PART 1 (No.1〜20)

PART 2 (No.21〜40)へ

 子供の時からいろんな映画を見てきて、気がつけばもう 50年(!)近くにもなる(う〜ん、そんなになるか・・・  (^ ^; )。
 無論、今でも新しい映画を見続けてはいるのだが、そろそろこの辺で、私が見た夥しい映画の中から、ベスト映画を選出して見てもいい頃だろう。

 映画が誕生してから100年を超え、1昨年には20世紀も終わった・・・。そういう節目のせいか、ここ数年、いろんな著名人の方が『私の選んだ100本の映画』なるものを発表している。小林信彦さん(「2001年映画の旅」文藝春秋社・刊)、双葉十三郎さん(「文藝春秋」および「キネマ旬報」掲載)、など。たしか井上ひさしさんもどこかに発表していたような・・・。
 そんな素晴らしい大先輩の方々には、見た本数も映画に対する洞察も、とても足元にも及ばないかも知れないが、1映画ファンとしてならまあまあいろんな映画を見てきたほうだと思っているので、厚かましくも日本映画、外国映画、それぞれ100本づつ選んでみることにした。
 とは言ったものの、どんな作品を入れるかについてはかなり悩んだ。とても100本では収まらないし、かと言って気に入ったものを全部挙げてたらとてもスペースが足らない。ジャンルにしても、いわゆる映画史上の傑作と言われるものだけでも軽く100本は超えてしまう。それでは面白くもなんともない。
 しかし、前掲の小林信彦さんの「2001年映画の旅」に掲載されている100本を見たら少し気が楽になった・・・。小林さんは小津安二郎、黒澤明などの名作も入れる一方、日活アクション(「紅の拳銃」「ろくでなし稼業」)、植木等コメディ(「ニッポン無責任時代」「大冒険」!)、それに杉本美樹主演の「0課の女・赤い手錠」!なんかの、一般的な映画史の上ではほとんど無視されているかのようなB級娯楽作も積極的に入れている。・・・それでいいのかも知れない。極論すれば誰も覚えていないような作品であろうが、誰がケナそうが、自分がいいと思ったら入れていいのである。

 そういうスタンスで、以下私の、生涯忘れられない作品を選んで見ました。一応の基準としては、極力ビデオでなく劇場で見た作品であること(ビデオだけでは、本当にその作品の良さが理解できたとは言えないと思うからです。一部例外はありますが…)、そして時間が経っても風化せず、今見ても面白い作品であること…とし、それらを作られた年代順に並べてみました。
 なお、おマケとして右側に、ベスト100から漏れたが、私の好きな作品名、それと小林信彦さん、双葉十三郎さんのベスト100を掲載しましたので、何かの参考にしてくだされば幸いです。
 それでは、ごゆっくりお楽しみください。

  

No ベ ス ト 作 品 ご 参 考

 「雄呂血」 ('25) 阪妻プロ/監督:二川 文太郎

最初は何にしようかと思ったが、やっぱり阪妻のこれでしょうね。これは無論リアルタイムには見てなくて、弁士と楽団のナマ伴奏付の無声映画鑑賞会で見た。とにかくラストの大殺陣が圧巻。阪妻が斬って斬って、暴れて動きまくる。それを延々カメラが追う。今の時代、これだけ動ける役者がいるだろうか。それだけでも阪妻のすごさが分かる。暗い時代、庶民の苛立ちを代弁するかのように怒りを爆発させ…それでも最後は力尽き、捕らえられ、引き立てられる、そのラストにかぶる弁士の名調子が実にいいです。これは是非スクリーンで、弁士と演奏付きで見るべきでしょうね。とにかく、観客の拍手喝采に楽団も弁士もさらにノッて来るという、ライブ感覚(?)がたまりません。ビデオにそんなマネが出来るか?

