PART 5 (No.81〜100)
No ベ ス ト 作 品 ご 参 考
81

 「白い指の戯れ」 ('72) 日活/監督:村川 透

前回述べたように、(一般映画としての)日活映画は一旦'71年8月をもって終了した。我々日活映画ファンは言いようのない寂しさに襲われた。…やがて'71年11月より、いわゆる“日活ロマンポルノ”がスタートした。第1弾は、それまで一般映画を撮っていた西村昭五郎と林功監督。ピンク映画から女優をスカウトし、男優は清順作品などのアクション映画に出ていた脇役俳優(高橋明や榎木兵衛など)、アングラ劇団俳優などが務めていた。…旧日活時代への思い入れが強かった私は、最初の頃はほとんど観る気もしなかったのだが、旧日活末期から気になっていた若手監督(加藤彰や蔵原惟二)らが演出を手掛けるようになって、少しづつロマンポルノを観るようになった。加藤彰の「恋狂い」に、澤田幸弘「反逆のメロディー」が映画館で上映されているシーンが出て来るのを観て密かにニンマリしたりしたものだ。
ところが、'72年1月に、何の気なしに入った小屋で「濡れた唇」(神代辰巳監督)を観て衝撃を受けた。四人の若い男女たちが、はずみで人を殺し、ただフラフラと旅をする…話としてはそれだけなのに、青春の鬱屈した思いをブツブツとつぶやく主人公(これは以後の神代映画のトレードマークとなる)、さまざまなアクシデントを即興風に切り取った斬新なカメラ、それらを飄々としたユーモアでくるんだ緩急自在の演出…等々に瞠目し、スクリーンに目が釘付けになってしまった。主演の絵沢萌子もユニークな存在感があって面白く、これはまったく新しい、“日活ヌーベルバーグ”とでも呼びたい傑作だと思った。…ロマンポルノを積極的に観るようになったのはそれからである。(いくつかのロマンポルノの秀作については右欄外を参照)
そして同年6月、新人村川透監督のデビュー作「白い指の戯れ」が登場する。これは神代辰巳が以前に書き貯めていたものの、採用されずおクラになっていたシナリオを村川がロマンポルノ用に手直ししたもので、テイストは明らかに神代のものである。
ちょっと太めの伊佐山ひろ子が鮮烈なデビュー。レッカー車に引かれて行く自動車を見てさえ涙ぐむ少女(伊佐山)が男に誘われスリグループに。やがて仲間たちとの共同犯行を重ねるうちに、少女はそれまでの人生で味わえなかった喜びを見出して行く…。村川透の繊細かつヴィヴィッドな演出を得て、これは旧日活映画の流れを汲む爽やかな青春映画の佳作となった。途中から登場する荒木一郎もいい味を出しており、荒木にとっても代表作と言えるだろう。ラスト、執念深く追う刑事(粟津號)の後姿にペッと唾を吐く荒木のショットがストップモーションになった鮮やかな幕切れも忘れ難い。
もう作られないだろうと思っていた、日活青春映画がここに見事に甦った。その事だけでも嬉しくて私は映画館の暗闇で、心の中で快哉を叫んでいた。日活ロマンポルノはその後も神代辰巳を中心として数多くの秀作を生んだが、忘れられない1本として、この作品を挙げておくこととする。

*ここでは、私が選ぶ日活ロマンポルノの傑作について、年代順に紹介してゆきます(左に紹介したものは除く)。

「牝猫たちの夜」
(72)。田中登監督の鮮烈なデビュー作。少年が飛び降り自殺した瞬間、赤いパラソルが落ちて行くシュールな演出が見事。
「㊙女郎市場」(72)。鈴木清順の弟子に当る曽根中生監督の秀作。ユーモアとペーソスが絶妙。

「恋人たちは濡れた」(73)。神代辰巳監督のこれも傑作。長回しの馬飛びシーンが忘れ難い。
「エロスは甘き香り」(73)。藤田敏八監督。桃井かおりが可愛らしい。
「㊙女郎責め地獄」(73)。これも田中登の傑作。断片的な映像のコラージュが効果的。
「濡れた荒野を走れ」(73)。沢田幸弘監督。脚本は長谷川和彦。
「四畳半襖の裏張り」(73)。神代辰巳監督の傑作。宮下順子と江角英明がいい。ベストに入れたかった。

「濡れた欲情・特出し21人」(74)
「四畳半襖の裏張り・しのび肌」(74)。共に神代辰巳監督による続編もの。どちらも1作目よりはやや落ちるが、でもやはり秀作です。
「㊙色情めす市場」(74)。またまた田中登監督の快作。釜ケ崎を舞台にふてぶてしく生きる女たちの熱いドラマ。芹明香がいい。
「実録阿部定」(75)。これも田中登。田中は神代と並んで、ロマンポルノで力量を発揮するチャンスに恵まれた異才である。

「犯す!」(76)。「暴行切り裂きジャック」(76)。どちらもニューアクションの鬼才・長谷部安春監督が開拓したバイオレンス・ポルノの傑作。
「人妻集団暴行致死事件」(78)。またまた田中登。室田日出男が好演。
「天使のはらわた・赤い教室」(79)。曽根中生の最高作。水原ゆう紀が体当たりの熱演。
「赫い髪の女」(79)。神代辰巳。言うことがない力作。
「嗚呼!おんなたち・猥歌」(81)。神代辰巳。内田裕也がいい。

「狂った果実」(81)。根岸吉太郎監督。本間優二が好演。
「天使のはらわた・赤い淫画」(81)。池田敏春監督。
「ラブホテル」(85)。相米慎二監督。ポルノを撮っても凄い。
「母娘監禁・牝」(87)。荒井晴彦脚本・斉藤水丸監督。前川麻子快演。ロマンポルノ末期の傑作。

82

 「一条さゆり・濡れた欲情」 ('72) 日活/監督:神代 辰巳

旧日活時代は不遇をかこっていた神代辰巳('67年のデビュー作「かぶりつき人生」が不評でホされていた)が、ロマンポルノ時代になって一気にその特質が花開いた感がある。もしかしたら日活がロマンポルノ製作に踏み切らなかったら、神代辰巳は永遠に作家として芽が出なかったかも知れない。人間の運命というものは不思議なものであると実感せざるを得ない。
これは、伝説的なストリッパー、一条さゆりの半生をセミドキュメンタリー的に描くというのが当初の企画だったが、神代はそこに伊佐山ひろ子扮する駆け出しのストリッパーをからませ、実質的には一条をライバルとして奮闘する伊佐山を主人公とした異色の風俗コメディに仕立て上げている。彼女にからむヒモの男たち(「濡れた唇」の谷本一、粟津號、そして高橋明!)とのトボけた関係や、ストリッパー同士の競争なども楽しい。高橋明歌う春歌がバックミュージック風にアレンジされ、社会の底辺でたくましく生きるさまざまな男女たちの哀感が見事に描かれた、これは人間喜劇の傑作である。脚本家の笠原和夫氏は「仁義なき戦い」の脚本作りに悩んでいた時、この映画を観て、自由奔放な人物の描き方が大変参考になったそうである。これはキネマ旬報のベストテンに入った他、伊佐山ひろ子が主演女優賞、神代が脚本賞をそれぞれ受賞し、ロマンポルノが社会的に認められたという点でも画期的な位置を占める作品であると言えよう。私にとっては、神代作品の中でも一番好きな作品である。

小林さんのベスト100
 (88)「一条さゆり・濡れた欲情」
   
(左参照)


「約束」(72)。斎藤耕一監督の秀作。列車の中でめぐり会ったゆきずりの男(萩原健一)と女(岸恵子)の、はかなくせつないラブストーリー。流麗なカメラワークと宮川泰の音楽が絶妙でフランス映画を見ているような味わいがあった。
同じ年、斎藤耕一が続いて撮った「旅の重さ」も力作。四国遍歴の旅をする少女の奇妙な生き方を描く。やはりカメラ(坂本典隆)が美しい。高橋洋子のデビュー作。

