PART 2 (No.21〜40)

PART 3 (No.41〜60)へ

No ベ ス ト 作 品 ご 参 考
21

 「荒野の決闘」 ('46) 米/監督:ジョン・フォード

ジョン・フォード監督による、ワイアット・アープを主人公に、有名なOK牧場の決闘をクライマックスとした西部劇の伝説的な傑作。私はこれを小学生の時に親に連れてもらって観ている。字幕もまともに読めなかったので、物語はほとんど覚えていない。後に大人になって再見したが、冒頭の木の道標を使ったタイトルシーンと、主題歌(いとしのクレメンタイン)は鮮明に覚えていた。ジョン・フォードの演出はまさに完璧な芸術。おなじみモニュメント・ヴァレーの風景を生かした撮影も見事だし、アープとドク・ホリディの友情、ラストの決闘へ向けてたたみかけるサスペンス(ドクが犯人か?と思わせるあたり。小道具の使い方もうまい)、そしてクライマックスの決闘シーン・・・いずれも、何度見ても惚れ惚れする素晴らしさ。ラストの、クレメンタインとの別れはまるで絵画をみているような美しさに満ち溢れている。これはまさにダイナミズムと叙情性とが絶妙にブレンドされた“映像詩”である。「駅馬車」の所でも書いたが、アクション映画でありながら芸術の域にまで達している映画は、「駅馬車」とこれのフォード映画2本と、黒澤の「七人の侍」くらいではないか。何度見ても唸りたくなる傑作である。なお、再公開時には「いとしのクレメンタイン」と改題されている。 (日本公開'47年)

双葉さんのベスト100
 (47)「荒野の決闘」

   
(左参照)

小林さんのベスト100

 (40)「荒野の決闘」
   (左参照)


「我等の生涯の最良の年」(46)。ウィリアム・ワイラー監督。第二次大戦後の復員兵が辿った運命を描く。3時間もある長編だが見応えあり。

「戦火のかなた」(46)。ロベルト・ロッセリーニ監督のネオ・レアリズム作品。短いエピソードを連ねた短編集である。力強さには満ちているが、何度も観たくなる作品ではない。

「汚名」(46)。ヒッチコック監督のスパイ・サスペンス・メロドラマ。イングリッド・バーグマンが相変わらず美しい。ケーリー・グラントとの、延々5分にも及ぶ“映画史上一番長いキス・シーン”も見どころ。カメラ・テクニックも面白い所あり。ただ全体的にはも一つ話に面白味が足りない。

22

 「素晴らしき哉、人生!」 ('46) 米/監督:フランク・キャプラ

いかにもフランク・キャプラらしい人生賛歌。アメリカでは未だにクリスマス・シーズンになると必ずテレビで放映され、映画の中で同作品をテレビで見ているシーンが登場する事もしばしば(「グレムリン」など)。
お話は、ある意味おとぎ話。天国の神様が、誠実なのに何をやってもツイてない男・ジョージ(ジェームス・スチュアート)がやがて自殺する事を察知し、まだ羽根ももらえない2級天使クラレンス(ヘンリー・トラヴァース。巧演)に、この男を救うように命令する。そこで映画はこの男が生まれてから現在のまでの人生をたどり、とうとう最後に絶望して河に飛び込み自殺しようとした時、クラレンスが登場し、「生きていたって仕方がない」と嘆くジョージに、“彼がこの世にいなかったら…”という世界を体験させ、“どんなにつらくたって、生きていることは素晴らしい”とジョージに実感させるに至る。
ストーリーだけをなぞれば、他愛ない話である。しかしキャプラの自家薬籠中の世界とも言うべき、ヒューマニスティックで暖か味のある演出にかかるとこれが素晴らしい感動の物語となる。ラストシーンは、お話が分かっていても、何度見てもポロポロ涙が溢れてくる。それはこの映画が、「人間は誠実に生きていれば、知らず知らずのうちに人に愛されており、いつかはそれが報いられるのである」という人間の根源的なテーマに貫かれているからである。もし、生きているのがつらい…と思った事がある人は、是非この映画を観て欲しい。きっと生きる勇気が湧いて来るはずである。
初公開当時は批評も散々、興行的にも不入りで、この映画の為にキャプラがウイリアム・ワイラーらと設立した製作プロダクション、リバティ・ピクチャーズは大幅な赤字を出したそうだが、やがて時代と共に評価が高まり、今では映画史に残る不朽の名作となった。“誠実な映画を作っていれば、一時は苦境に陥ってもやがて報われる日が来る”という、この映画に関する経緯は、そっくりそのままこの映画のテーマとも重なっている…というのもまたいかにもキャプラらしい奇縁であろう。憎たらしい悪役を演じるライオネル・バリモア、「スミス都へ行く」に続くキャプラ作品出演のトーマス・ミッチェルらの味わい深い好演も見どころ。 (日本公開'54年)

小林さんのベスト100
 (41)「素晴らしき哉、人生!」
   
(左参照)
 (42)「戦火のかなた」
   ('46 監督:ロベルト・
          ロッセリーニ)
 (43)
チャップリンの殺人狂時代」
   ('47 監督:チャールズ・
          チャップリン)


「天国への階段」(46)。マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガーの共同監督による霊界(?)ファンタジーの佳作。戦争で重症を負ったパイロット(デヴィッド・ニーヴン)が生死をさまよう内に見た幻想を描く。天国と手術室を結ぶ巨大な階段が見もの。天国がモノクロで、下界がカラーという着想がユニーク。「地上はテクニカラーか」というセリフが笑わせる。

「三十四丁目の奇蹟」(47)。クリスマスを題材にした心温まるファンタジー。サンタクロースは実在するのか…というテーマが面白い。サンタ役のエドマンド・グェンがピッタリの名演。ラスト、本当に彼はサンタだったのか?…観客にその答を委ねた結末が心憎い。好きな作品です。

チャップリンの殺人狂時代」(47)。チャップリンがこれまでの善人のイメージを振り捨て、生活の為に連続殺人を行う男を演じた。それでも随所にチャップリンらしいギャグは垣間見える。テーマは、大量殺人である戦争という罪悪に対する痛烈な皮肉である。オーソン・ウェルズの原案による「一人を殺せば殺人だが、百万人を殺せば英雄だ」というセリフは有名。ただこの作品によって、チャップリンは反政府主義者とみなされ、後に赤狩りで追われる遠因ともなった。