 

双葉さんのベスト100
 (1)「街の手品師」
   
('25 監督:村田 実)
 (2)「雄呂血」 (左参照)
 (3)「紙人形春の囁き」
   
('26 監督:溝口 健二)
 (4)「狂った一頁」
   ('26 監督:衣笠 貞之助)
 (5)「足にさはった女」
   ('26 監督:阿部 豊)
 (6)「忠次旅日記(3部作)」
   ('27 監督:伊藤 大輔)
 (7)「十字路」
   ('28 監督:衣笠 貞之助)
 (8)「新版大岡政談」
   ('28 監督:伊藤 大輔)
 (9)「浪人街」
   ('28 監督:マキノ正博)
 (10)「生ける人形」
   ('29 監督:内田 吐夢)
 (11)「傘張剣法」
   ('29 監督:辻 吉朗)

この時代の作品はあまり見ていない。上のうち、見ているのは「雄呂血」「狂った一頁」くらいである。ビデオでもほとんど見られない。残念である。

 「生れてはみたけれど」 ('32) 松竹/監督:小津 安二郎

この頃には、もうトーキーが始まっていた(トーキー第1作「マダムと女房」は'31年)のだが、小津安二郎は頑なにサイレント映画を作り続ける(小津の最初のトーキーは'36年の「一人息子」)。この作品はある意味でサイレント映画の頂点だと思う。ごく平凡な小市民サラリーマンの家庭を描いているだけだが、同じ宮仕えの身として、上役のご機嫌取りをする父親、それに反撥する子供…どちらの心情も理解できるだけに身につまされて泣けた。この構造は今の時代もまったく変わっていない。小津の人間を観察する目は辛辣であり、かつ暖かい。現在見られるビデオは弁士のナレーションと音楽が入っているが、私が映画サークル上映会で見たものは一切音がなく、まったくシーンと静まりかえったものであった。まあこれは、淡々と日常生活を描いているだけに、鳴り物は確かに不要である。NHK-BSで再見した時は、ラストに延々と余計な解説をしてて耳障りで不愉快だった。観客にそれぞれの立場で考えさせるのが小津の狙いであり、このナレーションは映画をぶち壊している。これをビデオで見る時はボリュームを絞って無音で鑑賞することをお勧めする。

双葉さんのベスト100
 (12)「何が彼女をさうさせたか」
   ('30 監督:鈴木 重吉)
 (13)「瞼の母」
   
('31 監督:稲垣 浩)
 (14)「お誂次郎吉格子」
   ('31 監督:伊藤 大輔)
 (15)「國士無双」
   ('32 監督:伊丹 万作)
 (16)「抱寝の長脇差」
   ('32 監督:山中 貞雄)
 (17)「弥太郎笠」
   ('32 監督:稲垣 浩)
 (18)「熊の八ツ切り事件」
   ('32 監督:斎藤寅次郎)
 (19)「生れてはみたけれど」
   (左参照)

 (20)「伊豆の踊子」
   ('33 監督:五所平之助)
 (21)「出来ごころ」
   ('33 監督:小津安二郎)
 (22)「浮草物語」
   ('34 監督:小津安二郎)


*上で見ているのは「生れては−」以外では「瞼の母」(千恵蔵主演)「お誂次郎吉格子」。どちらも楽しめる作品。

 丹下左膳餘話・百萬両の壷」 ('35) 日活/監督:山中 貞雄

山中貞雄の傑作。これも映画サークル上映会で見た。この映画の素晴らしい所は、丹下左膳というチャンバラ・ヒーローが主人公で、それをコメディに仕立てて(つまり普通ならB級娯楽映画扱いである)、それで完成度の高いA級作品になっている点である。これは凄いことである。こういう凄い監督の作品が、現在たった3本しか現存していないとは…信じられない。
笑いのセンスも実に垢抜けてしゃれている。例えば左膳と彼の内妻である櫛巻お藤(喜代三)との掛け合いセリフが傑作で、口で「・・・しねえぞ」と言っときながら、次のシーンでそれを実行している…、これが何度も繰り返される、その間のおかしさ…。ニヒルなヒーローであるはずの左膳が、内妻と喧嘩しながら子供を育てる…というアンバランスぶりが実に軽妙洒脱に描かれ、何度見ても飽きない。山中貞雄のコメディ・センスは、ほとんどルビッチかチャップリンの域にまで達している。まさに天才の芸である。必見。

双葉さんのベスト100
 (23)「雪之丞変化」
   ('35 監督:衣笠貞之助)
 (24)「妻よ薔薇のやうに」
   
('35 監督:成瀬巳喜男)

小林さんのベスト100

  (1)「マダムと女房」
   ('31 監督:五所平之助)