「故郷」(72)。山田洋次監督が瀬戸内海の島に暮らす一家の喜びと悲しみを描いた「家族」の姉妹篇。これも好きな作品ではあるが…。

「人生劇場・青春・愛欲・残侠篇」(72)。加藤泰監督。東映任侠映画が下火になり、出番が減っていた加藤泰に松竹の野村芳太郎が声をかけ、これ以降松竹で映画を作る事となった、その第1作。やはり加藤泰らしい骨太任侠映画の佳作に仕上がっていた。ただ、大作になった分、プログラム・ピクチャーとしての味わいは薄れていた。

83

 「人斬り与太・狂犬三兄弟」  ('72) 東映/監督:深作 欣二

反戦映画の傑作「軍旗はためく下に」(72)を撮った深作欣二は、しかし“良心的映画作家”と呼ばれるのを嫌い、次作としてこれまでの作品中でも最高の反社会的・バイオレンス映画を手掛けた。それが「人斬り与太」シリーズ2本である。さすが水戸っぽの反骨監督の面目躍如である。シリーズどちらも好きだが、私は特に2作目「狂犬三兄弟」の方により愛着がある。
主人公(菅原文太)は、とにかくみさかいなく暴力は奮う、強請る、女は犯す、仁義もへったくれもなく、ボスだろうと誰だろうと噛み付く…。それまでの東映任侠映画が延々と描いて来た正統ヤクザ映画のパターンをことごとくひっくり返す、型破りのダーテイ・ヒーローである。画質はワザと荒く、現像処理でコントラストを強調し、ニュース映画的な質感を出している。しかも手持ちのカメラははげしく揺れ、時には横に傾く。まさしくカメラも暴力的なのである。掟に縛られるのを嫌い、何ものからも自由でいたいという主人公たちと、それを許さない組織との戦い、そして主人公の無残な死…。“その数カ月後、(彼を愛した)女は狂犬の子を産んだ”という字幕で映画は終わる。そのエネルギッシュで荒々しい映画の活力に私を含む多くの映画ファンは熱狂した。文太も素晴らしいが、一言も喋らない薄幸のヒロインに扮した渚まゆみの体当たりの熱演にも感動した。興行的には振るわなかったが、深作欣二はこれで多くのコアなファンを掴んだ。そしてその勢いは次作の「仁義なき戦い」に受け継がれて行くのである。

「軍旗はためく下に」(72)。戦争の愚かしさを鋭く抉る深作欣二監督の傑作。これもベストに入れたかった。

「忍ぶ川」(72)。熊井啓監督。モノクロの撮影、木村威夫の美術が見事。

「子連れ狼・子を貸し腕貸しつかまつる」(72)
「子連れ狼・三途の川の乳母車」(72)。大映倒産により、勝プロが東宝配給で作った荒唐無稽チャンバラ映画の傑作。首が飛び体は真っ二つになる、まさにマンガ映画であった(笑)。光と影を生かしたダイナミックな三隅研次の演出が凄い。

「パンダコパンダ」(72)
「パンダコパンダ・雨ふりサーカスの巻(73)「ゴジラ対メガロ」などの怪獣映画に併映された短編だが、宮崎駿が脚本・場面構成も担当した傑作アニメ。監督は高畑勲。

その他、好きな作品。
「女囚701号・さそり」
(72)。伊藤俊也監督の衝撃デビュー作。
「同棲時代−今日子と次郎−(73)。山根成之監督デビュー作。*「赤い鳥逃げた?」(73)。藤田敏八監督。桃井かおりがいい。
「放課後」(73)。森谷司郎監督

84

 「仁義なき戦い」(シリーズ) ('73) 東映/監督:深作 欣二

深作欣二の名を一躍高めた、実録映画のみならず、東映アクション映画の金字塔。これは「人斬り与太」シリーズを観て気に入ったプロデューサーの俊藤浩滋氏が、この企画を立てた時、強引に深作欣二を監督に推薦したのだという。ここにも不思議な運命のめぐり合わせを感じる。焼跡の闇市シーンから始まり、壮絶なバイオレンス描写、名もなく倒れ死んで行く若者たち…。これはまさしく深作欣二に演出してもらう為に誕生したような映画なのである。そして原作によりかからず、現地に行って丹念な取材を積み重ねて書き上げた笠原和夫氏の脚本も素晴らしい出来。裏社会の血みどろの抗争劇を通して描いた、もう一つの日本と日本人の戦後史であると言えよう。笠原氏の書いた1〜4部がいずれも傑作だが、個人的に好きなのは第2部「広島死闘篇」である。特攻に行きそびれた若者・山中正治(北大路欣也)の孤独な生と死を鮮烈な映像で描いた、これは青春映画の傑作でもある。北大路欣也の壮絶な死に様は、前掲の深作映画の原点「狼と豚と人間」のリフレインであった。

小林さんのベスト100
 (89)「仁義なき戦い」全5部
   
(左参照)

双葉さんのベスト100
 (75)「津軽じょんがら節」
   ('73 監督:斎藤 耕一)

「津軽じょんがら節」(73)。斎藤耕一監督の最高作。津軽三味線の音色をバックに運命に翻弄される人間模様を描く。江波杏子が力演。

「股旅」(73)。市川崑監督の青春股旅映画の快作。

「砂の器」(74)。言わずと知れた野村芳太郎監督の宿命ドラマ。

「青春の蹉跌」(74)。神代辰巳監督の秀作。脚本は長谷川和彦。

85

 「仁義の墓場」    ('75) 東映/監督:深作 欣二

深作映画が続くが、とにかくこの時期の深作欣二の大車輪の活躍は目をみはるものがあった。とにかくどれもが質が高く、感動的かつ爽快な作品群であった(やはり笠原氏の脚本による「県警対組織暴力」も傑作)。中でも、この「仁義の墓場」は深作作品中の最高傑作である。主人公・石川力夫は実在したヤクザだが、深作は以前からこの男を描きたかったそうで、あの「狂犬三兄弟」の主人公も石川力夫がモデルだそうである。この石川力夫役を、東映初出演の渡哲也が見事に熱演。やみくもに暴れる、女は犯す、押さえ込もうとする奴は親分だろうと兄弟分だろうと斬りかかる。ヤク中毒がそれに輪をかける…。こんな凶暴なダーテイ・ヒーローは映画史の上でも例がない。ただ一人愛した女に死なれ、その骨を齧るシーンは鬼気迫る凄さである。だが見ているうちに我々はいつしか、暴力の形を借りてしか己れを表現できない人間そのものの愚かしさと愛おしさをそこに発見するのである。「大笑い、30年の馬鹿騒ぎ」…この辞世の句を残し、石川は飛び降り自殺により29歳の短い人生を終える。…体が震えるような、忘れられない凄い傑作であった。

小林さんのベスト100
 (90)「0課の女・赤い手錠」
   ('74 監督:野田 幸男)

双葉さんのベスト100
 (76)「砂の器」
   ('74 監督:野村 芳太郎)


「サンダカン八番娼館・望郷」(74)。熊井啓監督の秀作。ヒロイン(高橋洋子)の晩年を演じる田中絹代が渾身の名演技。

「0課の女・赤い手錠」(74)。野田幸男監督によるハードアクションの快作。小林信彦氏も絶賛。
「直撃地獄拳・大逆転」(74)。石井輝雄監督による、ナンセンス・パロディ・アクションの傑作。

