スウィングガールズ  (アルタミラ・ピクチャーズ:矢口 史靖 監督)

 「ウォーターボーイズ」という、楽しくて元気が出るスマッシュ・ヒットを放った矢口史靖監督の新作。前作同様、本作も、ふとした事からジャズの魅力に憑りつかれた高校生の少女たち(プラス男子1名)が、さまざま困難やトラブルを乗り越え、最後に高校音楽祭に出場し、成功を収める…という、まさに正統娯楽映画のパターン(音楽バンドがテーマという事もあり、全体的に大林宣彦監督の「青春デンデケデケデケ」ともよく似た展開である)。いつもながらの、矢口監督お得意のギャグや笑いもふんだんに盛り込まれ、底抜けに明るく、誰もが楽しめ、最後に感動する力作に仕上がっている。
 物語は、学校で補習をつまらなそうに受けている主人公たちの姿から始まる。若さがあり余っているのに、心から打ち込めるものが見つけられないでいる。そんな少女たちが、ひょんな事から食中毒で倒れた(実は彼女たちに責任がある)ブラスバンド部の代役として楽器を手にする事になる。最初は音を出す事すら出来ず、文句ばかり言っていた少女たちが、いつしか全員で力を合わせて演奏する魅力にハマって行く。そしてブラスバンド部員が元気になり、お払い箱になった時、自分たちだけでバンドを結成し、ジャズを演奏しようと思い立ち、アルバイトで稼いで楽器を調達し(この辺りも「青春デンデケ-」と似ている)、猛特訓を開始する…。このあたりから、映画は快調のペースで走り出すこととなる。
 笑いのシーンも楽しい。やや強引でありえないストーリー展開も、そのハチャメチャなギャグによって気にならなくなっている。見事な計算である(イノシシに遭遇するシーンの“マトリックス”ギャグには腹を抱えて笑った。ここにサッチモの「この素晴らしき世界」をBGMに使うというセンスがまたいい)。
 そして、クライマックス。出演の少年少女たちに猛特訓をほどこした成果で、実際に演奏しているシーンはとても感動的である(ドラムをやっている子が、ややモッサリしたルックスであるだけに余計感動する)。名曲「シング・シング・シング」を演奏するシーンでは鳥肌が立つくらいである。「ウォーターボーイズ」でもクライマックスで泣けたが、こちらも泣ける。楽しくて泣けるというのは本当に素晴らしい。矢口監督、エラい!。老いも若きも、子供でも、誰もが感動できる、本当に元気が出る日本映画の快作である。おススメ。   

 

 


注:以下はネタバレを含みます。未見の方は映画をご覧になった後でお読みください
(付記) …と誉めた所で、注文を少々。脚本に、もう少し練りが欲しい。例えば主人公・友子が音楽祭参加申し込みに必要な演奏ビデオを、なぜ投函するのを忘れたかの必然性が乏しい。いくら、ちょっと短絡的な性格を与えているとは言え、普通はあり得ない。また途中で脱落したメンバーが、主人公ら5人組がスーパーの前で上手に演奏しているのを見て、急いで楽器を買い揃えて参加するくだりも、そんな時間はないだろうと観客が疑問を感じる作りになっているのは問題あり。雪が降ってくるので、相当時間が経過しているという事は分かるし、テンポを乱したくないという意図も分かるが、例えば短いフラッシュカット(後のメンバーたちが楽器を買って練習するカット、秋になって落ち葉が舞うカット…等)を挿入して時間の経過を説明する親切さも必要である。ラストで、音楽祭に間に合うかどうかのシークェンスでも、バスが渋滞に巻き込まれているインサート・ショットを数秒入れるだけでも緊迫感がまるで違うはずである。音楽祭で女先生が緞帳を下ろすシーンも説明不足(プロダクションノートで解説しなければ分からないのでは困る)。伏線として、この先生が学校でもいつも間違えて幕を下ろしてしまう…という反復ギャグを入れておけば、笑えるうえに説明もつくはずである。ずっと脚本は一人で書いているようだが、共作者を参加させて、おかしな所は徹底して練り直すのも必要である。そうすればもっと作品のレベルが上がると思う(点数が満点でないのはそのせいである)。将来の日本映画を背負って立つと期待している矢口監督だからこそ、敢えて苦言を呈する次第である。