  (2)「隣の八重ちゃん」
   ('34 監督:島津保次郎)
  (3)「妻よ薔薇のやうに」

  (4)「噂の娘」
   ('35 監督:成瀬巳喜男)
  (5)「丹下左膳餘話・
   百萬両の壷」
 
(左参照)
  (6)「河内山宗俊」
   ('36 監督:山中 貞雄)


*山中貞雄の「河内山宗俊」も面白い。原節子が可憐。ベストに入れたかったがこぼれてしまった。残念!。

 赤西蠣太」  ('36) 日活/監督:伊丹 万作

これも映画サークル上映会で見ている。記録を調べたら、昭和48年大阪毎日ホールで、なんと前述の「生れてはみたけれど」「百萬両の壷」と、これの豪華!3本立で見ている。ビデオ時代とは言え、こうした自主上映会がほとんど無くなったのは残念無念。
故・伊丹十三監督のお父さんで、「無法松の一生」等の脚本家としても有名な伊丹万作の、現在見られる多分唯一の作品。どことなくトボけた味わいでありながら、さりげなく風刺もきかせた快作。片岡千恵蔵の間抜け面メイキャップがいい。そしてラスト、二役を演じた原田甲斐役では一転目バリの入ったキリリとした二枚目ぶりを見せて驚かせてくれる。千恵蔵の演技のうまさ、伊丹の緩急自在の演出、それぞれをたっぷり堪能していただきたい。

双葉さんのベスト100
 (25)「人生劇場」
   ('36 監督:内田 吐夢)
 (26)「家族会議」
   
('36 監督:島津保次郎)
 

(付記)左で、伊丹万作の、現在見られる多分唯一の作品と書いたが、その後調べたら「巨人伝」(38)もVHSビデオが出ており、私は図書館で借りて見る事が出来た。またドイツとの合作「新しき土」(37)の日本版も監督しており、これもビデオが出ている。参考までに。



 有りがたうさん」 ('36) 松竹/監督:清水 宏

清水宏はあまり知られていないが、小津安二郎や伊丹万作と並ぶ名監督だと言われている。近年ようやく再評価の声があがって来た。もっと高く評価されてもいいと思う(なにしろ、小林信彦さんのベスト100に3本も入っているのだ)。私もあんまり見ている方ではないが、「按摩と女」(38)を見ていっぺんに気に入った。トボけた、のどかな味わいながらふとした隙間に人間の心の奥を覗くような鋭い視点が感じられる。戦後は「蜂の巣の子供たち」などの子供を扱った作品が多く、私は「しいのみ学園」「次郎物語」を見ているはずだがほとんど記憶に残っていない。やはり戦前の作品に傑作が多いようだ。
「有りがたうさん」(こう書いて“ありがとうさん”と読む)は、人情ロードムービーの傑作である。上原謙のバスの運転手が主人公で、運転中、すれ違う人(時には動物)みんなに「ありがとう」と感謝の言葉をかけるところから、みんなは彼を“有りがたうさん”と呼ぶ。
その彼が運転する、隣町まで行くバスに乗り合わせた乗客たちと、“有りがたうさん”とのほのぼのとした交流を描いたドラマ。乗客の中には、生活の為都会に働きに出て行く少女とその母親や、ちょっと訳ありそうな女(戦前の名女優・桑野通子)や、田舎の純朴な人たちもいれば、いばった髭の男など、さまざまな人たちがいる。そうした乗客たちの運命や人生を乗せたバスの旅は、さながらジョン・フォードの「駅馬車」を彷彿とさせる(桑野通子の役柄は「駅馬車」のクレア・トレバーですね(笑))。いかにも大船調の人情コメディであり、後の山田洋次のロードムービーの傑作(「幸福の黄色いハンカチ」「十五才・学校W」等)にも大きな影響を与えているフシが覗われる。知られざる秀作として挙げておきたい。

双葉さんのベスト100
 (27)「浪華悲歌」
   ('36 監督:溝口 健二)
 (28)「祇園の姉妹」
   
('36 監督:溝口 健二) 
 (29)「限りなき前進」
   ('37 監督:内田 吐夢)
 (30)「風の中の子供」
   ('37 監督:清水 宏)