23

 「自転車泥棒」 ('48)  伊/監督:ヴィットリオ・デ・シーカ

正直に言うと、イタリアン・ネオレアリズム映画はも一つ好きになれない。ロッセリーニの「無防備都市」「戦火のかなた」などは、若い時に観たせいか退屈だった記憶のみでほとんど印象にない。未だに観る機会があっても食指が動かない(今観直せば印象が変わるかも知れないが…)。
しかしこの作品だけは例外である。学生時代に観ているが、どんどんのめり込み、ラストではすごく泣けた。それは、他のネオレアリズム作品がドキュメンタルな演出でどこか客観的に時代を見つめているのに対し、この映画は、どこの国やいつの時代であっても存在していた“貧乏な下層市民の生活”という普遍的なテーマを題材とし、主人公たちの境遇に限りない慈愛の眼を寄せているからである。日本で言うなら小津安二郎が描きそうな、小市民の哀歓が巧みに描かれているのである。
“自転車が盗まれる”…たったそれだけの話なのに、ここに描かれるのは、
“善良で、誠実にに生きて来た人間であっても、切羽詰るとつい魔が差して他人の自転車を盗んでしまう”―人間という生き物の弱さ、脆さである。それは、観客の誰もが、もし主人公と同じ境遇になれば自分でもやってしまうかも知れない…とふと思わせるほどのリアルでシニカルな視点をこの映画が持っているからに他ならない。にもかかわらずこの映画はとても暖かい。何故なら、夫、妻、そして6歳の子供の家族3人が、貧しいながらも心を通わせ、互いを支え合って生きている、その家族愛に心が打たれるからである。自転車を盗み、たちまち捕まり、坊やの嘆願にやっと許された父に何も言わず、ただそっと手を差し伸べる坊や…。二人は何も言わないが、これからは家族が力を合わせて逆境にもめげず懸命に生きて行くだろう事を予感させ、映画は終わる。話だけなら何とも救いようがない暗い話だが、こうしたかすかな希望がほの見えるシーンをさりげなく入れる事によって、この映画はとても心が温まる作品にもなっているのである。デ・シーカ作品では一番愛着のある作品である。 (日本公開'50年)

双葉さんのベスト100
 (48)「黄金」   ('48
  監督:ジョン・ヒューストン
 
 小林さんのベスト100
 (44)「虹を掴む男」
  ('47 監督:ノーマン・Z・
           マクロード)
 (45)「赤い河」
('48 
  監督:ハワード・ホークス)
 (46)「イースター・パレード」
  ('48 監督:チャールズ・
          ウォルターズ)

「虹を摑む男」(47)。ダニー・ケイの芸達者ぶりが楽しめる佳作。空想に没入し、いろんな人物になりきるシーンが楽しい。最後は空想世界での経験を生かして現実世界で大活躍するオチとなる。

「赤い河」(48)。ハワード・ホークス監督、ジョン・ウェイン主演による西部劇の秀作。これもベストに入れたかった。

「イースター・パレード」(48)。チャールズ・ウォルターズ監督。フレッド・アステア主演による、MGMミュージカルの初期の佳作。音楽は後に数多くのミュージカルの秀作を手掛ける事となるアービング・バーリン。主役は最初はジーン・ケリーが予定されていたが、ケリーがケガをしたためアステアに交代し、おかげでしばらく低迷していたアステアはこれで人気が復活した。冒頭のドラムを相手にした踊りが楽しい。相手役はジュディ・ガーランド。

24

 「第三の男」 ('49)  英/監督:キャロル・リード

これはもう文句ないだろう。誰もがベストに入れるサスペンス映画の不朽の名作。全編に流れる、アントン・カラスによるツィターの音楽も素晴らしく、映画音楽としてもベストだろう。年に数回はCDで聞いている。
ストーリーとしては、親友の謎の死、現場にいた第三の男は何者なのか―という謎解きミステリーの装いを持つ。これを単なる犯罪ミステリー映画として作ったならこれほど後世に残る傑作にはならなかっただろう。これが何故不朽の名作になったか…。それは、“キャロル・リードの演出テクニック”、“光と影のカメラワーク”、“音楽の見事さ”、そして“オーソン・ウェルズ演じる悪人ハリー・ライムの魅力”…これらが渾然一体となって絶妙のバランスを保っているからであろう。これらの、どれか一つ欠けても傑作にはならなかったのではないだろうか。
リードの演出は、敗戦後のウィーン・ロケを巧妙に生かし、巨大観覧車、広大な地下水道、ラストの冬枯れの並木道…とまさに絵画のような記憶に残る名場面をフィルムに焼き付けた。そして大胆な省略話法を使った演出がハギレがいい。ラストの、銃声だけでハリーの死を暗示するシーンはその後のサスペンス映画のお手本ともなった。この演出を支える、夜の闇と光をくっきり捕らえたカメラ(ロバート・クラスカー)も素晴らしい。だから、闇の中から忽然と登場するハリーの姿に観客はハッとさせられるのである。幾分斜めに傾けた映像も不安感を煽って効果的。そしてツィターという楽器1本のみを使った音楽も実に素晴らしい。ある時は勇壮に、ある時は浮き浮きと楽しげに、ある時は悲しげに…。もし普通の作曲家による管弦楽を使ったなら、とてもこれほどの効果は上がらなかっただろう。名作が生まれる過程には、必ず不思議なめぐり合わせがあるのである。
最後に、オーソン・ウェルズの存在感。はっきり言えば彼が扮するハリー・ライムは悪人である。それなのに凄く魅力的。初登場シーンからしてカッコいいし、観覧車の上で自首を説く親友ホリィ・マーチンス(ジョセフ・コットン)に堂々と自説を展開し煙に巻くシーンは圧巻で、うっかりハリーに感情移入してしまいそうになる。ここでハリーが喋る映画史に残る名セリフのカッコ良さ―「イタリアではボルジア家30年の圧政下に、ミケランジェロ、ダヴィンチ、ルネサンスを生んだ。スイス500年の同胞愛と平和が何を生んだ?――鳩時計さ。」…知性と皮肉に溢れていて悪人が言うセリフとは思えない。ホリィが最後に親友を裏切り、警察に協力するのは、正義感からだけではなく、美しい恋人(アリダ・ヴァリ)までいる魅力的な男、ハリーに対する嫉妬とコンプレックスもあったのではないかと思わせる。それ故、ラスト、並木道で待ち受けるホリィを、冷たく無視して通り過ぎるヴァリの態度はとても納得出来るのである。何度観ても、ため息の出る、イギリス映画の最高傑作である。
(日本公開'52年)

双葉さんのベスト100: 
 (49)「情婦マノン」
  ('49 監督:アンリ・
     ジョルジュ・クルーゾー)

 (50)「悪魔の美しさ」
  ('49 監督:ルネ・クレール)
 (51)「踊る大紐育(ニューヨーク)
  
('49 監督:S・ドーネン/
          J・ケリー)

 (52)「黄色いリボン」
  ('49 監督:ジョン・フォード) 
 (53)「第三の男」  (左参照)
 
小林さんのベスト100

 (47)「チャンピオン」
  ('49 監督:マーク・ロブスン)
 (48)暴力行為」  ('49
   監督:フレッド・ジンネマン)

 (49)「第三の男」  (左参照)
 

「黄金」(48)。ジョン・ヒューストン監督による、砂金探しをめぐって人間の醜い欲望が交錯し、最後はすべてが無になってしまう悲喜劇。ハンフリー・ボガートが薄汚い悪党を巧演。老人役のウォルター・ヒューストンは監督の父親でもある名優。

「ロープ」(48)。ヒッチコック監督が、フィルム1巻をまるまるワンショツトで撮るという実験を行ったサスペンス映画。巻のつなぎ目には、前に人が通ったりトランクの中を覗いたりといったショットを入れて、全体がワンショットで撮ったかのように見せている。ただし1カ所、カットが変わるシーンあり。実験作としては面白いがちょっと無理がある。こういう作品も撮れるという事を言いたかっただけか。日本公開はずっと遅れて'62年。

