第19回 「菅原文太 野良犬の彷徨」
・場所: シギノ大劇
・上映開始: PM 10:30
・テーマ: 第18回に続いての俳優特集で、今回取り上げるのは菅原文太。新東宝、松竹、東映と渡り歩き、長い下積みを経てようやく「仁義なき戦い」でトップスターに躍り出た苦労人である。また、映画会社がスターを作らなくなった現在から考えると、文太は“最後の映画スター”と呼べるかも知れない。今回はその文太の、東映における初主演作から、時代劇「木枯し紋次郎」まで、大ヒット・シリーズ「仁義なき戦い」、「トラック野郎」を除く代表作6本をピックアップ。菅原文太の魅力を存分に楽しめる上映会となった。
(注)本特集のプログラムはありません。
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(作品紹介)
現代やくざ 与太者の掟
製作:東映(東京撮影所)
封切日:1969.02.01 上映時間:92分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、矢部恒
監督:降旗康男
脚本:村尾昭
撮影:星島一郎
音楽:菊池俊輔
出演者:菅原文太、待田京介、若山富三郎、志村喬、山城新伍、小林稔侍、石橋蓮司、安部徹、名和宏、室田日出男、藤純子
東映における主演第1回作品である。東映としても鶴田浩二、高倉健、藤純子に次ぐ新しいスターを作り出すべく力を入れたようで、番組的には藤純子の「緋牡丹場博徒・花札勝負」の添え物扱いにも拘わらず、若山富三郎、待田京介、志村喬、山城新伍、小林稔侍、悪役に安部徹、名和宏、室田日出男、それに藤純子まで友情出演となかなかの顔ぶれ。物語も、刑務所から出たばかりの文太が、拾われた組の縄張りで勝手に競馬のノミをやったり、手形のパクリを企てたりと、組織からはみ出した一匹狼的な行動を取る。明らかにそれまでの任侠映画の主人公とは異なるキャラクターである。既に、後の「人斬り与太」の萌芽が感じられるのが興味深い。タイトルからして「与太者」である。まあ文太に、鶴田や健さんのような仁義に縛られぐっと耐え忍ぶような役柄は確かに似合わないが(笑)。ただ、ラストはやっぱりドスを携えてのお決まりの殴り込みになるのがちと残念ではある。ともかくも主演第1回作品としては成功作だろう。
現代やくざ 血桜三兄弟
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1971.11.19 上映時間:96分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、日下部五朗、武久芳三
監督:中島貞夫
脚本:野上龍雄
撮影:増田敏雄
音楽:山下毅雄
助監督:深尾道典
出演者:菅原文太、伊吹吾郎、渡瀬恒彦、荒木一郎、松尾和子、河津清三郎、川谷拓三、杉本美樹、小池朝雄
「現代やくざ」とタイトルにあるが、それまでのシリーズとはタッチが明らかに違う。製作も京都撮影所だし、文太はそもそもヤクザから足を洗つてカタギの暮らしをしている。しかもガンを患い余命僅かという異色の設定。監督が中島貞夫だから、やっぱり組織の底辺のチンピラや、荒木一郎扮する、モグラという仇名の冴えないバーテンといった人物に共感を寄せている。物語も、全国制覇を狙う広域暴力団・誠心会が送り込んだ鉄砲玉(小池朝雄)が傍若無人に暴れるも、地元組織の広道会会長(河津清三郎)は、こちらが手を出せば相手の思うツボとなるので、カタギの文太に小池殺しを依頼したり、終盤で形勢が悪くなると組員の伊吹吾郎 と渡瀬恒彦を敵の暴力団に差し出して手打ちを画策したりと、まさに仁義もへったくれもないヤクザの汚さをこれでもかと描く。さらに、鉄砲玉を殺したのがあのモグラという意外性もさすが中島監督。最後は組織の汚さに怒った文太と伊吹、渡瀬の三兄弟+モグラが誠心会幹部と広道会会長のいるキャバレーに殴り込みをかける。ところが車で向かう途中、モグラが立小便中においてけぼりにされ、文太たちが相打ちで死んでモグラ一人生き残る、という結末もユニーク。渡瀬と荒木の漫才風の掛け合いもケッサクだ。中島監督らしい味が出た快作と言えよう。