「赤ちょうちん」(74)*「妹」(74)藤田敏八監督の秋吉久美子主演による青春映画の佳作。

86

 「青春の殺人者」 ('76) 今村プロ=ATG/監督:長谷川 和彦

長谷川和彦は、今村昌平監督の助監督を経て日活に入り、助監督のかたわら、多くのロマンポルノの脚本を手掛けた。私がその名を知ったのは、曽根中生監督「性盗ねずみ小僧」、澤田幸弘監督「濡れた荒野を走れ」の脚本である。いずれも才気を感じるユニークな出来で、既にこの頃から“ゴジ”の愛称で監督たちに愛され、その評判は我々ファンの耳にも入っていた。その後は一般映画にも進出し、神代辰巳監督「青春の蹉跌」(74)、テレビドラマ「悪魔のようなあいつ」(75)の脚本はいずれも高い評価を得た。…そういうわけで、長谷川和彦は監督デビュー前から既に一部映画ファンに知られており、監督第1作を撮ると聞いた時には私も大いに期待したのである。ましてや年齢も私とほぼ同じ(1歳年上)…。まさに同世代として熱いエールを送ったのも当然なのである。その映画「青春の殺人者」はまさしく期待にたがわぬ傑作であった。それまでテレビ等で軽い青年役を演じて来ていた水谷豊が別人のような繊細な若者像を熱演。新人原田美枝子もそれに劣らぬ力演。親殺しというショッキングな題材を、青春の怒りと哀しみを漂わせて情感豊かにに描き、素晴らしい感動を呼んだ。原作は中上健次「蛇淫」。ベテラン、田村孟の脚本も素晴らしい出来だが、それを師匠の今平譲りのねちっこい人間描写で描ききった長谷川の演出力は新人離れしていた。何よりも、監督が我々の同世代である事が余計うれしかったのである。'70年代最高の青春映画の傑作として、私にとっても忘れられない名作である。

小林さんのベスト100
 (91)「愛のコリーダ」
   ('76 監督:大島 渚)


「竜馬暗殺」(74)。黒木和雄監督。原田芳雄主演の幕末青春群像劇の秀作。松田優作がいい味を出している。

「資金源強奪」(75)。深作欣二監督の現金争奪クライム・サスペンスの快作。ラストには笑います。

「新・仁義なき戦い・組長の首」(75)。これも深作。新・シリーズ中一番よく出来ています。

「新幹線大爆破」(75)。佐藤純弥監督による和製パニック・サスペンス映画の最高作。フランスでは大ヒットしたが何故かわが国ではコケました。

「田園に死す」(75)。寺山修司監督。シュールなイメージが強烈で圧倒される。菅貫太郎がいい。

その他の、'75年の秀作。
「暗くなるまで待てない」(75)
大森一樹監督。16mmの佳作。
「ある映画監督の生涯・溝口健二の記録」(75)。新藤兼人監督。
「祭りの準備」(75)。黒木和雄監督。原田芳雄が好演。

87

 「幸福の黄色いハンカチ」  ('77) 松竹/監督:山田 洋次

「男はつらいよ」シリーズが大ヒットして、この頃には盆と正月には寅さん映画が封切られるのが恒例となっていた。その合間を縫って山田監督は、「家族」「故郷」などのリアリズム社会派劇を演出するなど、精力的な活動を続けていたのだが、古くから山田洋次作品を見続けていた私は、もう山田洋次は寅さん以外には楽しいコメディを撮らないのだろうか…と一抹の寂しさを感じていた。
そんな中、アメリカのコラムニスト、ピート・ハミルの「幸福の黄色いリボン」(これはカントリー歌手・ドーンによって歌にもなっている)に触発された山田洋次が、これを映画にすると発表した。主演は大物高倉健。…さて、どんな映画になるのかと思っていたら、なんとまあ、久しぶりに楽しい笑いと涙と感動の快作になっていた。
ストーリーは、人を殺して刑務所に入っていた男(高倉健)が出所したものの、“妻はまだ待っていてくれるだろうか”と悩み(待っているなら目印に黄色いハンカチを掲げる約束)、家に戻ろうか躊躇するが最後に勇気を振るって家に帰る…という話である。その彼とたまたま一緒に旅をする事になった若いカップル(武田鉄矢と桃井かおり)との交流を通して、男は若い二人に励まされ、また若い二人は男の毅然とした生き方から人生の重さを学んで行く…。お話としてはこの通り、やや暗い内容なのだが、武田鉄矢(これが映画初出演)のいかにも現代的若者像をカリカチュアしたようなトボけた演技を中心に、随所に笑いが巻き起こる(実際、映画館では観客はよく笑っていた)人情喜劇の味わいがあった(あの健サンが鉄矢をたしなめるのに、「おまえのような奴を草野球のキャッチャーと言うんだ」とボケをかましてくれたのには大笑いした。そのココロは…映画を見て笑ってください)。そして妻が本当に鯉幟の竿に黄色いハンカチを吊るしてくれているかどうか…というサスペンスもはらみ、健さんのみならず、観客も固唾を飲んで画面を見守っていた。そして、あのラストの名シーン…。実に感動的でポロポロ泣いてしまった。映画の感動とはこういうものである。山田+朝間義隆コンビの脚本の見事さにはただうなるしかない。永遠に心に刻み込まれる傑作である。

小林さんのベスト100
 (92)「霧の旗」
   ('77 監督:西河 克巳)

双葉さんのベスト100
 (77)「幸福の黄色いハンカチ」
   
(左参照)

「大地の子守唄」(76)。増村保造監督作品の中では一番好きな作品。「旅の重さ」の素九鬼子原作。原田美枝子が抜群の好演。

「さらば夏の光よ」(76)。山根成之監督による青春映画の傑作。郷ひろみ、秋吉久美子がいい。
「パーマネント・ブルー・真夏の恋」(76)。これも山根成之監督。佐藤祐介がナイーブな少年を好演。

「愛のコリーダ」(76)。大島渚の阿部定事件を追ったハードコア作品。当時公開されたものはカット・トリミングの連続で何が何やら分からなかった。2000年にやっとほぼ原型に近い形で公開され、ようやく凄い傑作である事を知った。

「犬神家の一族」(76)。角川映画第1弾。市川崑監督の演出はサスペンスとユーモア・ケレンが巧みに配され、大ヒットした。原作のイメージに近い金田一耕助(和服姿)が初めて描かれた作品でもある。

「狂った野獣」(76)。中島貞夫監督によるバスジャック・パニック・サスペンスの快作。川谷拓三がいい。

「やくざの墓場・くちなしの花」(76)。深作欣二監督。ダーティ刑事を渡哲也が抑えた演技で好演。

88

 「HOUSE(ハウス)」 ('77) 東宝映像/監督:大林 宣彦

アマチュア時代から16mmで「伝説の午後−いつか見たドラキュラ」などの個人映画の傑作を撮っていた大林宣彦の、商業映画進出第1弾である。私もいくつか16mm時代の作品は観ているが、映画へのオマージュやパロディに満ち溢れた楽しい作品が多かった。本作も、“家が人間を食ってしまう”という、アメリカのホラー映画にインスパイアされた企画で、脚本(桂千穂)もその線で書かれていたのだが、大林演出はなんと全編すべてに特殊効果をほどこし、風景はほとんど合成、コマ落しにオプチカル処理にアニメ効果と、もうほとんどおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさで、ポップかつサイケ(この言葉も今や死語(笑))なノリで実に楽しい快作になっていた。これまでの日本映画の殻をぶち破るような、破天荒な勢いがあり、我々は“新しい日本映画の時代が来た”ことを実感した。この年、アメリカではジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」を作り、期せずして日米で特殊効果をフルに活用した極上エンタティンメントが作られていた事になるのである。アマチュア自主映画出身作家が商業映画に進出したのも大林が最初であり、これ以降大森一樹(翌年「オレンジロード急行」でメジャーデビュー)、石井聰亙、森田芳光、長崎俊一と続く自主映画作家の商業映画進出の突破口となったという点でも、これは映画史上に記憶されるべき作品である。


