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アイアン・ジャイアント
この映画の素晴らしさは、映画批評欄にも書いているが、ここではこの作品に登場したいろんな映画、アニメへのオマージュについて紹介したい。
まず、全体としては明らかにスピルバーグ作品「E.T.」からいただいている部分が多い。主人公の少年が、森の中で宇宙から来た物体(E.T.−ロボット)と遭遇し、最初はこわごわ近づき、やがて仲良くなるというストーリーだけでなく、少年の家族が父親のいない母子家庭という設定、相手が少年に教えられてカタコトながら言葉を覚えたり、本やテレビから地球の事を学んだりするプロセス、さらには政府のエージェントが謎の物体についてしつこく調査し、追い詰めて行く展開も同じ。クライマックスでは少年と共に空を飛ぶし、最後の別れではホロリとさせられるところまで同じ。中盤で少年の家の中に迷い込んだジャイアントの手が冷蔵庫を開けたりテレビを見たり、それを母親の目から隠そうとアタフタするあたりのドタバタぶりまでそっくりと来ては、どう考えても「E.T.」を手本にしているのはまず間違いないだろう。
それから、アメリカ製アニメで特に引用される事の多い御大、宮崎駿作品からの影響も見逃せない。まずはジャイアントのデザインが宮崎作品「天空の城・ラピュタ」に登場する兵士ロボットとよく似ているし、胸から強力なレーザー光線を発射し、戦車を一瞬に破壊するなど、本来は破壊兵器であるという設定も共通している。ラスト、公園に建てられたジャイアントの銅像は、パズーたちが最初に「ラピュタ」に着いた時に見つけた、動力がなくなり苔むしたまま静止し直立しているロボットを連想させる。怒ると眼が赤くなるのは「風の谷のナウシカ」の王蟲(オーム)からヒントを得たか(そう言えばロボットのデザインや、究極の破壊兵器という設定などは「ナウシカ」の巨神兵ともよく似ている。ジャイアントの発射した光線がそれて軍艦の近くで大爆発するあたりの派手さはむしろ巨神兵の威力に近いようだ)。森の中の異生物と子供との交流という点では「となりのトトロ」とも似ているし…。
もう一人、日本の作家からの影響としては手塚治虫も挙げられる。ロボットがいろいろな事を学んで行くプロセスで、自分の存在そのものについて悩むあたりは「鉄腕アトム」であろう。ラストで人間を救うためにミサイルに向って突入するくだりは、地球を守る為、核爆弾にまたがり太陽に突入する「鉄腕アトム」の涙のラストにヒントを得ているのかも知れない。核爆弾への体当たりにより愛する人たちを救うというコンセプトは、手塚作品「キャプテン・ケン」にも見ることが出来る。この作品がジェームス・キャメロンの「ターミネーター」のヒントになっているらしい事は本コラムのA「タイタニック」に書いたが、バラバラになったアイアン・ジャイアントのパーツがスルスルと集まって自動的に復元するシーンが「ターミネーター2」のT−1000型ロボットの復元プロセスとそっくりであるというのも面白い。
最後に、とっておきのネタを披露しよう。多分見ている人は少ないと思うが、名匠ノーマン・ジュイソン監督の「夜の大捜査線」に先立つ「アメリカ上陸作戦」(66)という作品がある。お話を紹介すると、…アメリカのある島の沖合いにソ連の潜水艦が座礁し、数人のロシア兵がこっそり島に上陸するが、住民に見つかり、自警団が捜索するうち軍隊まで出動する騒ぎになる。一触即発の緊張が高まる中、騒ぎを見ていた子供が建物から足を踏み外して墜落寸前になるが、ロシア兵たちが住民と協力して子供を無事助け、やがて誤解が解けてロシア兵たちは帰って行く・・・。
どうだろうか。ロシア兵をジャイアントに置き換えれば全体の構成やストーリーがそっくりである(ソ連兵もジャイアントも、海からやって来る!)。特に、「見物していた建物から落ちそうになる子供をジャイアントが助けたことから、住民たちがジャイアントを見直し始める」という展開はほとんど同じではないか。さらにはどちらも「ソ連は脅威である」という時代背景が重要なポイントになっている(政府のエージェントは最初ジャイアントを、ソ連の秘密兵器ではないかと疑う)と来ては、いやでも両者の共通性を認めざるを得ない。ビデオが出ているか、あるいはまだ残っているかは定かではないが、見る機会があった時は是非チェックしていただきたい。 |