ごめん  (富樫 森 監督)

 年末近くになって、またまた傑作日本映画が誕生した。監督の富樫森は、相米慎二や平山秀幸の助監督を経て、昨年「非・バランス」でデビューした期待の新人。エンドクレジットに、「映画を教えてくれた相米慎二監督に」という献辞があることからも分かる通り、この映画は昨年亡くなった相米慎二監督に捧げられた作品でもある。そう、これはまさしく、相米監督が好んで描いた、子供から大人に向かう少年少女たちをヴィビッドに描いた、ちょっぴりせつない物語なのである。
 本編の原作は、相米慎二の「お引越し」と同じ、ひこ田中。小学校6年生の主人公セイ(久野雅弘)が、学校で“大人への目覚め”を体験し、初恋を経験して成長して行く物語。日本版「トリュフォーの思春期」とでも言うべき作品である。ただし舞台が大阪→京都という事もあって、おおらかでトボけた味わいの作品に仕上がっている。
セイは祖父のいる京都で美しい少女ナオ(櫻谷由貴花)にひと目惚れし、デートするが、相手が中学2年と知って驚く。ナオも最初は好奇心から付き合うが、まだセイを子供扱いする。モンモンと悩んでいたセイはやがて勇気を奮い起こし、自転車で大阪から京都まで走り、思いをぶつける。剣道着のまま、必死で自転車を漕ぐセイを延々と長回しで捕らえたシーンを見ているうち、こちらも胸が熱くなり、“頑張れ!”と声援したくなって来る。セイの母親役に、相米の「ションベン・ライダー」で鮮烈にデビューした河合美智子を起用したり、坂道を自転車で猛スピードで走り降りるシーンは「翔んだカップル」の薬師丸ひろ子を思い起こさせたり、相米流の長回し移動ワンカットを多用したり…と、至るところに相米慎二に対するオマージュを見ることが出来る。子供たちのごく自然な演技指導も相米ゆずりか。相米慎二のファンは絶対必見である。
 ラストでナオは、近く父と一緒に九州に行くとセイに告げる。別れたくないセイは、“坂道をブレーキをかけずに橋までたどり着けたらいい事がある”というおまじないを実行しようとする。二人が乗った自転車が勢い良く走り出した所で映画は終わる。このあと二人がどうなったかは、観客一人一人が考えてみればいい…という事なのだろう。…恥ずかしく、頼りなく、迷いながらもひたむきに疾走する青春像を爽やかに捕らえた、これは素晴らしい傑作である。富樫森…これからの活躍が期待出来る、素敵な新人監督の誕生に拍手を送りたい。