スタンドアップ    (ワーナー:ニキ・カーロ 監督)

 1976年頃、アメリカ北部のある炭鉱で起きたセクハラ事件と、それに毅然と立ち向かった女性の勇気と行動を描いた実話の映画化。
  「モンスター」で、驚異の変身(タルんだお腹と醜い顔)を見せたシャーリーズ・セロンが、今回も煤塵まみれの汚れメイクで奮闘している。
 そのセクハラの凄まじさは常軌を逸している。大人のオモチャ(ゴムのぺ○○)を弁当箱に入れるくらいはまだ序の口、女子更衣室に糞で卑猥な言葉を塗りたくったり、セロンの入った簡易トイレをひっくり返したり、人気のない場所で襲いかかったり…。南部の黒人差別といい、自由と平等の国アメリカも、排他的な田舎に行けばこうした人間の尊厳を踏みにじる愚行が横行していたのだろう(男の仕事の世界に次第に女が進出してくる事への脅威と反感があったことも要因の一つかも知れないが)。  さまざまな嫌がらせに耐えて来たセロンは、ある日遂に怒りを爆発させ、卑劣な男たちとの戦いを開始し、やがて司法の場で対決することとなる。最初は冷ややかな眼で見ていた同僚達も、いつしか彼女の戦いぶりに賛同して行き、法定の傍聴人席から、一人、また一人…と立ち上がり(これが邦題の意味。ちなみに原題は“North Country”=北国。邦題の方がずっと作品のテーマを伝えており、これは変えて正解)、これを足掛かりに、最後は遂に裁判で全面勝利を勝ち取るに至る。このラストは感動的である。
 現代では、セクハラははっきり間違った行為であることが浸透しているが、まだわずか30年前まで、こんな事が日常的に行われていたのである。この映画が素晴らしいのは、人間とは愚かな行為を繰り返す生き物ではあるけれども、それにストップをかけ、正しい事が通用する社会を築いて行くのもまた人間である…その事を静かだが、力強く訴えている点にあると思う。ニキ・カーロ監督の正攻法で押した演出が光る。派手なCGやアクションものだけでなく、こうした地味な力作もきちんと送り出し、メジャー系で公開しヒットさせる、…そこがアメリカ映画の層の厚さであり、強みであると言えよう。秀作である。    (