第1回 「五社監督列伝」

 
開催日:1974年9月15日(日)

場所:柏原ラッキー劇場

上映開始: PM 10:30

テーマ:日本映画の個性的な監督の、どちらかと言えば陽の当らない隠れた秀作を、邦画5社(松竹・日活・東宝・大映・東映)ごとにそれぞれ1監督1作品を選定。

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(注)プログラムはすべてB4サイズです。印刷したい場合はB4が印刷出来るプリンターなら問題ありませんが、A4プリンターであれば、B4→A4への縮小プリントを行ってください。

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(作品紹介)

 嵐を呼ぶ十八人

 製作:松竹(京都撮影所) 
 封切日:1963.09.11 上映時間:108分  白黒/シネマスコープ 
 監督:吉田喜重 
 脚本:吉田喜重 
 原案:皆川敏夫 
 出演者:早川保、香山美子、松井英二、岩本武司、殿山泰司 

松竹ヌーベルバーグ三羽烏の一人、吉田喜重監督作品(残りの2人は大島渚、篠田正浩)。
大阪から呉の造船所に集団就職してきたチンピラっぽい若者18人と、彼らを管理する若き舎監との軋轢やふれあいを描く群像劇。彼らが正社員ではなく、社外工と呼ばれているのが、今から見ると最近問題になっている派遣労働者・非正規雇用社員を連想させるのが面白い。タイトルに反して、主人公は彼らを見守る舎監役の早川保であり、18人は嵐を巻き起こす訳でもない。後に「エロス+虐殺」等の難解な作品を連発する吉田作品の中では分かり易く、かつ高度成長に向かう直前の日本の社会状況をリアルに捉えている点でも、注目しておきたい作品である。
 

 硝子のジョニー 野獣のように見えて

 製作:日活 
 封切日:1962.09.30  上映時間:106分 白黒/シネマスコープ 
 監督:蔵原惟繕 
 脚本:山田信夫 
 美術:木村威夫
 助監督:藤田繁夫(藤田敏八) 
 出演者:宍戸錠、芦川いづみ、アイ・ジョージ、平田大三郎、南田洋子

お話は明らかにF・フェリーニ監督の「道」を下敷きにしている。芦川いずみはジェルソミーナである。が、男の方は「道」とは異なり、人買いのアイ・ジョージと競輪の予想屋の宍戸錠の2人が共に彼女の純粋無垢さに魅了されて行く、一種の三角関係のドラマが展開する。日活作品らしからぬリリシズムと切なさに溢れた、蔵原監督の代表作の1本。
 

 独立愚連隊西へ

 製作:東宝 
 封切日:1960.10.30  上映時間:107分 白黒/東宝スコープ 
 製作:田中友幸 
 監督:岡本喜八 
 脚本:関沢新一、岡本喜八 
 出演者:加山雄三、佐藤允、江原達怡、中谷一郎、平田昭彦、久保明、フランキー堺 

「独立愚連隊」のヒットを受けて、岡本喜八監督が再び手がけた戦争アクション映画。前作とストーリー的な関連はなく、軍のはみだし者たちが大活躍するという点のみを共通項としている。ただし前作があまりにも敵(八路軍)を殺し過ぎるとの批判が出た為、本作では戦闘シーンはぐっと控え目。笑いも多くなって、コメディ色がより強まり、その分、戦争のバカバカしさがより強調される事となった。この姿勢は後の「肉弾」にもつながって行く事になる。そういう意味でも本作は、岡本喜八作品を語る上でも重要な作品と位置付けられよう。必見である。


 大悪党

 製作:大映(東京撮影所) 
 封切日:1968.02.24  上映時間:93分 白黒/大映スコープ 
 監督:増村保造 
 脚本:石松愛弘、増村保造 
 原作:円山雅也 「悪徳弁護士」 
 出演者:田宮二郎、緑魔子、佐藤慶、倉石功、北村和夫、早川雄三 

題名通り、悪党ばかり登場する。ウブな女の子(緑魔子)を骨までしゃぶり尽くすヤクザ(佐藤慶)、その彼女に、助かるにはヤクザを殺すしかないとそそのかし、偽装工作までテキパキやってのける悪徳弁護士(田宮二郎)。快調な増村演出に乗って、佐藤慶も田宮二郎も楽しそうに悪を演じている。最後のどんでん返しも小気味良い。原作者が弁護士だけあって、法律のウラまでよく分かり勉強になる(笑)。いかにも増村らしい、欲望と嘘と打算に満ちた現代社会の深淵を鋭く抉った骨太の問題作である。
 

 白昼の無頼漢

 製作:ニュー東映(東京撮影所)  配給:東映
 封切日:1961.11.01  上映時間:82分 白黒/東映スコープ 
 監督:深作欣二 
 脚本:佐治乾 
 出演者:丹波哲郎、中原ひとみ、曽根晴美、久保菜穂子、アイザック・サクソン

しんがりは、深作欣二の本格的長編第1作(それまでは千葉真一主演の中篇作品4本を監督)。丹波哲郎をリーダーとする悪党グループが現金輸送車強奪計画を実行する…というよくあるB級犯罪映画パターンだが、メンバーが黒人兵、韓国人ヤクザ、アメリカ人ギャングとその妻など、国際色豊かであるのが面白い。やがて、ちょっとした事から歯車が狂って最後は全員が自滅、という展開も、よくあるパターンだが悪くはない。予算も製作日数も、本家東映の6〜7割と言われたニュー東映作品だが、本作はさらに悪条件。というのもこれは、予定していた作品が流れた為、急遽穴埋めで回ってきた仕事で、撮影期間は2週間しかなかったと言う。それでB班を立てて完成させたのだが、この経緯、加藤泰監督の傑作「明治侠客伝・三代目襲名」の製作余話とまったく同じなのも興味深い。ポスターでは真ん中に一番でっかく写っている黒人兵(アイザック・サクソン)は、実は俳優ではなく在留アメリカ兵(しかも上司にナイショ(笑))だというから驚く。過酷な条件であるにも係らず、初めて長編アクション映画を撮らせてもらえたという深作の気迫と熱気が伝わって来る、初期の代表作と言えよう。

(追記)ずっとソフトが出ていなかったが、2018年にようやくDVDが発売された。


(回想記)
記念すべき第1回上映会。最初は何もかも手探り状態。パブリシティは各マスコミ、情報ガイド誌に情報を伝え、ポスターもメンバーが手分けして大阪市内の目ぼしい場所に貼りまくった(違法スレスレも?)。が、場所が遠い事とPRも行き届かなかったせいか、当日の観客動員は90人ほど。黒字にはならなかった。しかし熱心な邦画ファンには満足してもらえた番組ではなかろうか。特に、「独立愚連隊西へ」「白昼の無頼漢」はなかなか名画座にもかからないレアな作品だけに、遠くから駆けつけたファンも多かったようだ。ちなみに、意図した訳ではないが、5本とも白黒・シネマスコープ作品という共通点がある。
当日配布の
プログラムは、今ではほとんど見られないガリ版刷り。ヤスリ板の上に油紙原紙を乗せ、鉄筆でガリガリと書き、謄写版(輪転機を使う場合もある)で印刷するのだが、慣れないと書きにくい(若い人は知らないだろう。なお、2011年公開アニメ・宮崎吾朗監督「コクリコ坂から」にガリ版が登場しているので、興味あれば注意して観て欲しい)。手が疲れるし、写真も載せられないので、この方法は1回限りでお役御免となった。

 
 DVD/ビデオソフト紹介


   

※次回プログラム 「殺し屋列伝」