お待ちかね、私の選んだ'2002年度・ベスト20の発表です。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、'2002年1月〜12月の間に
大阪にて公開されたものが対象となっております。従って、大阪公開が2003年1月以降となった「刑務所の中」「至福のとき」「酔っぱらった馬の時間」などは(期待しているのですが)対象外としました。ご了承ください。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
たそがれ清兵衛 山田 洋次
阿弥陀堂だより 小泉 尭史
モンスターズ・インク ピート・ドクター
活きる チャン・イーモウ
クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦 原 恵一
少林サッカー チャウ・シンチー
鬼が来た! チアン・ウェン
ごめん 富樫 森
ノー・マンズ・ランド ダニス・タノヴィッチ
10 なごり雪 大林 宣彦
11 ロード・トゥ・パーディション サム・メンデス
12 K T 阪本 順治
13 マジェスティック フランク・ダラボン
14 突入せよ!「あさま山荘」事件 原田 眞人
15 チョコレート マーク・フォスター
16 ピンポン 曽利 文彦
17 フレイルティー −妄執− ビル・パクストン
18 A I K I <アイキ> 天願 大介
19 WXIII 機動警察パトレイバー 高山 文彦
20 笑う蛙 平山 秀幸
アザース アレハンドロ・アメナーバル

 

 個々の作品評については、以下の文中のアンダーライン付作品名をクリックしていただければそれぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

 1位は文句なし、「たそがれ清兵衛」。脚本・美術・出演者・演出…どれも日本映画の伝統と底力を最高に示した素晴らしい傑作。山田洋次監督は、“寅さん”の呪縛から解き放された(?)せいか、前作「十五才・学校W」に引き続き、レベルの高い秀作を連打している。恐れ入りました…と言う他ない。2位も心に沁みる秀作「阿弥陀堂だより」。北林谷栄さんの圧倒的な存在感も凄い。
 3位にピクサーのCGアニメ「モンスターズ・インク」が入った。笑いあり、涙あり、ハラハラドキドキのサスペンスあり、最後に感動で締めくくる娯楽映画の王道作品である。
 4位に、チャン・イーモウの秀作「活きる」。批評にも書いたが、私の好きな高峰秀子主演「名もなく貧しく美しく」に似た感じの物語だけに余計感動した。思えば、日本が貧しかった昔はこんな日本映画がいっぱい作られていたはずだ。「阿弥陀堂だより」
のおうめ婆さんの言葉「貧乏はありがたいことです」を、つい思い出してしまった。
 5位に、出ました「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ、アッパレ!戦国大合戦」(去年もだが、長い題名だ(笑))。子供向けアニメだとバカにしないで、とにかく見て欲しい。戦争に引き裂かれる悲しいラブストーリーと壮絶な戦闘シーン…題名や宣伝からは想像もつかない、大人の映画!です。これを実写で、製作費をかけてCGやSFXを使って是非リメイクして欲しい…というのが私の希望である。日本アニメをよく見ているスピルバーグなら、「リング」に続いてハリウッドでリメイクするかも?
 6位「少林サッカー」。これも(多分)日本のスポーツ・マンガからアイデアを得て実写で映画化したと思しき作品。香港でもこれだけの事が出来るのだから、日本も是非頑張って欲しいものである。7位「鬼が来た!」。堂々たるスケールの、戦争の狂気を描いた力作。日本軍の悪行を描いたアジア映画はたくさん作られているのだが(ほとんど日本未輸入)、この作品は日本軍人と村の住民が次第に心を通わせて行くプロセスを丹念に描き、奥行きの深い作品となっている。…にもかかわらず、あの驚愕のラスト…。戦争とは、人間とは何なのかを考えさせられる問題作である。戦争の狂気と言えば9位の「ノー・マンズ・ランド」も面白かった。中立地帯(ノー・マンズ・ランド)にとり残されたボスニア兵と
、偵察に来て捕まったセルビア兵、そして体の下に地雷を仕掛けられ動けない兵士…。このシチュエーションで展開する双方の駆け引き、ほとんど役に立たない国連軍、騒がしいマスコミ…などが皮肉った調子で描かれ、笑わせられながらも次第に戦争の愚かしさが炙り出される、良く出来た舞台劇のような脚本が秀逸。ラストは衝撃的。監督のダニス・タノヴィッチは、これがデビュー作だそうだが、とても新人とは思えないほど見事な出来である。
 8位「ごめん」と10位「なごり雪」は共に爽やかな後味の、いかにも日本映画らしい日本映画。こういう普遍的な、誰が見ても楽しめる秀作がミニシアターでひっそり公開され、地方に住む人が物理的に映画館で見れない(「なごり雪」は大阪ですらモーニングショーのみでまともに見れない)という状況は困った事である。客が来ないから小規模で公開せざるを得ないのか、いい作品をちゃんと売らないから客が入らないのか…映画関係者は考えて貰いたいものである。

