私が選んだ、'99年度ベスト作品の発表をいたします。と言っても他でやってるベストテンと違い、私のはここ10年来、邦画・洋画の区別なく公平に順位をつける方式でやっております。(別項の「映画秘宝」ベスト20と同じやり方)そもそも映画とは言語・出演者・製作者に関係なくインターナショナルな芸術で、ましてや各国との合作が増えてきて国籍も不明になってきていると言うのに、十年一日の如く邦画・洋画を別々に選ぶなんてのはナンセンスだからである。特におかしいのがキネ旬の分け方で、大島渚「愛のコリーダ」が外国資本が入っているからと言う理由で“洋画”扱いにされ、逆に日本人が出演しておらず、全編英語セリフの「Mr.Pのダンシングスシバー」が邦画に分類されるといった具合。カナダ人のクロード・ガニオン監督の「KEIKO」も邦画扱いである。もうこんなトンチンカンな選考はやめて私や「映画秘宝」がやっているように垣根を取っ払うべきである。アメリカ・アカデミー賞だって作品賞にイギリス映画の「炎のランナー」「ラスト・エンペラー」が選ばれ、オーストラリア映画の「ピアノ・レッスン」やイタリアの「ライフ・イズ・ビューティフル」が作品賞他、数部門にノミネートされているくらいなのだから・・・。
 前置きが長くなってしまった。では私のベスト20です。(基準は一応正月公開作品ははずしてあります。従って「御法度」「ファイト・クラブ」等は入っておりません。為念)

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
メッセンジャー 馬場 康夫
マトリックス ラリー&アンディ・ウォシャウスキー
恋におちたシェイクスピア ジョン・マッデン
金融腐蝕列島[呪縛] 原田 眞人
ライフ・イズ・ビューティフル ロベルト・ベニーニ
あの、夏の日〜とんでろ じいちゃん 大林 宣彦
シックス・センス M・ナイト・シャマラン
あ、春 相米 慎二
RONIN ジョン・フランケンハイマー
10 シン・レッド・ライン テレンス・マリック
11 八月のクリスマス ホ・ジノ
12 皆 月 望月 六郎
13 39 刑法第三十九条 森田 芳光
14 バグズ・ライフ ジョン・ラセッター/アンドリュー・スタントン
15 双生児 塚本 晋也
16 アイズ・ワイド・シャット スタンリー・キューブリック
17 鮫肌男と桃尻女 石井 克人
18 のど自慢 井筒 和幸
19 Dead or Alive 犯罪者 三池 崇史
20 Born to be ワイルド ウィリアム・ディア
地 獄 石井 輝男

 

 個々の作品評については、以下の文中のアンダーライン付作品名をクリックしていただければそれぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

 1位の「メッセンジャー」は不動。これほど爽やかで心から楽しめた作品はここ数年の間でも思い浮かばない。ただどこのベストテンを見てもこの作品の評価が低いのが悔しい。いろんな批評を見ればほとんどみんな誉めてるし、ホイチョイ・プロ作品の中でも最高作と言う人も多いのに、なぜベストテンに入らないのか・・・、それだけ他に秀作が多かったのだと思うことにしよう。まだ見ていない人、まもなくビデオも出ますから、必ず見てください。
 「マトリックス」は洋画の方のベストワン。映像技術も革新的だが、3Dバーチャル・テクノロジーが急速に進歩している現在、映画に描かれているような時代が将来やって来てもおかしくないというリアリティが感じられて怖い。そこに日本アニメ、カンフーアクション、ジョン・ウーからペキンパーまであらゆる娯楽要素をびっしり詰め込んだサービス精神が楽しい。反対に「恋におちたシェイクスピア」ははるかに昔の時代のおおらかで楽しいおとぎ話。まるで正反対に位置するこの2本が興行的にもヒットしベストテン上位を占めるあたりがまた面白い。これが映画の奥の深さなのである。
 日本映画で大いに気をはいたのが
「金融腐蝕列島[呪縛]」。作品評にも書いたがこういう大人の題材(経済小説)を興行的、作品的に成功させた、その事が余計うれしい。東映は若者に媚びたくだらん映画(「ドリームメーカー」「GTO」)を作ってコケるより、こんな作品で大人の信頼を回復する方が大事ではないかと思う。
 