現代やくざ 人斬り与太
製作:東映(東京撮影所)
封切日:1972.05.06 上映時間:92分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、吉田達、高村賢治
監督:深作欣二
脚本:石松愛弘、深作欣二
撮影:仲沢半次郎
音楽:津島利章
助監督:橋本新一
出演者:菅原文太、安藤昇、渚まゆみ、小池朝雄、三谷昇、小林稔侍、内田朝雄、待田京介、地井武男、室田日出男
「現代やくざ」シリーズの最終作(「人斬り与太 狂犬三兄弟」は姉妹編として除外)。さすが深作欣二監督だけあって、組織に徹底的に歯向かい、ただただ暴力を武器に暴れまくる一匹狼・文太の生きざまとその末路を、ノーレフ、ノーライト、粒子の荒い増感現像等を活用し、ドキュメンタリー・タッチで荒々しく描く。カメラも手持ちで激しく揺れ、時に90度傾いたりもする。文太のナレーションとストップ・モーションで手短にこれまでの経緯を語るタイトルバックも快調。いくら追い詰められようと、徹底して戦う事を止めない文太の狂犬ぶりが凄まじい。手を組んでいた小池朝雄がここらが潮時と言うや「一度負け癖のついた犬はそれっきり噛むことさえ忘れちまうんだ!」と返すセリフも印象的。文太に手を貸していた安藤昇に見捨てられ、愛していた女(渚まゆみ。好演)も殺された文太が最後の抵抗をするも、無残に殺されるラストまで、息もつけない深作バイオレンス演出には圧倒される。次作「狂犬三兄弟」ではさらに凶暴ぶりがエスカレートする。深作監督はこの2作で俊藤浩滋プロデューサーに評価され、次の「仁義なき戦い」の監督に抜擢されて深作欣二と菅原文太のコンビは共に大ブレイクを果たす事となる。
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=vDQJFpDWd48
血染の代紋
製作:東映(東京撮影所)
封切日:1970.01.31 上映時間:87分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、太田浩児
監督:深作欣二
脚本:深作欣二、内藤誠
撮影:仲沢半次郎
美術:北川弘
音楽:木下忠司
出演者:梅宮辰夫、菅原文太、内田朝雄、渡辺文雄、待田京介、室田日出男、曽根晴美、宮園純子、長門勇、鶴田浩二
こちらも深作欣二監督だが、主演は梅宮辰夫。まあダブル主演とも言える。文太は横浜・浜安組の組長となるが、新工場の建設に関わり、その為には自分の生まれたスラム街の立ち退きを進めなければならなくなる。スラム街の描写が「狼と豚と人間」や「解散式」を思わせるのがいかにも深作欣二。そして同じスラム育ちで幼馴染の梅宮が敵対する大門組に雇われ、文太の前に立ちふさがる。二人は共に友情と組への義理との板挟みで苦悩する。文太が珍しく、任侠映画のように我慢に我慢を重ねる役柄を演じているのも興味深い。鶴田浩二が刑期を終えて出所した浜安組の元代貸を演じており、途中で殴り込みを行って早々と死んでしまうのも異色。最後に文太と梅宮が敵の組に殴り込んでボスを倒すも、文太たちも死んでしまうといった具合に、深作らしい所もあるが全体的にはヤクザ映画のパターンである。
ところで、鶴田の役名が“黒木”。黒木と言えば傑作「誇り高き挑戦」、「博徒解散式」で鶴田浩二が演じた役名である。本作と合わせて深作監督の鶴田=黒木3部作?と言えるかも知れない(笑)。
まむしの兄弟 二人合わせて30犯
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1974.03.01 上映時間:93分 カラー/東映スコープ
企画:橋本慶一
監督:工藤栄一
脚本:鴨井達比古
撮影:わし尾元也
美術:井川徳道
音楽:広瀬健次郎
助監督:牧口雄二
出演者:菅原文太、川地民夫、東三千、三島ゆり子、菅貫太郎、渡辺文雄、成田三樹夫、川谷拓三
