものがある)。再び戻った学校が彼にとって面白いものになったはずはない。だけど少年は感じる。つらいこと、いやなことがあってももう逃げない。それもまた人生であり勉強なのだ、と・・・。久しぶりに山田洋次の本領を発揮した、本年屈指の力作である。家庭内にいろいろな悩みを抱える人ほど見て欲しい。きっと元気になれるはずである。
振り返ってみると、山田洋次作品のうちの秀作と呼べるものにはロードムービーが多い。「家族」(70)、「幸福の黄色いハンカチ」(77)という2大傑作はいずれもロードムービーだし、寅さんが日本中を放浪する「男はつらいよ」もある意味でロードムービーと言える。ちなみに寅さんシリーズの「ぼくの伯父さん」は満男が大学受験に失敗し、親とケンカして家出するという、本作とそっくりなお話で、最後に家に帰った満男に対する両親のリアクションもよく似ている(ついでに、旅に出て最初に出会う、イヤな大人がどちらも笹野高史という点も共通している。それと、旅の最後に出会う大人の前田吟(寅さんシリーズの満男の父親役)の役名がなんと“満男”なのには笑わされた)。そう思えば、本作の主人公の少年を演じた金井勇太は、風貌、喋り方も満男役の吉岡秀隆とよく似ている。吉岡は寅さんシリーズ以外でも「虹をつかむ男」で同じく家出し旅に出ている。つまりはこの作品、山田洋次がずっと描き続けて来たお話の集大成であるとも言えるのである。山田映画を見続けて来た人は余計楽しめる、素敵な秀作である。 ()
(付記)山田洋次はインタビューで、この作品の題名を「家族U」にしてもよかったと言っている(キネマ旬報11月下旬号)。で、思い起こせば、「家族」でも前田吟はやはり“老いた父親を地方に残して都会で働いているサラリーマン”を演じていた。30年経ってもまったく同じ役柄を演じているというのも珍記録ではなかろうか?!