「踊る大紐育(ニューヨーク)(49)
24時間の上陸許可を貰った水兵たちが、上陸地ニューヨークで繰り広げるラブ・コメディ・ミュージカル。ジーン・ケリー、フランク・シナトラ共演。ニューヨーク・ロケによるミュージカル・シーンは、後の「ウエストサイド物語」にも影響を与えている。水兵3人組が「ニューヨーク、ニューヨーク!」と唄い踊るシーンはワクワクして来る。監督は後の「雨に唄えば」のコンビ、ジーン・ケリーとスタンリー・ドーネン。

25

 「サンセット大通り」 ('50)  米/監督:ビリー・ワイルダー

ハリウッド・スターの内幕を辛辣に描いた作品。ビリー・ワイルダーにとってはやや初期の作品にも係らず、人間とはなんとエゴイスティックで欺瞞に満ちた悲しい生き物であるのか…という鋭い洞察力が感じられる。いきなりプールに浮かぶ死体のモノローグから始まる導入部にも驚かされる。過去の栄光にしがみついて生きるかつての無声映画の大スター、ノーマ(グロリア・スワンソン)、かつてはノーマの夫であり、大監督でありながら今では落ちぶれ、ノーマの執事となり果てているマックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)…まずこの設定にも感心させられる。多くの大スター、大監督たちは、自らの将来の姿を見てゾッとしたのではないか。この家に偶然入り浸ることになる売れない脚本家・ギリス(ウイリアム・ホールデン)をノーマが愛してしまった事から起きる悲劇を、ワイルダーは皮肉と同情と哀しみの目で鋭く観察する。ラスト、発狂し報道カメラの前で、大スターに返り咲いたつもりで階段を下りてくるノーマ。そのノーマに対し、こちらも監督役を演じて、悲しみを抑えて「アクション!」と声をかけるマックス。このマックスを演じたシュトロハイム自身もかつて「愚かなる妻」「グリード」等の超大作を作った名監督でありながら、不遇のうちに「大いなる幻影」や本作のように俳優としてしか生き延びれなかった事を思うと、余計心に沁みるものがある。栄光と悲惨に満ちたハリウッドの裏側を容赦なく暴いたこれは人間悲劇の傑作である。
なお、この映画の詳しい裏話を書いたページを見つけましたので、次に貼り付けておきます。→ http://www.din.or.jp/~grapes/doraku/file42.html
(日本公開'51年)

双葉さんのベスト100
 (54)「サンセット大通り」
   
(左参照)


小林さんのベスト100

 (50)「アスファルト・ジャングル」
  ('50 監督:ジョン・ヒューストン)

 (51)「アニーよ銃をとれ」
  ('50 監督:ジョージ・シドニー)

「黄色いリボン」(49)。ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演コンビの西部劇の代表作。アクション映画なのだがどことなく叙情味とペーソスが漂うあたりはさすがジョン・フォード。ウェインがフケ役で熱演。

「アニーよ銃をとれ」(50)。MGMミュージカルの秀作。ベティ・ハットンが実在の西部ショーのスター、アニー・オークレーを演じる。名作曲家アービング・バーリン提供によるミュージカル・ナンバーが実に楽しい。代表曲「ショウほど素敵な商売はない」は後に同題名のミュージカル映画が作られたほど。当初はジュディ・ガーランド主演で製作が開始されたがノイローゼで降板し、ハットンが代役となった。DVDではこのガーランドで撮影された未公開テイクを観る事が出来る。このDVDは必見。

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 「イヴの総て」   ('50)  米/監督:ジョゼフ・L・マンキウィッツ

これもまた、こちらは演劇界の内幕を描いた秀作(この時代、ハリウッドは内幕もの流行りだったのだろうか)。
史上最年少で演劇界最高の賞であるセイラ・シドンス賞を受賞している新進女優イヴ・ハリントン(アン・バクスター)の姿から映画は始まる。しかし映画はやがて、このイヴが下働きから、さまざまな手段を講じ、汚い手を使ってまでのし上がって来た真相を暴いて行く。面白いのは、イヴに出し抜かれる大物女優マーゴ(ベティ・デイヴィス)が、デイヴィスのメイクと演技にもよるのだろうが、とても傲慢でいけ好かないキャラクターに描かれ、イヴがひたむきで清楚なイメージで登場するものだから、観客は最初イヴを応援したくなるように仕向けられている点で、これは見事な計算である。すました顔で着々手を打って行くイヴの行動が、ある意味で清々しく感じられるのである。それによって、演劇界の裏側なんてこんな事は日常茶飯事ではないかと思わせ、人間という動物のしたたかさ、ズルさを皮肉たっぷりに描く事に成功しているのである。ラストで成功を収めたイヴの部屋に、かつてのイヴを連想させるような小娘が侵入し、イヴの王冠を被って悦に入る姿を描いて、今度はイヴの方がかつてのマーゴの立場になるのではないか…と思わせる辺りも皮肉が利いている。無名時代のマリリン・モンローが駆け出し女優の役でチラリと出演しているあたりも見どころ。 (日本公開'51年)

双葉さんのベスト100
 (55)「イヴの総て」
   
(左参照)

 (56)「戦慄の7日間」
  ('50 監督:ジョン&ロイ・
         ボウルディング)

小林さんのベスト100

 (52)「イヴの総て」
   
(左参照)

「花嫁の父」(50)。ひとり娘(エリザベス・ティラー)の婚約から結婚式に至るまでの家庭内のドタバタをユーモラスに描いたホームドラマの秀作。父親のスペンサー・トレイシーの慌てぶり、オロオロぶりが身につまされる。小津の「麦秋」「彼岸花」等と見比べるのも面白い。監督はヴィンセント・ミネリ。ミュージカル以外でも力作が作れる事を証明した。

「アフリカの女王」(51)。気のいい船長(ハンフリー・ボガート)が勝気な娘(キャサリン・ヘップバーン)にそそのかされ、ドイツの砲艦を撃沈する手伝いをするハメになる。危機また危機のスリルに富んだジョン・ヒューストンの演出が快調。ボガートがアカデミー主演賞を受賞。

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 「巴里のアメリカ人」 ('51)  米/監督:ヴィンセント・ミネリ

