PART 5 (No.81〜100)
No ベ ス ト 作 品 ご 参 考

81

 「ダーティ ハリー」  ('71)  米/監督:ドン・シーゲル

「荒野の用心棒」等のイタリア製ウエスタンで一躍人気スターとなったクリント・イーストウッドは、アメリカに帰り、数本のアクション映画に出演したが、まだ決定的な代表作は持ち得ていなかった。そんな時に出会ったのが、こちらもB級アクションの佳作はあったものの、なかなか一流監督として認められていなかったドン・シーゲル。最初のコンビ作「マンハッタン無宿」(68)はなかなか面白かった。アリゾナの田舎保安官(イーストウッド)が、犯人を引き取りにニューヨークにやって来るが逃げられてしまい、迷路のような大都会の中で独自の嗅覚で必死に犯人を追い求める。現代のニューヨークと、カウボーイハットにブーツという、西部劇の保安官スタイルとのミスマッチが面白い(後のTVムービー「警部マクロード」の原型となった事でも有名)。二人はさらに正真正銘の西部劇「真昼の死闘」、スリラー・タッチの「白い肌の異常な夜」とコンビ作を続け、そして遂にお互いの代表的傑作「ダーティ ハリー」に到達することとなるのである。
これはまさに衝撃的な傑作だった。主人公ハリーはとにかく荒っぽい。大口径のマグナム拳銃を手に、ホットドッグを頬張りながら平然と銀行ギャングと対峙する冒頭からしてワクワクする痛快さ。暴力には暴力と、悪辣な犯人に容赦はしない。全編が異様なテンションに満ちた、山田宏一氏言うところの「フレームを突き破らんかの如き」「正義としての暴力」に満ち溢れた快作なのである。イーストウッドは本作で一挙にトップスターに躍り出た。以後の活躍はご承知の通り。「ダーティ ハリー」シリーズは結局パート5まで作られるが、どれもこの1作目には遥かに及ばない。アクション映画の歴史を塗り替えたと言っても過言ではない、これはカッコいい、しかし今のアメリカを支配する“正義と暴力”の現実にちょっと複雑な気持ちも抱いてしまう、問題作なのである。 (日本公開'72年) 

「バニシング・ポイント」(71) 。リチャード・C・サラフィアン監督。アメリカン・ニューシネマの秀作の1本1台の車を運転し搬送の途中、主人公は何かに憑かれたように暴走を開始する。カーチェイス・アクションが凄い。

「ベニスに死す」(71) 。ルキノ・ヴィスコンティ監督の秀作。美少年に魅せられた初老の男の悲劇。格調高い演出で見応えあり。

「フレンチ・コネクショ(71) 。マックィーンの「ブリット」のプロデューサーによる、これも中盤のカーチェイスが話題となった快作。ウイリアム・フリードキン監督の出世作。

「さすらいのカウボーイ」(71) 。ピーター・フォンダの監督2作目となる、ちょっと変わった西部劇の佳作。リリシズム溢れる映像が魅力的。

「ジョニーは戦場へ行った(71) 。優れた脚本家、ドルトン・トランボの小説を自身の手により監督した反戦映画の傑作。戦場で手足も目も口も失った少年兵の回想と現在の姿を通して、戦争の虚しさと命の尊さを描く。ベストに入れたかったが…。

「時計じかけのオレンジ(71) 。スタンリー・キューブリック監督の、近未来を舞台にしたブラック・ユーモア溢れる不良少年映画。「雨に唄えば」を歌いながら暴行するシーンがコワい。

82

 「激突!」  ('72)   米/監督:スティーヴン・スピルバーグ

ご存知、スピルバーグのわが国初登場作品。― と言ってもこの作品、もともとはテレ・フィーチャーといい、テレビ放映の為に作られたもので、アメリカでは劇場公開はされていない。スピルバーグの正式な劇場第1作は、「続・激突!カージャック」である(無理にあやかった邦題ですね(笑)。題名から想像されるカーアクションは登場しません)。
この映画、試写状が当たって小さな試写室で観たのだが、まだ宣伝も開始されておらず、まったく予備知識なしで、どんな映画かも知らずに鑑賞した(当然、監督の名前もまったく知らなかった)。ところが、いざ始まると、もう最初からスクリーンに目が釘付けになった。ハイウェイで、何の気なしに追い越したタンクローリーから執拗に追い回される主人公(デニス・ウィーバー)。逃げれば後ろから追突されそうになるし、先に行かせれば待ち伏せされている。弱いネズミをジワジワいたぶる猫のようなものである。これはコワい。我々普通の人間でも、車を運転しておればいつ遭遇するか分からない恐怖である。着想が秀逸であるし、演出も新人離れしたうまさ。何より素晴らしいのは、相手のタンクローリー運転手の顔を一切見せない演出で、“日常に潜む得体の知れない恐怖”が見事にシンボライズされている。映画が終了しても、しばらくはウーンとうなりっぱなしであった。「これは凄い新人監督が現れたものだ」と、掛値なしに本当にそう思った。後になって、スピルバーグがこれを監督したのは、若干24歳!の時―だったと知って余計驚いた。その若さもさることながら、なんと私と同じ年齢だった(!)からである。遂に同世代の監督が登場したのか…と感慨無量であった。以後スピルバーグは、私にとって、他のどんな監督よりも親しみ深く、常に意識する存在となったのである。劇場映画は言うに及ばず、その他のテレ・フィーチャー作品もほとんど追いかけた(「刑事コロンボ・構想の死角」、「恐怖の館」、「死を呼ぶスキャンダル」等々…)。そんなわけで、この作品は数多くのスピルバーグ作品中でも(完成度は別にして)、愛着度は一番の作品なのである。ちなみに、原案と脚本を担当したのは、ロジャー・コーマン監督によるエドガー・アラン・ポー原作の一連の恐怖映画(「アッシャー家の惨劇」他)の脚色で有名なリチャード・マシスン。
   (日本公開'73年) 

双葉さんのベスト100
 (92)「叫びとささやき」 
  ('72 監督:「イングマール・
         ベルイマン

 
「わらの犬」(71) 。サム・ペキンパー監督のバイオレンス・ムービーの秀作。ダスティン・ホフマン主演。

「ラストショー」(71) 。ピーター・ボグダノヴィッチ監督による、閉館する映画館を舞台に人生模様、青春群像を描いた傑作。ベン・ジョンソンがとてもいい。

「キャバレー」(71) 。ボブ・フォッシー監督による傑作ミュージカル。ライザ・ミネリのダイナミックな歌と踊りが素敵。

「ラムの大通り」(71) 。ロベール・アンリコ監督作品はどれも大好き。男の夢とロマンチシズムを描いて右に出る人はいないだろう。真っ白になったスクリーンをいつまでも見つめるラストシーンのリノ・バンチュラは我々自身でもあるのだ。