「八甲田山」(77)。3年がかりで完成した、森谷司郎監督の力作。「砂の器」に次ぐ橋本プロダクション作品。酷寒の八甲田山ロケが見事な効果をあげている。

「最も危険な遊戯」(78)。村川透監督、松田優作主演による“遊戯”シリーズ第1弾。村川監督のシャレた演出で爽快なアクション映画の快作となった。松田優作もこれで一気に人気スターとなった。

「帰らざる日々」(78)。中岡京平の城戸賞受賞シナリオを藤田敏八監督が映画化。爽やかな青春映画の佳作。

「愛の亡霊」(78)。大島渚監督。藤竜也、吉行和子が熱演。

「サード」(78)。東陽一監督。軒上泊の原作を寺山修司が脚色。少年院で暮らす少年たちの青春像が爽やかに描かれた秀作。永島敏行・森下愛子の主演コンビがいい。 

89

 「太陽を盗んだ男」 ('79) キティ・フィルム=東宝/監督:長谷川 和彦

「青春の殺人者」に続く長谷川和彦監督第2作。これは当時気鋭のプロデューサーだった山本又一朗の企画によるもので、“洋画に負けない骨太エンタティンメントを”の要請に長谷川がよく応え、スピーディかつパワフルなアクションとサスペンスが充満した、日本映画の枠をぶち破った快作となった。“素人が原爆を作ってしまったら”という着想が秀逸(原案・脚本はレナード・シュレーダー)。沢田研二が社会に不満をもつ若者像を好演。凄いものを作ってしまったのに、政府への要求が「ナイターを試合終了まで放送しろ」「ローリング・ストーンズの日本公演をやれ」というのには笑った(ちなみに当時では実現不可能と思われていたこれらは、今ではいずれも実現済である)。日本映画離れしたスリリングなカーチェイス、銀座のビルから札束をバラ撒く大モブシーン、いずれも今の日本映画ではもう無理だろうと思われるくらいスケール感があり、その迫力には圧倒される。沢田をどこまでもしつこく追いかける菅原文太も凄い。何しろヘリから飛び降りるは、銃弾を無数にくらっても起き上がって来るはと、まさに元祖ターミネーターか(笑)。そのあきれるばかりの演出のパワーとダイナミズムに我々映画ファンは歓喜した。…こんな監督が日本に誕生するのを我々は待ち焦がれていたのだ
…にもかかわらず、これは興行的には今一つ盛り上がらず、そのせいだけでもあるまいが、長谷川和彦は以後24年もの間!映画を撮れないまま今日に至っている。何故彼のような凄い才能とパワーを持った映画作家がその能力を発揮出来ないでいるのか…私は残念で歯噛みする思いである。これは日本映画界の損失である。彼に活躍の場を与えない日本の映画会社やプロデューサー諸氏は猛省してもらいたいものである。

「復讐するは我にあり」(79)。今村昌平監督。緒方拳扮する連続殺人犯の逃亡から逮捕、死刑に至るまでを、今村流の人間描写で迫る。倍賞美津子、小川真由美、清川虹子ら女優陣が怪演!

「神様のくれた赤ん坊」(79)。前田陽一監督の傑作。赤ん坊ならぬ少年を預けられた同棲カップルが、父親探しの旅で自分たちの出自をも発見して行く。渡瀬恒彦・桃井かおりコンビがいいです。

「ルパン三世・カリオストロの城」(79)。宮崎駿の劇場映画監督デビュー作。スピーディなアクション、ギャク゛、サスペンスが縦横に散りばめられた快作。ルパンを純情な中年オジサンに設定した演出が楽しい。

「衝動殺人・息子よ」(79)。木下恵介晩年の秀作。息子を衝動殺人で殺された父親の怒りと悲しみを体ごと表現した若山富三郎が素晴らしい。

「天使の欲望」(79)。関本郁夫監督。社会の底辺で生きる姉妹の愛憎が見事に描かれた秀作である。おおさか映画祭ベストワン。

「十九歳の地図」(79)。柳町光男監督。新聞配達をしながら、社会に怒りを向ける孤独な少年像を本間優二が熱演。原作は中上健次。

90

 「翔んだカップル」 ('80) キティ・フィルム=東宝/監督:相米 慎二

その「太陽を盗んだ男」のチーフ助監督をやっていたのが相米慎二である。やがて相米は同じキティ・フィルムで監督として一本立ちすることとなる。原作は人気コミック、主演はアイドルの薬師丸ひろ子…という具合に、企画そのものはいかにも若者に迎合したイージーなものである。
ところが、さして期待もせず観に行ってびっくりした。カメラは主人公たちをワンカット長回しで延々と追う。主人公たちは言うに及ばず、脇の人物たちも、それぞれに生活観を感じさせる自然な演技。まるで若者たちの日常をドキュメンタリーとしてアドリブで切り取ったかの如きその演出に驚嘆した(実際には徹底したリハーサルを行っている)。やや興味本位的な原作とは似ても似つかぬ、それぞれに迷い、嫉妬し、悩みながらも明日に向かって力強く生きる青春群像をリリシズム豊かに描いた素晴らしい傑作の誕生であった。私は感動の余り場内が明るくなってもしばらく席を立てなかった。無論その年の私のベストワン…。何より、“イージな企画であっても演出次第で感動の傑作になり得る”事を発見しただけでも大収穫であった。その上年齢も私と同じ…。以後、私にとって相米慎二は最も好きな映画作家の一人となったのである。相米監督は以後も素敵な秀作をいくつか発表しているし、完成度から言えばもっと凄い作品もある。しかしインパクトの強さから言えば、誰が何と言おうとこの作品が私にとっての相米映画ベストワンなのである。2001年秋、53歳の若さで亡くなられた時は、それ故大ショックであった。まだまだすごい傑作を作れるはずだったのに、無念である(次回予定作は今年映画化された「壬生義士伝」だったと聞く。これは是非観たかった!)。心から哀悼の意を表したい。

小林さんのベスト100
 (93)「ツィゴイネルワイゼン」
   ('80 監督:鈴木 清順)

双葉さんのベスト100
 (78)「ツィゴイネルワイゼン」


「ツィゴイネルワイゼン」(80)。鈴木清順監督。田中陽造脚本。清順の映像美学が炸裂した傑作。これによってようやく鈴木清順という作家が世間に知れるようになった。見応えはあるが、私にとっての清順は日活時代の方がずっと楽しかったのである。

「影武者」(80)。15年ぶりの黒澤明監督の時代劇。武田信玄の影武者として生きた男の数奇な人生。合戦シーンの演出が素晴らしい。ただ、絵に凝り過ぎていて感銘は今一つだった。

「二百三高地」(80)。笠原和夫の脚本を舛田利雄が監督。戦争の中で戦い、苦悩する青春群像に的を絞った脚本が見事。力作である。

その他、印象に残った'80年作品
「野獣死すべし」(80)。村川透監督。松田優作主演。

「狂い咲きサンダーロード」(80)。石井聰亙監督の佳作。
「ヒポクラテスたち」(80)。大森一樹監督。
「遥かなる山の呼び声」(80)。山田洋次監督。健サンがやはりいい。