小林さんのベスト100
  (7)「有りがたうさん」
   
(左参照)
  (8)「浪華悲歌」

  (9)「祇園の姉妹」

 (10)「限りなき前進」

 (11)「淑女は何を忘れたか」
   ('37 監督:小津安二郎)

 

*'37年の阪東妻三郎主演「血煙高田の馬場」(監督・マキノ正博・稲垣浩)が楽しい。これはトーキーなのだが、音声がかなり痛んでいるという事で、私が劇場で見たのはなんと楽団生演奏に弁士付きという、無声映画スタイル。結構盛り上がって楽しく見れました。こういう体験も貴重である。ちなみに、阪妻が高田の馬場に駆けつける途中で土手の上を猛スピードで走るシーンはCMにも使われた。

 人情紙風船」 ('37) P・C・L/監督:山中 貞雄

山中貞雄の遺作。これについては多くを語るまでもあるまい。とにかく何度見ても心にジンと来る傑作である。特に、まるで自分の運命を予知するかのように全編に漂う厭世観、無常観には衝撃を受けた。こんな天才監督を戦地に追いやり、わずか29歳でその命を奪った戦争が憎い。生きておればどれだけ傑作を作ったか、計り知れない。無念である。

双葉さんのベスト100
 (31)「人情紙風船」
   
(左参照)

小林さんのベスト100
 (12)「人情紙風船」
   
(左参照)
 (13)「浅草の灯」
   ('37 監督:島津保次郎)

  おしどり
 
鴛鴦歌合戦」 ('39) 日活/監督:マキノ 正博

これは一転して、実に楽しい和製シネ・オペレッタ。・・・つまり全編出演者全員歌いっぱなしなのである。バカ殿役・ディック・ミネや服部良一の妹で歌手の服部富子は当然のこと、片岡千恵蔵も、志村喬もみんな歌っている。志村喬が意外!にも、歌がうまく(♪さ〜てさてさてこの茶碗♪−てな感じの歌詞が実に楽しい)、マキノの自伝「映画渡世」によれば、ディック・ミネがそのうまさに驚嘆して「志村さん、是非テイチクに入りなさいよ」と薦めたくらいだそうである(笑)。
お話は実に他愛なく、千恵蔵を取り巻く美女たち(市川春代、深水藤子、服部富子)の恋の鞘当て、それにお春(市川春代)に惚れたバカ殿がからんでの大騒ぎ、最後は千恵蔵とお春が結ばれてのハッピーエンドとなる。その底抜けに明るい歌合戦とドタバタぶりは、とても大戦前夜の昭和14年作品とは思えないほど。戦前の日本でも、こんな楽しくハッピーなミュージカル映画が作られていたのである。それだけでも映画史に残る快挙である。千恵蔵がこの時盲腸炎を患い静養中で、彼がカメラの前に立ったのは、わずか2時間だったというのも信じられないエピソードである。なお、撮影を担当したのが名手・宮川一夫である点にも注目。

双葉さんのベスト100
 (32)「愛染かつら」
   ('38 監督:野村 浩将)
 (33)「路傍の石」
   ('38 監督:田坂 具隆)
 (34)「暖流」
   ('39 監督:吉村公三郎)
 (35)「狸御殿」
   ('39 監督:木村恵吾)

小林さんのベスト100
 (14)「按摩と女」
   ('38 監督:清水 宏)
 (15)「兄とその妹」
   ('39 監督:島津保次郎)
 (16)「エノケンの頑張り戦術」
   ('39 監督:中川 信夫)
 (17)「暖流」

 (18)「孫悟空」
   ('40 監督:山本嘉次郎)


「エノケンのちゃっきり金太」(37・山本嘉次郎)も面白い。追っかけまた追っかけの、アメリカ・スラップスティック・コメディを見ているようなスピーディかつナンセンスな和製コメディの快作である。エノケンの歌う、数々の替え歌を聴くだけでも楽しい。必見。

