あずみ   (東宝:北村 龍平 監督)

 「VERSUS」という、ゾンビからカンフー、チャンバラ映画まであらゆるエンタメ要素をゴッタ煮にぶち込んだ快(怪?)作を発表して注目された北村龍平監督の、メジャーに乗り込んでの第1作。プロデューサーはあの「太陽を盗んだ男」を製作した山本又一朗。こういう顔合わせには期待出来る。…と思ったが、期待が大き過ぎたのか、やや物足りない出来。
 ベストセラーとなっている、小山ゆうの劇画は、若者たちの心の動きや悩みが丹念に描かれていて根強いファンがいる。しかし設定としては、“太ももピチピチの美少女が刺客となって男どもを殺しまくる”…という、ほとんど非現実的、荒唐無稽の極みである。こういうのは実は映画化しにくいもので、“思い切って荒唐無稽・ナンセンス”で行くか、“若者たちの悩み・葛藤”というシリアス路線で行くか…ちょっと考える所である。後者を捨てると原作ファンからブーイングが出るのは間違いない所で、しかし北村龍平の持ち味は「VERSUS」を見ても分かる通り、映画へのオマージュに溢れたキッチュな味わいとアクション描写にある。結果として出来上がった映画は、後者の味わいをメインに置きつつ、荒唐無稽な大アクションでクライマックスをまとめる…というやや中途半端なものになった。北村龍平は原作ファンだというが、原作が好きという事と作家としてどう描くかという事とは別もので、この原作は北村監督にはやや不向きだったのではないかと思う(私個人的には、北村監督は「VERSUS」でも引用していた「死霊のはらわた」のサム・ライミに近いタイプではないかと思う)。
 しかし、ラストのクライマックス、200人相手の大チャンバラ・シーンはなかなか面白かった。門を大砲で爆破し、硝煙の中から颯爽とヒーロー登場…と、「荒野の用心棒」を連想させるシーンはカッコいいし、上戸彩の殺陣はなかなか頑張っている。1本の刀であんなに斬れるのか…なんて言うのはヤボ、拳銃の弾が無限に(笑)出る西部劇と一緒でこれはエンタティンメントのお約束である。雷蔵だって「大殺陣・雄呂血」では一人でそのくらい斬っている。とにかくヒーローがカッコ良ければ文句ないのである。そういう意味では、ヒーロー(いやヒロインか)が悩んだりせず、(若山富三郎の「子連れ狼」のように)ムチャクチャに暴れまくる荒唐無稽アクションに徹した方が傑作になったかも知れない(その代わり原作ファンからは大非難が出るだろうが…)。映画としては残念な出来ではあったが、ラストの爽快アクションとオダギリジョー(美女丸)の怪演?!と、北村監督の将来性を買って採点は大甘で…