RENT/レント   (クリス・コロンバス 監督)

 

 ミュージカル作品が続くが、話題の「レント」を観た。トニー賞の受賞数こそ4つと、「プロデューサーズ」に及ばないが、エンタティンメント作品では稀有な賞とも言われる“ピューリッツァー賞”を受賞するなど、こちらもなかなか評価が高い。

 しかし同じミュージカルであっても、「プロデューサーズ」とは作品のタイプはまったく異なる。ある意味正反対の作品とも言える。
以下、比較してみる(多少私の独断も入っている)。

        「プロデューサーズ」  「レント」
時代      1959年           1989〜90年
登場人物   金持ち・中産階級     下層貧民
音楽      通常の歌曲         ロック、他多彩
ジャンル    ドタバタ・コメディ       リアルな生活描写
物語      金儲けと騙し        貧乏だけど夢志向
テーマ     舞台裏話          エイズ、同性愛、死
傾向      中高年大人向け      若者向け

 ざっとこんな具合で、もっと分かり易く言えば、「プロデューサーズ」は戦前からあるブロードウェイの伝統的を受け継ぐ正統ミュージカルであるのに対し、「レント」は70年代以降に盛り上がったロックと反体制ムーブメントの中から登場した、非ブロードウェイタイプの作品である。一般的には、“ロック・ミュージカル”と呼べるタイプの作品である。さらに分かり易く言うなら、「プロデューサーズ」が大阪の“梅田芸術劇場(旧梅田コマ)”で上演されるとするなら、「レント」は地下の“シアタードラマシティ”向きの作品である。

 もっとも、ロック・ミュージカルはこれより以前から誕生しており、有名な所では、ロイド・ウェーバー作曲の「ジーザス・クライスト・スーパースター」「ヘアー」(出演者が素っ裸になったことで有名)、「TOMMY/トミー」などがあり、いずれもヒッピー風(古いな(笑))の若者たちが主人公である。

 もっと遡れば、ロックではないけれどニューヨークの貧民街に住む貧しい若者たちのヴィヴィッドな青春群像を描いた作品としては、あの「ウエストサイド物語」がある。内容的にはむしろ、「ウエストサイド物語」のDNAを受け継いでいる感がある。「ウエスト−」も圧倒的な支持を集めた名作であり、「レント」がブロードウェイで大ヒットしたのは、「ウエスト−」という(当時としては)新しいタイプのミュージカルが今ではすっかりブロードウェイで定着したことも要因としてあるのではないかと思う。

 で、私としては、「ウエストサイド物語」大好き・・・と言うより、生涯に観た映画の中でもベスト3に入るほど愛着のある映画で、劇場でも10回以上は観ているし、ビデオでも数え切れない程観た作品。また前述の「ジーザス・クライスト・スーパースター」、これまた大好きな作品で、サントラ盤のレコードも擦り切れるほど聴いた程である。

 そんなわけだから、この作品にもすんなり溶け込めた。なにより、非常階段がむき出しになったニューヨーク下町の裏通りの風景で、たちどころに「ウエストサイド」を思い出したくらいだから(笑)。曲の中では、冒頭のコーラス"Seasons of Love"が高揚感があって聞き惚れる。大勢でタンゴを踊るシーンもダイナミックで好きである。

 ただ、個人的には私は、観終わってハッピーな気分になれる作品が好きである。MGMミュージカルが大好きなのは、他愛ないけれどラストがいつもハッピーだからである。「プロデューサーズ」も同様。

 この作品は、エイズ、ドラッグ、同性愛、友の死・・・と、暗い要素が多い。ラストに明日への希望を匂わせてはいるが、全体としては暗い…。映像作家やミュージシャンを目指す主人公たちが成功するわけでもないし。
 だから、いい作品には違いなし、評価もしたいが、「雨に唄えば」や「ウエストサイド−」のように、何度も繰り返し観たいとは思わない。多分興行的にも、「プロデューサーズ」に比べて苦しいのではないか。でも歌は名曲が多いので、これはむしろ生の舞台で見るべき作品なのかもしれない。

 じゃ「ウエストサイド」はアンハッピーじゃないかと言われそうだが、全体としてはハッピーな気分に満ち溢れているし、ラストはトニーの死を契機に若者たちの和解を暗示し、感動的なエンディングになっている。――まあ、一つは若い、感受性豊かな時に観た…という事もあるのかも知れない。中高年なった今では「レント」はちょっとシンドい…というのが正直な感想である。―でも、若い人にはおススメですよ。       (