A I K I <アイキ> (日活:天願 大介 監督)

 ボクシングのホープだった男が交通事故で下半身付随となり、車椅子生活を余儀なくされる。生きる勇気も失うが、悩んだあげく、何か車椅子でできる格闘技に打ち込みたい…と望み、紆余曲折の果てに、“合気柔術”とめぐり会い、猛練習の果てにAIKIをマスターし、生きて行く勇気を取り戻す・・・という物語。
 こういう物語は私は大好きである(「がんばっていきまっしょい」等、一連の私の批評を読めば分かります)。挫折を味わい、どん底に落ちて、やがて必死に這い上がって勝利する…という、この手の王道パターンである。そのパターンに、“車椅子”と“合気柔術”という異種混合をさせたアイデアがまず秀逸(ただし実際にモデルがいる)。主人公(加藤晴彦)が悩み、ふさぎ、ヤケになって暴れ、それでもどうにもならず、チンピラにも袋叩きにされ…と最悪の状況に落ちた頃に、やっと彼を助ける男(これがテキヤの元締、桑名正博)が登場し、そこから彼に好意を寄せる少女(ともさかりえ−好演)も現われ…と良い方向に転がり出す。脚本(監督の天願大介)がなかなかうまい。やがて神社の境内で行われた奉納演武で合気柔術を見た主人公は、その師(石橋凌−これも快演)に弟子入り志願し、ここからようやく物語は、彼が“車椅子の合気柔術”をマスターするプロセスへと一気に走り出すのである。この辺りの演出はうまい。落ち込んでいる時間が長いほど、後半の昂揚感は余計に高まるものである。
 合気柔術を行うシーンでは、ちょっと触れただけで大の男がコロリンと転がるので、まさか〜と思う人もいるだろうが、実際の合気柔術もあの通りである(エンドクレジットで本物の柔術家が柔術をかけているシーンが出て来る)。またエンドクレジットには、映画のモデルとなった“車椅子の合気柔術家”のデンマーク人も登場するので、最後まで席を立たないこと。
 ちょっと不満を述べれば、主人公に好意を寄せる少女がラストで、怪しげな男たちに追われ姿を消すのだが、これはせっかくの感動ドラマに水を差す、なくもがなのエピソードである。ありきたりのドラマにしたくない…という意図は分かるにせよ、個人的には二人が結ばれハッピーエンドを期待したかったところであり、この点はマイナス。しかし全体としてはとても気持ちのいい素敵な映画になっている。
 天願大介は、今村昌平の息子である。日本では親子とも一流監督として成功した例はほとんどない(私が知る限り、木俣堯喬と和泉聖治くらいか。しかし木俣堯喬は一流にはなれなかった)。彼がそのジンクスを破る最初の人になりそうである。これまでもビデオの「アイ・ラブ・ニッポン」などで演出力は実証済だが、本作でいよいよ天願大介も一流監督への道を歩み始めたわけである。次回作にも大いに期待したい。