ミスター・ルーキー   (東宝:井坂 聡 監督)

 もしあなたが、サラリーマンで、阪神タイガース・ファンなら、・・・いや、阪神でなくても、毎年Bクラス・チームをずっと応援している人なら、絶対にこの映画を見ることをお勧めする。
 これは、夢を信じ、夢を見続ける事の大切さを忘れない人たちに捧げる素敵な秀作である。
 実際、ずっと阪神を応援し続けているファンにはこたえられない映画である。万年最下位を絵に描いたような阪神タイガース(失礼な言い方だが事実である)に、剛速球の救世主が現れ、優勝に導く…という、お話なのだから・・・。本当にそうあって欲しいと念じ続けているファンには、映画の中とは言え、まさにその夢が実現するのだから、こんな楽しい映画はないだろう。
 しかし、それだけなら、楽しいけれど傑作だなんて言う気はない。素敵なのは、主人公が、かつては高校野球のエースとして活躍を期待されながら、肩を痛めて野球を断念し、今は妻と子供を抱えたしがないサラリーマンであり、つまりは我々観客と同じ立場であるという点である。
 その彼が、中国のトレーナーのおかげで肩が回復し、もう一度かつての夢であったプロ野球の世界にチャレンジできることとなったが、サラリーマンという安定した職業を捨てるだけの勇気がなく、昼はサラリーマン、夜は野球選手という二足のワラジを履くこととなる。しかしふとした事から、彼がミスター・ルーキーである事を知った妻は、彼のそんな生き方に激しく怒りをぶつける。それは・・・
 というところで、これ以上は映画を未見の方の為に書かないが、とにかくラストのクライマックスに素晴らしい感動が待っている。特に、'85年のあの日本一を体験している阪神ファンには泣いて喜ぶお楽しみがある(これヒミツ)。実にイキなはからいですよ。
 この映画が素晴らしいのは、かつて夢を抱きながらも、それを実現できず、(私も含めた)普通のサラリーマン生活をしている人に対して“夢を決して捨ててはいけない。夢を抱き続けていれば、いつかそれは実現する日が来る”と、語りかけている点である。そう、それは阪神ファンが、“万年最下位でも、いつかは日本一になる”という夢を捨てない、その夢を信じ続けている、素敵な人たちである事とも繋がっているのである(こんな楽しみ、巨人ファンにゃ分かるまい(笑))。・・・ そう言えば、アメリカでも万年Bクラスのインディアンズを応援する映画「メジャー・リーグ」が作られた年、そのインディアンズが優勝した事があった。星野監督が就任した今年、開幕戦で宿敵巨人を連破した阪神・・・。ひょっとしたら本当に夢がかなうかも知れない(ウーム、今年はいい夢が見られそう(笑))。
 長島一茂が好演。さすが元プロ野球選手、本当にストライクをバシバシ投げこんでいる所をワンカットで撮っているのもいい。その他では、煮ても焼いても食えない古ダヌキ監督を楽しそうに演じた橋爪功が助演賞もの。−井坂聡監督、素敵な夢をありがとう。