突入せよ!「あさま山荘」事件 (東映:原田 眞人 監督)

 '72年に発生した、連合赤軍・浅間山荘事件を、当時指揮を執った警察庁の佐々淳行氏の原作「連合赤軍『あさま山荘』事件」(文藝春秋・刊)を元に、警察側の視点から描いたノンフィクション・ドラマ。これが無類に面白い。
 こういう事件をドラマ化しようとすれば、どうしても重苦しくなってしまったり、イデオロギー的な側面が出てしまい、非常に限定した客層を対象としたマイナーな作品になってしまう。そして予算も限られ、結果としてチマチマとした出来にしかならない(それが、日本映画がつまらない…と揶揄される所以である)。しかし、映画は(特に全国ロードショーする作品は)、やはり不特定多数の観客を対象とし、またその観客を十分に満足させるものでなくてはならない。この題材でそれをなし遂げる事はほとんど無理…と言うものである。
 ところが、脚本・監督の原田眞人はその難題に果敢にチャレンジし、そして見事クリアして大成功を収めた。どうやったのか・・・
 彼はなんとこの陰惨な事件を、活劇エンタティンメント…に仕立て上げたのである。
 まず、ストーリーとして、“人質を取って立て篭もったテロリストに戦いを挑む警察官の活躍”という、「ダイ・ハード」のシチュエーションを応用した。…なるほど、これならエンタティンメントになる。次に、原作に出て来る、“危機管理に対応できない警察側のドタバタ、ウロタエぶりを戯画的に描く”…という部分を強調して、笑える人間コメディに持って行った。・・・これは、深作の「仁義なき戦い」などでも使われた手法である(ちなみに、これらのドタバタ、ズッコケは原作にも全部出て来る、すべて実話である)。・・・私はこれを見てハタと膝を打った。まさに目からウロコが落ちる思いである。従って、相手の連合赤軍なんかはもうどうでも良くなったのである。ひたすら、難航不落の敵の要塞をどう攻略するか…という駆け引き、そして本庁と県警との間のメンツ、主導権争いのゴタゴタ(怒号が飛び交う会議室の攻防はほとんど「仁義なき戦い」である(笑))、ドタバタ、現場の苦労も知らない本庁のエゴ…と、むしろ内部の敵とも戦わざるを得ない主人公の悩みと葛藤…そしてクライマックスは、そんな困難をも乗り越え、プロとしての誇りを持って闘う男たちの熱いドラマ…に収斂して行く見事な感動ドラマとなったのである。
 一部に、連合赤軍内部がほとんど描かれていない…という否定的意見があるが、的はずれである。この映画はそもそも“連合赤軍”を描くドラマではなく、前記のような“困難に立ち向かった勇気ある男たち”を描く警察ドラマだからである。だからと言ってこれは体制側ベッタリの映画でもない。むしろ官僚機構のいいかげんさをも鋭く批判した、体制批判ドラマでもある。そうしたさまざまの要素を盛り込みつつ、骨太のエンタティンメントとしても成功させた、原田眞人の戦略勝ちをこそ大いに評価すべきである。前作「金融腐蝕列島[呪縛]」もエンタティンメントとして成功させた原田監督、今や日本映画界のエースとしての風格すら感じられる。なお、エンドクレジットも必見、絶対最後まで座席を立たないこと。