恒例の、2004年度の私の選んだワーストテンを発表します。例によって、単にどうしようもない作品だけに留まらず、この作家なら…と期待したにもかかわらず、その期待を大きく裏切った作品に対しては厳しいスタンスで臨んでおります。対象期間はベスト20と同様、'2004年1月〜12月。なお、あまり数はありませんが、アンダーライン付の作品名なら、クリックすれば作品批評にジャンプします (戻る場合はベスト20と同様、ツールバーの「戻る」を使用してください)。 では発表します。

順位 作  品  名 監    督
デビルマン 那須 博之
レディ・ジョーカー 平山 秀幸
海 猫 森田 芳光
エレファント ガス・ヴァン・サント
キューティハニー 庵野 秀明
CASSHERN 紀里谷 和明 
ヴィレッジ M・ナイト・シャマラン
タイムライン リチャード・ドナー
IZO 三池 崇史
10 ロスト・イン・トランスレーション ソフィア・コッポラ
トロイ ウォルフガング・ペーターゼン

 

 ワーストワンは文句なし、ダントツで「デビルマン」。これはおそらく、どこのワーストテンでもトップだろう。それも、「北京原人」くらいならトホホ映画としてツッ込みまくり、笑い飛ばして楽しむ事もできるだろうが、この映画にはそんな要素すらない。ただただ腹立たしいだけである。那須博之監督よ、自分で映画館でこの映画を観て、情けないとは思わないか。私まで日本映画ファンである事が恥ずかしくなって来る。次回作(があるとすればだが)では、是非名誉挽回を死に物狂いでやっていただきたい。

 2位の「レディ・ジョーカー」も映画評を参照。平山秀幸監督は私のお気に入りで、好きな作品は一杯あるのだが、昨年のワーストワン「魔界転生」に次ぐワースト入りはどうしたことか。作品的には「デビルマン」ほど酷くはなく、いい所もあるのだが、脚本・鄭義信、監督・平山秀幸というエース級二人が組んでこの出来では満足しない。それほどファンの期待度が高い事を肝に銘じて欲しい。三度目の正直で、平山監督、次は絶対に傑作を…。

 3位「海猫」の森田芳光監督もデビュー以来ずっと応援して来た人である。前作「阿修羅のごとく」が良かったので今回も期待したが、「模倣犯」に次いでまたもやワースト3入り。調子の波の激しい人である。脚本・筒井ともみ+監督・森田という、傑作「それから」、「阿修羅のごとく」のコンビがこんなフヤけた作品を作ってはいけない。主演女優のヌードが中途半端だからといって、作品まで中途半端になっては困る。脚本で「青い目」と出てるのに伊藤美咲の目が黒いままだったり、佐藤浩市が20年経ってもまったく老けていないなど、手抜きも目立ち過ぎる。…しかし3本並べてみて驚いた。3本とも東映配給作品である。今さらながら東映のどうしようもない惨状を再認識した。…絶望―としか言いようがない。

 4位「エレファント」。ガス・ヴァン・サント監督は、しょーもない「サイコ」のリメイクを作った…というだけで私の信頼度ゼロの監督だが、本作もまったくつまらない。単に事件をなぞってるだけで、何が言いたいのかさっぱり見えてこない。登場人物の人物造形も薄っぺらいから、誰にも感情移入できない。そこが狙いだと言って誉める人もいるようだが、私はたとえワルにせよ、登場人物に作者の思い入れや感情が込められている作品を評価したい。「レディ・ジョーカー」評の繰り返しになるが、黒澤明の「天国と地獄」とか野村芳太郎の「砂の器」などは、被害者にも、警察にも、犯人にも、いずれの心情や行動にも観客がシンパシーを感じるように周到に作られている。だから観終わってズシーンと心に響くのである。そういう作品を観たいのである。

 5位「キューティハニー」については映画評を参照のこと。まあマンガだと笑ってすませばいいのだが、それにしてもこれは原作マンガ以下である。お話そのものが幼稚すぎるのに、演出も役者の演技もお寒いかぎりである。悪人がポンポン吹っ飛ばされるシーンがあるが、同じようなシーンが登場するチャウ・シンチーの「カンフー・ハッスル」の徹底したおバカ演出(明らかに日本のマンガを研究しているぞ)をどうせなら見習って欲しい。

 旧作アニメの実写映画化作品が続く。6位「CASSHERN」も映画評を参照。…しかしまあ、立て続けに登場した実写映画化作品が揃いも揃ってワースト作品ばかりなのはどういう事だろう。洋画の「スパイダーマン2」があんなに面白くて良く出来ているのに…。残っている「鉄人28号」も心配になって来たぞ。