正直な話、MGMミュージカルは初公開当時まったく見ておらず、キネ旬ベストテンにも入っていないのでほとんど知らなかったし、題名を聞いても見る気が起きなかった。
ところが'75年、「ザッツ・エンタティンメント」というMGMミュージカルのアンソロジー映画が公開され、これが評判になっていたので、ほとんど予備知識なしで鑑賞した。
観てびっくりした。豪華できらびやかなセット、フレッド・アステアやジーン・ケリーのエレガントで華麗なダンス、サーカスまがいのエスター・ウィリアムスの水中バレー、等々…。その数々のミュージカル・シーンの素晴らしさにしばしウットリ、ボーゼンとなってしまった。以後、再公開がある都度片っ端からこれらMGMミュージカルを追いかけ、いくつかの作品は今でもビデオで時々鑑賞するほどのMGMミュージカル・ファンになってしまったのである。
この作品は、それらの中でもベスト3に入れたい傑作。パリに居ついた画家を目指すアメリカ人、ジェリー(ジーン・ケリー)が、クラブで一目惚れしたパリ娘リズ(レスリー・キャロン)に心を寄せつつも、パトロンとなった金持婦人との間で心が揺れ動き、リズも世話になった歌手アンリ(ジョルジュ・ゲタリ)への恩義からアンリと婚約し…この二人がさて、結ばれるか…と、話はよくあるパターン。しかし、凄いのは、ジョージ・ガーシュインの音楽を全編にフィーチャーし、ケリー自身が振付けたミュージカル・シーンの素晴らしさで、いわゆるモダン・バレエとボードビル風タップダンスが見事に融合したダンス・シーンは、当時としては画期的なものだっただろう。レスリー・キャロンもバレリーナ出身だけに、ケリーとのダンス・シーンはとりわけ優雅で美しい。ラスト間際に登場する、17分半にも及ぶバレエ・シーンは圧巻。ユトリロやルノワール、ロートレック、ゴッホ等の絵を背景にした幻想的なこのシーンは、「ザッツ・エンタティンメント」のエンディングで、フランク・シナトラが「MGMミュージカルの中で只1本を選ぶとするならこの作品、『巴里のアメリカ人』です」と賛辞を送り、このバレエ・シーンの一部が紹介されていたほどである。また、アカデミー賞でも、MGMミュージカルとしては初の作品賞をはじめ、オリジナル脚本賞(アラン・ジェイ・ラーナー)など8部門を受賞している。ミュージカル好きな人には、絶対見逃せない傑作である。 (日本公開'52年)

双葉さんのベスト100  
 (57)「巴里のアメリカ人」
   
(左参照)

 (58)「河」
  ('51 監督:ジャン・ルノワール)

小林さんのベスト100
 (53)「絶壁の彼方に」 ('50
   監督:シドニー・ギリアット)

 (54)「ミラノの奇蹟」
  ('50 監督:ヴィットリオ・
           デ・シーカ)
 (55)「地獄の英雄」 ('51 
  監督:ビリー・ワイルダー)

「陽のあたる場所」(51)。貧しい家に育った青年(モンゴメリー・クリフト)が金持ちの令嬢(エリザベス・テイラー)と結婚する野心を抱き、付き合っていた娘を死なせてしまう。ジョージ・スティーヴンス監督の格調高い演出が冴える。このパターンは日本でも「青春の蹉跌」「砂の器」など、多くのバリエーションを生んだ。

「見知らぬ乗客」(51)。交換殺人をテーマにしたヒッチコックのサスペンス・スリラーの傑作。これもベストに入れたかった。落ちた眼鏡に写る殺人シーンや、ライターを使ったサスペンスなど、見どころもたくさん。おススメ。原作は「太陽がいっぱい」のパトリシア・ハイスミス。脚色に探偵小説作家のレイモンド・チャンドラーが参加している。

「不思議の国のアリス」(51)。ルイス・キャロルの童話を元にしたディズニー・アニメ。どちらかと言うとシュールで難解なイマジネーションが連続するので子供にはちょっと難しいかも。私は大人になって観たから(笑)なんとか楽しめた。一つの実験作としては評価できる。

*SF映画では、何故かハワード・ホークス製作の「遊星よりの物体X」(51)も面白かった。

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 「禁じられた遊び」 ('52)  仏/監督:ルネ・クレマン

戦争で親をなくした少女のたどった悲しい運命を描いた、反戦映画の大傑作。最初に観た時には、悲しすぎてオイオイ泣いてしまった。何度観ても泣ける。ナルシソ・イエペスのギターによる主題曲も素晴らしい。元はスペインの古い民謡。「愛のロマンス」という正しい題名があるにも係らず、この映画のおかげで今ではこの曲、「禁じられた遊び」で通ってしまっている。ギターを独学で練習した時もこの曲は真っ先に覚え、腕がなまった今でもこの曲だけはちゃんと弾く事が出来る(これは余談)。
それにしても着想がいい。正面から反戦を謳うのでなく、これは一種の変化球である。少女ポーレット(ブリジット・フォッセイ)は空襲で両親を失い、やがて農家の少年ミシェル(ジョルジュ・ブージュリー)と知り合う。空襲で死んだ愛犬を土に埋め、十字架を立てた事から、2人の子供たちはやがて十字架遊びを始めるようになる。生き物の“死”を、“遊び”の対象としてしまう子供の無邪気さは、大人たちが始めた、多くの人間や動物の命を奪う戦争の狂気に対する痛烈な皮肉になっているのである(戦争とは、子供の目から見ればこれも“大人による死の遊び”に他ならない)。
ポーレットはやがて憲兵に見つかり、孤児院に送られる事になる。駅の雑踏の中に「ミシェル」という呼び声を聞いたポーレットは、ミシェルの名を呼びながら人ごみの中に走り去って行く。…このラストシーンはとても悲痛である。いたいけな少女にこんな過酷な運命を背負わせる“戦争という名の悪”に対する激しい怒りを感じずにはいられない。今の時代もなお、中東の戦禍の中で数多くのポーレットが泣いているに違いない。人類みんなが、この映画から多くの事を学ぶべきではないだろうか。 (日本公開'53年)

双葉さんのベスト100
 (59)「禁じられた遊び」
   
(左参照)

 
小林さんのベスト100
 (56)「静かなる男」
 ('52 監督:ジョン・フォード)
 


「恋愛準決勝戦」(51)。フレッド・アステア主演のMGMミュージカルの佳作。ストーリーなんかはどうでも良くて、ひたすらアステアのダンスを見るだけで楽しい。アステアが壁から天井へと逆立ちして踊るナンバー"You're All the World to Me"は必見。他にも、帽子掛けを相手にダンスするシーンには驚嘆。全く特殊効果も使っていない。まさに“芸術”である。ダンス以外のシーンがも一つ面白くないのが難点。監督は後に傑作「雨に唄えば」を共同監督するスタンリー・ドーネン。


「ショウ・ボート」(51)。これもMGMミュージカルの代表作。ジェローム・カーンとオスカー・ハマースタインU世コンビによるブロードウェイのヒット・ミュージカルの3度目の映画化。監督はこの手のミュージカルが得意のジョージ・シドニー。いかにもMGMミュージカルらしい群舞もいいが、黒人歌手が歌う「オールマン・リバー」は最高に素敵。