 11位の「ロード・トゥ・パーディション」は、ちょっと日本の「子連れ狼」から拝借したような物語(題名の意味は「地獄への道」といった所か。そう言えば「子連れ狼」シリーズに「冥府魔道」というのがあったが、ひょっとしてこれの英語訳?(笑))。スタイリッシュな映像が魅力的。父と子の絆の強さに泣かされます。トム・ハンクスもうまいが、ベテラン、ポール・ニューマンが渋くて圧倒的な存在感がある。
 12位「KT」。金大中氏が日本のホテルから誘拐された事件はよく覚えているが、これを史実とフィクションを巧みにブレンドして一級のポリティカル・エンタティンメントに仕上げた阪本順治の腕前には感服。14位の「突入せよ!『あさま山荘』事件」を撮った原田眞人ともども、この二人はかつての社会派エンタティンメントの名匠・山本薩夫の後継者と言えるのではないか。
 13位「マジェスティック」はさすが映画ファンらしいフランク・ダラボン(1、2作目とも映画が重要なキーになっている)のハート・ウォーミングな佳作。さびれた映画館を再興するというエピソードだけでもジーンと来る。後半は赤狩り旋風批判にキャプラ・タッチと、やや盛りだくさんな内容でテーマが拡散されているせいか、各ベストテンではランク外となっているが、私はこういうのが大好きです。
 15位に「チョコレート」が入った。アカデミー主演女優賞を取ったハル・ベリーと名優ビリー・ボブ・ソーントンの迫真の演技を見るだけでも価値がある。甘さを抑えた、ブラック・チョコレートの味わいでした。17位「フレイルティー−妄執−」のコワさについては批評を参照してください。後になる程怖さが尾を引く不思議な作品。
 16位「ピンポン」、18位「A I K I <アイキ>」と、新人監督の爽やかな佳作の誕生にも心が躍った。この人たちの次作が楽しみである。19位
WXIII 機動警察パトレイバー」は監督が押井守から高山文彦(総監督)にバトンタッチされたが、明らかに押井テイストが感じられる佳作。二人の刑事の、東京下町辺りの地道な聞き込みシーンは、「パトレイバー」1作目の同じようなシーンを彷彿とさせられるし、人物キャラクターも押井が原作・脚本を担当した「人狼」と似ている。物語としては、主人公の刑事と、怪物を作ってしまった女性科学者−との悲しいラブストーリーをきちんと描いた、大人が見てこそ面白い作品になっている。宮崎駿作品といい、「クレヨンしんちゃん」や本作といい、日本映画はアニメの方が熱く面白い…と喜んでばかりもいられない。実写製作者たちよ、アニメに負けずに頑張って欲しい。
 20位は好調、平山秀幸の「笑う蛙」
緩急自在の演出によって、日本映画離れした、ビリー・ワイルダー作品に近い良質のシチュエーション・コメディになっている。日本映画でこんなに笑ったのも久しぶり。平山監督は、ホラーからスタートし、サスペンス、文芸もの、ファンタジー(「ターン」)、今回のコメディと、何を撮っても水準以上の佳作に仕上げる一流職人監督である。次作がなんと山田風太郎原作の伝奇時代劇「魔界転生」と聞いてまたビックリ。これも大いに期待したい。
 次点はラストにうなったゴシック・ホラーの傑作「アザーズ」。もっと上でも良かったが、今年は本当に秀作揃いでこんな位置になってしまった。未見の方、絶対に予備知識なしで見てください。

 さて、これでベスト21は終わったが、やっぱり昨年同様、もっと紹介したい秀作がいっぱいあるので、 できる所まで以下紹介することとする。
 22位「夜を賭けて」(金守珍監督)。最近ほとんど見られなくなった、猥雑なエネルギーに溢れた熱い映画。前半の調子が持続していればもっと上位にしてもよかった。山本太郎がいいですよ。おススメです。23位「マルホランド・ドライブ」。まさにデヴィッド・リンチ・ワールド。わけの分からない映画なのに、とても魅力的です。ハマりますねぇ(笑)。24位「OUT」。平山秀幸監督の職人技が堪能できる。残酷なシーンを笑いのオブラートでくるんだ演出が見事。25位「ハッシュ!」。ゲイの映画と思ったら大違い。爽やかな気分に浸れる人間讃歌ドラマです。26位「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」。主演と監督を兼ねたジョン・キャメロン・ミッチェルのワンマン映画。ロックのライブ・シーンが熱いです。
27位「竜二 Forever」。金子正次主演の「竜二」が好きな人には絶対のおススメ。うーん、もっと上に入れたかったのに、こんな所まで落ちてしまった。金子正次、ごめんよ…。28位「リターナー」日本映画でもやる気になればこのくらいハリウッドに拮抗する映画が作れる事を証明した。アメリカ映画のパクリだと貶す人がいるが、同じくハリウッド・アクション映画をパクリまくった韓国の「シュリ」だとそんな声が少なくなるのは何故?もっと映画を楽しみましょうよ。29位「友へ チング」。韓国映画の勢いを感じますね。少年時代のエピソードが、日本人にとっても懐かしい風景です。30位「ミスター・ルーキー」。タイガース・ファンは絶対見ましょうね(笑)。

 …以上、ほとんどベスト20候補です。どれも入れたいのですがね。
 うーん、まだベスト候補作品がある。あと7本だけ追加します。
 31位「命」(篠原哲雄)、32位「カタクリ家の幸福」(三池崇史)、33位「息子の部屋」(ナンニ・モレッティ)、34位「メメント」(クリストファー・ノーラン)、35位「折り梅」(松井久子)、36位「宣戦布告」(石侍露堂)、37位「メルシィ!人生」(フランシス・ヴェベール)。   

  

   ワーストテンも作りましたので、そちらもご覧ください。

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