PART 3 (No.41〜60) |
No | ベ ス ト 作 品 | ご 参 考 |
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「愛と希望の街」 ('59) 松竹/監督:大島 渚 大島渚の監督デビュー作である。これは当時、松竹がトリの作品の併映用にという事で、主に新人監督に作らせたSP(ショート・ピクチャーの略か)と呼ばれる1時間程度の中篇のうちの1編である(ちなみに、山田洋次監督のデビュー作もやはりSP、「二階の他人」)。 |
小林さんのベスト100: (63)「愛と希望の街」 (左参照) *'59年の作品で楽しませてもらったのが、何と言っても東映時代劇と日活無国籍アクション。 沢島忠監督は、前年に錦之助主演の「一心太助」シリーズを2本撮り、これがスピーディかつ威勢のいい演出で目をみはった。この年では「殿さま弥次喜多・捕物道中」が楽しい。シリーズ2本目だが、これがシリーズ中一番面白い。ラストで、船をどんどん壊して遂に板だけになるという、マルクス兄弟ばり(「二挺拳銃」からのいただきか)のシュールなギャグには大笑いした。 *加藤泰監督の「紅顔の密使」(59)は、加藤作品には珍しい洋画の戦争もしくは西部劇アクションを思わせる大スケールのアクション時代劇。我が国では珍しい壮大なスペクタクル・アクションものとして評価したい。 |
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「おとうと」 ('60) 大映/監督:市川 崑
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双葉さんのベスト100:
(58)「悪い奴ほどよく眠る」 ('60 監督:黒澤 明) (59)「おとうと」 (左参照) 小林さんのベスト100: (64)「青春残酷物語」 ('60 監督:大島 渚) (65)「東京の暴れん坊」 ('60 監督:斉藤 武市) *'59年、日活では「南国土佐を後にして」によって渡り鳥シリーズがスタート。次の「ギターを持った渡り鳥」(いずれも斎藤武市監督)は宍戸錠との対決も見どころで、このシリーズは楽しませてもらった。 *赤木圭一郎主演のSPもの「素っ裸の年令」(59・鈴木清順監督)は青春映画の佳作。後の清順タッチの片鱗が垣間見える点で清順ファンには見逃せない。 |
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「黒い画集・あるサラリーマンの証言」 ('60) 東宝/監督:堀川 弘通 松本清張の連作短編のうちの1編を元に、橋本忍が後半部分を大幅に追加創作した脚本を堀川弘通が完璧に映画化。ごく平凡なサラリーマン(小林桂樹)が浮気をした帰り道、近所に住む男とバッタリ出会う。ところがその男が殺人犯人と疑われ、アリバイとして小林と出会った事を供述する。しかし小林は浮気がバレるのを恐れて、その時間は別の場所にいた…と嘘の証言する。そうした、ほんの軽い気持ちでついた嘘が、やがて本人自身にとんでもない災厄をもたらすこととなるという、実にシニカルな寓意に満ちた力作である。ラストの、涙ながらにアリバイを供述する小林の姿にはつい笑ってしまうが、もしかしたら映画を見ている我々観客自身にもそんな災難が降りかからない保証はないのである(これを見たのは丁度私がサラリーマンになった頃なので、余計身近に感じられた事もあるだろう)。見ている間は笑え、見終わってから(特に、浮気の経験のある人(笑)ほど)ゾッとしてしまう、これは平凡な日常に潜む落とし穴の恐怖を描いた、サスペンス・ドラマの秀作である。松本清張原作の映画化作品の中では、私はこれが一番好きである。 |
双葉さんのベスト100:
(60)「裸の島」 ('60 監督:新藤 兼人) *'60年は大島渚が快調。「青春残酷物語」は大島初めての一般封切作品。川津祐介と桑野みゆきが好演。傷つけながらも、何かを求めてもがく青春の痛ましさを鮮烈に描いた秀作。好きな作品である。次の「太陽の墓場」は一転、大阪釜ケ崎を舞台にした社会の底辺に渦巻く不穏なムードを切り取ったエネルギッシュな問題作。そして「日本の夜と霧」は難解だけど当時の政治状況と世相を知るには絶好の作品。リアルタイムでは観ていないが、学生時代にこれら時代を先鋭に見つめる作品群を見て感動した記憶がある。 |