29

 「ライムライト」 ('52)  米/監督:チャールズ・チャップリン

チャップリン晩年の作品。落ち目になった道化役者カルヴェロ(チャップリン)が、足を痛め、絶望から自殺を図ったバレリーナの少女テリー(クレア・ブルーム)を助け、この少女の夢をかなえる為、愛用のバイオリンを質入し、懸命に働いて、やがて舞台で成功した少女を見つめながら死んで行くまでを描く。
話としては、生きる希望を失っている娘を勇気付ける為に献身的な愛情を注ぐという、「街の灯」等と同じパターンの作品。しかしここでのチャップリンは、老境に差しかかり、人気に翳りが見え始めている自身そのものをこの主人公に投影しているようである。ラストシーンでチャップリンが死ぬのは(死刑になる「殺人狂時代」は別として)初めてではないだろうか。多分チャップリンは、死ぬのならこの映画のように、舞台の上で人々を楽しませながら死にたい…と思っていた事は想像に難くない。その意味ではこの映画はチャップリン自身の「遺書」と言えるのかも知れない。
最後の舞台では、サイレント時代のライバル、バスター・キートンとも共演し、相変わらずの楽しいギャグに笑い転げながらも、少女の晴れ姿を舞台の袖からいとおしく見つめながら死んで行くチャップリンの姿はやっぱり泣けてしまう。人生に関する名言(「私は血を見るのは嫌いだ。しかしそれは私の体を流れている」等)もいくつかあり、本当に心に沁みる名作である。
にもかかわらず、当時吹き荒れた赤狩り旋風の影響を受けてこの作品は、こともあろうにアメリカ国民から忌避され、上映中止の憂き目に会ったばかりか、チャップリンは国外追放処分を受け、失意のうちにアメリカを去ることとなった。この作品がアメリカで正式に公開されたのは20年後の1972年。翌年のアカデミー賞で特別賞と遅まきながらの作曲賞を受け、スタンディング・オベーションに頬を濡らしていたこの時のチャップリンの姿は今も目に焼きついている。本当にチャップリンは偉大な天才であった。(日本公開'53年)

「真昼の決闘」(52)。フレッド・ジンネマン監督、ゲーリー・クーパー主演の西部劇の佳作。町の誰も加勢してくれず、たった一人で無法者に立ち向かう保安官をクーパーが好演。時間の流れが上映時間と一致している手法も当時としては新鮮。主題歌「ハイ・ヌーン」も忘れ難い。共演はグレース・ケリー。キネマ旬報ベストテンでは何故か22位と評価は低い。

「静かなる男」(52)。ジョン・フォード監督がアイルランドを舞台に撮った、男の心意気を描いた作品。ジョン・ウェインとヴィクター・マクラグレンが野を越え山を越え果てしなく殴り合うシーンが見どころ。宮崎駿はこの映画が気に入っていて、「天空の城ラピュタ」ではこの二人の殴り合いシーンを巧妙に引用していた。

「探偵物語」(52)。警察を舞台にした人間群像劇の秀作。名匠ウィリアム・ワイラーの演出は緻密でゆるぎがない。カーク・ダグラスが冷徹な鬼刑事を好演。元は舞台劇で、その後も何度も舞台で公演されている。犯人の一人に後のドクター・ノオことジョセフ・ワイズマン。題名はおかしい。「刑事物語」が正しいと思う。

 

 

30

 「雨に唄えば」 ('52) 米/監督:スタンリー・ドーネン/ジーン・ケリー

MGMミュージカルの金字塔。個人的にはMGMミュージカルの中で一番好きな作品である。サイレントからトーキーに差し掛かった映画界を舞台にした一種のバックステージもの。
物語は、サイレント映画の人気コンビ、ドン(ジーン・ケリー)とリナ(ジーン・ヘイゲン)の二人が、到来したトーキー時代の流れに沿ってトーキー映画に出演するも、リナがキーキー声の大変な悪声であった為にプレミア上映は大失敗。ドンは窮地に陥るが、親友コズモ(ドナルド・オコナー)の助言で歌のうまいキャシー(デビー・レイノルズ)を吹き替えに使ったミュージカルに仕立て直し、映画は大成功、ついでに新スターとなったキャシーとの愛も獲得する…というもので、お話そのものは他愛ない。しかし素晴らしいのはジーン・ケリーやドナルド・オコナーが歌い踊るミュージカル・シーンの見事さで、もうこの素晴らしさは言葉では言い尽くせない。とにかく映画を観てもらうしかない。この映画を観た事がない人でも、ケリーが雨の中、傘を相手に歌い踊るあまりにも有名なシーンはどこかでお目にかかっているはずである(下の写真参照)。映画ファンなら絶対に陶酔し、幸せな気分になる事請け合いである。
ケリーの踊りも絶品だが、親友ドナルド・オコナー(つい先日亡くなりました。追悼―)が魅せる歌と踊りも実に素敵。アクロバティックな宙返りも見せるナンバー"Make 'em Laugh"なんか最高に楽しい。そして後半、延々13分にわたって展開されるナンバー、 "Broadway Ballet"(よく考えればストーリーとはあまり関係ないのだが)は、妖艶なシド・チャリシーのダイナミックなダンスもからみ、前掲の「巴里のアメリカ人」のラストのバレエと並ぶMGMミュージカルの白眉と言えるだろう。このシーンは、ビデオでなく劇場の大画面で観れば、なおその素晴らしさを堪能できるだろう。
サイレントのスターが、いざトーキーになったらその悪声がバレて人気が凋落した…という本筋のエピソードは、わが日本映画界にも実際にあった出来事で(バンツマは声が甲高い事が分かり苦境に陥ったが、血を吐くほどのノドの鍛錬で克服したというのは有名な話)、映画界の裏話として見ても興味深い話である。プロデューサーは、全盛期のMGMミュージカルのほとんどを手掛けたアーサー・フリード。本作では作詞も担当している。映画を愛するすべての人に観て欲しい永遠の名作である。 (日本公開'53年)

小林さんのベスト100
 (57)
「雨に唄えば」 (左参照)

 

31

 「恐怖の報酬」 ('52)  仏/監督:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー

南米のベネズエラで起きた油田火災で、炎を消す為に大量のニトログリセリンをトラックで運ぶこととなる。ニトロは、ちょっとした衝撃でも大爆発する可能性がある。その道中の、いつ爆発するかも知れない緊迫感が異様なスリルを生む、秀逸な着想のサスペンス映画の傑作。とにかくコワい。観ている間は手に汗握り、心臓はドキドキ、こんなに緊張して観た映画は始めて。これは(あまり上映する機会はないだろうが)是非劇場で観て欲しい。やむなくビデオで鑑賞する場合は、深夜、誰にも邪魔されず、物音のまったくしない静かな環境で観る事をお奨めする。
怖がらせる演出が秀抜。さすがフランス・サスペンス映画の巨匠クルーゾーである。特に、崖に突き出た、今にも崩れそうな桟橋で方向転換するシークェンスでは、板は腐って穴が開き、タイヤはスリップし、桟橋を吊り下げているワイヤは外れそうになり…と恐怖のつるべ打ち、思わず悲鳴を上げたくなるくらいの怖さである。心臓の弱い人は要注意であろう(笑)。
しかし、この映画が素晴らしいのは、そうした恐怖シーンだけでなく、地の果てで食い詰めた男たちの、何とかしてここから脱出したいと望むその苛立ちをじっくり時間をかけて描いている点で、輸送を引き受ける4人のキャラクターもきちんと描かれている点も含め、これらが作品のリアリティと厚味を一層増すことに貢献しているのである。主人公マリオを演じたイヴ・モンタン、その相棒を演じたシャルル・ヴァネル(本作でカンヌ映画祭男優演技賞を受賞)の好演も捨て難い。シニカルな幕切れもフランス映画らしい。カンヌ映画祭グランプリ受賞。 (日本公開'54年)

