夜を賭けて   (シネカノン:金 守珍 監督)

 「月はどっちに出ている」の原作、「タクシー狂躁曲」や、「血と骨」などで知られる在日韓国人作家、梁石日の同名小説の映画化。
 昭和33年頃、大阪城の真下にあり、空襲で壊滅した旧陸軍兵器工廠跡(現在は大阪城公園)に眠る大量の鉄屑を運び出し、業者に売って金を稼いでいたスラムに住む在日朝鮮人グループの行動と警察との攻防戦をユーモラスかつエネルギッシュに描いた力作。…これは実際にあった事件で(マスコミは彼らを「アパッチ族」と呼んだ)、作者自身もアパッチ族の一員として実際に鉄屑を運び出していたのだそうだ。監督は、劇団“新宿梁山泊”を主宰する金守珍。これが監督第1作である。
 金監督は、「汗が飛び散るような映画を作りたい」と抱負を語っていたが、その言葉通りこの映画の登場人物たちは常に怒鳴り、わめき、どつき合い、派手に汗を飛び散らせるのである。そう言えば昔は今村昌平にしろ森崎東にしろ深作欣二(「狼と豚と人間」等)にしろ、まさしく汗を散らし、怒号が飛び交うエネルギッシュな映画が多く作られていたように思う(誰かも言っていたが、最近の若手監督の撮る映画は、全体的にクールで汗の臭いがほとんどしないのである)。そういう意味でもこの映画は、日本映画がまだ若かったそんな時代をも思い起させ、懐かしい味わいのある作品となっている。六平直政なんか、あの顔で喚きまくるのだから迫力がある(笑)。主人公・金義夫を演じる山本太郎や山田純大、仁科貴、そしてヒロイン初子を演じる韓国人女優ユー・ヒョンギョンらもみんな元気溌剌、活き活きと動き回っている。―そして何と言ってもこの作品が遺作となった清川虹子が快(怪?)演しているのも見どころ。
 映画は、傍若無人に出没するアパッチとのイタチごっこの末に、とうとう業を煮やした警察の一斉取締りによってほとんど全員が逮捕され、アパッチ族が壊滅するまでを描く。簡単に言えば彼らの行動は犯罪なのだが、「国が放ったらかしにしている不要の屑を掃除してやって何が悪い」という主人公たちの居直りぶりに、国家(日本及び南北朝鮮)に見捨てられた弱者たちのレジスタンスと下層庶民のたくましいバイタリティを感じ、素直に感動した。…惜しむらくは演出がテンション上がりっ放しでちょっと疲れるのと、原作に溢れていた笑いとユーモアもやや少ない(原作には出て来る、警官の死体をあっちに埋めたり掘り返してはまたこっちに埋めたり…などのヒッチ作品「ハリーの災難」ばりのブラックな笑いもない)のが難点。しかし初監督作品としてはまずまずの及第点ではないだろうか。おススメである。
 原作ではこの後、日本のアウシュビッツと言われた悪名高い朝鮮人収容施設、長崎の大村収容所に送り込まれた義夫と彼を待ち続ける初子との鮮烈な愛が描かれており、この部分も面白い。既に企画が上がっていると言われるパート2では、この辺が描かれることになるのだろう。こちらも楽しみである。