 戸田家の兄妹」 ('41) 松竹/監督:小津 安二郎

これはつい最近、名画上映会で見た。戦前の作品だが、年老いた母の面倒を見るのを、兄妹たちが嫌がってタライ回しにする…というストーリーを聞けば分かるように、これは小津の後の代表作「東京物語」の原型とも言える作品である。兄姉たちの母に対する仕打ちに、大陸から帰った次男の佐分利信が猛烈に怒る展開も面白い。ラストは、自分の結婚話にテレた佐分利が、あわてて浜辺に逃げだす…というオチで、ほほえましくも楽しい。軽妙な独特の語り口の中に、日本の家族問題をサラリと提示してみせた、小津を語る上で見逃せない秀作である。
残念なのは、ニュープリントだというのにフィルムの状態が恐ろしく悪く、巻の継ぎ目では雑音でセリフが聞き取れないほど。戦前の松竹作品はこの作品に限らず保存状態は最悪である(小林信彦さんも指摘していた)。多分ネガが紛失していて、古い上映済ポジフィルムからコピーした為だろう。映画は文化遺産である事を肝に銘じて欲しいものである。

双葉さんのベスト100
 (36)「父ありき」
   ('42 監督:小津安二郎)



小林さんのベスト100
 (19)「簪 (かんざし)
   ('41 監督:清水 宏)
 (20)「待って居た男」
   ('42 監督:マキノ正博)
 (21)「父ありき」



*山本嘉次郎監督「馬」(41)はビデオで見ている。高峰秀子が可愛らしい。名作という事だが、ビデオではその良さは感じられない。劇場できちんと見たいものである。
*同じく山本嘉次郎「ハワイ・マレー沖海戦」(42)は再映で劇場で見た。円谷英二の特撮が凄い。

 無法松の一生」 ('43) 大映/監督:稲垣 浩

阪東妻三郎一世一代の名演が光る傑作。「赤西蠣太」の伊丹万作が脚本を書き、カメラはこれも名手宮川一夫。下賎の車引きが軍人の未亡人にほのかな思慕を寄せるとはもってのほか・・・と戦時中の検閲に引っかかってラストの一部がカットされるなど、不運な経過をたどった。稲垣浩監督は戦後これを、カット部分を復元した同じシナリオで、三船敏郎主演によってリメイクしているが、それにもかかわらず阪妻版の方がはるかに感動的である。何度見てもほれぼれする。阪妻主演作品中でもこれは最高作と言えるのではないだろうか。もうこんな凄い役者は現れないかも知れない。なお、粗野な男が高嶺の花の女性にかなわぬ恋をするというパターンは、「無法松」ファンだという山田洋次監督によって「馬鹿まるだし」「男はつらいよ」シリーズなどに引き継がれている。

双葉さんのベスト100
 (37)「姿三四郎」
   ('43 監督:黒澤 明)



小林さんのベスト100
 (22)「姿三四郎」

 (23)「無法松の一生」
   
(左参照)

 (24)「雷撃隊出動」
   ('44 監督:山本嘉次郎)



*黒澤明の「姿三四郎」は無論、何度も見ているし、凄い傑作だと思う。じゃ何故ベストに入れないかと言うと、他に黒澤作品が多過ぎて、黒澤作品ばかりになってしまうので泣く泣くはずしただけの話である。100本に収めるというのは、井上ひさしさんも書いているが、まさに地獄の苦しみ(?)である。
10

 安城家の舞踏会」 ('47) 松竹/監督:吉村 公三郎

いかにも終戦後を象徴するような内容で、没落する貴族の一家の哀歓・・・という題材を新藤兼人脚本・吉村公三郎監督の名コンビが絶妙に描く。原節子が可憐で美しいし、その兄を演じる森雅之がまたうまい。一家の家父長を演じる滝沢修、原節子の姉の逢初夢子、執事の殿山泰司…みんないい。良質の舞台劇を見るような味わいがある。何より、その時代の空気がどんなものであったのか、それを知るのにはまさに恰好の教材であると言える。床の上をすべって行く拳銃のショットが忘れ難い。

双葉さんのベスト100
 (38)「安城家の舞踏会」
   
(左参照)


小林さんのベスト100
 (25)「大曾根家の朝」
   ('46 監督:木下 恵介)
 (26)「銀嶺の果て」
   ('47 監督:谷口 千吉)
 (27)「安城家の舞踏会」
   
