ココニイルコト  (長澤 雅彦 監督)

 昨年の秀作「はつ恋」の脚本を書いた長澤雅彦の初監督作品である。製作したのも「はつ恋」「ekiden」と秀作を連発しているデスティニー/エンジン・ネットワーク他。これは期待できる。そしてやはり、爽やかな佳作に仕上がっていた。私のおススメ作品です。
 原作は最相葉月のごく短いエッセィ。それを長澤と三澤慶子がシナリオ化。お話は、広告代理店に勤める主人公(真中瞳)が上司との不倫が元で大阪支社に飛ばされ、「なぜ自分がココにいるのか分からない」
状態で無気力に生きていたのが、前野と名乗る同僚の若者(堺雅人)となんとなく気が合い、付き合ううちに心が癒されて行き、やがて最後に「もう少しココにいようかな」と思うようになるまでを描く。大阪弁のセリフが軽妙で、コテコテとも違う、アメリカ都会コメディを思わせるようなシャレた感じなのがなんともいい。前野の口ぐせ「ま、ええのんとちゃいまっか」が効果的に使われている。意外と思われるが、笑えるシーンが結構ある。場内よく笑い声が起きていた。「はつ恋」もそうだったが、長澤脚本は小道具や出会いの場所等の使い方が実にうまい。競艇の車券、プラネタリウム、カエルの置き物、連絡用ホワイトボード、不倫相手から貰った靴…等々で、これらが巧みに配合され、作品の彩りとなり、主人公の心象風景とも重なり、絶妙の効果をあげている(私は個人的には昨年の脚本賞は長澤雅彦にあげたいと思ったくらいで、今回も出色の出来。この人は今後も絶対注目しておきたい)。そして極め付けは前野のアパートの窓の外で、前野がいつも見上げていた風景。これが最後まで謎にされていて、やっと主人公がその正体を知るラストが感動的。これは見ていない人の為に秘密にしておきますが、私ここを見てウルウル来てしまいました。小品だけど、ずっと記憶に残りそうな、素敵な珠玉の佳作です。長澤は岩井俊二の傑作「Love Letter」プロデューサーもやっていたが、そう思えばあれも小道具(図書カード等)の使い方がうまかったし、ラストの雪の平原を主人公が走るシーンは「Love Letter」を思い出させてくれる。ミニシアター系のごく少数の館でしか公開されなかった為見ている人は少ないと思うが、多くの映画ファンに見て欲しい、これは今年の収穫である。