「恋のエチュード」(71) 。フランソワ・トリュフォー監督のアントワーヌもの。ジャン・ピエール・レオ主演。繊細な演出が魅力的。

「ゴッドファーザー」(72) 。フランシス・コッポラ監督の大ヒット作。よく出来てはいるが、観終わって時間が経つと印象が薄れてしまった。

「フレンジー」(72) 。ヒッチコック監督久々の秀作。ユーモラスなタッチとサスペンスが緩急自在。


「ゲッタウェイ」(72) 。サム・ペキンパー監督らしいクライム・バイオレンスの佳作。スティーヴ・マックィーン主演。

83

 ジーザス・クライスト・スーパースター」 ('73) 米/監督:ノーマン・ジュイソン

キリスト、最後の7日間をミュージカル化した、ブロードウェイの大ヒット作の映画化。作詞・作曲は後に「オペラ座の怪人」等のヒット作を連発するアンドリュー・ロイド=ウェバーとティム・ライス。
この作品が異色なのは、時代は現代で、自動車で荒野にやって来た若い連中によって演じられる、キリストを主役にした劇中劇ミュージカルであるという点で、しかも使われている音楽はバリバリのロック…。このミスマッチ感覚が、観ているうちに次第に違和感がなくなって来る、その面白さ。俳優の演技に引き込まれて、観客はいつしか紀元前にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えそうになるが、時折、ジェット機や戦車の映像もインサートされたり、使われている小道具も現代のものが多かったり(木の枝に世界中のお札(注)が貼り付けられていたりする)と、演出はあくまで舞台は現代である事を強調する。配役も異色で、ユダ役は黒人、マリアは東洋人と、人種まで入り乱れている。
しかし何といっても素晴らしいのは、ロイド=ウェバーらによるミュージカル・ナンバーで、ある時は軽快に、ある時は荘厳に、ある時は哀しく…と、その緩急自在の、そしてボリューム感満点の歌声にはシビれてしまう。冒頭のユダが歌う「彼らの心は天国に」なんかはノリノリのロックで、ここで一気に乗せられてしまう。総督ピラトが歌うチャールストンも実に楽しい。そしてクライマックス、夜明けの山頂でキリストが神に問いかけるナンバーのなんと感動的な事か。
ラストは、上演(?)を終えて、若者たちが夕暮れ迫る荒野を、満足感とも寂寥感とも表現し難い表情を浮かべて去って行く。その余韻がまた心に沁みる。まったく新しいミュージカル時代の到来を告げる、これは革新的な秀作であった。  (日本公開'73年) 

 (注)この中には、日本の聖徳太子の1万円札もあった。ただし聖徳太子は、70ミリ画面でようやく確認できる程度で、ビデオでは絶対に見えない(笑)。やっぱりこれは大画面の劇場で観るべきである。

双葉さんのベスト100
 (93)スティング」 ('73 監
      ジョージ・ロイ・ヒル)

 
小林さんのベスト100
 (89)スティング」
 (90)「ある結婚の風景」 
   ('73 監督:イングマール・
         ベルイマン

「ポセイドン・アドベンチャー」(72) 。これは面白かった。逆さになった船からの脱出というアイデアが秀逸。製作アーウィン・アレン、監督ロナルド・ニーム。

「探偵 スルース」(72) 。ジョセフ・L・マンキウィッツ監督による、あっと驚くドンデン返しがある舞台劇ミステリーの快作。

「ボギー!俺も男だ」(72) 。ウディ・アレン脚本・主演、ハーバート・ロス監督による、名作「カサブランカ」にオマージュを捧げた映画ファンなら感涙ものの秀作。ベストに入れたいが…。

「ブラザー・サン、シスター・ムーン」(72) 。フランコ・ゼフィレッリ監督による、アッシジのフランチェスコを描いた作品。ゼフィレッリらしく、青春映画としても見事な出来。

「スティング」(73) 。「明日に向って撃て!」トリオ(ニューマン、レッドフォード、ジョージ・R・ヒル監督)による、こちらはぐっとトボけて楽しい詐欺師映画の秀作。ラストまで目が離せません。

84

 「映画に愛をこめて アメリカの夜」 ('73) 仏/監督:フランソワ・トリュフォー

ニースの撮影所を主舞台に、「パメラを紹介します」という映画の撮影が行われている。その映画製作中に起るさまざまなトラブルや人間関係の軋轢―ノイローゼ気味のハリウッド女優や気難しい男優の我がまま、妊娠がバレた新人―などの紆余曲折を乗り越えてクランク・アップするまでを、この映画の監督(フランソワ・トリュフォー自身が演じている)を主人公にして丹念に綴った作品。登場人物も多彩で、前記の人たち以外にも、プロデューサー、助監督、撮影監督、女性スクリプター、化粧係、小道具係など、裏方の人たちの仕事ぶりも丁寧に描いており、観客は1本の映画が完成するまでにどんなプロセスがあり、どんな苦労があるかを知ることが出来る。アフレコで拍手の音を入れるシーンなども興味深い。面白いのは、監督の夢の中に出て来る、子供時代に映画「市民ケーン」のスチール写真を盗むシーン。これは自伝作品「大人は判ってくれない」のエピソードからも推測されるように、多分トリュフォー自身の実体験なのだろう。そういう意味で、この映画もまたトリュフォーの自伝的作品と言えるかも知れない。
全編に亙って、サブタイトルにある如く、“映画への愛”に満ちており、まさにトリュフォー作品らしい、映画を愛するすべての人に捧げられた、とても素敵な作品なのである。映画ファンなら是非観て欲しい。ちなみに“アメリカの夜”とは、映画用語でレンズにフィルターをかけ、昼に夜のシーンを撮影する“擬似夜景”のことである。     (日本公開'74年) 

「スケアクロウ」(73) 。ジェリー・シャッツバーグ監督による二人の男(ジーン・ハックマン、アル・パチーノ)の友情とさすらいを描くロードムービーの秀作。

「ペーパー・ムーン」(73) 。ピーター・ボグダノヴィッチ監督による、これも詐欺師と少女のおかしな旅を描くロードムービー。主演のライアン・オニールの娘、テータム・オニールが素晴らしい好演で最年少のアカデミー助演女優賞を獲得。

「続・激突カージャック」(73) 。スピルバーグ監督の記念すべき劇場映画デビュー作。子供を取り戻す為にパトカーをハイジャックした若夫婦と追う警察との駆け引きはやがて…。「激突!」とは何の関係もない。印象的なシーンもあり、ファンなら観ておくべし。

「悪魔のシスター」(73) 。鬼才ブライアン・デ・パルマ監督の我が国デビュー作。B級ホラーだが2分割(スプリット)スクリーンなど、得意の手法を既に採用している点で一見の価値はあり。