(左参照)
11

 酔いどれ天使」 ('48) 東宝/監督:黒澤 明

言うことなし。黒澤明監督と三船敏郎の記念すべき初コンビ作品であり、これもまた戦後の混沌と、そこから湧き上がる希望を描いた、時代の空気を見事に伝える力作である。それを度外視しても、一種のヤクザ映画のハシリ…としてみても面白い。粋がって羽振りを利かせていたヤクザが、落ち目になってくると見向きもされなくなって行き、ついには悪玉ボスの所への殴り込み…というラストを見てもそういった要素が感じられる。ペンキで滑ってこけつまろびつ…という演出はアクションのお手本として、後の渡哲也の「無頼」シリーズにも応用された…というのは私の勝手な思い込み?である。三船敏郎が強烈な印象を残す。あまりに三船が素晴らしいので、本来ヤクザ否定の話だったのがどんどん三船を魅力的に描くようになってしまい、ホンモノのヤクザが三船を見てあこがれた…というエピソードがあるくらいである。

小林さんのベスト100
 (28)「酔いどれ天使」
   
(左参照)
 (29)「王将」
   ('48 監督:伊藤 大輔)



*黒澤明「わが青春に悔いなし」(46)も見応えがあった。原節子がやはりいい。
*これも黒澤明「素晴らしき日曜日」(47)も好きな作品。入れたいんですけどね。
*黒澤が脚本を書いた「銀嶺の果て」(47・谷口千吉)もダイナミックで見応えあり。三船敏郎のデビュー作。
*他に見た'47年度作品…「長屋紳士録」(小津)、「象を喰った連中」(吉村公三郎)、「素浪人罷通る」(伊藤大輔
12

 お嬢さん乾杯」 ('49) 松竹/監督:木下 恵介

原節子主演の実に楽しいコメディである。脚本は脂の乗ってる新藤兼人。まるでビリー・ワイルダーを思わせる快テンポ、軽妙洒脱な演出にうならされる。佐野周二の無骨な男と、原節子扮する深窓のお嬢さんの恋…という取り合わせの妙、それぞれの演技のうまさ、絶妙の間で展開する木下恵介演出の見事さ…どれも一級である。若い監督は、この映画を百遍でも見て研究するべきである。ラストの原節子のセリフ「惚れております」には何度見ても爆笑してしまう。コメディエンヌとしても原節子は一級である。

小林さんのベスト100
 (30)「お嬢さん乾杯」
   
(左参照)


「王将」(48・伊藤大輔) 阪妻の坂田三吉が絶品。とにかくうまい。阪妻の芸を楽しむだけでも値打ちあり。
*その他の'48年度作品…「誘惑」「わが生涯のかがやける日」共に吉村公三郎監督。この頃の吉村作品は充実している。
13

 青い山脈」(前・後編) ('49) 東宝/監督:今井 正

これも民主化ブームが巻き起こった戦後の空気を伝える青春映画の傑作。進歩的な教師を好演する原節子もいいし、女学生を演じた杉葉子、若山セツ子、バンカラ学生を演じた池部良、伊豆肇…役者がみんないい。何よりも、自由で平和な時代が来たのだ…という当時の人たちの弾けるような気分が画面からもヒシヒシと感じられる。私は昭和48年頃見たが、昭和24年の公開当時見た人たちはどれほど感動したことだろうか。その気分を味わえないのが残念である。その後も何度か再映画化されているが、この今井作品を上回るものがなかったのは当然の事であるし、今後も絶対に超える事は出来ないだろう。

小林さんのベスト100
 (31)「青い山脈」 (左参照)



*木下恵介監督、阪東妻三郎主演「破れ太鼓」(49)が面白い。晩年の阪妻の名演が見どころ。音楽の木下忠司が出演しているシーンも見逃せない。ギリギリ選外。
「嫉妬」(49・吉村公三郎) 佐分利信の暴君亭主が嫉妬から自滅して行く。ラストの情けない佐分利が愉快。名作とは言えないが楽しめます。
14

