活きる (中国:チャン・イーモウ 監督)

 「あの子を探して」「初恋のきた道」と最近絶好調のチャン・イーモウが、'94年に完成し、その年のカンヌ映画祭で審査員特別賞・主演男優賞を受賞した作品。なぜかわが国では8年間も公開が延びていた。ようやく見られるようになった事は喜ばしい。
 この作品は、1940年代から'60年代後期までの中国で、時代に翻弄されながら生きてきた一組の家族の半生を描いた小説の映画化である。博打で家を巻き上げられ、影絵巡業で生活費を稼ぐ旅の途中で国民党と共産党の内戦に巻き込まれたり、ようやく家族の生活に戻ったら、毛沢東の社会主義革命を経て、'60年代には文化大革命の波に揉まれ、そんな中で息子を事故で失ったり、幼い時に高熱で口がきけなくなった娘の成長を見守ったりの夫婦の人生が、淡々と描かれる。夫婦を演じるグォ・ヨウとコン・リーがとてもいい。口がきけない娘をはさんでの夫婦の物語という点で、私は松山善三監督の秀作「名もなく貧しく美しく」を思い起こした(生まれて来る娘の子供も口がきけなかったら…などと心配する、「名もなく…」とそっくりのエピソードもある…)。この夫婦もまた、文字通り“名もなく、貧しく”生きているのである。奇しくも'40〜60年代と言えば、日本映画の全盛期…。「名もなく…」をはじめ、成瀬巳喜男の「めし」や「妻」などの、名もない夫婦の人生を描いたこの時代の日本映画の名作と比べながら見るのもいいかも知れない。心に沁みる、爽やかな佳作である。