85

 「アメリカン・グラフィティ」 ('73) 米/監督:ジョージ・ルーカス

今をときめく「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカス監督の、わが国初登場作品。1962年、カリフォルニア北部の小さな田舎町を舞台に、ハイスクールを卒業し東部の大学へ出発しようとする若者たちの故郷最後の一夜を、当時のヒット曲を全編に散りばめて甘くほろ苦く描いた青春映画の傑作。暴走族の仲間に入らされたり、酒を買おうと四苦八苦したり、マセた女の子にせまられたり、あるいはパトカーにいたずらしたり、最後は夜明けにカーレースをやったり…といった取りとめもないエピソードが楽しい。そしてなによりも、我々にも耳なじみの、今やオールディーズと呼ばれる名曲の数々…例えば「ロック・アラウンド・ザ・クロック」、「悲しき街角」、「ミスター・ロンリー」等々。これらを聞くだけでも青春時代が甦って来て涙が溢れて来る。出演俳優も、当時は無名で、この作品でブレイクすることになるリチャード・ドレイファス、ロン・ハワード(今や巨匠監督!)、ハリソン・フォード、チャーリー・マーティン・スミスなど多彩。
ルーカスは1944年生まれだから、この映画で描かれた'62年当時は主人公たちと同い年の18歳。すなわちこの映画はルーカスの自伝的要素も含まれているのだろう。そして、ラストに至って、彼らのその後の運命―ベトナム戦争で行方不明…等々−がテロップで示され、当時の若者たちが置かれた時代状況も示される。以後このパターンはさまざまな同傾向の映画に模倣される事となる。いろんな意味で、後の青春映画に与えた影響は計り知れない。まさに青春映画の古典的名作であると言えるだろう。   (日本公開'74年) 

「デリンジャー」(73) 。ジョン・ミリアスの監督デビュー作にして彼の最高傑作。執拗にギャング団のデリンジャー(ウォーレン・オーツ)を追うFBI捜査官役のベン・ジョンソンが儲け役。

「北国の帝王」(73) 。ロバート・アルドリッチ監督による、1920年代、列車にタダ乗りするホーボー(浮浪者)と、そうはさせじとする車掌との攻防を描いた、いかにもアルドリッチらしい男性映画の快作。対決するリー・マーヴィンとアーネスト・ボーグナインが男くささをプンプン匂わせてとてもいいですね。

「ドラゴンへの道」(73) 。ブルース・リー主演の3作目にしてリーの初監督作品ローマのコロシアムにおけるチャック・ノリスとの死闘が凄い迫力。撮影は日本の名カメラマンで香港で活躍していた西本正。

「燃えよドラゴン」(73) 。記念すべきブルース・リー我が国初登場作品。そのカッコ良さにシビれた。ラロ・シフリンの音楽も素敵。他愛ないけど何度も観たくなるアクション映画の快作。ロバート・クローズ監督。

86

 「ザッツ・エンタティンメント」 ('74) 米/監督:ジャック・ヘイリーJr.

No.27の「巴里のアメリカ人」評にも書いたが、黄金時代のMGMミュージカルの極めつけハイライト・シーンばかりを集めたアンソロジーの快作。さらにフランク・シナトラ、フレッド・アステア、ジーン・ケリーなど、MGMミュージカルを支えたスター、同じくジュディ・ガーランドといくつもの傑作ミュージカルを監督したヴィンセント・ミネリの娘、ライザ・ミネリ―などが、現在の(今では使われていない)MGM撮影所の中を案内しながら作品について語るシーンが追加編集され、これも楽しい。しかしやはり凄いと思ったのは、雨中の傘を相手にダンスを踊る、「雨に唄えば」のジーン・ケリー、天井でタップを踊る「恋愛準決勝戦」のフレッド・アステアなどで、噂には聞いていたがこれが初見参となるMGMミュージカル群における、彼らのダイナミックかつエレガントな踊りにはただただ興奮し、まるで「青春デンデケデケデケ」のちっくんさながら、身体に電気が走ったように(笑)感動してしまったのである。その他では、「巨星ジーグフェルド」のあきれるばかりの豪華なセット、「100万弗の人魚」などのエスター・ウィリアムス主演の華麗な水中レビュー、等々、“ハリウッド映画のすごさ”をまざまざと実感させられた。ショックだったのは、映画そのものよりも、こんな凄い映画群が存在していた事を私自身が(小さい時から相当映画を観てきたつもりなのに)まったく知らなかった事で、まだまだ映画ファンとして未熟だった事を思い知らされた。以後、No.27にも書いたが、遅まきながらMGMミュージカルを追いかけ始めたのである。
本作が好評だった為、以後「PartU」(ジーン・ケリー監督!)、「PartV」が製作されたが、どれも楽しくて堪能した(「PartV」ではなぜかマルクス兄弟まで出てくるが)。とにかく、ミュージカル・ファンには絶対に見逃せないし、またミュージカルに関心のない方でも、映画ファンならきっと楽しめること請け合いの、永久保存しておきたい宝物のような素敵な作品である。  (日本公開'75年) 

双葉さんのベスト100
 (94)「フェリーニのアマルコルド」
  
('74 監フェデリコ・
         フェリーニ)
 (95)「ザッツ・エンタティンメント」
   (左参照)

 (96)「タワーリング・インフェルノ」
  
('74 ジョン・ギラーミン)

小林さんのベスト100
 (91)「ナッシュビル」 ('75 監督:
     ロバート・アルトマン

 (92)「JAWS ジョーズ」 
  ('75 監督:スティーヴン・
        スピルバーグ

「フェリーニのアマルコルド」(74) 。フェリーニ監督の自伝的な、少年時代の甘い思い出を描いた秀作。残念ながらビデオで初見参。劇場で観てたらベストに入ったかも知れない。

「エマニエル夫人」(74) 。これは個人的に思い入れがある。実は新婚旅行のパリでヘア無修正版をリアルタイムで観ているのである。すっごくドキドキしましたよ(笑)。

「ヤング・フランケンシュタイン」(74) 。メル・ブルックス監督の、古典ホラー「フランケンシュタイン」を徹底的にパロりまくった笑いの秀作。メル監督作品の中では一番好きな作品です。

「ロンゲスト・ヤード」(74) 。最近リメイクもされた、刑務所内で開催される囚人対看守のフットボール対決を描いたスポーツ・アクション映画の快作。バート・レイノルズ主演。監督は男性映画が得意のロバート・アルドリッチ。

