はつ恋 (東映:篠原 哲雄 監督)

 これは拾い物。・・・と言うよりも今年の日本映画の中でも間違いなくベストテン上位に位置する秀作である。病気で倒れ、余命いくばくもない母が大切にしていた古いオルゴールの底から出てきた、出されなかったラブレターの相手(真田広之)を、主人公の少女(田中麗奈)が捜し求め、母と会わせようとする物語。ほとんど現実にありそうもないメルヘンチックな物語なのだが、監督はそうしたメルヘンを通じて、一人の少女が人生の重み、人を愛することの難しさ、はかなさ、そして家族の大切さを知り、少し大人になって行くプロセスを落ち着いたリリシズム溢れる演出で見せ、静かな感動を与えてくれる見事な作品に仕上げてみせた。脚本(長澤雅彦)が素晴らしい。特にキーワードのように点在する小道具(鍵のないオルゴール、出されなかったラブレター、願い桜、薬指のカラー絆創膏、バースデー・プレゼントのLPレコード、家族の写真、そしてシェー!)の扱い方が出色。この長澤雅彦という人、どんな人かと調べたらなんと!岩井俊二監督の傑作「Love Letter」のプロデューサーを担当した人(他に「Undo」「Picnic」等の岩井作品も担当)。そのせいか、作品的ムードや小道具の使い方も「Love Letter」となんとなく似ている(真田の役名、藤木は「Love Letter」の藤井樹から拝借した可能性あり)。ラスト、母がいなくなった家庭の朝の風景を、無人の台所 と父娘の会話のみで捕え、やがて夜桜の前で撮った家族写真にカメラが近づくまでの演出はまるで小津安二郎作品を思わせ、その淡々とした幕切れにかえって涙が溢れた。田中麗奈は前主演作「がんばっていきまっしょい」も傑作だったし、作品に恵まれている(のか良い作品を選んでいるのか?)と思う。とにかく絶対おススメの爽やかな傑作である。必見!。