恒例の、2002年度の私の選んだワーストテンを発表します。いつも書いておりますが、単につまらない作品をあげつらうのではなくて、面白くなりそうだと期待を抱かせながら、その期待を大きく裏切った作品に対しては厳しいスタンスで臨んでおります。つまり、期待度と出来栄えとの、その誤差が大きい程採点は辛くなっているという事ですのでご了承ください。対象期間はベスト20と同様、'2002年1月〜12月としました。なお、あまり数はありませんが、アンダーライン付の作品名なら、クリックすれば作品批評にジャンプします (戻る場合はベスト20と同様、ツールバーの「戻る」を使用してください)。 では発表します。

順位 作  品  名 監    督
Dolls <ドールズ> 北野 武
模倣犯 森田 芳光
スターウォーズU クローンの攻撃 ジョージ・ルーカス
竜馬の妻とその夫と愛人 市川 準
キリング・ミー・ソフトリー チェン・カイコー
恋に唄えば♪ 金子 修介
ロックンロール・ミシン 行定 勲
白い犬とワルツを 月野木 隆
WASABI ジェラール・クラウジック
10 ヒューマンネイチュア ミシェル・ゴンドリー
メン・イン・ブラック2 バリー・ソネンフェルド

 

 ワーストワンは、まったく残念な事だが、北野武監督の「Dolls」。理由は作品評を参照のこと。素晴らしい才能を持っている、日本を代表する監督として敬愛しているだけに、なんでこんな作品を作ってしまったのか…映像が綺麗なだけに、描き方次第では傑作になれたかも知れないだけに悔しいのである。蛇足だが、名監督がビジュアルに凝り出すとダメになる…というのが私の定説で、黒澤明(「どですかでん」「乱」)しかり、ジョージ・ルーカス(「SW1、2」)しかりである。…荒削りでぶっきらぼうだが私の心を捉えて離さなかった初期の「その男、凶暴につき」「ソナチネ」「キッズ・リターン」の頃を思い返して欲しいものだとつくづく思う。

 2位は「模倣犯」。この作品については掲示板で、黒沢清とデビット・リンチ作品にハマる人にはおススメ…。ただしどうせヒネるなら、もっと徹底してヒネって欲しかった…そしたら『マルホランド・ドライブ』に並ぶ問題作になったのに、惜しい」…と書いた。この気持ちは変わっていない。この時点では、私はワーストに入れる気はなかった。…しかし、最近発売されたDVDの宣伝文句を見てあきれた。なんと「44の謎を森田監督の監修の元に解説」とあるのだ(公式サイトにも、謎に関して「森田監督の考察」なるものがある)。黒澤明は「映画作家は作品ですべてを語るもの。監督が後からあれやこれや言うもんじゃない」と言っておられたが、まさにその通りだと思う。謎は謎のままで、観客に考えさせるのが正しいやり方だろう(キューブリックもデヴィッド・リンチも、謎の解説なんかしていないはずである)。なのに、監督自ら、あれこれと謎について解説するなんて、バカげた話である。DVDを売る為にそんな事をしているのだとしたら、森田芳光は映画作家でなく、ルーカスと同じく商売人に成り下がったと言わざるを得ない(ちょっとキツいかな?)。そんなわけで、私の敬愛する森田監督に目を覚まして欲しい…という意味でこれをワースト2に挙げることとする。

 そのルーカス監督の新作「スターウォーズ:エピソード2 クローンの攻撃」が3位。「エピソード1」も'99年度の私のワースト1だったが、これもワースト理由は1と変わらず。アナキン役のクリステンセンがいい男ぶりだけに、こいつが悪役(ダース・ベイダー)になるのかと思うと映画を見てても気分がうっとうしくなるばかり。エピソード3、作らん方がマシかも知れない。

 4位竜馬の妻とその夫と愛人」は、脚本が大好きな三谷幸喜だけに大いに期待したのだが…コメディにしては全く笑えず、ラブストーリーにしては中途半端。中井貴一はウロウロするだけで何のために出ているのか分からず、登場人物にほとんど感情移入できないまま。そしてラストのオチ(竜馬死亡の真相)…。何なんだこれは!こんなくだらんオチの為に映画を作ったのか。同じ脚本の舞台劇は評判がいいと聞いているので(見ていないので何とも言えないが、もし同じオチなら舞台にも失望するかも知れない)、これはひとえに監督起用の失敗だろう。市川準はリリカルな作品は悪くないが、コメディは全くダメのようである(「たどんとちくわ」もヒドかった)。すぐれた脚本家と監督が組んでも傑作になるとは限らない…といういい例だろう。

 5位「キリング・ミー・ソフトリー」。あの「覇王別姫・さらば、わが愛」「始皇帝暗殺」などの中国の巨匠、陳凱歌(チェン・カイコー)がハリウッドに進出した作品…。当然、大いに期待したのだが…。演出が、チェン・カイコーとも思えないほど平板。サスペンス映画として重要な緊迫感もあまりなし。セックスシーンのみが話題になるようでは困りものである(中国では撮れない大胆なセックスシーンを撮りたい為に引き受けたのかな…いや冗談)。「さらば、わが愛」に感動した私としては困ってしまう凡作であった。他の監督だったらこんなものか…と割り切るのだが(いや、そもそも金を出してまで観なかった(笑))、他ならぬチェン・カイコーだけに失望感は大きいのである。ハリウッドに進出すればいいってもんじゃないようである。