87

 「スター・ウォーズ」  ('77)  米/監督:ジョージ・ルーカス

もはや説明するまでもないだろう。広大な宇宙を舞台に、勇敢な少年、ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)が仲間たちと力を合わせ、強大な敵、銀河帝国と対決し、さまざまな困難の末に遂に勝利するまでを描く、スペース・オペラ・ファンタジー(あえてSF映画とは言わない)の傑作である。それまでは、この手のSFヒーロー・ファンタジーと言えば、戦前の「バック・ロジャース」(ルーカス監督の出世作「THX−1138」の冒頭にも登場する)や「フラッシュ・ゴードン」(ルーカスは本当はこれをリメイクしたかった)くらいのもので、戦後に至ってはこのジャンルはほとんど不毛状態。たまに作られたとしても、ほとんどがチャチな特撮による、話題にもならない低予算のB級映画ばかりであった。ルーカスはこの題材を、巨額の予算(後のシリーズ作品から見ればかなり少ないが)とスケール感たっぷりの高度な特殊効果を駆使した大作として仕上げた。映画は予想をはるかに上回る大ヒットとなり、熱烈なファンを生み、映画そのものが伝説となった。以後、「スーパーマン」「スター・トレック」をはじめ、SF映画を超大作として製作し、大ヒットを記録する方式が定着することとなる。ルーカスは映画の常識を覆し、映画の歴史をも変えてしまったのである。そういう意味でもこの作品の登場は画期的であった。
私は無論、初公開時にリアルタイムで観ている。冒頭のジョン・ウィリアムス作曲によるシンフォニー風のテーマ曲(ロンドン交響楽団演奏)からして素晴らしいし、その後巨大な帝国の戦艦スター・デストロイヤーが画面上に覆いかぶさるように登場するシーンでは興奮した。SFXが実に見事(この映画の為にルーカスは特殊撮影工房・ILMを設立した)。「隠し砦の三悪人」をはじめとするいろんな娯楽映画からの引用も映画ファンの心をくすぐるし、デス・スターに攻撃を仕掛けるクライマックスでは手を叩かんばかりに興奮・感動した。悪は滅び、正義が勝利する、実に単純明快な娯楽映画のツボを押さえた冒険活劇アクション・エンタティンメントの傑作であった。

この作品が大ヒットした事により、以後「帝国の逆襲」「ジェダイの復讐」、さらにこれらの前日譚、「エピソード1〜3」が後に作られる事となるが、悲しいかな、どれも1作目(「エピソードW」と今では呼ばれる)の面白さに遥かに及ばない。…どころか、悪人ダース・ベイダーが実はどうたらこうたら…という続編の展開は、単純明快勧善懲悪娯楽映画としての1作目の面白さと感動をぶち壊す存在でしかない。私個人的には、1作目だけで終わって欲しかったというのが正直な感想である。
なお、後の再公開版やビデオ版から付くようになったサブタイトル「EpisodeW A New Hope」は、初公開当時は付いていない。

 (日本公開'78年) 

「ゴッドファーザーPARTU」(74) 。大ヒットした作品の続編…というより、1作目でマーロン・ブランドが演じたドン・コルレオーネの若き日を描いたパート0とも言うべき作品。アカデミー作品賞受賞。

「JAWS ジョーズ」(75)。言うまでもない。S・スピルバーグ監督の出世作であり、初の大ヒット作。いかにも新人らしい意欲に満ちた快作で、ヒッチコック監督のサスペンス・テクニックを始め、過去の映画から巧みに引用しているあたりも新時代の監督らしさが感じられた。それとあまり誰も指摘していないが、私は「ゴジラ」第1作('54)からもいろいろ盗んでいると思っている。どこかは見比べて判断してください。

「フレンチ・コネクショ2」(75) 。ジョン・フランケンハイマー監督による続編。こちらは男性派のフランケンハイマーらしく男っぽさがプンプン匂う快作。ラストの堤防沿いを延々と走るポパイ刑事(ジーン・ハックマン)の執念に感動。


旅芸人の記録」(75) 。テオ・アンゲロプロス監督。

狼たちの午後」(75) 。シドニー・ルメット監督。

カッコーの巣の上で」(75) 。ミロシュ・フォアマン監督。

タクシー・ドライバー」(76) 。マーチン・スコセッシ監督。

大統領の陰謀」(76) 。アラン・J・パクラ監督。

ロッキー」(76) 。ジョン・G・アヴィルドセン監督。

88

 「未知との遭遇」 ('77) 米/監督:スティーヴン・スピルバーグ

「ジョーズ」の大ヒットで一躍メジャーな監督になったスピルバーグが、子供の頃よりあこがれていたUFOとの遭遇、異星人とのコンタクトをスケール感たっぷりに描いたファンタスティックなSF映画の傑作。異星人が地球にやって来て人類とコンタクトする…という映画は昔からよくあるが、大半はB級低予算ムービーで、しかも地球を侵略する目的というのが圧倒的に多い。本作のような友好的な異星人が登場するのはロバート・ワイズ監督の「地球の静止する日」(それも警告のために来た)くらいだろう。
本作は、実際に起きた不思議な事件(バミューダ海域の空軍機消滅、怪光と停電など)や、異星人を見たという目撃者の証言等を巧みに取り入れつつ、物語としては主人公の電気技師(リチャード・ドレイファス)がUFOと遭遇し、次第に異星人との出遭いを夢見るようになり、遂にその夢を実現するまでを描く。彼の夢は、スピルバーグの夢そのものに他ならないのである。また同じくUFOを追い求めるラコーム教授(監督のF・トリュフォー。好演)が登場するが、彼もまたスピルバーグの分身なのだろう。この作品もリアルタイムで観ているが、その異星人と出遭いたいという子供のような高揚感が画面からもヒシヒシ伝わって来て、こちらもすごく感動した記憶がある。ラストの数十分間は、宗教のような荘厳な気分にさせてくれる。「2001年宇宙の旅」も手掛けたダグラス・トランブルのSFXが素晴らしい。SF映画史に残る傑作であると言えよう。ちなみに私の初見参は、「2001年−」もここで観た今は亡き梅田シネラマOS劇場。どちらの作品もその大スクリーンのおかげで、より厳かな気分に浸らせてくれる。なお、「特別編」と題する再公開版では、UFOのマザーシップ内の光景も登場したが、最近発売の「ファイナル・カット版」と題するDVDではこのマザーシップ内のシーンがカットされている。さすがにスピルバーグも中高年になって、このくだりが少々恥ずかしくなったのかも知れない。  (日本公開'78年) 

グッバイガール」(77) 。ニール・サイモン脚本、ハーバート・ロス監督。

ビッグ・ウェンズデー」(78) 。ジョン・ミリアス監督。

ディア・ハンター」(78) 。マイケル・チミノ監督。

木靴の樹」(78) 。エルマンノ・オルミ監督。

89

 「地獄の黙示録」 ('79) 米/監督:フランシス・フォード・コッポラ

ベトナム戦争最中、アメリカ陸軍情報部のウィラード大尉(マーティン・シーン)とその部下が、特殊任務途中に失踪し、ジャングル奥地に王国を築いてカリスマ的に君臨するカーツ大佐(マーロン・ブランド)を暗殺せよという密命を帯び、哨戒艇で川をさかのぼって目的地に向かう。その途中で彼らが体験するさまざまな戦争の実態、狂気の地獄絵。やがて遂にカーツ大佐と出会ったウィラードは…。巨匠フランシス・F・コッポラ監督が、膨大な製作費と時間をかけて描いた戦争巨編。ただしこれはただの戦争映画ではない。アメリカが初めて負けた対外戦争=ベトナム戦争とは、いったい何だったのか…その総括を、コンラッドの小説「闇の奥」をベースに、壮大な叙事詩として描いた作品である。攻撃シーンに流されるワ−グナー作曲の「ワルキューレの騎行」も印象的。ただ、80年の公開作品では、上映時間の都合で一部シーンがカットされていたせいなのか、私が若かったせいなのか、いま一つコッポラが何を訴えようとしていたのかが判り辛かった。
その後2002年になって、コッポラ自身が53分の未公開シーンを追加した<特別完全版>が公開されたが、こちらの方が初公開版よりずっと面白く分かり易くて、コッポラの言いたかった事がようやく理解出来た気がした。それでベストに入れる気になったのである。そんな訳で、これからご覧になる場合は、是非<特別完全版>の方を観ていただく事をお奨めする。
   (日本公開'80年。特別完全版公開'2002年) 