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「ガス人間第1号」 ('60) 東宝/監督:本多 猪四郎 またまた出ました、隠し玉(笑)。…多分余程のSF映画ファンでもなければ、これを見ている人は少ないだろう。しかし、これはまぎれもなく、日本SF映画史上の傑作である。見ておいて損はない。 |
*小津安二郎の「秋日和」(60)も、いつもながらの小津タッチが堪能できる。原節子が「晩春」の笠智衆のような役柄で、娘(司葉子)をなんとか嫁に出そうとする母親を演じている。…時の流れを感じざるを得ない。毎度おなじみ佐分利信、北竜二、中村伸郎ら亡父の友人たちの会話が実に楽しい。これも本当はベストに入れたいのだが…。 *黒澤明監督「悪い奴ほどよく眠る」(60)は、政治と大企業の腐敗に怒りをぶつけた問題作。最後に悪はヌクヌクと生き延びる…というのも黒澤作品としては珍しい。退屈はしないが、大好きな作品とは言い難い。 *勝新太郎が極悪非道の悪人を怪演した「不知火検校」(60・森一生監督)が面白かった。これほど、やりたい放題の悪人が主役の映画も珍しい。ある意味で、逆にスカッとするくらいである。日本では珍しいピカレスク・ロマンの成功作であり、勝新の出世作としても記憶に残る佳作である。 *新藤兼人監督「裸の島」(モスクワ映画祭グランプリ)も忘れ難い作品。セリフが一切ないのも、ドキュメンタリー映画を見ているようで良かった。ただ、何度も観たくなる作品ではない(笑)。 *今村昌平監督「豚と軍艦」も、昔見ているが、あまり記憶にない。もう一度ゆっくり見てみたい作品ではある。 *中川信夫監督「地獄」(60)も面白かった。企画としてはキワ物だが、さすが「東海道四谷怪談」の名匠、地獄に堕ちる人間どもの愚かさを丁寧に描いている。地獄の特撮も予算が厳しい割には頑張っている。閻魔大王役で嵐寛寿郎が特別出演。 *その他の印象に残った60年度作品。「狂熱の季節」(蔵原惟繕)「ぼんち」(市川崑)「切られ与三郎」(伊藤大輔)「大菩薩峠」(三隅研次)。 |
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「用心棒」 ('61) 東宝=黒澤プロ/監督:黒澤 明
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双葉さんのベスト100:
(61)「用心棒」 (左参照) 小林さんのベスト100: (66)「紅の拳銃」 ('61 監督:牛原 陽一) (67)「ろくでなし稼業」 ('61 監督:斉藤 武市) (68)「用心棒」 (左参照) *羽仁進監督「不良少年」(61)が登場。この年のキネ旬ベストワン。まるでドキュメンタリー映像を見ているかのような、ザラザラ、手持ちカメラの映像が新鮮。…ところが今では忘れられたのか、文春文庫「日本映画ベスト150」にも入っていない。この落差は何なのだろうか…。 *増村保造監督「好色一代男」(61)も、増村流のスピーディな演出で、西鶴の世界を現代にも通じるパワフルなカリカチュア・コメディとして成功させている。雷蔵の軽い色男ぶりが絶妙。白坂依志夫のシナリオの功績も忘れてはならない。 |
46 |
「宮本武蔵」(5部作) ('61〜65) 東映/監督:内田 吐夢
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双葉さんのベスト100:
(62)「宮本武蔵」(5部作) (左参照) *勝新太郎が新境地を開拓した「悪名」(61・田中徳三監督)が登場。素晴らしいのは2作目「続・悪名」のラスト。俯瞰とアオリ・ショットでモートルの貞(田宮二郎)が刺殺されるシーンを捉えた宮川一夫のカメラの素晴らしさは何度見ても圧巻である。 *石井輝男の東映第1作「花と嵐とギャング」(61)が、シャープでモダンな演出で面白かった。石井演出は、東映東撮の若手監督(特に深作欣二)にも影響を与えていると見る。 *日活アクションでは、小林信彦さんもベストに挙げている「紅の拳銃」(牛原陽一監督。赤木圭一郎の遺作)が、殺し屋を育成するプロセスを丹念に描き、なかなか面白かった。 |
