寝ずの番 (光和インターナショナル:マキノ 雅彦 監督)
俳優の津川雅彦が、祖父であり、日本映画の父と呼ばれるマキノ省三の名跡を継承し、マキノ雅彦名義で第1回監督作品として完成させたのが本作。
原作は「ガダラの豚」や「今夜、すべてのバーで」などの著作で知られる中島らもの同名小説。
この原作がまたメッチャ面白い! 私は先に読んだのだが、あんまり面白過ぎるので、電車の中で読んでる時に ぶぁっはっは〜と笑い出してしまい、ヘンな目で見られてしまった(笑)。
映画の方も、原作に負けず劣らず面白いのだが、先に原作を読んでしまうと、展開が分 かってしまって腹の底から笑えない。・・・と言うわけで、これから映画を見る人は、原作は先に読まないこと。読むなら映画を観た後にすること−をおススめする。
劇場で観た時にも、爆笑している人が多かった。とにかく笑えます。遠慮せずに、大笑いしてください。
お話は、高名な落語家の師匠が亡くなって、さらに一番弟子、師匠のおカミさんも相次いで亡くなり、それぞれのお通夜を弟子たちが“寝ずの番”をする・・・それだけの話であるが、メインはその席で語られる下ネタ、猥談、春歌(つまりエロ歌)のたぐいで、いわゆる“放送禁止用語”が連発される(従って、多分…どころではなく、間違いなくテレビでは放映されないでしょう(笑))。
とにかく、こういう話は面白い。女性のアソコを地方によってはいろいろ違う呼び方で呼んでいるために、誤解と笑いを生んだりする…という話は昔からよく聞く。そういう話を知ってる人ほど、この映画は余計楽しめる。
映画には出て来なかった(と思う)が、原作に出て来る春歌 “夕べ父ちゃんと寝た時にゃ、ヘンなところにイモがある〜” なんかは、学生時代のコンパで、先輩が歌っていたのを思い出し、懐かしかった。あれやって欲しかったなぁ(笑)。
春歌と言えば、'66年に大島渚監督で「日本春歌考」という映画が作られ、この中でも、有名な “一つ出たホイのヨサホイのホイ” が歌われていた(しかし最近、あんまり春歌を聞かなくなってしまったような気がする)。
ちなみに、その映画の中でこの歌を歌っていたのが、あの伊丹十三サン(当時は伊丹一三)。伊丹さんと言えば、監督第1回作品が「お葬式」。
なんとまあ、期せずして、“春歌”と“葬式”というキーワードで、二人の大物俳優兼監督が繋がってしまいましたね(笑)。
この映画が素敵なのは、敬愛する師匠の葬儀に集まった弟子、友人、ゆかりの人たち…が、猥談などを通じて、腹の底から人間同士の絆を確かめ合い、仲間意識を高揚させて行く、その素晴らしい人間讃歌にあると言えましょう。
これは、津川の伯父であり、数々のエンタティンメントの秀作を手掛けた名監督、マキノ雅弘の最高作とも言える「次郎長三国志」のスピリットとも相通じるものがあります。
そのつながりを明らかに意識したのでしょう、マキノ雅彦監督は、「次郎長三国志」の中で石松に扮した森繁久弥が歌った“オイラ死んだとてな〜 誰が泣いてくれょうかな〜”を、この映画の中で全員に歌わせているのです。
原作に出て来ない、この歌を登場させることによって、まさにこの映画は、深い師弟愛、人間愛に満ちた秀作となり得ていると言えるでしょうし、また、マキノ雅彦監督の、亡き伯父に捧げる鎮魂の映画として、さらには伯父の後を継いで、今後もエンタティンメント性豊かな映画を撮り続けるぞ…と言う彼の宣言を表している・・・と考えるのは深読み過ぎるでしょうか。
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