マジェスティック (米:フランク・ダラボン 監督)

 「ショーシャンクの空に」「グリーン・マイル」と感動の力作を連打したフランク・ダラボンの新作。今回はキング原作ではなくオリジナル・ストーリーで、1950年代に猛威をふるったハリウッドの赤狩り(推進した議員の名前を冠してマッカーシー旋風とも言う)がメインで、それにフランク・キャプラ作品を巧みにブレンドして、またまた感動の力作を作り上げた。
 新進脚本家のピート(ジム・キャリー)は、突然身に覚えのない“アカ”のレッテルを貼られ、非米活動委員会に召喚される。これは実際にあった事で、多くの映画作家たちがコミュニスト(共産党員)と決めつけられ、映画界を追放された(ドルトン・トランボとかエイブラハム・ポロンスキーなどはその為長い間映画作りに参加できなかった)。そして一部の作家は“転向”を表明し、同志たちを内通した事によって映画界に留まる事ができた。エリア・カザンもその一人である。その為、カザンは未だにリベラルな映画人からは“裏切り者”として非難されている。先のアカデミー賞でカザンが名誉賞を受賞した時、座ったまま拍手もせず、公然と不満の意を表した人がいたのはその為である。・・・こうした事実を知った上でこの映画を見ると、余計感動が増すだろう。…話に戻って、ヤケ酒をあおったピートはドライブの最中、運転を誤り川に転落し、ショックで記憶を失ってしまう。そして流れ着いた町で、戦争に行ったまま帰って来ない、町の英雄で映画館主(マーチン・ランドー)の息子と間違われたピートは、ランドーを手伝い、町で唯一の映画館の復興に力を注ぐこととなる。
 という物語で、
この映画は、ピートは赤狩りに召喚されるのか、町の人たちの希望の星となったピートが、いつ記憶を取り戻すのか(町の英雄のニセモノだと分かればやっかいな事になる)…という2つのサスペンスが並行する−というちょっと欲張ったストーリーとなっている。映画を見ていただければ分かるが、ラストにはとてもハッピーな結末が待っている。<注:以下ややネタバレがあります。未見の方は映画を見た後でお読みください>
 
絶望し、川に落ちた男が希望を取り戻す…という前半はキャプラの「素晴らしき哉!人生」を、査問委員会で感動的な演説をする所は「スミス都へ行く」を連想させる。特に、「映画界に残りたければ、転向を表明し、活動者リストを提出しろ」と迫られたピートが、密かに愛する女性から渡された「憲法」の本を見て、委員会で勇気を奮い立たせ、演説するクライマックスは泣けてしまう。現実にはそんな映画人はいなかっただろうが(実行したとしてももっとヒドイ目に会うだろう)、理想主義をテーマとしていたキャプラならこう描いただろう・・・という感じになっているのがいいのである。同時にこれは、エリア・カザンもあの時、こんな勇気を持って欲しかった…というハリウッド映画人の願望でもあるのだろう。
 ラストは、もう一つオマケに感動の結末が用意されている。ここは山田洋次の感動のあの傑作(というより、その原作となったピート・ハミルのコラム)を連想させる。うまい作りである。「スミス都へ行く」も泣かされ、感動したが、これも泣かされた。フランク・ダラボン、やってくれます。なお、中盤、映画館で上映されていた、ヘンなロボットのようなものが出て来る映画は、ロバート・ワイズのSF「地球が静止する日」で、あれは争いをする地球人に平和を訴えにやって来た宇宙人という設定である。ついでにロビーに張られていたポスターの中にも、ドン・シーゲルの傑作SF「ボデイスナッチャー/恐怖の街」があった。どちらも、宇宙からの侵略または警告…というテーマで、共産主義がアメリカを洗脳するのでは…という当時の不安感を反映した(または皮肉った)作品である。意識的に用意したのだろうか。