モンスターズ・インク (ディズニー/ピクサー:ピート・ドクター 監督)

 「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」などの傑作CGアニメを製作して来たピクサーの新作。今回は監督が総帥ジョン・ラセターから新人のピート・ドクターに代わったが、これがCGもさらにキメ細かく(主人公サリーの毛並みが実にリアル!)かつ面白くて、泣ける、感動作になっている。ピクサー、凄い!
 設定がまず面白い。西洋にはもともと、「クローゼットには妖怪(モンスター)が潜んでいて、夜中に子供を驚かせる為に出没する」という怪談話があり(実際「モンスターズ・イン・クローゼット」というタイトルのホラー映画がある(笑))、それが元になっているわけで、ここではその理由が“妖怪が子供部屋に現れるのは、子供の悲鳴をエネルギー源にしているからだ”という解釈になっている。なるほど・・・。
 そういう設定をまず作っておいて、そうしたモンスター世界に、人間の子供が紛れ込んでの大騒ぎとなる。…前記の設定により、一見怖いモンスターたちは実は臆病で、子供のブーがモンスターを怖がらず、モンスターたちの方がブーに追われて逃げまどうという逆転現象が傑作である。そして、最初は騒動の元になったブーを邪険に扱っていたモンスターのサリーやマイクが、やがてブーを愛しく感じるようになり、陰謀から危険にさらされたブーを徹底して守り、人間世界に返してあげようと大活躍する・・・という展開になる。
 前記のストーリーからも分かるように、これはあの「E.T.」のまるまる逆設定のお話である。モンスターと人間の子供の、心の交流と友情、そして別れ・・・。ハラハラするアクションも、涙と感動のラストも同じである。ただし人間とモンスターの立場が逆である点のみ異なる。
 妖怪と子供の交流…という点では我が「となりのトトロ」とも共通するものがあるし、どこへでも瞬時に移動できるドア…と聞けば「ドラえもん」の“どこでもドア”が連想される。また、無数のドアが空中に浮いていたり、それらを次々開けて移動するあたりは、ビデオ「うる星やつら'87〜因幡君登場」にもよく似たシーンがあった。・・・と、いろんな日本アニメを思い起こさせるところもある(多少はヒントにしてるかも…)。
 しかし、似ているからと言ってもケナしているわけではない。お話として面白く、ハラハラさせて、泣かせて、ここまで感動させてくれれば文句はない。とにかくブーが可愛い。モンスターたちも愛嬌があって、お話が進むにつれてだんだん感情移入してくるのは、やはり脚本・演出がうまいからである。ブーとサリーの別れのシーンでは、泣いてしまった。そしてラスト、モンスターたちの新しい商売…これがケッサクである。オチも見事に決まっており、爽やかな余韻が残る。
 ところどころ分からない所や不得要領なシーンがあった「千と千尋−」よりずっとムダがなく分かりやすい…という点でも、子供たちには楽しめる作品であり、そして大人には、「トトロ」がそうであったように、私たちが忘れかけていた、ノスタルジックな夢の世界を思い出させてくれる。今年のベスト3には入れたい、素敵な傑作である。
         

(付記)現在ロードショー中の劇場では、本編の前にこれもピクサーが製作した5分ほどの短編CGアニメ「For The Birds」がおマケとして上映されている。これもなかなかのケッサク。で、これが3月25日発表のアカデミー賞で最優秀短編アニメ賞を受賞した。残念ながら「モンスターズ・インク」の方は長編アニメ部門を取り損なった(「シュレック」が受賞)が…。まあこの短編が見られるだけでもありがたい。見るべし。