 晩 春」    ('49) 松竹/監督:小津 安二郎

戦後最初の、小津安二郎の傑作である。前記(10〜13)の4本が、いずれも“戦後”の空気が伝わって来るのに対し、この作品にはそんな空気がほとんど感じられない。逆に言えば時代を超えた普遍性を保っている、永遠の名作なのである。
妻を失っている父を案じて、なかなか結婚話に乗らない娘と、その娘の幸せを願い、なんとか結婚させてやろうとする父を軸に物語が進む。二人の心のアヤを巧みに綴った脚本と、生活描写を中心にした、さりげないようで計算の行き届いた演出が実に見事。何かと世話をやく叔母さんを演じた杉村春子があきれるほどうまい。まさに芸術品とでも言える秀作である。年頃の娘を持った父親には、特に感慨深い作品だろう。それにしてもこの年('49年)の原節子の活躍ぶり(12〜14)には目をみはらされる(全部違う役柄である!)。

小林さんのベスト100
 (32)「晩 春」 (左参照)



*黒澤明「静かなる決闘」(49)も悪くない。ただ三船の主人公が悩み苦しむシーンが続くのでややシンドイか。
「ジャコ万と鉄」(49・谷口千吉) 黒澤明との協同脚本。三船と月形龍之介の対決が見どころの男性アクション。
「悲しき口笛」(49・家城巳代治)歌って踊る可愛らしい美空ひばりが見られる。菅井一郎が好演。
「痴人の愛」(49・木村恵吾)京マチ子がキュート。彼女の虜になってしまう宇野重吉もいい。
15

 野良犬」    ('49) 新東宝/監督:黒澤 明

犯罪サスペンス映画のお手本のような名作である。若い刑事にベテラン刑事が付いて、捜査のプロセスを縦軸に、若い刑事が失敗しながらも成長して行く…というドラマを横軸とした展開は、その後の内外のいろんなこの種の映画に応用されている。背景はやはり戦後の混乱期である。ドキュメンタリー的な映像も見事。今もって日本映画史上に残る刑事ドラマの傑作である。黒澤作品で犯罪サスペンス刑事ドラマはこれと「天国と地獄」のたった2本しかないが、もっとこうしたタッチの作品を作って欲しかったと思う。

小林さんのベスト100
 (33)「野良犬」 (左参照)
16

 羅生門」    ('50) 大映/監督:黒澤 明

まだ当時サラリーマンだった橋本忍が書いた短い脚本が、黒澤の目に留まり、これによって橋本がプロの脚本家になるきっかけを作った…という点でも忘れてはならない作品だし、当時の助監督(加藤泰など)や大映社長までもが「さっぱり分からん」とクレームをつけたいわく付きの作品。翌年ベネチア映画祭に出品され、グランプリを取らなかったら、黒澤明は後にあれほど注目されなかったかも知れない…と思うと、運命というものすら感じさせられる。比較的分かりやすい黒澤作品の中では異質とでも言える作品だが、今の目で見たらそれほど難解とも思えない。むしろ芥川龍之介の原作の方が分かりにくく、黒澤が追加した第4のエピソードが原作に対する解答編…にもなっていると言えるのではないか。グランプリを取った後の、それまで冷淡だった大映社長や評論家たちの手の平を返したような変節ぶり(笑)が、それこそ『羅生門』的である。
見れば見るほど、宮川一夫が担当した、陰影を強調したカメラの見事さ、モノクロの映像美、三船敏郎、森雅之、京マチ子らの演技のダイナミズムがとことん堪能できる、やはり凄い作品である。

双葉さんのベスト100
 (39)「また逢う日まで」
   ('50 監督:今井 正)



小林さんのベスト100
 (34)「暴力の街」
   ('50 監督:山本 薩夫)



「また逢う日まで」(今井正)。昔見ているのだが、いま一つ印象が薄い。もう一度じっくり見直したい作品である。
「醜聞」(50)黒澤明の、マスコミ・ゴシップを批判した話題作。やや通俗的になったのが惜しい。山口淑子が美しい。
「暁の脱走」(50・谷口千吉)こちらも山口淑子がいい。これは後に鈴木清順監督が「春婦伝」のタイトルでリメイクした。
17

 麦 秋」    ('51) 松竹/監督:小津 安二郎

珠玉の名作。ただそれ以上、言い様がない。これも、婚期が遅れている娘の結婚話…であるが、「晩春」とはまた違った切り口で、人生とは、家族とは…を考えさせてくれる作品である。父親役の菅井一郎がいい。溜め息だけでその人物の心の内を表現する演技、演出、誰も真似の出来るものではない。とにかく何度でも見るべきである。見る度に深みが増して来る、至高の芸術作品である。それにしても、原節子、笠智衆、菅井一郎、杉村春子、三宅邦子、東山千栄子…と、とにかくうま過ぎる役者がいっぱい出ている事にも唸らされる。なんて贅沢な時代だったのだろう…。

