カーズ (米・ピクサー:ジョン・ラセター 監督)
CGアニメ界を常にリードして来た、ピクサー社の新作で、しかも監督がピクサーの総帥、ジョン・ラセター。実に7年ぶりの監督復帰である。
大いに期待する半面、ちょっと心配もあった。なぜなら、同じく監督業を休業して製作総指揮に回っていたジョージ・ルーカス久々の監督復帰作「スター・ウォーズ・エピソード1」が駄作だったからである。やはり永年のブランクは大きいと思った。
おまけに、これまでの“おもちゃ”、“虫”、“お化け”、“魚”などは一応生き物か、手足のある、擬人化し易いものだったのに、“車”という表情も手足もないメカを主人公にするというのは相当な冒険(と言うか暴挙)である。果たして楽しめる作品になっているだろうか・・・と不安を抱きつつ観た。
結果として…面白かった。いや、ピクサー作品としては「モンスターズ・インク」以上に感動した。これは本年でもベスト3に入れたい心温まる秀作であった。
まず何より、キャラクター造形が素晴らしい。フロント・ウィンドウを目玉にする…という発想が秀逸。マブタもあるし。これで凄く表情が豊かになった。パトカーはいかにもちょっと冷たくてコワそうだし、町の重鎮、ドック・ハドソンは老獪さと渋みがにじみ出ている。レッカー車のメーターは人懐っこくて愛嬌があるし、ヒロインのサリーはマブタにアイシャドーがかかってる!(笑)。どうでもいいけど、ちょっとクレヨンしんちゃんに似てます→(笑)。
CG技術はさらに進化している。車のボディには周囲の風景が映ってるし、山の上から見たアリゾナの広大な自然は実写と見まがうほどリアル!
細部のこだわりはハンパじゃなく、サーキットのタイヤスリップ跡、タイヤのゴム滓が走行の都度飛び散ったり、ハドソンの物置では舞い上がったホコリが差し込む陽光に反射しているところまで描いている(アニメでそこまでやりますか!)。
そうした技術的な素晴らしさにも十分堪能出来るが、この映画の素敵な所はそれだけでなく、“人が生きてゆくうえで、本当に大切なものは何なのか。勝つことよりも、速く走ることよりも、もっと大事なことを忘れてはいないだろうか”という点にテーマを絞り、それをきちんと描いている所にある。
主人公のマックィーンは、レースに勝つことだけが目標の傲慢な若者。友人もいないし、信頼出来るピットクルーもいない。
そんな彼が、レースの最終舞台カリフォルニアに向かう途中、ひょんなことから幹線道路から外れた小さな田舎町“ラジエーター・スプリングス”に迷い込んでしまう。
おまけに、パトカーに追われ、慌てて逃げるうちに道路を壊し、裁判の結果、道路を修復するまで町を出る事を禁止される。
レースに出たいマックィーンは何度か町を逃げ出そうとするが、その都度捕まり、渋々工事車を牽引して道路工事をする事となる。
だが、人懐っこいメーターや、純朴な町の住人、愛らしく、世間から見捨てられたようなこの町を心から愛しているサリーたちと暮すうち、マックィーンは次第にこんな田舎町もいいもんだと思い始めるようになる。
そのマックィーンの心境の変化を観客に納得させる為には、サリーに案内されてマックィーンが見た、町はずれの山から望むアリゾナの大自然の風景を雄大かつ美しく描く必要があるのである。
ラストでマックィーンが選択する、ある勇気と決断には、目頭が熱くなる。 それが前述のテーマである。
マックィーンは、勝つことよりも、本当に大事なものを得たのである。
観終わって、古く懐かしい、アメリカ映画のいくつかの秀作を思い出した。
フランク・キャプラ監督「のいくつかの名作「素晴らしき哉、人生!」、「我が家の楽園」、「オペラハット」・・・
シドニー・ポワチエが、荒野の真ん中に教会を建てる工事をするハメになり、最初はイヤイヤながら、やがては進んで工事に取り組む…というラルフ・ネルソン監督「野のユリ」(63)…。 特にこれは、舞台の土地もアリゾナという共通点もある。
まさか、21世紀、コンピュータ・グラフィック、自動車…というハイテク・アイテムだらけの映画で、キャプラ的世界を味わうとは思っても見なかった。
CGが格段に進化しても、人間味や温かいハートは少しも失っていない。むしろ、近代化、ハイテク化が進む中で多くの現代人が失ってしまっているモノが、ここにはある。
それだけに、余計感動したのである。
オトナが見ても感動する見事な傑作だが、子供にも是非見せてあげて欲しい。きっと大切な何かを学ぶはずである。
特に、物を壊したら、必ず償いをしなければならない…というモラルを頭に教え込むには持ってこいである(笑)。
アニメでは、とかく派手にモノをぶっ壊したまま、後始末を何もしない…という作品がほとんどだけに、これには溜飲が下がりました。見習って欲しいですね。
エンドクレジットも、いつもながら楽しい。過去のピクサー作品のパロディには大笑いしました。絶対最後まで席を立たないように。
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