 7位「ヴィレッジ」。M・ナイト・シャマラン監督作品は、「シックス・センス」がとてもよく出来ていて感動したのだが、以後の作品はどれもいま一つである。前2作(「アンブレイカブル」、「サイン」)は、まあそれなりに見どころもあるので、次回作への期待も込めてやや甘い点数を付けて来たが、さすがに本作では頭に来た。ヘンな怪物や、ああいう環境を用意した動機付けが、いずれもとって付けたようでまったく説得力がない。単にラストのどんでん返しの為だけにこじつけられたとしか見えない。「シックス・センス」が素晴らしかったのは、死者を見る事が出来る能力を持った少年、精神科医として患者を救えなかった主人公、それぞれの心の中に秘められた深い哀しみが胸を打つからである。あのラストがなくても十分感動できる作りになっているから、なおの事感心したのである。本作のラストは、単に腹が立つだけである。脚本もちょっと無理が多い(例えば、あれだけのコミュニティになんで医者がいない…とか)。仏の顔も三度。今回はワーストに入れさせて貰う。でも、次回作が公開されたら、また観に行ってしまうんだろうなぁ…。

 8位「タイムライン」。私はタイムトラベルSFが大好きだし、原作がマイクル・クライトンという事で大いに期待したのだが、なんともまあショボい出来にガッカリ。遺跡からSOSを発見して過去に救出に向う…なんて手は「バック・トゥ・ザ・フューチャーPart3」などでとっくに使われているアイデアで新味がないし、14世紀のエピソードも荒っぽいだけ。ラストもだいたい予想がつく。ひねりもセンス・オブ・ワンダーもなんにもない。本当にクライトン原作なのだろうかと疑いたくなるくらいつまらない。監督が「スーパーマン」で楽しませてもらったリチャード・ドナーなので余計がっかりである。広瀬正の傑作タイムトラベルSF「マイナス・ゼロ」どこかで映画化してくれないかな。

 9位、「IZO」。ビートたけしや桃井かおり、松方弘樹、緒方拳、その他豪華スターが大挙出演しているのは、さすが鬼才三池崇史監督への信頼度か(でも、スーパーバイザーの奥山和由の人脈もあるかも)。幕末のテロリスト、岡田以蔵が処刑された後、怨念と化し、時空を越えていろんな時代と世界で天誅を加えて行く…、という物語は、確かに面白そう−と期待を抱かせるのに十分。だが、残念な事に、ちっとも面白くない。あまりにもゴチャゴチャ、取りとめもなくあっち飛びこっち飛びする展開には、三池ファンを自認する私にとってもほとんど拷問のような2時間10分であった。フォーク歌手の友川かずきが延々と歌うシーンも興醒め。私はこれを見て、やはりフォーク歌手の岡林信康が歌うシーンが頻繁に登場する、黒木和雄監督の「日本の悪霊」('70)を思い出した。あちらはATG配給で、いわゆる当時のアングラ・ブームを背景とした反体制志向が打ち出された、いかにも時代を象徴した作品であったと思う。そういう意味では、30年前にATGチェーンで公開されたならまだ面白かったかも知れないが、今の現代に作られる意味はまったくなく、非常に時代遅れの古めかしい作品に見えてしまう。これは原案・脚本の武知鎮典の責任だろう。しかもラストは、三池監督の前作「極道恐怖劇場・牛頭(ゴズ)」の二番煎じ。まあ三池らしい作品と言えばそれまでだが、「ゼブラーマン」のような楽しい感動作が作れる実力のある三池監督には、日本映画の為にもこんな寄り道をしていて欲しくはない。あえて厳しい採点をさせて貰う所以である。

 10位「ロスト・イン・トランスレーション」。言葉の分からない外国人が、異国でウロウロするだけの作品。演出テンポも平板で、たいして盛り上がりもせずなんとなく終わってしまう。退屈な映画でした。こんな脚本がなんでアカデミー脚本賞なのか、さっぱり分からない。まあアメリカ人から見れば日本の風景やお笑いテレビ番組なんかが珍しくて新鮮なのかも知れないが。

 次点は「トロイ」。これも作品評を参照。
 

 あと番外では、SF大作「リディック」(デヴィッド・トゥーヒー監督)、「ヘルボーイ」(ギレルモ・デル・トロ監督)も、やたら騒々しく荒っぽいだけの凡作。次点作も含めて、もうコケ脅かしのCGには飽きて来ましたね。日本映画では「恋人はスナイパー・劇場版」(六車俊治監督)。ここに取り上げる気も起きない(観た事すら忘れていた(笑))、単にくだらない作品。あ、そういえばこれも東映作品でしたね(笑)。

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