スクール・オブ・ロック   (パラマウント:リチャード・リンクレイター 監督)

 これは面白い!楽しい。そしてムチャクチャ感動できます。今のところ、私にとって今年の洋画ベストワンです。お奨めです。
 物語は、ロック大好きで仲間とバンドを組むも、やや勝手に突っ走る性格が災いしてバンドをクビになった主人公デューイ(ジャック・ブラック)が、同居している友人になりすまして小学校の代用教員として採用される所から始まる。当然ながら教師の免許もないし、生徒の教え方なんか知るわけもないので、授業でも無駄話か自習ばかり。まったくやる気がない。幸いなことに(?)、厳格なエリート進学校なので生徒は従順で反抗しない。ところが、生徒の音楽の授業(当然クラシックである。演奏しているのは「アランフェス協奏曲」)を覗き見したデューイは、彼らに音楽の才能があるのを知って俄然ハッスル、手持ちの楽器を与え、勉強そっちのけでロックの授業(と言うか特訓)を開始することとなる。猛練習を積み重ねた子供たちはやがてロック大会に出場することとなるが…。
 最初は生活費稼ぎという不純な動機で、ニセの教師になりすましていいかげんな事ばかりやっていた主人公が、やがて真剣にロックを子供たちに教え、子供たちもデューイの情熱に惹かれ、固い英才教育だけでは決して得られなかった素晴らしい体験をし、何かに打ち込み、みんなで力を合わせて創造して行く事の大切さを学んで行くプロセスはとても感動的である。そんなわけだから、クライマックスのコンサート・シーンは最高に盛り上がる。大の大人たち(それもプロ的なテクニックを持つ)に混じって、10才の少年少女たちが歌い、演奏するシーンは、実際に演奏できる子供たちを集めただけあってなかなか素敵で、聴衆や、子供たちを心配して駆けつけた校長(ジョーン・キューザック)や親たちまでもが夢中になって彼らを応援するようになって行くあたりの演出は、やや出来過ぎと思いながらももつい乗せられ、そして感動することとなる。泣けます。
 主人公を演じるジャック・ブラックがユニークなキャラクターでとてもいい。ジョン・ベルーシを思わせる太った体格、調子が良くて、才能もないのにロック・バカで、周囲に迷惑ばかりかける、しかし憎めない…というキャラクターが実に楽しい。生徒たちもみんな達者な演技と演奏で素晴らしい。この映画の成功は、一にも二にもこれら主人公と子供たちの演技と存在感に負うところが大きいだろう。
 しかし私が感動したのは、これはまさに私が大好きな、“落ちこぼれた人間(たち)が、どん底から這い上がり、ハードな訓練の末に敗者復活をとげる”・・・というパターン(やや変形してはいるが)を巧妙に取り入れているからである(無論落ちこぼれているのはデューイ個人で、子供たちではないが…)。そういう意味ではラストのコンサート・シーンは、大林宣彦監督の「青春デンデケデケデケ」と似たような感動を呼び覚ましてくれることだろう。もう一つ、これも私の好きな“贋者が必死の努力を積み重ね、やがて本物に勝利する”というパターンも踏まえている。例えばジョン・ランディスの「サボテン・ブラザーズ」や、ディーン・パリソット監督「ギャラクシー・クエスト」などである。つまりはこの作品は、そうした楽しい娯楽映画の基本パターンをきちんと押さえているからこそ、誰もが感動できるのである。贋者の教師であるデューイが、子供たちとの交流を経て、やがて自身も人生の敗残者から復活し、人間的にも成長して行くプロセスが丁寧に描かれて好感が持てる。―そのいい例が、彼が、自分の容貌にコンプレックスを抱き、出場を渋る少女を励まし、勇気付けるシーンである。彼はもう立派な“人生の教師”なのである。
 細かい所では、いろいろツッ込みどころもある。教室でロックを演奏しているのに誰も騒音に気付かないのだろうか…とか、子供たちの中に一人くらい親に密告する奴はいるだろう…とか、親たちがそんなに簡単にロックを演奏する子供たちを応援するだろうか…とか。――でも、この映画はそんな些細な瑕疵など吹っ飛ばすくらいのパワーと躍動感と感動に満ち溢れている。映画は小さなディテールを積み重ねて、いかに大きなホラ話を語り、観客をノセて行くか…というエンタティンメントなのである。楽しまなければ損である。ロックが好きな人は無論楽しめるが、そうでない人でも絶対に楽しめる、これは素晴らしい感動作である。必見!    

(付記)この映画の脚本を書いたのは、デューイの同居している友人役を演じているマイク・ホワイトである。いかにも気が弱そうで、デューイにケムに巻かれてばかり…という情けないキャラクターを好演している。ブラックとは実際に近所に住んでいる友人同士だそうで、この映画の脚本も、そのブラックとの付き合いから生まれたという事である。―しかし、このコンビの名前が白(ホワイト)と黒(ブラック)というのは出来過ぎの感あり(笑)。逆さに読めば“ブラック・ジャック”というのもなんだかおかしい。