双葉さんのベスト100
 (40)「カルメン故郷に帰る」
   ('51 監督:木下 恵介)
 (41)「麦 秋」 (左参照)

 (42)「め し」
   ('51 監督:成瀬巳喜男)


小林さんのベスト100
 (35)「麦 秋」 (左参照)


*成瀬の「めし」、木下の「カルメン故郷に帰る」共にビデオで見たせいか、も一つ感銘が薄かった。やはり劇場でちゃんと見たいですね。
「偽れる盛装」(51・吉村公三郎)も、あと一歩で入選。
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 西鶴一代女」 ('52) 新東宝/監督:溝口 健二

運命に翻弄される、一人の女の流転の生きざまを描いた溝口健二の傑作。田中絹代が神がかり的な名演技を見せる。当時の国内の評価は意外と低く、キネ旬ベストテンでも9位留まりであった。ベネチア映画祭国際賞を受賞し、国際的に評価が高まって、ようやく日本でも評価されるようになった。『羅生門』と同様、日本映画の本当の良さを、日本人が理解できないというのは悲しい事である。ここでも、菅井一郎、三船敏郎、進藤英太郎をはじめ、役者がみんな素晴らしい。

双葉さんのベスト100
 (43)「本日休診」
   ('52 監督:渋谷 実)


小林さんのベスト100
 (36)「西鶴一代女」
   
(左参照)

 (37)「本日休診」


「白痴」(51・黒澤明)。名画鑑賞会で見たが、途中で眠くなってしまった。正直な所、あまり面白くないですね。
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 生きる」    ('52) 東宝/監督:黒澤 明

これも、何も言うことはない。映画史上の傑作。志村喬の名演技を見るだけでも一見の価値あり。「生きる」とは何か…という遠大なテーマに取り組んだ黒澤の冒険心は大したものだし、それをベルイマンとかのように難しくせず、お役所仕事の怠慢ぶりという身近な話題を中心に、ヒューマニズム溢れる感動作に仕上げた点は実にうまいものである。後半で、死んだ男についての回想を通じてその人物像に迫る…という大胆な構成は、同じような手法の『羅生門』の応用であろう(脚本も『羅生門』の橋本忍+黒澤明に小国英雄が加わっている)。

小林さんのベスト100
 (38)「原爆の子」
   ('52 監督:新藤 兼人)

 (39)「稲 妻」
   ('52 監督:成瀬巳喜男)

 (40)「生きる」 (左参照)


*この年、ようやく黒澤明の「虎の尾を踏む男達」公開。まあまあ楽しめました。エノケンがいい。
*黒澤が脚本を書いた「荒木又右衛門・決闘鍵屋の辻」(52・森一生)が思わぬ拾い物です。スリリングな実録チャンバラものの佳作です。おススメ。
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 雨月物語」  ('53) 大映/監督:溝口 健二

この時期、次々と海外受賞作を連発していた大映の優秀なスタッフと、『西鶴一代女』で復活した溝口健二が手を結んだだけに、その幽玄の映像美だけでも必見である。撮影・宮川一夫、照明・岡本健一、録音・大谷巌、音楽・早坂文雄、主演:森雅之・京マチ子…と、『羅生門』と同じスタッフ・出演者が結集している点にも注目。特に墨絵のようなグレー・トーンのカメラは秀逸。美術も当時の最高の美術監督・伊藤熹朔(『地獄門』等)。本当に贅沢なスタッフである。ベネチア映画祭銀獅子賞を受賞したのも当然のような気がする。
なお、これを最初に見たのは昭和41年、京都・祇園会館にて。なんと『羅生門』との2本立!私が映画にのめり込んだのも、この2本を見たのがきっかけであった。そういう意味でも忘れられない映画である。

双葉さんのベスト100
 (44)「あに・いもうと」
   ('53 監督:成瀬巳喜男)


小林さんのベスト100
 (41)「にごりえ」
   ('53 監督:今井 正)

 (42)「ひめゆりの塔」
   ('53 監督:今井 正)

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