恒例の、私の選んだ2006年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、2006年1月〜12月の間に大阪にて公開されたものが対象となっております。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
フラガール 李 相日
ゆれる 西川 美和
硫黄島からの手紙 クリント・イーストウッド
武士の一分 山田 洋次
プロデューサーズ スーザン・ストローマン
博士の愛した数式 小泉 尭史
カーズ ジョン・ラセター
グエムル −漢口の怪物− ポン・ジュノ
時をかける少女 細田 守
10 父親たちの星条旗 クリント・イーストウッド
11 かもめ食堂 荻上 直子
12 紙屋悦子の青春 黒木 和雄
13 ナイロビの蜂 フェルナンド・メイレレス
14 嫌われ松子の一生 中島 哲也
15 暗いところで待ち合わせ 天願 大介
16 トンマッコルへようこそ パク・クァンヒョン
17 パプリカ 今 敏
18 力道山 ソン・ヘソン
19 ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ! ニック・パーク/スティーヴ・ボックス
20 虹の女神 Rainbow Song 熊澤 尚人
寝ずの番 マキノ 雅彦

 

 個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

 
 私のベストワンは、早くから公言していた通り「フラガール」。誰が何と言おうとケナそうと変えるつもりはなかったが、いろんな映画賞が発表されて見ると、ほとんどでベストワン・最優秀映画賞を総ナメしてしまった。気分がいい反面、可愛い子供を世間に放り出したような寂しさも感じます。この作品は、私がずっと昔から、“正しい娯楽映画”の典型パターンとして推奨してきたジャンルの作品なのですが(詳しくは私の1999年度のベストワン「メッセンジャー」評を参照ください)、このジャンルの作品が映画賞のベストワンになるのは、私の判断では'92年の周防正行監督作品「シコふんじゃった。」以来ではないかと思います(やや範囲を広げると同じ周防監督の「Shall We ダンス?」以来)。こういう、心が温かくなって誰もが楽しめる娯楽作が、プロ、アマを問わず幅広い映画愛好家の支持を集めた事は、映画ファンとしてとても嬉しい事です。文句なしのベストワンと言えましょう。
 そして2位につけたのが、これも幅広く支持を集めた「ゆれる」。多くの映画賞で「フラガール」とベストワンを分け合っており、「フラガール」がなかったら恐らくあらゆる映画賞のベストワンを独占した事でしょう。実に惜しい事です。ちなみに、どちらもシネカノン配給作品。どちらかを翌年に回す事は出来なかったのでしょうか。もったいない事です(笑)。…それにしても、昨年の「ALWAYS 三丁目の夕日」、「パッチギ!」に続き、2年連続で私のベスト2が各映画賞のベスト2と一致しました。アマノジャクな私としては珍しい事です。私の頭が丸くなって来たのでしょうか(笑)。――いやいや、やはりそれほどこれらの作品は飛び抜けて素晴らしい傑作と言えるのでしょう。
 3位は、これまたいろんな映画賞を独占している、クリント・イーストウッド作品「硫黄島からの手紙」。姉妹作「父親たちの星条旗」との、どちらかが必ずと言っていいほどベストワンに選ばれています。映画賞レースでは、やや「父親たち−」の方がリードしているようですが、個人的には、ハリウッド映画でありながら、ここまで日本人の心情、及び人間像を少しの誤解もなく完璧に描いた作品は、映画史上恐らく初めてではないか…その事を高く評価したいと思います。…それにしてもここ3年、シネカノンとイーストウッドの独占状態が続いています。他の映画会社や作家たち、もっと頑張ってください。
 4位は「武士の一分」。いろいろ言う人もいますが、デビュー以来、ひたすら日本人の心、家族愛、つつましく生きる人々の哀歓を描き続けている山田洋次監督の一貫したポリシー(デビュー作「二階の他人」から既に、下町の夫婦の哀歓が生活描写豊かに描かれてます)はもっと評価されるべきだと思うので。彼がいなかったら日本映画(松竹映画もそう)はどうなっていたかと思うとヒヤッとします。さて、藤沢周平の次は、山田監督はどんな日本人を描くのでしょうか。
 5位はミュージカル「プロデューサーズ」。MGMミュージカル大好きな私にはとても楽しめました。いやあ満腹。
 6位に「博士の愛した数式」。これも心が温かくなる秀作です。心がささくれた時には是非見直してください。3作目にして、早くも小泉監督は名匠の風格が出て来ました。
 7位の「カーズ」は、CGの素晴らしさもさることながら、小さな街に住む人との(ではなくクルマですが(笑))触れ合い、友情の大切さを丁寧に描いた脚本も見事です。カーレースの迫力も凄い。
 8位に来たのが韓国の怪物SFX映画「グエムル−漢江の怪物−」。従来の怪獣もののパターンから外れている所が新鮮。家族の再生ドラマとしてもうまい作りです。しかし、各種ベストテンでも上位に入っているのにはちょっと驚き。9位の「時をかける少女」も予想以上に映画賞で上位に来てます。毎日映画コンクールでもアニメーション賞を受賞。細田守監督は今後も要注目です。
 イーストウッド監督のもう1本の「父親たちの星条旗」も素晴らしい秀作ですが、私は「硫黄島からの手紙」の方が断然好きだし、こちらを際立たせる為にあえて10位に下げました。「硫黄島−」がなかったら当然上位に来るでしょう。―以上、ベストテンです。