91

 「泥の河」     ('81) 木村プロ/監督:小栗 康平

浦山桐郎に師事し、大林宣彦監督「HOUSE」のチーフ助監督もやっていた小栗康平の監督デビュー作。プロデューサーは増村保造監督「大地の子守唄」など、地味な秀作を手掛けている木村元保。原作はこれ以降続々と映画化されることとなる宮本輝。昭和30年代初めの大阪を舞台に、貧しいながらもささやかに生きていた少年たちの出会いと別れを描く。小さな食堂を経営する主人公の少年の両親を演じた田村高廣、藤田弓子が印象的な好演。
少年はやがて、近くの川べりに繋留されている屋形舟に住む子供、きっちゃんと仲良くなるが、夏祭りの夜、大切なお小遣いをポケットに開いた穴から落としてしまった(私も経験がある(笑)) 事から、きっちゃんの屋形舟に招かれ、そこできっちゃんの母が客をとっている所を目撃してしまう。次の日、舟は静かに川を遡り、少年の前から姿を消してしまう。去って行く舟をどこまでも追いかけて行く少年の姿がせつなく、胸が締め付けられる。
この映画が素敵なのは、昭和30年頃の風景や服装を丁寧に再現している事で、舗装されていない砂利道(荷車が車輪を取られるシーンが出て来る)、安普請の食堂、川に繋留された屋形舟などのセットの見事さ(美術は元大映のベテラン、内藤昭氏)、そして子供たちのランニングシャツ姿!・・・どれも今はほとんど高度成長と繁栄によって消えてしまったものばかりである。私自身もあの少年たちと同年代であり、この映画を見て当時の私たちの生活風景がデジャブのように甦って来て、それだけでも懐かしさで胸がいっぱいになった。あの頃はみんな貧しかったが、子供たちもみんな純真でおおらかで、夢を抱いて明るく生きていた。そんな事を思い起こさせてくれただけでも、これは忘れられない作品なのである。キネマ旬報ベストワンを受賞。

小林さんのベスト100
 (94)「ガキ帝国」
   ('81 監督:井筒 和幸)

双葉さんのベスト100
 (79)「泥の河」
   
(左参照)



「遠雷」(81)。立松和平の原作を根岸吉太郎監督が映画化。都市化が進む近郊農地を舞台に、トマト栽培に賭ける青年(永島敏行)の生活を活写。石田えりが熱演。

「駅-STATION-」(81)。降旗康男監督、倉本聰脚本による健サン主演の刑事もの。スタイリッシュな映像が魅力。倍賞千恵子がいつもと違う役柄を好演。八代亜紀の「舟唄」が巧妙に使われている。

「幸福」(81)。市川崑監督。シルバーカラーと呼ばれる(銀残しに近い)くすんだ色彩がいい味を出している。親子の情愛が泣かせる。水谷豊が好演。谷啓もいい。

「セーラー服と機関銃」(81)。相米慎二監督と薬師丸ひろ子主演のコンビ2作目。例によって長回しで少女から大人になりかけたヒロインの感情の揺れを絶妙に描き、単なるアイドル映画を脱却していた。好きな作品である。

「陽炎座」(81)。鈴木清順監督。いつもながら映像は魅力的だが…。

92

 「竜 二」    ('83) Production Ryuji/監督:川島 透

小劇団員だった金子正次が、鈴木明夫のペンネームで書いた脚本を自主製作により映画化。ヤクザの幹部だった主人公・竜二が、いつしかヤクザ生活にむなしさを感じ、妻と子供の為に堅気になるが、それも長続きせず、やがて再びヤクザの道に戻って行く…。安定した生活というのは何なのか。体の芯まで染み付いたヤクザの心は洗い流せるものなのか。…悲しい一人のヤクザの生き様を体ごと表現した金子正次の演技は素晴らしい。そして何より、“ヤクザの家族の日常生活”描写がユニークで新鮮。「この頃野菜が高いのね」とつぶやく妻に苛立つ描写も自然でいい(これは金子の実生活も反映しているらしい)。だがもっと感動的なのは、下積み生活を続けながら、いつの日か映画俳優として脚光を浴びる時を夢見て奮闘し、遂にその夢を実現させた、俳優・金子正次自身の生き方である。だが金子の体は既にガンに蝕まれていた。日々衰え行く体に鞭打って映画を完成させたが、初公開を待つ事なくこの世を去った。私が観た劇場の前には「主演俳優・金子正次はこの映画の完成後、亡くなりました」との立看板が出ていた。それを知って観ただけに、余計観終わって涙が溢れた(なお、この映画が出来るまでを描いた映画「竜二 Forever」批評も参照してください)。妻を演じた永島暎子が好演。彼の盟友であり、この映画で監督デビューした川島透の演出も素晴らしい。ラスト、竜二と妻が何も言わず、ただ見詰め合うだけで互いの心情を伝えるシーンが印象的でジンと来る。私の行くレンタル屋には、「竜二」と「竜二 Forever」のビデオ2本が並んで置かれていた(イキな計らいである)。ちなみに、この映画で竜二の幼い娘役を演じているももちゃんは金子の実の愛娘である。思い起こすだけでも涙が出て来る、忘れられない傑作である。

小林さんのベスト100
 (95)「家族ゲーム」
   ('83 監督:森田 芳光)

双葉さんのベスト100
 (80)「細 雪」
   ('83 監督:市川 崑)

「転校生」(82)。大林宣彦監督の尾道3部作の第1弾。少年(尾美としのり)と少女(小林聡美)の体が入れ替わってしまうというファンタジーを、思春期のせつない思いを込めて絶妙に映像化した傑作。

「蒲田行進曲」(82)。深作欣二監督の言うまでもない傑作。映画への愛に溢れた、何度観ても泣ける名作である。

「さらば愛しき大地」(82)。柳町光男監督の力作。どうしようもなく堕ちて行く男を根津甚八が好演。

「TATTOO<刺青>あり」(82)。高橋伴明監督の、銀行篭城事件を起した男が射殺されるまでの生涯を描いた実話の映画化。ピンク映画を撮り続けた高橋監督の初の一般映画。見応えあり。

「ションベン・ライダー(83)。相米慎二監督。冒頭の長回しワンカット映像にたまげた。これも多感な少年少女たちの青春をビビッドに描いた力作。永瀬正敏デビュー作。

93

 「風の谷のナウシカ」 ('84) 徳間書店=博報堂/監督:宮崎 駿

ここでやっとアニメが出て来る。出来るだけアニメは避けてきたが(「白蛇伝」「太陽の王子・ホルスの大冒険」「ルパン三世・カリオストロの城」等、入れたいアニメは沢山あるが涙を飲んだ)、これは別格。宮崎駿の名前は以前から知っていたし、何よりも宮崎が初めて演出を手がけたテレビアニメ「未来少年コナン」の素晴らしさに感動していたので、公開を楽しみにしていたのである。そして観たこの作品、その壮大なビジュアルと世界観、イマジネーションの豊かさ、アクションシーンのテンポの良さ、緩急織り交ぜたストーリーの見事さ…ただただ脱帽であった。原作は雑誌「アニメージュ」に長期連載されていた宮崎自身の作画によるコミック。これは度々中断しながら10数年に亘って連載されたもので、この映画の製作時点でも未完成。従って映画の方は大幅にストーリーを組み替えて2時間に収まるようにしてあり、原作とは別物と考えて良い(この原作も素晴らしいので、映画に感動した方は是非原作もお読みいただく事をお奨めする)。
一応、終末戦争後の大気が汚染された地球を舞台にしたSF仕立てであるが、作り方はどちらかと言うと「指輪物語」「ゲド戦記」などのファンタジーに近い(中世風の甲冑を見ても明らか)。憎しみ合い、殺し合う戦争の愚かさ、それにたった一人で、わが身を犠牲にしてまでも立ち向かい、世界を救おうとするナウシカの行動が胸を打つ。そして起こる奇跡…。ラストはとても美しく、感動的である。テーマとしても、前述の戦争への怒り以外に“人間は自然によってこそ生かされている”という、宮崎作品の根底に流れるアニミズム志向も強い。おそらくこの映画はわが国のファンタジー映画の最高傑作であろう。アニメファンでない人にも、是非見て欲しいと願う。

双葉さんのベスト100
 (81)「Wの悲劇」
   ('84 監督:沢井 信一郎)

 (82)「お葬式」
   ('84 監督:伊丹 十三)