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「名もなく貧しく美しく」 ('61) 東宝/監督:松山 善三 これもリアルタイムで見た。木下恵介の助監督を長くやって来て、脚本家として「人間の條件」などの秀作で名をあげた松山善三の初監督作品。選んだ題材が、“耳と口が不自由な聾唖夫婦の年代記”。 |
小林さんのベスト100: (69)「妻は告白する」 ('61 監督:増村 保造) |
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「椿三十郎」 ('62) 東宝=黒澤プロ/監督:黒澤 明 「用心棒」のヒットに気を良くした東宝が、同じ主人公でもう1本…という事で作られた、黒澤にとっては珍しいシリーズもの。原作が、黒澤明にとって初めての山本周五郎である点にも注目。もともとは弟子の堀川弘通監督の為に黒澤がシナリオ化したものが、諸事情で製作延期になっていたものを、黒澤が返してもらって三十郎ものに仕立て直した…という経緯がある。その割には、見事にテンポいい時代活劇の快作になっている。とにかく、三船の豪快な殺陣が素晴らしい。そして頼りない十人の若侍たち(加山雄三、田中邦衛、江原達怡ら“若大将”シリーズのメンバーが集まっているのがなんとも楽しい)とか、捕虜になった侍(小林桂樹)がいつの間にか味方と一緒に喜んでいたりと、さりげないユーモアがちりばめられているのもいい。黒澤にとっては、息抜きで作った小品(上映時間も1時間半程度)と思われるが、それが却って出来のいいプログラム・ピクチャーにも似た、肩が凝らずに安心して見ていられる作品となっている。こういう黒澤作品をもっと見たいという気がしきりである。ラストの決闘の凄さにはただ驚く。黒澤はいつも革命的な映画手法を編み出し、映画史をリードして行く天才であり、映画の神様である。 |
*市川崑「私は二歳」(62)がこの年のキネ旬ベストワン。しかしこれは昔テレビでチラッと見た程度で、何とも言えない。機会があればちゃんと見たいと思っている。 *同じく市川崑「破戒」(62)。宮川一夫のカメラが素晴らしい。雷蔵も好演。残念ながら劇場では見ていない。 *小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」(62)。いつもながらの小津タッチは健在。これはリアルタイムで見ているが、どこが面白いのかは当時はさっぱり分からなかった(まだ中学生でしたからね(笑))。 *深作欣二「誇り高き挑戦」(62)CIAの陰謀がテーマで、ラストに国会議事堂が登場するなど、日本の黒い霧を描いた東映アクションとしては異色作。深作欣二の最初の秀作だと思う。 |
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「キューポラのある街」 ('62) 日活/監督:浦山 桐郎
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小林さんのベスト100: (70)「キューポラのある街」 (左参照) *蔵原惟繕監督「憎いあンちくしょう」(62)は好きな作品である。山田信夫のシナリオがいい。売れっ子でスケジュールに追われる人気タレントが、自己を見つめ直す為に九州までジープを搬送する。現代的なテーマに切り込んだ蔵原・山田コンビの秀作。 |
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「切 腹」 ('62) 松竹/監督:小林 正樹 小林正樹監督の、初めての時代劇だが、橋本忍の一分のスキもない緻密な脚本のおかげもあって、見応えのある傑作となった。原作は滝口康彦の「異聞浪人記」。滝口康彦はこの後、やはり橋本忍脚本・小林正樹監督で映画化された「上意討ち」の原作も書いている。両作に共通するのは、封建社会の理不尽さであり、そうした体制に反逆する個人の怒りと無念である。 |
双葉さんのベスト100:
(63)「切 腹」 (左参照) (64)「秋津温泉」 ('61 監督:吉田 喜重) *植木等の出世作「ニッポン無責任時代」(62・古沢憲吾監督)が登場。まさに時代の風潮を鋭くカリカチュアした切り口が痛快。管理社会に息が詰まっていたサラリーマンの一服の清涼剤として大ヒットし、以後しばらくは植木等喜劇の全盛時代が続くことになる。これをはじめ、クレージーキャッツものはほとんどリアルタイムで見ていた。 |