 11位は心がホッと和む女性監督・荻上直子作品「かもめ食堂」。昨年は女性監督が大健闘の年でしたね。これまでにも古くは田中絹代、左幸子、最近では河瀬直美などが作品を発表していますが、ベストテンの上位になる事はありませんでした。昨年はその他にも呉美保「酒井家のしあわせ」、安田真奈「幸福のスイッチ」、桃井かおり「無花果の顔」、阿木燿子「TANKA」…と、かつてないほど女性監督作品が続出。よい傾向だとは思いますが、男性陣も負けずに頑張ってください。
 12位は黒木和雄監督の遺作「紙屋悦子の青春」。さすが堂々たる風格の力作。ただ、原作の舞台劇の力も大きく、黒木監督らしい題材ではありますが、もう一つ突き抜けた感動を受けなかったのが残念。ご冥福を祈ります。
 13位「ナイロビの蜂」は、メイレレス監督らしい持ち味が出て好きな作品。14位「嫌われ松子の一生」もまさに中島ワールド。ミュージカル仕立てがツボに嵌ります。ブライアン・デ・パルマ監督「ファントム・オブ・パラダイス」、バズ・ラーマン監督「ムーラン・ルージュ」などの快(怪?)作を思い出し、ニンマリしました。
 15位「暗いところで待ち合わせ」。小品だけど味わい深いサスペンスの佳作。昔はこうしたレベルの作品が全国邦画チェーンで2本立ての片割れとしてよく封切られていたものです。ミニシアターで僅かの観客の目にしか留まらないのが残念です。
 16位、18位「トンマッコルへようこそ」「力道山」は共に韓国映画の実力を示す佳作。特に「力道山」における、昭和30年代の街頭テレビに群がる人々の映像にジンと来ました。
 17位「パプリカ」。今敏監督は日本のアニメ作家として、今一番の実力派でしょう。前作「東京ゴッドファーザーズ」も傑作でした。あの筒井康隆の原作をイマジネーション豊かに見事に映像化した点は特筆に価します。あまりに飛躍し過ぎて付いて行けなかった人も多いでしょうが、この良さはむしろ数年後に再評価される気がします。
 19位「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」。いいですね、1コマ撮りアニメの温かな手作り感。なかなか手間が大変で、1作作るのに何年もかかるので、このシリーズ、次を見れるのは何時の事か分かりませんが、気長に待ちたいと思います。
 20位に「虹の女神 Rainbow Song」。8ミリ映画に携わった事のある人には絶対のお奨めです。
 次点はマキノ雅彦監督「寝ずの番」。下品な題材を上品に作る事は至難の技です。♪おいら死んだとてな〜♪に感激しました。マキノ監督、次作は是非「次郎長」ものを(分かる人には分かる(笑))。

 以上でベスト21の紹介は終りですが、例によってテンから洩れた捨てがたい作品を以下に紹介いたします。
 22位「グッドナイト&グッドラック」。題材の選び方もいいし、演出も見事。ジョージ・クルーニーはこのまま映画監督の道を進んで、C・イーストウッドの後継者になって欲しいものです。23位「ミュンヘン」。スピルバーグは相変わらず題材選びも演出も達者で文句の付けようがない。ただ、たまには重苦しい作品よりも、ノー天気な娯楽作品も作って欲しいと思います。
 24位「雪に願うこと」。根岸吉太郎は好きな監督で、出来も素晴らしいのですが、残念ながら劇場で見逃し、DVDで見ました。劇場で観たならベストテンに入れたかったのですが…。基本的には劇場で観ないと映画の本当の良さは分からない…と思っており、従って感銘を受けてもベスト20には入れない―と自分で決めてますので。
 25位「スタンドアップ」。セクハラの実話を堂々たる風格で映画化出来るハリウッドはやはり凄い。26位「タイヨウのうた」、27位「単騎、千里を走る。」。どちらも観た時は感動して、もっと上に入れたかったのですが、ジリジリと下がってこんな所に。
 28位「シムソンズ」。これも私が好きな“正しい娯楽映画”路線の、意外な拾い物の佳作。細々と公開されてしまった為、劇場で観れずにDVDで鑑賞。楽しくて感動出来る正統B級娯楽映画なのだから、大手配給会社が買い取って全国公開すれば良かったのに…。「フラガール」もそう。ここらがまだまだ日本映画の興行システム上の課題と言えるでしょう。検討して欲しい所です。
 29位「トウモロー・ワールド」。後になって尾を引く映画ですね。もう一度じっくり観たくなりました。30位「鉄コン筋クリート」。「パプリカ」と並んで、2006年アニメ界の収穫と言えましょう。アニメも進化したものです。 …以上、30位までです。


 さて、例年やってますので、参考記録としてあと8本だけ追加しておきます。
31位「007/カジノ・ロワイヤル」、 32位「クラッシュ」、33位「明日の記憶」、34位「手紙」、35位「RENT/レント」、36位「迷い婚〜すべての迷える女性たちへ〜」、37位「小さき勇者たち−GAMERA−」、38位「インサイド・マン」

  
   ワーストテンもUPしましたので、そちらもご覧ください。

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