1971年から始まった「まむしの兄弟」シリーズ第7作。「トラック野郎」に先駆けてのコミカルな役柄である。相棒の川地民夫演じる不死身の勝との息もピッタリ、名コンビである。冒頭、刑務所から出たゴロ政(菅原文太)が映画の撮影中の現場を本当の誘拐事件と勘違いして、遅れてやって来た勝と共に大暴れして警察に捕まるシーンがあり大笑い(監督役を演じているのは工藤栄一監督本人)。こんな具合に硬軟どちらも演じられるのも文太の強みだろう。シリーズを重ねる毎にタイトルが「懲役十三回」、「傷害恐喝十八犯」、そして本作の「二人合せて30犯」とどんどん数字が増えて行く(笑)のも面白い。
今回は勝が実は大金持ちの資産家の息子で、資産相続人であることが判明したと弁護士(菅貫太郎)から連絡が入り、勝はいきなり資産家の女性・弥生(三宅邦子)の跡継ぎとなる。だがこれは弥生の遺産を騙し取ろうと画策する暴力団幹部の陰謀だった事が後に判る。無論勝が跡継ぎというのもデタラメ。かくして真相を知った政と勝が悪辣な暴力団一味を相手に大暴れする事となる。まむしの兄弟の仲間に入り活躍する不良少女・ジュン役の東三千が印象深い好演。弥生を守ったジュンが死ぬシーンも哀れを誘う。最後は悪を倒して政たちも御用となるのだが、ケッサクなのが悪徳弁護士を倒した時の政のセリフ。「ワシは弁護士ちゅう奴が一番許せんのじゃ!」。文太の軽妙な味が出た、楽しい快作である。
木枯し紋次郎 関わりござんせん
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1972.09.14 上映時間:90分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、日下部五朗
監督:中島貞夫
原作:笹沢左保
脚本:野上龍雄
撮影:わし尾元也
音楽:津島利章
助監督:俵坂昭康
出演者:菅原文太、市原悦子、田中邦衛、大木実、汐路章、志賀勝、待田京介、山本麟一、伊達三郎
最後は、文太主演作としては珍しい股旅時代劇。公開日の時系列的には「現代やくざ 人斬り与太」と「人斬り与太 狂犬三兄弟」の間に1作目と2作目(本作)が作られている。中村敦夫主演のテレビ作品の人気にあやかって作られたが、中島貞夫監督の風格ある演出によって中村とは違った紋次郎の魅力が描かれている。原作があった1作目と違って本作は野上龍雄の脚本によるオリジナル。旅の途中で、田中邦衛扮する常平に歓待され、当てがわれた女郎・お光(市原悦子)が実は紋次郎が幼い頃に別れたままのの姉だった事が判る。お光は紋次郎が口減らしの為間引きされそうになった所を助けてくれたという恩もある。紋次郎はお光の借金百両を肩代わりして姉を救おうとするが、悪賢い巳之吉一家の企みに引っかかり、常平は殺され、紋次郎はお光から来て欲しいとの手紙を罠と知りつつ巳之吉一家に殴り込みをかけるというお話。市原悦子が堕ちてしまった人間の哀しみを漂わせて見事な好演。文太は題名とは裏腹に次々と関わりを持って、ドライな中村敦夫とは違った、人情味もある紋次郎を見事に演じている。これは錦之助主演による長谷川伸原作もの股旅映画の数々の秀作を作って来た東映ならではと言えるだろう。翌年から始まる「仁義なき戦い」の大ヒットもあって、文太紋次郎シリーズは本作で打ち止めとなる。
(回想記)
さまざまな監督による、さまざまな菅原文太の顔が見える充実した特集と言えるだろう。深作欣二と並んで、中島貞夫監督作が2本あるが、中島監督と言えば「まむしの兄弟」シリーズの生みの親でもある。深作作品とはまた違った文太の魅力を発掘して、彼の人気を高めた功労者と言えるかも知れない。観客数は可もなし不可もなしという所。「概要」の所でも書いたが、シギノ大劇での定例上映会は、次回の20回にて終了する。惜しいけれど、ユニークな上映会がここまで継続出来た事を喜ぶべきだろう。次回からは、3回連続、番外編が開催される事となる。
DVD/ビデオソフト紹介
※次回プログラム 番外編第7回 「ザ・ヤクザ 高倉健」