ナイロビの蜂 (英:フェルナンド・メイレレス 監督)
原作ジョン・ル・カレ。ル・カレと言えば40年ほど前、「寒い国から帰ったスパイ」というサスペンス映画(リチャード・バートン主演)があった。数年前には「ロシア・ハウス」(ショーン・コネリー主演)が話題になった。息の長い作家である。
で、いずれもスパイ小説なので、本作もてっきりそうした傾向の作品かと思ったが、ちょっと違って、妻の謎の死を追ううちに謀略事件に巻き込まれて行く外交官の行動を通して、夫婦愛の強さを描く感動作に仕上がっている。まあサスペンスものには違いないが。
監督はブラジル出身のフェルナンド・メイレレス。この監督の前作「シティ・オブ・ゴッド」は傑作だった。年端も行かぬ少年たちが拳銃を握り、血で血を洗う暴力抗争に明け暮れる…という、まさにブラジル版「仁義なき戦い」とも言うべき衝撃作であった。その上、カメラはまるで深作欣二の映画を観ているかのように手持ちで激しく揺れる。メイレレス監督はブラジルの深作欣二か、と思った。
その前作が世界的に評価され、本作ではイギリスに招かれてメジャー進出と相成った。
しかしメジャーになっても演出スタイルは変わらない。やはり手持ちカメラを多用し、画面は不安定に揺れる。そのおかげで、映画はドキュメンタリー映画を観ているかのような迫力を生んでいる。
物語は、英国外交官(レイフ・ファインズ)が妻の謎の死を探るうち、アフリカ住民を実験台にして新薬を開発する大手製薬会社の陰謀を知るが、更に背後にもっと大きな国際的謀略が隠されており、外交官も妻の死んだ湖で謀殺される…というポリティカル・サスペンスになっている。
これを観て連想したのは、やはり深作欣二が監督した、戦後のGHQが絡んだ政治的謀略サスペンス、「誇り高き挑戦」(62)である。チャンバラ映画全盛の当時の東映でよく作れたと思えるほど、タブーに挑戦した社会派ドラマの傑作であった。政治的陰謀によって次々謎の死が起きるが、誰も手が出せず真相は闇に葬られる…というストーリーが本作とよく似ている。同じようにラストに国会議事堂が登場する熊井啓監督の「日本列島」も似たような政治謀略サスペンスの傑作だった。
連想ついでに、これも深作欣二の傑作、「軍旗はためく下に」(72)を紹介。戦争中、上官反逆罪で処刑されたという夫の死の謎を解くべく、その未亡人(左幸子)がいろんな人を訪ね歩き、背後に隠された真相を追究して行く…という話で、“配偶者の死の謎を残された人間が探るうちに背後の謀略が明らかになって行く”という内容がこれまた本作とそっくり。
まあちょっと考え過ぎかも知れないが、2本の深作欣二映画との類似性、それと演出手法の相似性からして、まさにメイレレス監督は亡き深作監督の後継者を目指しているのではないか…
―というのは、やっぱり考え過ぎなんでしょうね(笑)。
でも、そんな事を考えながら映画を観ると、より楽しく、より深く映画を味わう事も出来るのである。でも、そんな事を知らなくても、映画は十分面白く、夫婦愛に心打たれ、感動できる。お奨めです。
でも、やっぱり言いたい。
フェルナンド・メイレレスはブラジルの深作欣二である(しつこいかな(笑))。
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