エイリアン」(79) 。リドリー・スコット監督。

クレイマー、クレイマー」(79) 。ロバート・ベントン監督。

オール・ザット・ジャズ」(79) 。ボブ・フォッシー監督。

マッドマックス」(79) 。ジョージ・ミラー監督。

ブリキの太鼓」(79) 。フォルカー・シュレンドルフ監督。

90

 レイダース/失われた聖櫃<アーク> ('81) 米/監督:スティーヴン・スピルバーグ

ジョージ・ルーカスが原案と製作を担当し、スピルバーグが監督するという夢のようなコラボレーションにより作られた、冒険大活劇映画の快作。「スター・ウォーズ」でもいろんな映画の名シーンを引用していたが、ここでも宝探し映画(特に「キング・ソロモンの秘宝」)や、B級シリアル活劇からさわりの部分をごっそりいただいている。それにしてもまあ、冒頭から息つく間もなく次から次へと登場するアクション、サスペンス、危機また危機の連続に、こちらは手に汗握りっぱなしであった。ルーカスもスピルバーグも、こうした昔のB級活劇映画を何度も観て、心から楽しんで、その楽しさをSFXをフルに活用して現代に蘇えらせようと考えたに違いない。好評につきその後、「インディー・ジョーンズ」シリーズとして「魔宮の伝説」「最後の聖戦」が作られた。いずれも見応えがあって水準以上の出来であるが、私は特に2作目「魔宮の伝説」が好きである。のっけからコール・ポーターの名曲「エニシング・ゴーズ」に乗せてのミュージカル・シーンに始まり、快調なアクションのつるべ打ち(飛行機による脱出シーンはF・キャプラの「失はれた地平線」へのオマージュ)、後半はまさにジェットコースターばりのスリリングなトロッコの追っかけアクションあり、ラストは断崖にぶら下がるクリフハンガー・アクションあり…と、単純だがB級活劇映画の面白さが巧みに再現され、楽しませてもらった。古い映画を知っていれば面白さは倍加するが、知らない人でも肩肘張らずに十分楽しめる、アクション・エンタティンメントの快作シリーズである。  (日本公開'81年)

小林さんのベスト100
 (93)「プリンス・オブ・シティ」 ('81
     監督:シドニー・ルメット
 (94)隣の女」  ('81 監督:
   フランソワ・トリュフォー
 

エレファントマン」(80) 。デヴィッド・リンチ監督。

ブルース・ブラザース」(80) 。ジョン・ランディス監督。

グロリア」(80) 。ジョン・カサヴェテス監督。

U・ボート」(81) 。ウォルフガング・ペーターゼン監督。

 

91

 「E.T.」  ('82)  米/監督:スティーヴン・スピルバーグ

植物採集の為地球にやって来て置いてけぼりになった異星人(E.T.)と、郊外に住む母子家庭の少年エリオット(ヘンリー・トーマス)との交流、そして別れを描いた、心温まるSFファンタジーの傑作。大ヒットして興行収入の新記録を打ちたて、かつキネ旬をはじめあらゆるベストテンで第1位を独占した。私もリアルタイムで、子供を連れて観に行ったが、まさに大人も子供も楽しめる、感動と興奮に満ちた素晴らしい作品であった。多分私も含め、スピルバーグ・ファンにとってスピルバーグ作品中の最高傑作ではないかと思う。それはこの作品には、夢、希望、愛、友情、心の触れ合い、勇気…といった、人間として、決して忘れてはならない大切な要素がぎっしりと詰め込まれているからなのだろう。最初の登場シーンではグロテスクな感じだったE.T.が、だんだんと可愛らしくなって来る演出もうまい。E.T.とエリオットが自転車で空を飛び、月を横切るシーン(後にスピルバーグのプロダクション、アンブリンのトレードマークとなった)が忘れ難い。このシーンはディズニー・アニメ「ピーター・パン」のワンシーンを思い起こさせるが、子供たちと空飛ぶヒーローとの交流、死にかけたE.T.(「ピーター・パン」ではティンカーベル)が子供たちの必死の呼びかけで生き返るシーン、大人に囲まれ危機一髪の場面でE.T.の超能力が子供たちを救うシーン(子供たちがみんな空を飛ぶ)…など、「ピーター・パン」からヒントを得たらしきシーンがいくつもある(スピルバーグは後に、大人になったピーター・パンの物語「フック」を監督している)。大人になっても、子供の頃の純粋な気持ちを忘れないでいて欲しい…そんな願いも込められた、これはスピルバーグからの素敵な贈り物なのである。
  (日本公開'82年) 

双葉さんのベスト100
 (97)「ファニーとアレクサンデル」
   ('82 監督:イングマール・
          ベルイマン


ブレードランナー」(82) 。リドリー・スコット監督。

ガンジー」(82) 。リチャード・アッテンボロー監督。

ライトスタッフ」(83) 。フィリップ・カウフマン監督。

92

 「ストリート・オブ・ファイヤー」 ('84) 米/監督:ウォルター・ヒル

冒頭、「ロックン・ロールの寓話」というタイトルが出る。そう、これはさまざまなロックン・ロール・ナンバーで綴られたおとぎ話である。ある町で、ロックのスーパースターとなった歌姫・エレン(ダイアン・レイン)が不良グループに誘拐される。それを知った、エレンのかつての恋人、トム(マイケル・パレ)が彼女を救う為に、数年ぶりでこの町に戻ってくる。トムは男勝りの女、マッコイ(エイミー・マディガン)の助けも借りて敵陣に乗り込み、エレンを救出した後、またフラリと町を去って行く。…と、ストーリーはいたって単純明快。西部劇か日活無国籍アクションのノリである。しかしこの映画の面白さは、ウォルター・ヒル監督のスタイリッシュ、かつロックのリズムに乗せたテンポのいい演出によるところが大きい。シーンの繋ぎはギザギザの荒々しいワイプ、そしてコンサート・シーンではさまざまな角度から撮った短いカットを絶妙に繋いで、まるでロック・コンサート会場にいるかの如き臨場感で興奮させられた。マイケル・パレはカッコ良く、ダイアン・レインは可憐、そして悪役、ウィレム・デフォーは憎たらしく…と、絵に描いたようにそれぞれ決まっている。落ち込んでいる時など、CDでサントラを聴くとスッキリした気分になれること請け合いである。無論DVDで観るも良し。ともあれ、何度観てもスカッとする、ウォルター・ヒル監督の最高作と言える、痛快エンタティンメントの快作である(ただ、これ以降ヒル監督作品は急速にパワーダウンしてしまうのだが…)。
  (日本公開'84年)