 6位の「恋に唄えば♪」も失望度が大きい作品。金子修介はデビュー当時からずっと応援している監督で、コメディでも「みんなあげちゃう」とか「どっちにするの。」なんかは楽しい快作であった。しかし今回は企画が悪いのか、脚本の練りが足らなかったのか、全く笑えない、つまらない出来である。せっかく怪優?竹中直人を起用しているのに、こういうナンセンス・コメディに彼を生かせなかった事自体がすでにダメである(私はてっきり、よく似た役柄のディズニー・アニメ「アラジン」のランプの精ジーニーのパロディでも出て来るのかと思った。ロビン・ウイリアムスの顔マネでもしたら、映画ファンは大笑いしただろうに)。ミュージカル・シーンも華やかさが全くなく凡庸である。物語がつまらないなら、いろんな映画のパロディで遊びまくる…という手もあったはずである。スタッフを見ると、プロデューサーが「帝都物語」「リング」「仄暗い水の底から」「ラストシーン」(これは未見)と私好みの一瀬隆重、脚本も「仄暗い水の底から」「ラストシーン」のコンビ、中村義洋と鈴木謙一と、一応期待出来る顔ぶれだけに余計残念であった。次回作に捲土重来を期待したい。

 7位「ロックンロール・ミシン」は、昨年「GO」で映画賞を総ナメした行定勲監督の新作。当然期待が大きかったが、ありきたりの、いかにも最近の若手監督が撮りそうな、スケールの小さい作品でしかなかった。「GO」で見せたスピーディかつトリッキーな映像もなし(いくつか印象的なシーンはあったが)。他の若手監督なら“まあこんなものか”…と見逃すのだが、ベストワンを獲得した日本映画界・期待の星がこの程度では納得が行かない。まあこれは行定監督だけの責任でなく、ベストワン監督に予算をかけた大きな仕事をさせようとしない(出来ない?)日本映画の構造的欠陥にも問題があるのだが…。ただ、東宝系全国公開予定で進んでいた、辻ナンタラ原作の「サヨナライツカ」が原作者の横ヤリで製作中止になったのも不幸な出来事であり、同情の余地はある。しかしこんな事では、日本映画に明日はない。関係者の猛反省を促したい。

 8位に来た「白い犬とワルツを」は、ミリオンセラーになったアメリカ人作家テリー・ケイの原作の翻案映画化。こういうファンタジーは好きだし、脚本も私が好きな森崎東。監督は今村昌平、岡本喜八、北野武、黒木和雄と、錚々たる監督の下で助監督をやって来た新人月野木隆。うーん、期待したくなるではないか。…なのに、ガッカリする出来。土着派?森崎東に脚本を書かせたのが間違いなのか、監督がファンタジーを理解していないのか、感動できるはずの題材なのに、さっぱり盛り上がらないのである。犬とワルツを踊る見せ場も、犬の訓練が足りないせいか、犬が仲代に無理矢理引っ張り回されているようにしか見えなくて笑いそうになった。韓国人が登場するシーンもとって付けた感じ(森崎らしいとは言えるが)。ラストの演出もモタつき気味(何の為に仲代が険しい谷を越えたのか…と思えるシーンあり)。これは、せめて大林宣彦か澤井信一郎クラスの監督にまかせるべきだったと思う。ファンタジーは難しいのですよ。

9位「WASABI」。リュック・ベッソン製作・脚本でジャン・レノ、広末涼子主演。…うーむ、なんとなくベッソンの傑作「レオン」を想起させるではないか。ところがジャン・レノはただ荒っぽいだけ。広末もパッパラパーにしか見えない。アクション映画としてはそれなりに面白く観れたが、もうベッソンは「ニキータ」「レオン」のような傑作ノワールは作らないのだろうか。前記2作に感動した私としては、ベッソンがありきたりのアクション製作者になってしまった事がとてもガッカリなのである。

 10位「ヒューマンネイチュア」「マルコビッチの穴」という怪?作で映画ファンを狂気させたスパイク・ジョーンズが製作し、同作のチャーリー・カウフマンが脚本を手掛けた作品。…にしては、もうアイデアがなくなってしまったのか…と思えるタルい出来でした。ハイ。

 次点はスピルバーグ・プロデュースも名前だけになってしまったか、退屈極まりなかった「メン・イン・ブラック2」を挙げておきます(途中で寝てしまったぞ!)。
 
 圏外では、もともと期待していなかった「凶気の桜」(薗田賢次監督)が、思ったほどヒドくなかったのでワーストに入れなかっただけ。薗田監督はプロモーション・ビデオを多く手掛けているそうだが、その割に映像的なセンスがいまいち。東映マークで遊んだり、仮面ライダーが登場するシーンなどは面白かったが…。こうしたお遊び感覚が最後まで持続していれば面白い作品になったかも知れないが、後半は重苦しいだけ。イメージ的に似ている鈴木清順の傑作「けんかえれじい」を見て研究して欲しかった。

 まあこんな所です。探せばもっとヒドい作品もあるでしょうが、幸い観れませんでしたので。…以上。

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