ライフ・イズ・ビューティフル」もいい。笑わせながら、結果として戦争の愚かさを静かに訴えるストーリーが素晴らしい。ユダヤ系の人たちにとって、戦争はまだ終わってはいないのだ。
 大林宣彦の精力的な映画作りには敬意を表したい。
「あの、夏の日〜とんでろ じいちゃん」は少年時代のリリシズムと老いて死を迎える老人の心象風景とが見事に融合した傑作である。なのにこれも各種ベストテンでの評価は低い。非常に限定された興行というハンデはあるにしてもである。毎日映画コンクールで小林桂樹が主演男優賞を受賞したのがせめてもの救い。「あ、春」はキネ旬ベストワンを獲得した点でまだましだが、興行的にはこの2本、惨憺たるものであった。こういう大人がしみじみ味わいたい傑作が大して宣伝もされず(宣伝費もないのだろうが)、ひっそり公開されて消えて行くのが悔しく腹立たしい。
 「シックス・センス」 「RONIN」は別項の批評を参照。「シン・レッド・ライン」は「天国の日々」の伝説のテレンス・マリックが未だ瑞々しい感性を失っていなかっただけでもうれしい。さて、わが長谷川和彦は第2のテレンス・マリックになれるかどうか・・・。
 「八月のクリスマス」。韓国がいつの間にこんなに素晴らしい傑作が作れる映画製作国になったのか。あまりにストイックで抑制の効いた演出に唸らされる。今年の「シュリ」も凄い傑作だし、このままだと日本映画は完全に韓国に追い抜かれてしまいますぞ。
 「皆月」は反対に凶暴で荒々しい恋愛映画。望月六郎と花村萬月とはどこか共通点があるように思うのは私だけでしょうか。
39 刑法第三十九条」は脚本が素晴らしい。これを全盛期の野村芳太郎が演出すればもっと傑作になったかも知れない。森田の演出も現代的な不安感が漂っていて悪くはなかったのですがね。塚本晋也の「双生児」も江戸川乱歩の古典的な世界を現代的なセンスで切り取った演出がユニーク。ただこの3本、欲を言えば“腰の座り”と“風格”が加わればもっと普遍的な秀作になる可能性はあると私は思う。
 「バグズ・ライフ」は楽しい。「トイ・ストーリー」よりも、もっとなめらかな動きとリアル感を増したCGが素晴らしい。もはやこれは実写でもアニメでもない第3のジャンルとして区分すべきではないだろうか。ラストのNG集には笑いました。
 キューブリックの遺作
アイズ・ワイド・シャット」。もう彼の新作が見られないのは悲しい。考えればこれまで未来と過去の間を振幅して来たキューブリックが、初めて現代の日常的な夫婦生活にたどりついた所で映画人生を終えたのも奇しき因縁と言えようか。冥福を祈りたい。
 
鮫肌男と桃尻女」「Dead or Alive 犯罪者」はどちらもタイトルバックがヒップでマンガ・アニメ世代的感覚に満ちている他、全編独特の演出スタイルを貫いている点で共通している。石井克人と三池崇史・・・どちらもこれからの飛躍が大いに期待できる若手の有望株である。今後も見逃すな!。反面、「のど自慢」「Born to be ワイルド」のほのぼの世界も私は好きです。こうした両者の世界を振幅しながら映画は21世紀に向けて成長して行くのだろう。どちらが良いというものでもない。言えることは、どんなジャンルであろうと、そこに作家の主体性と観客を楽しませるサービス精神とが共に満たされている映画は素敵だということである。一人よがりの作品も、観客に迎合し主体性を喪失した作品も、共に厳しく弾劾すべきである。そういう基準で選んだのが私のベスト20である。

 惜しくもベスト20からはみ出た作品を以下に挙げます。(21)「地獄」以下(22)「シンプル・プラン」、(23)「バッファロー'66」、(24)「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」、(25)「鉄道員(ぽっぽや)」、(26)「Who Am I?」、(27)「白痴」、(28)「黒い家」、(29)「ホーホケキョ となりの山田くん」、(30)「大阪物語」、(31)「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルス」、(32)「おもちゃ」、(33)「ゴースト・ドッグ」、(34)「極道の妻たち 死んで貰います」、(35)「共犯者」、(36)「交渉人」、(37)「エネミー・オブ・アメリカ」、(38)「ワイルド・シングス」、(39)「Mr.Pのダンシングスシバー」、(40)「スネーク・アイズ」

 ワーストテンも作りましたのでそちらもご覧ください。

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