双葉さんのベスト100
 (60)「恐怖の報酬」
   
(左参照)
32

 「シェーン」 ('53)   米/監督:ジョージ・スティーヴンス

あまりにも有名なラストシーン、ジョーイ少年が叫ぶ「シェーン、カムバック!」のセリフとヴィクター・ヤングによる主題曲「遥かなる山の呼び声」などが忘れ難い、西部劇の傑作。映画ファンでこれを見逃している人は少ないだろう。
ジャック・シェーファーの原作に基づくストーリーは、流れ者のガンマン、シェーン(アラン・ラッド)が、悪辣な牧畜業者に苛められる開拓農民一家を救い、悪玉が雇った殺し屋(ジャック・パランス)をはじめ悪の一味を倒していずこともなく去って行く…という、後に日活無国籍アクションや東映任侠映画にそれこそ無数に模倣された典型的なパターン。日活「大草原の渡り鳥」では、小林旭と宍戸錠の扮装までアラン・ラッドとジャック・パランスそっくりだったし、大映の市川雷蔵主演「沓掛時次郎」までも最後は「シェーン」まんまだった…といった具合で、アクション映画としてはおそらく日本の映画ファンや映画人に最も愛された映画ではないだろうか。それは多分、筋立てがわが国の股旅時代物とよく似た所があるせいなのかも知れない(そう言えば、中村錦之助主演の秀作「関の弥太ッペ」のラスト「旅人さーん」も「シェーン、カムバック」と似てなくもない?)。
名匠ジョージ・スティーヴンスの演出は、ワイオミングの風景を巧みに生かし、シェーンの、農民一家の若妻(ジーン・アーサー)に寄せる想い、少年の心に、男とはどうあるべきなのかを刻み付けて去って行く男のダンディズム…等々の丁寧な人物描写が冴え、見事な出来である。ジョン・フォードの「荒野の決闘」に並ぶ、詩情に溢れた西部劇の名作であろう。(日本公開'53年)

双葉さんのベスト100
 (61)「シェーン」  (左参照)

小林さんのベスト100
 (58)「嘆きのテレーズ」
 ('52 監督:マルセル・カルネ)


「終着駅」(53)。ヴィットリオ・デ・シーカ監督による哀愁のメロドラマ。ローマの終着駅を舞台にジェニファー・ジョーンズとモンゴメリー・クリフトの切ない大人の愛と別れが描かれる。この映画以降、それまでは“終点”と呼ばれていたターミナル駅が“終着駅”と呼ばれるようになった。主題曲「ローマの秋」もいい。

「地上(ここ)より永遠(とわ)に」(53)。フレッド・ジンネマン監督。大戦開始前のハワイ空軍基地を舞台に、軍隊の過酷な上下関係に反抗する青年(モンゴメリー・クリフト)の悲劇を描く。さまざまな人間群像を描き分けたジンネマン演出が出色。バート・ランカスターとデボラ・カーの波打ち際のラブ・シーンも有名。ラストの真珠湾奇襲シーンは今から見るとえらくチャチ(笑)。ゼロ戦もノースアメリカン社の練習機をそのまま使用している。

33

 「ローマの休日」 ('53)  米/監督:ウィリアム・ワイラー

これも、誰もが知っている名作中の名作。いまだに人気が高く、恋愛映画歴代ベストテンでも必ず上位に入るし、つい先ごろはデジタル・ニューマスター版によるリバイバル上映も行われた。オードリー・ヘップバーンの出世作ともなり、これでヘップバーンはアカデミー主演女優賞を受賞した。
王室の王女が、公務に嫌気がさし、大使館を抜け出して町をほっつき歩くうちに、新聞記者と恋仲になる…というストーリーが新鮮。ウィリアム・ワイラーの演出も、ローマの全面ロケをうまく生かし、笑いと皮肉とペーソスを巧みにとりまぜてソツがない。そしてラストのせつない別れ…。ローマでの、短いけれども充実した時間を過ごせた事は王女にとって一生の思い出となるだろう。そういう意味では、これは単なるラブストーリーであるだけでなく、少女から、人を愛する事の大切さ、王女という使命の重さ等を学んで大人になって行く主人公の人間成長ドラマにもなっているのである。
朴訥な新聞記者を好演したグレゴリー・ペックもいいが、王女の気品と、町に出た時の少女っぽさを共に同居させたヘップバーンの存在感も凄い。こんな役者は探してもなかなか見つかるものではない。ヘップバーンなくしては、絶対にこんなに後世に残る名画にはならなかったのではないか。年齢的にも、この時より若過ぎても歳をとってもダメだったろうし…。まさに俳優と作品との運命的な出会いでもあったのである。
ちなみに脚本はイアン・マクラレン・ハンターとなっているが、これば実は当時赤狩りでハリウッドから締め出されていたドルトン・トランボ(「スパルタカス」「ジョニーは戦場へ行った」で有名)が友人の名を借りて書いたものである事が後に判明している。 (日本公開'54年)

双葉さんのベスト100
 (62)「ローマの休日」
   
(左参照)



「第十七捕虜収容所」(53)。ビリー・ワイルダー監督による捕虜収容所もの。元はブロードウェイのヒット舞台劇。ウィリアム・ホールデンが抜け目なくドライな性格の為仲間からスパイとして疑われる軍曹…という難しい役柄を好演。コミカルさとサスペンスが巧妙に組み合わされているあたり、さすがワイルダー。監督のオットー・プレミンジャーが収容所長に扮しているのも見どころ。

「宇宙戦争」(53)。H・G・ウェルズ原作の傑作SF小説の完全映画化。製作はSF映画の大家ジョージ・パル、監督バイロン・ハスキン。侵略SF映画の中ではベストにあげられる傑作。でっかい目玉に3本指の火星人の造形がユニーク。ただしチラッとしか登場しない。