双葉さんのベスト100
 (98)アマデウス」  ('84 
  
監督:ミロシュ・フォアマン

小林さんのベスト100
 (95)「ハドソン河のモスコー」
   ('84監督:ポール・
        マザースキー

ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」(84) 。ロバート・ゼメキス監督。

「アマデウス」(84)。ミロシュ・フォアマン監督。

「ターミネーター」(84)。ジェームズ・キャメロン監督の出世作であると同時にA・シュワルツェネッガーのブレイク作でもある。ベストには「2」の方を入れたが、こちらも捨てがたい傑作。

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(84)。ジム・ジャームッシュ監督。

「プロジェクトA」(84)。ジャッキー・チェン監督。

93

 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 ('85) 米/監督:ロバート・ゼメキス

ロバート・ゼメキスは、S・スピルバーグ製作総指揮の「抱きしめたい」で監督デビューし、その後もスピルバーグ製作「ユーズド・カー」の監督、スピルバーグ監督「1941」の脚本を担当するなど、スピルバーグとの縁は深い。彼以外にもスピルバーグ製作作品を演出した監督は数多くいるが、デビュー作を含めてスピルバーグと長い付き合いのある作家はゼメキズだけではないか。その意味ではゼメキスはスピルバーグ直系の弟子とも言える。本作もスピルバーグ製作作品であり、かつ二人の組んだ作品中最大のヒットを記録し、パート3まで続編が作られるほどの人気シリーズとなった。ゼメキス自身もこれで一流監督の仲間入りを果たし、遂には「フォレスト・ガンプ/一期一会」でオスカーを受賞するまでに登りつめる。
 タイムマシンものは数あれど、この映画は着想のユニークさではトップクラスである。自分が生まれる前の時代にタイムトリップし、なんと若き日の母(リー・トンプソン)に惚れられてしまい、父と結婚してくれなかったら自分はこの世に生まれなかった事になる。果たして父と母は結ばれるのか、また主人公は無事に現代に戻って来れるのか、等々、スリリングな要素がてんこ盛り。SFではあるけれど、懐かしき
1950年代を舞台としたノスタルジックな青春映画でもあり、文字通り時間に追われるタイムリミット・サスペンスの要素もあり、はたまたシリーズを通して観れば、主人公マーティ少年(マイケル・J・フォックス)の成長の物語でもある…と、随分欲張った内容の映画である。また、パート22015年を舞台とした未来世界の描写と、後半は時間軸のズレを修正すべく過去と未来を行ったり来たりのSFドタバタ・コメディ、パート3は西部劇と、1作ごとにテーマをガラっと変えているのも面白い。ケッサクなのは、2作目以降、1作目で使われたギャグが繰り返し形を変えて登場する点で(例えば毎回、気絶したマーティを起すのがそれぞれの時代のリー・トンプソンであったり、最後はいつも悪役トーマス・F・ウィルソンがコヤシまみれになったり)、細かい所まで練りに練られた脚本が秀逸である(脚本はゼメキス自身と相棒のボブ・ゲイル)。マーティの友人であり、またある時は父のような存在でもあるタイムマシン発明の科学者ドク・ブラウンを演じたクリストファー・ロイドの怪演も見もの。
とにかく、楽しくて、底抜けに明るくて、ハラハラ・ドキドキさせられ、そして“未来をいい時代に変えて行くのは自分自身なのだ”という力強いテーマに勇気付けられる、これは映画史に残る一級のSFエンタティンメントの傑作シリーズであると言えよう。
    (日本公開'85年) 

小林さんのベスト100
 (96)「アフター・アワーズ」 ('85
   監督:マーティン・
         スコセッシ


「コーラスライン」(85)。リチャード・アッテンボロー監督。

「エイリアン2」(86)。ジェームズ・キャメロン監督。

「プラトーン」(86)。オリバー・ストーン監督。

 

94

 「スタンド・バイ・ミー」  ('86)  米/監督:ロブ・ライナー

人気ホラー作家、スティーヴン・キングの原作(短編集の中の1編)によるものだが、キング作品中では珍しく非ホラー系であり、かつ感動的な秀作に仕上がっている。
オレゴンの田舎町に住む4人の少年たちが、行方不明になった少年の死体を見つけようと、連れ立って人里離れた森に向かう。それは初めて体験する冒険旅行。ヒルのいる沼、森での鹿との出遭い、鉄橋では列車に轢かれそうになったり・・・さまざまな冒険を経て、少年たちはやがて“人の死”というものの重みを実体験することになる。
子供から、やがて大人に脱皮する少年期の心の不安定さ、心情を少年たちの視点でナイーブに見つめた、ロブ・ライナー監督の繊細な演出が光る。早逝したリバー・フェニックスの初々しい演技も今となっては忘れ難い。見直すごとに切なくなる、これは誰もがかつては少年だったことを思い起こさずにはいられない、青春映画の不朽の名作なのである。映画のタイトルにも使用された、ベン・E・キングの歌う主題歌もこれまた素敵な名曲。ちなみに、亡きジョン・レノンもこの曲を愛唱していたことでも知られる。なお、少年の一人であり、後に小説家となったゴーディの大人役を演じていたのが、これまた青春映画の傑作「アメリカン・グラフィティ」の主演者、リチャード・ドレイファスであるのも奇しき因縁と言えようか。 
  (日本公開'87年) 

