バトル・ロワイアル (東映:深作 欣二 監督)
深作欣二監督の傑作と言えば、多分多くの人が「仁義なき戦い」を挙げるだろう。それは間違ってはいないが、それ以前にもっと凄い傑作を撮っている事についてはあまり語られていない。それは何かと言えばズバリ、「狼と豚と人間」('64)「軍旗はためく下に」('72)の2本である。この2本こそ、深作映画のすべての原点であり、深作欣二という映画作家の本質はすべてこの2本に集約されると言って過言ではないと思う。
「狼と−」は、スラム街育ちの兄弟が組織から強奪した金をめぐっての凄まじい対立と葛藤を描く、当時としては衝撃的なバイオレンス描写に度肝を抜かれた問題作。「軍旗−」は戦争という極限状況で、敵前逃亡、味方同士の殺し合い、人肉嗜食に至る人間の愚かしさを描いたこれも問題作。共に深作自身の企画による意欲作で、前者では長男(三国連太郎)が母の金を奪って組織の幹部に成り上がり、次男(高倉健)も母を裏切りスラムを飛び出す。二人の兄に裏切られた三男(北大路欣也)は二人に対し激しい恨みを抱く。後者では戦場において下級兵士たちは上官に裏切られ、国家にも打ち捨てられてしまうのであり、前者における次男を上官、本来家を守るべきでありながら家族を見捨てる長男を国家に置き換えれば両者のテーマは共通する。これらは深作が15才で終戦を迎えた時、あれだけ大勢の若者たちを戦場に送り殺しておきながら、戦争が終わるとコロッと民主国家作りを唱え出す教師や国家に対し抱いた激しい怒りがその原点にあるからである。
で、長々と前置きを述べたのは、こうした、国家、組織、大人という存在への疑問や怨念をずっと作品を通して描き続けてきたのが深作欣二という作家であり、今回の「バトル・ロワイアル」にもそれらのテーマが見事に貫かれていた事に感銘を受けたからである。この作品でも国家は個人(少年たち)の組織(大人たち)に対する怒りの噴出を恐れ、戦場に送り込んで絶滅させようと企むのであり、これこそまさに深作が描き続けて来たテーマにも通低する。いつの時代も国家は個人を利用し、裏切り続ける存在なのである。深作がこの原作に飛びついたのはまさに必然と言っていいだろう。そして夥しい少年兵士たちの屍を乗り越え“上官”たるたけしに復讐を果たした少年はラストでさらなる敵(国家)に向って“走り”出す。・・・まさにこれこそ「狼と−」と「軍旗−」を結ぶベクトル上にある作品と言っていいだろう。特に前記2作、興行的には記録的な不入りであっただけに、今作が大ヒットしているのはそれらの雪辱にもなっており、余計喜ばしい。70才になっても、いまだに自らの原点を忘れず、精力的に映画を撮り続ける深作欣二には、心の底から敬意を表せざるを得ない。素晴らしい快作である。見事! ()