34

 「バンド・ワゴン」 ('53)  米/監督:ヴィンセント・ミネリ

MGMミュージカルの、ベスト3に入れたい秀作。監督は「巴里のアメリカ人」のヴィンセント・ミネリ。主演はジーン・ケリーと並んでMGMミュージカルのもう一方の雄、フレッド・アステアと、「雨に唄えば」で強烈な印象を残したシド・チャリシー。アステアのミュージカル作品は「イースター・パレード」「恋愛準決勝戦」なども入れたかったが、この作品に代表していただく。
お話は、落ち目になりかけているダンサーのトニー(アステア)が、起死回生策として親友のレスター(「巴里のアメリカ人」でも快演した、オスカー・レヴァント)の勧めにより、演劇界の大物コルドバ(ジャック・ブキャナン)、バレリーナのギャビー(シド・チャリシー)と組んで音楽劇を発表しようとするが、舞台劇ともバレエともつかず中途半端で失敗。結局楽しい正統ミュージカル・ショーに仕立てたおかげでショーは大成功、トニーとギャビーも愛を確認し合ってハッピーエンドとなる。
例によって、お話よりもアステアとチャリシーを中心とした軽快で優雅なミュージカル・シーンが見どころ。アステアのダンス・ステップはいつもながらエレガントで惚れ惚れする。圧巻はチャリシーと二人で、夕闇のセントラル・パークで踊る"Dancing in the Dark"。曲もダンスも最高。ため息が出る美しさに満ちている。そして主題歌となっているのが、例のアンソロジー映画の題名の元となった"That's Entertainment"。その事からも、この作品がMGMミュージカル中の代表作として愛されて来た事がよく分かる。監督のヴィンセント・ミネリはこの後の「恋の手ほどき」(Gigi)でもアカデミー作品賞、監督賞を受賞するなど、ミュージカル映画の監督としては随一であると言える。ライザ・ミネリの父親としても有名。振付担当は、名振付師マイケル・キッド(「掠奪された7人の花嫁」などでも有名)。本当にMGMミュージカルには、素晴らしい俳優(ダンサー)、監督、振付師がきら星の如く揃っていたのである。

(日本公開'54年)

双葉さんのベスト100
 (63)「バンド・ワゴン」 
   
(左参照)

小林さんのベスト100
 (59)「バンド・ワゴン」 
   
(左参照)

「原子怪獣現わる」(53)。原作はレイ・ブラッドベリの「霧笛」。水爆実験で北極の氷河の底から古代の怪獣が蘇えり、ニューヨークを襲う。…と聞けば分かるが、わが「ゴジラ」の元ネタとなった作品。レイ・ハリーハウゼンが特殊効果を担当。「キング・コング」でおなじみ人形アニメ(ダイナメーションと呼ばれる)を使用しているが、動きがスムースで迫力あり。個人的には好きな作品である。「ゴジラ」ファンには一見をお薦めする。監督はユージン・ルーリー。

35

 「ピーター・パン」 ('53) 米/監督:ハミルトン・ラスケ 他

ウォルト・ディズニー製作による、カラー長編アニメーションの傑作。これは確か最初の公開時(小学生の頃)に観ている。字幕が読めなかったのでストーリーはぜんぜん分からなかったが、楽しかった事だけは覚えている。次に観たのは上の子供が5歳くらいの時(約27年ぶりの再見)、テレビで放映されたものをビデオに撮って子供と一緒に観たのだが、ストーリーが分かって観ると実に楽しく、素直に感動できた。だが子供も大変気に入って、3日に空けず「あれ見せて」とせがまれ、そのうち下の子供も夢中になってもう何度も再生を繰り返したあげく(本当に)テープがすり切れてしまったのである(笑)。それほど、このアニメには小さな子供たちを夢中にさせる何かが確実にある。
ジェームズ・バリの原作は有名で、過去に実写映画にもなっているし、ミュージカルとしても世界中で公演され、今も人気は衰えない。この物語が何故それほど子供たちを夢中にさせるのか…それは、ウェンディたち“普通の子供たちが、空を自由に飛び、海賊と戦う―という、夢に満ち溢れた冒険物語”だからである。観客の子供たちは、まるで自分たちも彼らと一緒に冒険に参加しているかのように錯覚してしまうのである。特に本作は、いかにもディズニー・アニメらしい笑いとギャグと、ハラハラ、ドキドキの冒険がスピーディに展開し、おまけに素敵な歌も全編に散りばめられ、大人が観ても実に楽しい。そして、“大人になりたくない”とダダをこねていたウェンディたちも、最後には“いつかは大人になる日が来る”のを悟る―そのほろ苦い結末に大人の観客もついシンミリしてしまうのである。
感動的なのはその後のラストシーン、子供たちにうるさく言っていた父親が、上空に浮かんだ満月に海賊船そっくりの雲がかかるのを見て、「まてよ、あれは見た事があるぞ。私がまだ小さかった頃に…」とつぶやくシーン。…私は不覚にも、何度観てもここで泣いてしまう。これは我々に、夢に溢れていた子供の頃を思い出させるとともに、大人になっても夢を見続け、夢を育てて行く事の大切さを我々に語りかけてくれる、素晴らしいディズニーからの贈り物なのである。 (日本公開'55年)

36

 「砂漠は生きている」 ('53)  米/監督:ジェームズ・アルガー

ウォルト・ディズニーは、アニメだけでなく、自然の生態を捉えたドキュメンタリー(「自然の驚異」シリーズと呼ばれる)の秀作もいくつか製作している。本作はその「自然の驚異」シリーズの長編第1作であり、アカデミー最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞した傑作。これも学校の集団鑑賞で観たはずである(考えれば随分集団鑑賞のお世話になった(笑)。最近はどうなのだろうか。もっとも、生徒に見せたい映画もほとんどありませんがね)。なお、右欄で双葉さんがベストに挙げている「水鳥の生態」もそのシリーズの1編。
この作品は、主に北米の砂漠地帯に生きている動物や植物の生態を、気が遠くなるほどの時間をかけてじっくり観察し撮影したものである。楽しいのは、トカゲやヘビ、サソリや毒グモといった本来は気持ちの悪い動物たちの姿を望遠レンズで、実にユーモラスに捉えている点で、バックの音楽も動物の動きにピッタリシンクロし、そこにトボけた味のナレーションが加わり、まるでアニメを見ているかのようで、みんな大笑いしながら観た記憶がある。
そして感動的なのが、砂漠の珍しい植物の花が、ハイスピードで咲いて行くシーンで(1コマのスピードをうんと落として撮影)、これには私も含め、観ている子供たちが、花が咲く度に一斉に「ワアーッ!」と歓声をあげていたのを今でも昨日のように記憶している。本当にこれらのシーンには感動した。自然界とは如何に神秘的で驚異に満ちているのか…子供たちにそうした素直な喜びと感動を与えた本シリーズの素晴らしさを、映画会社やテレビ局はもっと認識し、子供たちに観る機会を与えてあげて欲しいものだと痛切に感じる。アニメも含めて、ディズニーは偉大な人だったとつくづく思う(最近のディズニー映画は、その初心を忘れているのではないか)。映画史に残る名作とは言いがたいが、私の映画鑑賞歴の上では強い感銘を受けた、忘れられない作品である。(日本公開'55年)

