初恋のきた道  (ソニー・ピクチャーズ:チャン・イーモウ 監督)

 チャン・イーモウはうまい!。前作「あの子を探して」も実にうまかったが、お話としてはシンプルな本作もやはりうまい。村の少女が新任の先生を好きになる…という、ただ単にそれだけの話なのだが、細かいエピソードを積み重ねて、少女の初恋が次第に“一途な”情念に高まって行くプロセスを丹念に描く演出は本当にうまい。ちょっとした小道具の使い方(割れたドンブリ、赤い布切れ、古い機織り道具など)もまた印象的。吹雪の中、高熱をおしてまで愛した男の帰りを待ちわびるヒロインの、今や死語となりつつある「けなげさ」と「いじらしさ」にはジーンと来てしまう。少女役のチャン・ツィイーが実にかわいらしくて作品にピッタリ。この過去のエピソードがあまりにいいので、夫が亡くなった現在のお話(夫の亡骸を人手で運ぶ事にこだわる妻)はいま一つノれなかったのだが・・・。しかしこのモノクロで静かなたたずまいの現在を最初と最後に持ってきた事によって、まるでメルヘンのような少女時代が余計に鮮やかに光り輝いているのである。珠玉の秀作である。