「時をかける少女」(83)。大林宣彦監督の尾道シリーズ。原田知世がとても可愛い。これも愛着のある佳作である。

「家族ゲーム」(83)。森田芳光監督の、家族崩壊をシニカルに描いた傑作。

「東京裁判」(83)。小林正樹監督の4時間半に及ぶ超長編ドキュメンタリー。しかし退屈しない。必見の力作。

「戦場のメリークリスマス」(83)。大島渚監督の秀作。ラストのビートたけしの笑顔が印象的。

「うる星やつら・オンリー・ユー(83)。押井守監督の劇場デビュー作。「スター・ウォーズ」他、映画のパロディてんこ盛りの楽しい快作。
「うる星やつら2・ビューティフル・ドリーマー」(84)。
押井守監督のシリーズ2作目だが、1作目とはガラッと変わって、永遠に夢の世界が繰り返される不条理劇の傑作。難解だが魅力的な作品である。

94

 「さびしんぼう」 ('85) 東宝映画/監督:大林 宣彦

大林宣彦監督の、「転校生」「時をかける少女」に続く“尾道3部作”の最終作。そして3部作の中で一番好きな作品である。原作は「転校生」と同じ山中恒。前作と同じく、普通は起り得ない不思議なファンタジーである。少年から大人になって行く時期に、誰もが感じる甘酸っぱい初恋の物語。その少年(尾美としのり)の前にある日ピエロのような恰好をした、初恋の相手とそっくりな少女が現れ、“さびしんぼう”と名乗る。やんちゃで、トラブルばかり起こすさびしんぼうに、少年は不思議な親近感と安らぎを感じ、心を寄せて行くが、やがて別れの時がやってくる。意外なさびしんぼうの正体はここでは書かない。映画を見て確かめて欲しい。雨の中、ピエロの化粧が落ちかけたさびしんぼうを抱きしめる少年の気持ちがせつない。全編に流れる、ショパンの「別れの曲」がとても効果的。爽やかで心がやさしくなれる、いつまでも心に残る名作である。

双葉さんのベスト100
 (83)「それから」
   ('85 監督:森田 芳光)

 (84)「早春物語」
   ('85 監督:沢井 信一郎)


「お葬式」(84)。伊丹十三の監督デビュー作。笑いながら、最後はしんみりする上質の人間喜劇。

「Wの悲劇」(84)。澤井信一郎監督。原作と異なり、舞台女優を目指す新人女優が成長して行く物語になっている。荒井晴彦の脚本が秀逸。

「麻雀放浪記」(84)。イラストレーター和田誠の監督デビュー作。端正でしっかりした演出に感服。
 

95

 「天空の城ラピュタ」  ('86) 徳間書店/監督:宮崎 駿

またも宮崎アニメ。こちらの方は一転して、血湧き肉踊る冒険大活劇アドベンチャー・ロマンである。莫大な財宝が眠る伝説の天空の城・ラピュタのありかをめぐって、そのカギを握る少女シータ(実はラピュタの末裔)の争奪戦が国防軍、特務機関、空中海賊一味をも巻き込んで行われ、そこにラピュタを見た事のある父の夢を継ぐ少年パズーも加わり、波瀾万丈のドラマが展開する。
わが「紅孔雀」から、「マッケンナの黄金」、「インディ・ジョーンズ」にまで至る典型的な宝探し冒険活劇のパターンである。追いつ追われつのアクションに、イギリス、ウェールズ地方を思わせる舞台でのジョン・フォード「静かなる男」を彷彿とさせる男たちのおおらかな殴り合い、空中海賊登場シーンはエロール・フリンの海賊映画へのオマージュ、その頭目ドーラ婆さんの暴れっぷりはギャング映画「ブラッディ・ママ」を思わせ、シータ奪回シークェンスは要塞攻略戦争映画のノリ、ラピュタを発見してからはクリフハンガーサスペンス、ラストは壮大なカタストロフ・・・と、もういろんなアクション映画の要素があきれるくらいにてんこ盛り、宮崎作品につきものの空中飛翔もあったりと、そのサービス精神には敬服するばかり。これぞエンタティンメントである。これもまた、わが国における宝探し冒険活劇としては最高傑作だと思う。つくづく宮崎駿は天才である…と感服することしきりである。アメリカにもこの作品のファンは多いようで、ピクサーのジョン・ラセター、ジェームス・キャメロンなどは宮崎ファンを公言している(キャメロンの「トゥルー・ライズ」にはシータ奪回シーンがまるごとパクられている)し、近年のディズニー・アニメには宮崎作品の影響が色濃く出ていると言われている。
…お断りしておくが、私は熱心なアニメファンではない。とにかく楽しくて感動できる娯楽映画が観たいだけで、結果として実写映画を含めて宮崎作品が無茶苦茶楽しくて感動した…という事なのである。CG全盛の現在、この「天空の城ラピュタ」をCGを駆使し、実写で映画化したら絶対面白いと思うのだが…。

双葉さんのベスト100
 (85)「海と毒薬」
   ('86 監督:熊井 啓)

「それから」(85)。森田芳光監督。夏目漱石の原作を森田流にアレンジ。松田優作、藤谷美和子がそれぞれ好演。

「乱」(85)。黒澤明監督による「リア王」の翻案。ビジュアルは凄いし圧倒されるが、物語的にはも一つ心に迫るものが少なかった。

「台風クラブ」(85)。相米慎二監督。いつもながら少女たちの多感な心を繊細且つ的確に捉える演出には感動。

「ジャズ大名」(86)。岡本喜八監督のファンキーで心躍る快作。

「恋する女たち」(86)。大森一樹監督の成長の跡が覗える青春映画の秀作。相楽晴子がいいよ。

「火宅の人」(86)。深作欣二監督の文芸大作。いいのですが私的には深作はバイオレンスの道を突き進んで欲しいと思います。

「コミック雑誌なんかいらない!」(86)。滝田洋二郎監督。内田裕也が突撃レポーターに扮するシニカルな現代批判劇の快作。

「ゆきゆきて、神軍」(87)。原一男監督の、過激な奥崎謙三の行動を追ったドキュメンタリーの傑作。これもベストに入れたかったが…。

「マルサの女」(87)。伊丹十三監督の女性査察官を主人公にした快作。対決サスペンスドラマとしても実にうまい作りである。

96

 「となりのトトロ」   ('88) 徳間書店/監督:宮崎 駿

またまた宮崎アニメ(これが最後です(笑))。でも、やはりこれも映画史に残る傑作なのだから仕方がない(キネ旬ではアニメとして初めてベストワンを獲得)。
昭和30年代初、サツキとメイの姉妹は療養中の母と退院後に暮らす為、父と共に田舎の小さな家に引っ越す。そこは近くに鎮守の森がある、神の住みかの近くだった。そしてある日、森の中で少女たちは不思議な生き物、トトロと出会う…。1作ごとに違うタイプの作品を作り続ける宮崎駿が、今度はまだ高度成長前の日本を舞台に、おおらかで人の心の温もりがある爽やかなメルヘンの世界に観客を誘う。特に波瀾万丈のストーリーがあるわけではなく、淡々と少女たちと不思議な生き物との交流が描かれているだけである。にもかかわらず、観終わってとても心が洗われ、涙が溢れてくる。それはこの映画の中に、もう私たち日本人が忘れかけている懐かしい故里の風景があり、今では失われてしまった、貧しかったけれども心は満ち足りていた時代の空気が感じられるからである(糸井重里氏によるこの映画のコピーは“忘れ物を届けに来ました”であった)。個人的には、この映画に描かれた田舎の風景が、私の子供の頃に見覚えがある故里の風景とそっくりであった事も余計感動的であった。何度見ても懐かしさで胸が一杯になる、宝石のような珠玉の名作である。

小林さんのベスト100
 (96)「ゆきゆきて、神軍」
   ('87 監督:原 一男)

双葉さんのベスト100
 (86)「マルサの女」
   ('87 監督:伊丹 十三)

 (87)「となりのトトロ」
   
(左参照)