「グッドモーニング・バビロン!」(87)。パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督。

「アンタッチャブル」(87)。ブライアン・デ・パルマ監督。

「ラストエンペラー」(87)。ベルナルド・ベルトルッチ監督。

「ロボコップ」(87)。ポール・ヴァーホーヴェン監督。

「ベルリン 天使の詩」(87)。ヴィム・ヴェンダース監督。

「紅いコーリャン」(87)。チャン・イーモウ監督。

「バグダッド・カフェ」(87)。パーシー・アドロン監督。

95

 「ニュー・シネマ・パラダイス」 ('88) 伊/監督:ジュゼッペ・トルナトーレ

当時弱冠29歳の新進、ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、映画への熱い思いを込めて描いた珠玉の名作。
今は映画監督として名をなしているサルヴァトーレ(ジャック・ペラン)が、故郷シチリアの小さな村にいる母から、少年時代に父のように慕っていた映写技師アルフレードの訃報を聞き、故郷に帰ってくる。そこから物語は、彼が少年時代に過ごした懐かしい想い出、とりわけ、アルフレードが勤めていた村唯一の映画館、パラダイス座でのかけがえのない日々の回想へと移る。戦後すぐ、映画が娯楽の王様だった時代、村の人々はみんな映画に夢中で、サルヴァトーレ少年(子供時代はトトと呼ばれた)も当然ながらパラダイス座に入り浸り、数多くの映画を観続ける。堅物の司祭はキスシーンが登場するとアルフレードに命じてカットさせたりもするが、それにもめげず、村人たちは映画をこよなく愛している。セリフを丸暗記して、泣きながらセリフを先読みする人もいれば、「この映画を観るために病気の女房を置いて来た」と言う老人までいる。そんなエピソードを織り交ぜながら、映画は後半、フィルム火災によるアルフレードの失明、そしてトトの淡い恋、やがて映画監督を志すトトの旅立ちを描いて現代に戻る。パラダイス座は閉館され、取り壊されることになっていた。そして、サルヴァトーレがアルフレードの形見として受け取ったフィルム缶…その中には、映画への愛とアルフレードの想いがぎっしり詰まっていた……。
  このラストは、映画ファンは無論のことだが、そうでなくとも、一度でも人を愛したことのある人なら、間違いなく号泣するだろう。なぜなら、この映画はさまざまな形の“愛”を描いた映画だからである。トトや村人たちの映画への愛、トトとアルフレードの師弟愛、トトの悲しい恋愛、そして何よりもアルフレードのフィルムに対する愛…。それらの集大成として、司祭によって削除されてしまった、夥しい数の“愛”の名場面(それは映画史におけるラブシーンの歴史でもある)がラストに至って、洪水のようにほとばしる。映画史上、最高と言ってもいい、至福の瞬間である。エンニオ・モリコーネの切なくも美しいメロディがさらにその感動を盛り上げる。これは、愛の大切さを知る人、そして映画を愛するすべての人に捧げる、宝物のような映画なのである。なお、別に3時間近い、「完全オリジナル版」があるが、どちらが良いかは好みの問題である。個人的には初公開版の方が、初見という事もあって愛着がありますね。   (日本公開'89年)

双葉さんのベスト100
 (99)霧の中の風景」  ('88 
  
監督テオ・アンゲロプロス



「ダイ・ハード」(88)。ジョン・マクティアナン監督。

「グラン・ブルー」(88)。リュック・ベッソン監督。

「ブラック・レイン」(89)。リドリー・スコット監督。

「ダイ・ハード2」(90)。レニー・ハーリン監督。

「ダンス・ウィズ・ウルブス」(90)。ケヴィン・コスナー監督。

「ニキータ」(90)。リュック・ベッソン監督。

「髪結いの亭主」(90)。パトリス・ルコント監督。

96

 「フィールド・オブ・ドリームス」 ('89) 米/監督:フィル・アルデン・ロビンソン

W・P・キンセラの小説『シューレス・ジョー』の映画化。題名のシューレス・ジョーとは、大リーグ・ホワイトソックスで起きた八百長事件(「エイトメン・アウト」という映画に詳しい)で球界を追放された、ジョー・ジャクソンの愛称(いつも裸足(シューレス)でいたせい)である。
ある日「それを作れば、彼はやって来る」という“天の声”を聞いた農夫レイ(ケヴィン・コスナー)が、自分のトウモロコシ畑を潰して野球場を造り始める。最初は訝しく思っていた家族も、やがて信念に従って行動するレイを暖かく見守る。球場が完成後しばらくして、今は亡きシューレス・ジョー(レイ・リオッタ)を含むホワイトソックス事件の8人の亡霊が球場に姿を見せる…。
ちょっと間違えると、安っぽい幽霊映画になってしまう所だが、丁寧なロビンソン監督の演出によって、爽やかなファンタジーの秀作となった。特にアイオワ州でロケしたトウモロコシ畑の美しい映像(撮影は「カラー・オブ・ハート」などの名手ジョン・リンドレー)が見事な効果を生み出している。そしてラスト、レイの前に、わだかまりが解けないまま死に別れた父が姿を現す。やがて父子は和解し、キャッチボールを行う。親子の気持ちが素直に繋がり合う、このラストには泣けた。
この映画は、信じる事の尊さ、愛する人を思う事の素晴らしさ、そして夢を追い求める事の大切さ…を詩情豊かに描いた、ロビンソン監督にとっても、恐らくは二度と作れないであろう(事実この作品以外に目立ったものはない)、まさに奇跡のような傑作なのである。   (日本公開'90年)

「羊たちの沈黙」(91)。ジョナサン・デミ監督。

「レザボア・ドッグス」(91)。クェンティン・タランティーノ監督。

「許されざる者」(92)。クリント・イーストウッド監督。

「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」(92)。マーティン・ブレスト監督。

「クライング・ゲーム」(92)。ニール・ジョーダン監督。

「ジュラシック・パーク」(93)。スティーヴン・スピルバーグ監督。

「シンドラーのリスト」(93)。スティーヴン・スピルバーグ監督。

97

 「ターミネーター2」 ('91) 米/監督:ジェームズ・キャメロン

キャメロン監督の前作「ターミネーター」も秀作だったが、本作はさらにそれを上回る傑作である。前作でジョン・コナーの母暗殺に失敗した敵は、今度は少年時代のジョン・コナーを抹殺すべく、更に強力なターミネーター、T-1000を送り込む。それを阻止し、ジョンを守る為に、前作の悪役T-800(アーノルド・シュワルツネッガー)が、善玉にプログラム改良されて現代にやって来る…。つるべ打ちのアクションシーン、CG特撮が凄いのは言うまでもないが、私が感動したのは、ロボットであるT-800でさえも、さまざまな事を学習し、そのプロセスを経て、やがて人を守る為、未来を守る為に自己を犠牲にする、愛と勇気と献身の心を獲得して行くというストーリーの素晴らしさである。ラストで、ジョンがT-800に、「ダメだ、死ぬな」と懇願する中、T-800が静かに自己の使命を悟って溶鉱炉に降りて行くシーンには泣けた。T-800とジョンの間に、父と子のような情愛が深まって行く丁寧な演出も見事である。これは単なるSFアクション・ドラマを越えて、“運命だからと諦めてはいけない。未来は自分たちの手で切り開いて行くものである”という奥深いテーマを追求した、愛と感動のファンタジーの秀作なのである。   (日本公開'91年)