双葉さんのベスト100: 
 (64)「水鳥の生態」  ('53 
  監督:ジェームズ・アルガー)
37

 「麗しのサブリナ」 ('54)  米/監督:ビリー・ワイルダー

「ローマの休日」に次ぐオードリー・ヘップバーン主演第2作。大富豪の家のお抱え運転手の娘が、パリで洗練されて見事な美人になり、富豪の次男デヴィッド(ウィリアム・ホールデン)が彼女に夢中になるが、やがて堅物の長男ライナス(ハンフリー・ボガート)も彼女に惹かれて行く…というロマンチック・ラブ・コメディ。ここでもヘップバーンが、質素で垢抜けしない小娘から、ジバンシーのファッションを見事着こなすパリ・モード美人に華麗に変身してみせる。ヘップバーン・カットとサブリナ・パンツが当時大流行した。ビリー・ワイルダーの粋でシャレた演出もオードリーの魅力を存分に生かしてお見事。何度観てもウットリしてしまう。先だってフランシス・コッポラ監督により「サブリナ」としてリメイクされたが、お話にならない凡作だった。この事から見ても、ビリー・ワイルダーの演出、ヘップバーンの存在感が如何に他の追随を許さない、素晴らしいものであったかがよく分かる。
ライナスの役は最初はケーリー・グラントが予定されていたようだが、グラントが降りて、急遽ボガートが代役という事になったらしい。ボガートが劇中ブスッとしているのはその事情を知っていて面白くなかったからだと言われているが、これを堅物男の融通の利かなさを表現していると思って観ればさほど気にならない。ただ最後に、オードリーとボギーが結ばれるという結末は、二人の年齢差(プラス、ボギーの顔(笑))を考えればちょっと違和感がないでもないが…。 (日本公開'54年)

双葉さんのベスト100: 
 (65)「グレン・ミラー物語」
 ('54 監督:アンソニー・マン)

小林さんのベスト100
 (60)「麗しのサブリナ」 
   
(左参照)

 (61)「三人の狙撃者」
 ('54 監督:ルイス・アレン)



「掠奪された七人の花嫁」(54)。スタンリー・ドーネン監督によるMGMミュージカル初のシネスコ映画。山男たちのダイナミックな群舞(マイケル・キッド振付)は圧巻。それにしても、日本ではまだカラー映画がやっとポツポツ出始めたこの時代(昭和29年)に、カラー・シネスコ画面を最大限に活用したこういう映画が作られていたとはねえ…。

38

 「ダイヤルMを廻せ!」  ('54)  米/監督:アルフレッド・ヒッチコック

ブロードウェイでヒットした推理サスペンス劇をヒッチコックが映画化。原作は「暗くなるまで待って」(後にヘップバーン主演で映画化)でも知られるフレデリック・ノット。浮気をしている妻(グレース・ケリー)を殺そうとする夫(レイ・ミランド)の完全犯罪が、些細なミスからアリバイ工作を敏腕警部に見破られ、崩れ去って行く…という倒叙形式ミステリー。―と聞けば分かる通り、これは後のTVミステリー「刑事コロンボ」の原型とも言える(「刑事コロンボ」も元はヒットした舞台劇)。敏腕警部に扮するのが舞台でも同じ役を演じたジョン・ウィリアムス。原作が非常によく出来ており、殺害を依頼された男が逆に被害者に殺される…という意外な展開がミソで、警部が如何にに夫の偽装工作を見破るか…という展開が、犯人と警察との頭脳比べ対決になっていて見応えがある。最初はカギのトリックがややこしくてこんがらがりそうになるが、見直す度によく出来た脚本に舌を巻く。“頭の体操”には持って来いの秀作サスペンスである。ヒッチコックでなくても監督出来そうにも思えるが、やはり随所にヒッチらしいケレンと緊迫感が漲っている。何よりも私はこうした知的ミステリーが大好きなので(当然「刑事コロンボ」も大好き)、一般的にあまり評価は高くないけれど、これは私のお気に入りの1本なのである。これも「サブリナ」と同様、リメイクがまったくつまらなかった。
なお最初のロードショーでは3D(立体)映画として公開されたそうだが、残念ながらそれは観ていない。まあ、ほんの一部(グレース・ケリーが殺されそうになり、こちらに手を伸ばすシーン)を除いて、あまり3Dが生きる場面は少ないように思いましたがね。 (日本公開'54年)

「海底二万哩」(54)。リチャード・フライシャー監督。ディズニー製作による実写特撮冒険映画。原作はジュール・ベルヌ。ネモ船長(ジェームズ・メイスン)指揮する潜水艦ノーチラス号が大暴れ。大イカとの格闘など見せ場も多い。子供の頃観たが結構楽しかった。カーク・ダグラス、ピーター・ローレが共演。

「放射能X」(54)。原爆実験で巨大化した蟻が人間を襲うSF映画。この時代によく作られたこの手の作品(動物や人間が巨大化する)の中では、サスペンス描写、特殊効果ともよく出来ていて一見の価値あり。

39

 「裏窓」  ('54)  米/監督:アルフレッド・ヒッチコック

ヒッチコック作品が続きます。なんと前項の「ダイヤルM―」と同じ年の製作。原作はコーネル・ウールリッチの短編。事故で足を骨折したカメラマン(ジェームス・スチュアート)が、退屈しのぎにアパートの裏窓から近所を望遠カメラで覗いているうちに、ある部屋で殺人があったのではないかと疑い、看護婦(セルマ・リッター。巧い)や恋人(グレース・ケリー)を使って調査を開始する。…着想がユニークで、コワい話なのに、いかにもヒッチらしいトボけたユーモアが随所にあって楽しめる。特に好きなのが、彼が覗く部屋の住人の何気ない日常を丹念に描写しているシーンで、それぞれに人生があり、悲喜こもごもがあり、映画のラストではそれぞれが微妙に変化していたり、何も変わっていなかったり…と、まるで人生の縮図を一望するような味わい深さに満ちている。クライマックスでは、スチュアートが犯人に狙われ、体が動かせない為に逃げようにも逃げられない、その息詰まるスリルとサスペンス描写はヒッチ映画の独壇場。ラストのスチュアートの姿は“人の家を覗き見した罰ですよ”という因果応報的な意味も込められているようで、実に辛辣かつユーモラスなオチとなっている。ヒッチコック作品中では非常に完成度の高い傑作である。 (日本公開'55年)

双葉さんのベスト100: 
 (66)「波止場」
  ('54 監督:エリア・カザン)

 (67)「ロミオとジュリエット」
  ('54 監督:レナート・
         カステラーニ)

小林さんのベスト100
 (62)「裏窓」   (左参照)
 

40

 「道」 ('54)     伊/監督:フェデリコ・フェリーニ

フェリーニ作品中では一番好きな作品であり、かつ一番分かりやすい作品である。荒々しい大道芸人ザンパノ(アンソニー・クイン)に金で買われた、頭が弱いが清純無垢なジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)が辿る薄幸の運命を、フェリーニ監督がやさしいまなざしで捉えた傑作。野獣のような男ザンバノと、天使のように清らかなジェルソミーナとの対比が面白い。やがて途中から知り合った軽業師キ印(リチャード・ベースハート)とジェルソミーナは心を通わせるが、怒ったザンパノにキ印は殺され、心を閉ざしてしまったジェルソミーナをザンパノは置き去りにする。数年後、ジェルソミーナの死を知ったザンパノは夜の浜辺で号泣する。…人を愛する事を知らなかった男が、女の死によって、初めて自分が無垢な女の愛に応えていなかった事を知って激しい悔悟の念に捕らわれるのである。このラストシーンは泣ける。人は、失って初めて、その失ったものの大きさを思い知るのかも知れない。ニーノ・ロータ作曲の“ジェルソミーナのテーマ”が効果的に使われていて印象深い。 (日本公開'57年)

双葉さんのベスト100
 (68)「現金に手を出すな」
  ('54 監督:ジャック・ベッケル)


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