 (88)「異人たちとの夏」
   ('88 監督:大林 宣彦)


「私をスキーに連れてって」(87)。ホイチョイ・プロ映画第1作。日本映画らしからぬ、スマートで粋でおシャレな快作である。監督は馬場康夫。

「異人たちとの夏(88)。大林宣彦監督。ノスタルジックで不思議な味わいを持った佳作。泣けます。

「火垂るの墓」(88)。高畑勲監督の戦禍で死んで行く兄妹の悲劇を描いたアニメ。もうボロボロ泣きました。

「AKIRA」(88)。大友克洋監督。壮大なスケールのSFアニメの快作。

97

 「機動警察パトレイバー・劇場版」 ('89) 松竹/監督:押井 守

またもアニメ。…うんざりしないでいただきたい(笑)。これもまた、実写映画ではとてもかなわない、壮大なイメージのSF犯罪アクション・エンタティンメントの傑作である(難解な作品が多い押井守監督作の中では最も解かり易い出来である)。こういった面白いアクション映画が何故実写で作られないのか…、それがとても残念である。
伊藤和典(後に傑作怪獣映画「ガメラ・大怪獣空中決戦」(95)を手掛けることとなる)の脚本が秀逸。近未来(1999年)、産業用ロボット(レイバー)の原因不明の暴走事故が多発し、警察が捜査に乗り出す。原因を探って行くうち、天才エンジニアが開発し、ほとんどすべてのレイバーに搭載されているハイパー・オペレーティング・システム(HOS)にウィルスが仕掛けられ、嵐になると共鳴して大暴走を起す事が判明して来る。だが開発者は既に自殺していた。折りしも台風が接近しており、このままだと東京中のレイバーが狂いだし、首都は壊滅しかねない。パトレイバー中隊は果たして事態を回避出来るのか…。そしてクライマックス、パトレイバー対暴走レイバーの大バトル・アクションが開始される。
コンピュータ・ウィルスが知らぬうちに侵入すれば、大きな被害が発生する可能性は現実に起こりうる。実際ほとんどの国民生活は今ではコンピュータ抜きでは考えられなくなっている。そういう実態があるからこそ、この映画はサスペンスフルで不気味なリアリティが感じられるのである。メカにも強い伊藤和典が、14年も前にこうした設定を取り入れたシナリオを書き上げた事自体も凄いし、それをリアルな映像とスリリングな演出で完璧に映像化した押井守の力量もまた素晴らしい。伊藤+押井コンビが警鐘を鳴らしたコンピュータ・ウィルスの脅威は現代に至るも少しも無くならず、ますます増幅の一途をたどっている。この映画は今見ても古さを感じないばかりか、危険性に鈍感なまま IT化だけが発展して、ますますその恐怖が現実味を増している今の時代にこそ再評価すべき作品であると思う。わが国ハイテクノロジー・ハイパーSFサスペンス・アクションの、時代を超えた最高傑作としてここに挙げておきたい。

双葉さんのベスト100
 (89)「千利休・本覚坊遺文」
   ('89 監督:熊井 啓)

 (90)「どついたるねん」
   ('89 監督:阪本 順治)



「快盗ルビイ」(88)
和田誠監督。映画ファンらしい和田さんの心意気が伝わる楽しいミュージカル・コメディ。

「魔女の宅急便」(89)。宮崎駿監督の、魔女の少女が悩んだり落ち込んだりしながらも成長する姿を描くアニメの秀作。好きな作品。

「その男 凶暴につき」(89)。北野武監督第1作。ハードなバイオレンス描写が凄い。衝撃の傑作。

「どついたるねん」(89)。阪本順治監督のデビュー作。赤井英和の実人生とも重ねたボクシング映画の佳作。愛着のある作品。

「鉄男」(89)。塚本晋也監督の不条理SF映画。奇妙な魅力が忘れ難い。

「夢」(90)。黒澤明監督。映像的には凄いシーンが多いのだが…。

「八月の狂詩曲」(91)。黒澤明監督。戦争が残した爪跡を描く。これはまあまあ好きです。

「ふたり」(91)。大林宣彦監督の新・尾道三部作第1弾。繊細な表現に優れた佳作。

「あの夏、いちばん静かな海。」(91)。北野武監督。これは好きな作品です。もう少しでベスト入り。

98

 「青春デンデケデケデケ」  ('92) /監督:大林 宣彦

昭和40年代初め、当時爆発的な人気があったインストルメンタル・グループ(エレキバンドと言った方が分かり易い)、ザ・ベンチャーズのサウンドにシビれてしまった高校生が、仲間たちとアマチュア・エレキバンドを結成し、文化祭で大成功を収めるまでを描いた青春映画の快作。題名の「デンデケデケデケ」とは、ベンチャーズの大ヒット曲「パイプ・ライン」のイントロの音(トレモロ・グリッサンドと言う)を表現したものである。原作は芦原すなお氏の直木賞受賞作。
で、この作品には思い入れがある。まず私と主人公たちとはほぼ同世代、そして私も当時ベンチャーズに狂っていて、レコードは買いまくり、後に(大学に入ってから)は来日コンサートにも数度行ったくらいである。劇中には私の高校生時代に流行った音楽のオンパレード、ビートルズ、アニマルズ、ビーチ・ボーイズ、コニー・フランシス、チャック・ベリー(最後に流れる「ジョニー・B・グッド」が印象的)、アストロノウツの「太陽の彼方に」、勿論ベンチャーズの代表曲もどっさり、日本勢も三田明の「美しい十代」やなぜか?春日八郎まで(笑)…と、題名を挙げるだけでもスペースが無くなってしまいそう。まあこんなわけで、流れる曲を聴いているだけでも涙がこぼれそうになるくらいである。日本版「アメリカン・グラフィティ」と言ってもいいだろう。
しかし、そんな時代背景や音楽を知らない人が観てもこの映画は面白い。なぜなら、ここには青春時代に誰もが体験する、何かへの熱中、淡い初恋、熱い友情、学生生活の思い出、別れ、旅立ち…などがぎっしり詰まっており、そして文化祭という目標に向けてのひたむきな熱情がクライマックスではじけるエンディングは、学生生活を送った人間なら誰もが感動し、胸が熱くなるに違いない。さらに素晴らしいのは、祭りが終わった後の、ポッカリと穴の開いたような寂寥感(これは原作でも白眉)が的確に表現されていた事で、これが物語の最後を見事に締めくくっていた。誰が見ても楽しめる、そして自らの青春を振り返りひと時ノスタルジーに浸れる、これは素晴らしい青春映画の傑作なのである。

小林さんのベスト100
 (97)「櫻の園」
   ('90 監督:中原 俊)

双葉さんのベスト100
 (91)「櫻の園」
 

 (92)「青春デンデケデケデケ」
   
(左参照)



「息子」(91)。山田洋次監督。父と子の強い絆を描く、感動の秀作。

「大誘拐」(91)。岡本喜八監督。天藤真傑作小説の見事な映画化。北林谷栄が絶妙の巧演。

「無能の人」(91)。竹中直人の監督デビュー作。ほのぼのとした心温まる秀作。

「12人の優しい日本人」(91)。中原俊監督。三谷幸喜の脚本による舞台劇の映画化。ディスカッションドラマとしてよく出来ている。

「いつかギラギラする日」(92)。深作欣二監督による現金争奪をめぐっての爽快なアクション。やっぱり深作はこうでなくっちゃ!