小林さんのベスト100
 (97)羊たちの沈黙('91
     監督:ジョナサン・デミ

 (98)許されざる者」  ('92
  監督リント・イーストウッド

「ピアノ・レッスン」(93)。ジェーン・カンピオン監督。

「スピード」(94)。ヤン・デ・ボン監督。

「レオン」(94)。リュック・ベッソン監督。

「ショーシャンクの空に」(94)。フランク・ダラボン監督。

「フォレスト・ガンプ/一期一会」(94)。ロバート・ゼメキス監督。

98

 「さらば、わが愛/覇王別姫」 ('93) 香港/監督:チェン・カイコー

中国の巨匠、陳凱歌(チェン・カイコー)監督による、京劇に全てを捧げた二人の男の波乱に満ちた生涯を、文化大革命などの中国の歴史を背景に骨太に描いた秀作。
京劇の養成所に入り、友情で結ばれた二人の男が、後に成長して程蝶衣(レスリー・チャン)、段小樓(チャン・フォンイー)という名で京劇界きってのスターとなって行く。程蝶衣は女形として厳しい修行を重ねるうち、やがて段小樓に女として恋心を抱くようになるが、段小樓はそれに気付かない。そして激動の時代の波に二人の男たちは翻弄されて行く…。
3時間近い長尺でありながら、少しもダレることなく物語を引っ張って行くチェン・カイコーの重厚な演出に感嘆。別姫を演じたレスリー・チャンの美しさと繊細な演技力にも脱帽。20世紀末期に急速に力を付けて来た中国・香港映画のパワーをまざまざと知らされる一編である。

 (日本公開'94年) 

小林さんのベスト100
 (99)パルプ・フィクション
  ('94 監督:クエンティン・
       タランティーノ

(100)「世界中がアイ・ラヴ・ユー」
 
('96 監督:ウディ・アレン


「トイ・ストーリー」(95)。ジョン・ラセッター監督。

ウォレスとグルミット、危機一髪!」(95)。ニック・パーク監督。

「ロストワールド ジュラシック・パーク」(97)。スティーヴン・スピルバーグ監督。

「コンタクト」(97)。ロバート・ゼメキス監督。

99

 「マトリックス」 ('99) 米/監督:アンディ&ラリー・ウォシャウスキー

今更言うまでもなく、キアヌ・リーヴス主演で大ヒットし、SF映画に革命をもたらしたエポックメイキングな秀作。マシンガンショットと呼ばれる静止回転ショットには度肝を抜かれた。しかし私がこの作品を素晴らしいと思うのは、今何の疑問も抱かず、平穏に暮らしていると思っている人生が実は仮想現実で、実態は眠らされたままマインドコントロールされている悪夢のような世界だった…という着想のユニークさである。もしかしたら、我々の生活だって仮想現実かも知れない…と思うとゾッとする。それでも、全体としてはカンフー・ワイヤーアクション、ジョン・ウー監督のスタイリッシュ・アクション、押井守監督のアニメ「攻殻機動隊」…等々からいろんなアイデアを借用し、サービス精神満点のエンタティンメントに仕上げている点はお見事である。まさに、世紀末にふさわしいSF映画の金字塔と言えよう。圧倒的好評につき、5年後にパート2、パート3が作られたが、残念ながら1作目には遥かに及ばない凡作だった。やはりこれも「スター・ウォーズ」同様、1作目で止めておけば・・・と悔やみたい作品である。   (日本公開'99年) 

双葉さんのベスト100
(100)「恋に落ちたシェイクスピア」    ('98 監督:ジョン・マッデン


「タイタニック」(97)。ジェームズ・キャメロン監督。

「ガタカ」(97)。アンドリュー・ニコル監督。

「L.A.コンフィデンシャル」(97)。カーティス・ハンソン監督。

「プライベート・ライアン」(98)。スティーヴン・スピルバーグ監督。

「シックス・センス」(99)。M・ナイト・シャマラン監督。

100

 「初恋のきた道」  ('99)  中国/監督:チャン・イーモウ

“20世紀のベスト100”の最後を飾るのは、中国の巨匠、チャン・イーモウ監督の心に沁みるこの秀作である。わが国公開は2000年12月―そう、20世紀最後の月である。まさにフィニッシュにふさわしいと言えよう。
これが映画デビューとなるチャン・ツィイーのなんたる可愛らしさ、ひと目で惚れた年上の教師に寄せる愛の健気さ、ひたむきさ。いつ帰って来るかも分からない男を、吹雪の日にも待ち続ける、その愛の強さに心打たれる。現代をモノクロで、過去を目も鮮やかなカラーでとフィルムを使い分けている点もうまい。これによって、母の若き日の初恋模様がよりファンタスティックに美化され、主人公の心の中に強く印象付けられていることが観客に伝わって来るのである。チャン・ツィイーの着ている、真っ赤な服も目に鮮やかで忘れ難い。人が人を愛し続ける、その崇高さは、いくら時代が変遷しようとも、永遠に変わることはないのである。

 (日本公開'2000年) 

「海の上のピアニスト」(99)。ジュゼッペ・トルナトーレ監督。

「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(99)。ヴィム・ヴェンダース監督。

「シュリ」(99)。カン・ジェギュ監督。

「遠い空の向こうに」(99)。ジョー・ジョンストン監督。

「アイアン・ジャイアント」(99)。ブラッド・バード監督。

「あの子を探して」(99)。チャン・イーモウ監督。

「スペース・カウボーイ」(00)。クリント・イーストウッド監督。

 

・・・永らく(本当に!)お待たせいたしました。ようやく洋画編100本の紹介が完成しました。これで足掛け4年(くらいかな?)に亘った20世紀のベスト100が完結したことになります。しかし、日本映画の時にも書きましたが、100本を選ぶのは本当に骨が折れます。ともあれ、このコーナーを楽しみにしていた方々には、長い間お待たせして誠に申し訳ありませんでした。
前回、パート4からなんと1年半以上も経ってしまったわけですが、これも日本映画編でも書きましたが、どうも'70年迄と比べて、'71年以降の作品は観た本数はやたら多いのに、いざ取り上げようとすると帯に短し…でもう一つ愛着の湧く作品が少なく、20本を選ぶのにも四苦八苦しました。やっと作品が決まっても、今度は感想を書く段になって筆の進みがぐんと遅くなります。これはやはり 、'70年以前の作品は私の中で古典と言うかスタンダードになっていて思い入れも深く、書きたいことがスラスラ出て来るのに対して、最近の作品にはそういう思い入れがどうしても乏しいという事なのでしょう。作品傾向にしても、昔の作品はメロドラマや重厚な内容を持った作品が多いのに、最近の作品は(自分で選んでて言うのも何ですが)やたらSFやら派手なアクションものが目立ちます。それだけ時代が軽くなっているのでしょうか。―それから、欄外のその他参考作品については、とにかく早く20本をアップしたいので、後半は題名と監督名を挙げるに留まっています。こちらの感想文は、いずれ追々書かせていただきます(そのままになる可能性もありますが(苦笑))。
最後に参考として、100本のうち、演出本数の多い監督の名前を挙げておきます。
最多がA・ヒッチコックの7本。次点がC・チャップリンビリー・ワイルダーのそれぞれ6本。この3人は予想通り。以下、S・スピルバーグが4本、ジョン・フォード、フランク・キャプラ、ヴィンセント・ミネリ、ルネ・クレマン、ウィリアム・ワイラー、デヴィッド・リーン、F・トリュフォー、ロバート・ワイズ、アーサー・ペン、ジョージ・ルーカスが各2本…という順になります。なお参考として、監督ではありませんがウォルト・ディズニー製作作品が4本あります。

 

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