(松竹:阪本 順治 監督)

 阪本順治はようやく自己のスタイルを確立して来たようだ。デビュー当初は、勝負の世界(「どついたるねん」「鉄拳」「王手」「BOXER JOE」)や復讐の物語(「トカレフ」)において、男たちの熱い闘いぶりを描いて来たが、「傷だらけの天使」2部作あたりから、どうしようもなく堕ちて行くダメ人間たちの生きざまをじっくり描くようになって来た。今回、初めて女性を主人公に据えてはいるが、スタイルは前2作と同じである。特筆すべきは藤山直美の圧倒的な演技力である。最初の頃は思いっきりダサい服装にモッサリした動きで登場し、妹にもバカにされていたが、母の急死を境に妹を殺し、逃亡生活を始めることになる。そのプロセスでさまざまな人に出会い、他人との付き合い方を学んで行き、ほのかに人を愛するまでになる。それにつれて服装も次第に身について行き、どんどん可愛らしくなって来るのである(最後の浴衣姿の可愛らしい事!)。彼女もまた堕ちて行くダメ人間なのだが、最初はまさに死んだような人生であったのに、堕ちて行くにつれ、逆に生き生きとした人間に生まれ変わって行く。人間とは他人とかかわり合わなくては生きては行けないのだ。それが最も象徴されているのが最後の離れ小島で老婆の身の周りを世話し、島の人たちからも慕われている姿である(警官までもが彼女を頼りにしているのだ)。しかもここでも手配写真が回り、安住の地ではなくなる。ラストでは、彼女はさらなる希望に船出したのか、それとも死出の旅に漕ぎ出したのか、それは分からない。ただ一つ、朝日に向かう彼女の“顔”は間違いなく輝いている。・・・ 藤山直美は素晴らしい女優である。今後も映画に次々出て欲しい。本年度の主演女優賞は決まりである。