「シコふんじゃった。」(92)。周防正行監督の、弱小相撲部員が奮闘し最後に勝つという典型的なパターンの娯楽映画。脚本がよく出来ていてうまい作り方。

「紅の豚」(92)。宮崎駿監督の第一次大戦頃を背景にした航空アクションドラマ。のどかなユーモアと男のダンディズムに満ちた快作。ここでも「静かなる男」ばりの男同士の殴り合いが面白い。ジョン・フォードを敬愛しているんでしょうね。

99

 「Love Letter」 ('95) フジテレビ/監督:岩井 俊二

岩井俊二監督は、テレビの「if もしも…」シリーズの1本「打ち上げ花火、下から見るか横から見るか」で注目された期待の新鋭。「打ち上げ花火−」は私も観たが、子供たちの繊細な心の揺れがリリシズム豊かに表現された佳作だと思う(この作品はテレビドラマであるにもかかわらず、これによって日本映画監督協会が岩井俊二に新人監督賞を与えたという事で話題になった)。そして同じフジテレビ製作で中編「UNDO」(豊川悦司主演)を作った後、本作で長編劇場映画デビューとなった。
ストーリーはなかなかユニーク。ヒロイン・博子(中山美穂)が、山の事故で亡くなり、この世にいない恋人にあてて送った手紙に対して、何故か返事が来てしまう…という不思議な出だし。実は恋人と同姓同名の藤井樹(いつき)という名の女性がいたのである。この女性の樹が博子と瓜二つ(中山の二役)というからややこしい。やがて博子と樹の文通が始まり、樹は同級だった自分と同姓同名の男の樹との、中学時代の想い出を回想し、やがて樹の秘めた思いを知ることになる…。
映像がとてもフォトジェニックで、しゃれたフランス映画のような味わいがある(タイトル、クレジットが全て英語というのも面白い)。男の樹を、二人の女がそれぞれ違う角度から見つめ直して行き、それによって謎が多かった男の樹の本当の姿が見えて来る…というシナリオ(岩井俊二)が秀逸。そしてラスト、図書カードという小道具によって、隠されていた最後の謎が明らかになり、男の思いの深さを知る―というエンディングも日本映画らしからぬ、実にシャレた幕切れであった(これは「市民ケーン」の手法ではないか!)。
あまり日本映画を見ない若い観客も吸引して、この映画はスマッシュヒットとなり、各映画賞も多く受賞した(ヨコハマ、キネ旬読者ベストテン等でそれぞれベストワン獲得)。何より、暗い、ダサイと言われていた日本映画がこの作品を契機に、確実に新しく変わって来た事を実感した。…岩井俊二はその後も着実に作品を発表してはいるが、残念なのは、この作品を超える秀作を未だ生み出していない事である。頑張って欲しい。
なお蛇足だが、この作品にはプロデューサーとして、後に「ココニイルコト」で監督デビューする長澤雅彦助監督として後に「GO」で映画賞を総ナメする行定勲が参加している点にも注目しておきたい。

小林さんのベスト100
 (98)「月はどっちに出ている」
   ('93 監督:崔 洋一)

双葉さんのベスト100
 (93)「わが愛の譜滝廉太郎物語」  ('93 監督:沢井 信一郎)
 (94)「平成狸合戦ぽんぽこ」
   ('94 監督:高畑 勲)

 (95)「午後の遺言状」
   ('95 監督:新藤 兼人)

 (96)「写 楽」
   ('95 監督:篠田 正浩)

「月はどっちに出ている」(93)。崔陽一監督。在日韓国人のタクシー運転手(岸谷五朗)とフィリピン・パブで働く女(ルビー・モレノ)との恋を中心に、おかしな人間模様を描く傑作コメディ。時代を感じさせる異色作である。

「お引越し」(93)。少女の成長を描かせては右に出る者がいない相米慎二監督の、やはり傑作。

以下、'93年の好きな作品。
「ソナチネ」(93)。北野武監督の異色ハードボイルドの秀作。
「はるか、ノスタルジィ」(93)。大林宣彦監督らしい佳作。
「機動警察パトレイバー2」(93)。押井守監督の近未来SF。
「獣兵衛忍風帖」(93)。川尻善昭監督の本領を発揮した忍者チャンバラ妖奇アクションの知られざる傑作。

スペースが無くなりました。以下好きな作品の題名のみ挙げます。
「全身小説家」(94)。原一男。
「忠臣蔵外伝・四谷怪談」(94)*「午後の遺言状」(95)
「ガメラ・大怪獣空中決戦」(95)
*「攻殻機動隊・Ghost in the
     Shell」(95)。押井守監督。

100

 「キッズ・リターン」 ('96) オフィス北野/監督:北野 武

ベスト100の最後を飾るのは、私が宮崎駿と並んで“天才”と評価している北野武監督の、その中でも最も好きな「キッズ・リターン」である。北野監督作品としては、「あの夏、いちばん静かな海。」に続く青春映画であり、同作と同じく、本人が出演していない2本目の作品でもある。
二人の若者シンジ(安藤政信)とマサル(金子賢)が、高校生活から社会人へと進む過程において、一人はボクサーを目指し、一人はその夢も破れてヤクザになるが、やがて二人とも苦い挫折を味わい、そして再会するまでを描く。安藤がナイーブな若者像を好演。そして彼らを取り巻く同級生たちそれぞれのその後の人生も、時にシニカル、時に温かく描いて不思議な味わいがある。
若い時代というものは、迷い、悩み、また誘惑に負け、傷つき、失敗を積み重ねながら成長して行くものである。そうした名もない、迷える若者たちを北野武は限りなく優しくみつめ、「頑張れよ」と励ますかのように描いて行く。「俺たちもう終わっちゃったのかなあ」とつぶやくシンジに、マサルは「バカヤロウ、まだ始まっちゃいねえよ」と答える。…そう、人生はまだまだこれから、何度でもやり直すことは出来るのだ。人間そのものを厳しく、しかし愛を込めて見つめる北野武という作家の凄さが改めて感じられる、これは素晴らしい秀作である。

小林さんのベスト100
 (99)「Shall We ダンス?」
   ('96 監督:周防 正行)
(100)「御法度」
   ('00 監督:大島 渚)

双葉さんのベスト100
 (97)「Shall We ダンス?」
 (98)「HANA−BI」
   ('98 監督:北野 武)
 (99)「愛を乞うひと」
   ('98 監督:平山 秀幸)
(100)「黒い家」
   ('99 監督:森田 芳光)

うーん、スペースがない。題名だけでご勘弁を。
「Shall We ダンス?」(96)
「(ハル)」(96)
「もののけ姫」(97)
「愛を乞うひと」(98)
「がんばっていきまっしょい」(98)
「メッセンジャー」(99)
「DEAD OR ALIVE 犯罪者」(99)
「顔」(00)
「ナビイの恋」(00)

 

・・・というわけで、ようやく100本の紹介が終わりました。しかし、終わってみて、たった100本を選ぶのがこれほどシンドいとは(想像はしていたがそれ以上)思いませんでした。あれも入れたい、これも落とすに忍びない…と悩みに悩み、特に終盤に近づくにつれ、残り本数は限られて来るのだからこぼれ落ちる作品が次々出て来る。井上ひさし氏が一人でベスト100を選出した時、「何千本選ぼうと気が休まらない。地獄の苦しみだ」と述懐された気持ちがよく分かります。
'72年以降が全体の2割ほどになってしまいましたが、これはパート4までで作品を選び過ぎた…というわけではなく、やはり '71年頃までの日本映画が一番面白かった…と言えるからだと思います(この年を最後に大映、日活のプログラム・ピクチャーがなくなってしまった…という事も原因しているのでしょう)。特に終盤は、まだ公開されて日も浅いという事もあるのでしょうが、記憶に残る秀作が少なかったような気がします。もう数年経てば変わってくるのかもしれませんが…。
最後に参考として、100本のうち、演出本数の多い監督の名前を挙げておきます。
やはり黒澤明がダントツの10本。以下、小津安二郎・山田洋次が各5本、加藤泰・深作欣二が各4本、木下恵介・溝口健二・内田吐夢・本多猪四郎・鈴木清順・大林宣彦・宮崎駿が各3本…という順になります。
洋画篇も作りましたので、そちらも是非ご覧ください。

 

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