五条霊戦記  サンセントシネマワークス:石井 聰亙 監督)

 まず着想がユニークである。有名な「弁慶と牛若丸」の二人を、こともあろうに敵対し殺し合う対象として描いているのだから。こんなことを思いつくのはやっぱり才(テーマもだ!)石井聰亙しかいない。思えば大学在学中の劇映画デビュー作「高校大パニック」(76)では教師と生徒が、「逆噴射家族」(84)では親子がそれぞれ徹底してバトルを繰り広げるという怪作(?!)を作っているのだから。本来はいずれも互いに信頼し合い、深い絆を結ぶべき関係であるはずのこれらを、実は深層では憎悪がマグマのように渦巻いているのだと喝破しているあたり(当時ではとても考えられなかったが、今や生徒が教師を殺したり、親が子を、子が親を殺すのは珍しくなくなって来た。怖い!)、その先見性には作品の過激さとともに驚かされるばかりである。だから今回の物語も私にとっては納得できるのだ。しかし映画はそんな深層のテーマを度外視しても面白い。冒頭の極大から極小にズームするカメラの動き、アクションシーンのダイナミズム、人間の深い業を背負ったような多彩な登場人物のそれぞれの思い、そして平家に対する憎悪から鬼となり、虚無の深みに堕ちて行く遮那王(義経)と“鬼退治こそわが使命”という観念に取り付かれて行動する弁慶、両者の思いが交錯し火花を散らし、ラストの対決になだれ込むまでの演出はさすが石井聰亙!と思わせる。お得意の手持ちカメラによるアクションシーンは一部で分かりにくいとの声もあるが、過去の石井アクションを見れば判るように、石井にとってはカメラは武器であり爆弾なのである。荒々しいシーンではカメラも猛り狂うのである。そうした過激な発想、カメラワークが43歳になった今も変わっていないのがなつかしく感動的である(くわしくはいずれ監督コーナーに掲載予定)。石井には本領たるアクション映画をもっと撮って欲しいと願う。もう完成しているという「ERECTRIC DRAGON 80000V」にも期待がもてる。この両作を製作したサンセントシネマワークスの仙頭武則プロデューサーにも感謝したい。       

     「五条霊戦記」公式ホームページ→  http://www.go-joe.net/