プロデューサーズ (コロムビア/ユニヴァーサル:スーザン・ストローマン 監督)
メル・ブルックスと言えば、「ヤング・フランケンシュタイン」、「新サイコ」、「スペース・ボール」などの、いわゆる名作映画のナンセンス・ギャグ・パロディ(それもやや下品)もので人気が出た監督である。それぞれ、「フランケンシュタイン」(1933年のボリス・カーロフ主演もの)、「サイコ」をはじめヒッチコック作品全体、「スター・ウォーズ」…のパロディを盛大にやってくれてる。まあ最初の頃は笑えたが、だんだん鼻について来た感はあった。
その後、ジェリー・ザッカーやジム・エイブラハムズなどが「裸の銃を持つ男」シリーズとか「ホット・ショット」などの、似たようなパロディ映画を作り始めた事もあって、最近はちょっと影が薄かった。そのうえ、ブルックスよせばいいのに95年には、こともあろうに「裸の銃−」のレスリー・ニールセンを主役に呼んで「魔人ドラキュラ」のパロディ「レスリー・ニールセンのドラキュラ」なる映画まで監督しちまった(本家がバッタもんの後塵を拝してどうする?)。案の定、まったく話題にならなかった。
で、そのブルックスが監督デビュー作として作ったのが、本作のオリジナル「プロデューサーズ」(68年)である。お話は本作とほとんど同じ。これはその年のアカデミー脚本賞を受賞したくらいで、かなり評価が高かった。後年のような映画のパロディでもない。
前述のように、ここ数年はブルックスはやや忘れられたような存在だったが、1998年、その「プロデューサーズ」をブロードウェイ・ミュージカルにしようという企画が持ち上がり、熱心な勧めもあってブルックスは大乗り気、ナンバーの作詞・作曲まで手掛け(オリジナル版でも劇中ミュージカル『春の日のヒットラー』の作詞・作曲はブルックス自身)、映画と同じネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック主演、振付・演出スーザン・ストローマンで大ヒットし、トニー賞12部門制覇という快挙を成し遂げ、見事ブルックスは復活したのである。
で、映画評に移るが、これは楽しい。ストーリーは前述のように、ミュージカル部分を除いてオリジナル版と同じで、実に毒ッ気紛々、金持ち有閑マダムを笑い飛ばし、ゲイをおちょくり、アイルランド訛りの警官をおちょくり、そしてヒットラーをコケにし笑いのめし、返す刀でブロードウェイを、ショービジネス界を辛辣に皮肉る・・・。実に風刺とアイロニーに満ちた快作(無論オリジナルを褒めている)である。
後に、パロディネタに行ってしまったが、ブルックスの本領はむしろこっちの方向ではなかったか…とすら思える(何故この路線で行かなかったのだろうか。圧力でもかかったのだろうか)。
ミュージカルになった本作は、ダンスと歌が増えた分、より華やかでエンタティンメント性が増している。そして、なにより楽しいのは、そのミュージカル・シークェンスがかつてのMGMミュージカルに対するオマージュになっている点で、例えば、レオ(ブロデリック)が会計事務所で女性たちと踊る"I Wanna Be A Producer"のナンバーは、ジーン・ケリーの「雨に唄えば」における「ブロードウェイ・メロディ」などを思い起こさせるし、レオとウーラ(ユマ・サーマン)がペアで踊るシーンは、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのいくつかのコンビ作品とそっくりだし、舞台「春の日のヒットラー」におけるダンスナンバーでは、踊りを俯瞰で撮る、バスビー・バークレイのミュージカル映画を髣髴とさせてくれる。こうしたMGMミュージカルをかつて観た人にとっては、もう最高に楽しい時間である。
いろいろ細かい所にも、遊びがいっぱい。ラストのマックス・レオが手掛けるショーのタイトルが"SOUTH PASSAIC"(南ユダヤ洋−「南太平洋」のもじり)とか、「セールスマンの凍死」だったりとか、ここはビデオだったら止めてゆっくり見たいところである。また上演中の劇場の表には、ブロードウェイのヒットミュージカル「ウエストサイド物語」、「マイ・フェア・レディ」(舞台主演のレックス・ハリソン、ジュリー・アンドリュースの名があり)などのポスターがいっぱい貼ってあるので、ここにも注目しよう(ビデオでは多分読み取れないだろうから劇場でしっかり見届けて欲しい)。
最後の、クレジット・タイトル後にも、お楽しみがある。席を立たずに最後まで観ましょう。
そう、お楽しみはまだまだこれからなのである。ミュージカル映画ファンは絶対見逃せない、そしてミュージカルが得意でない人でも、きっとミュージカルの本当の楽しさが分かって来る、これはそんなエンタティンメントの快作なのである。
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