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「座頭市物語」 ('62) 大映/監督:三隅 研次 子母沢寛の随筆に書かれたごく短い記述(わずか2〜3行だそうだ)からアイデアを得て、大ベテラン脚本家・犬塚稔(100歳を超えて今も健在!)がほぼオリジナルに近いストーリーを考案し脚色、三隅研次監督が見事に映画化した。これまで白塗りの美男役を演じては今ひとつ芽が出なかった勝新太郎が、前々年の佳作「不知火検校」に続いて、それまでのキャラクターをかなぐり捨て、ダーティなヒーロー像を好演して大ヒットとなり、最大の当り役とした。これによって勝新太郎が大スターの地位を獲得したという点においても忘れられない作品である。 |
双葉さんのベスト100:
(65)「座頭市(シリーズ)」 (左参照) (66)「秋刀魚の味」 ('62 監督:小津安二郎) 小林さんのベスト100: (71)「座頭市物語」(左参照) (72)「ニッポン無責任時代」 ('62 監督:古沢 憲吾) *加藤泰監督「瞼の母」(62)も大好きな作品。中村錦之助は長谷川伸の股旅世界によく似合う。素晴らしいのは、途中に登場する3人の、母のイメージを持つ女たちの描き方である。相棒の半次郎(松方弘樹)の母(夏川静江)に筆書きに手を添えてもらった時、母のぬくもりを感じ、江戸での橋のたもとで三味線を弾く老婆(浪花千栄子)や、老夜鷹(沢村貞子)を母ではないかと思い、それぞれにいたわりの言葉をかける。こうしたプロセスがある故、ようやく母に会えた時の思いの深さに心打たれるのである。…わずか15日間の撮影日数にもかかわらず、しみじみとした佳作となっているのは見事である。 |
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「斬 る」 ('62) 大映/監督:三隅 研次
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「天国と地獄」 ('63) 東宝=黒澤プロ/監督:黒澤 明
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双葉さんのベスト100:
(67)「天国と地獄」(左参照) (68)「古 都」 ('63 監督:中村 登) 小林さんのベスト100: (73)「天国と地獄」(左参照) (74)「拝啓天皇陛下様」 ('63 監督:野村芳太郎) *山田洋次監督の2作目「下町の太陽」(63)。下町に生きる庶民の生活と哀感を丁寧に描いていてとても気持ちが良かった。倍賞千恵子との初コンビ作品。こういうのを見るとなんだかホッとするのである。好きな作品。 *岡本喜八監督の「江分利満氏の優雅な生活」(63)は、まさに喜八タッチ。独特のカッティングにアニメまで取り入れ、モダニズム溢れる快作であった。しかも戦中派としての心情描写も抜かりなく、岡本喜八という監督を知る上でファンなら絶対見逃せない作品である。小林桂樹もまさにハマり役。彼の代表作でもあろう。 *今井正監督「武士道残酷物語」(63)は、企画としては残酷ブーム(というのがあった)の時流に乗ったものだが、さすが名匠今井正、常に権力者や主君の為に自己を犠牲にして来た日本人の精神構造そのものをズバリ批判した力作になっている。中村錦之助が7役を凝ったメーキャップで演じ分けているのが見もの。名優森雅之が男色趣味の殿様を熱演しているのがファンにはつらい所か? |
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チンタオ これも隠し玉…になるだろう(笑)。第一次大戦の敵ドイツ軍の戦略拠点・青島(チンタオ)要塞を攻める日本軍の奮闘を描く…という、まあ日本版「ナバロンの要塞」とでも言うべき作品。出演者が加山雄三・佐藤允・夏木陽介…と、いわゆる“独立愚連隊”チームである事からも分かる通り、これは痛快な戦争活劇エンタティンメントの快作である(敵がドイツである所も、日本映画と言うよりアメリカ戦争映画を見ている感じである)。そして監督が、「ニッポン無責任時代」という喜劇の傑作を撮ったばかりの古沢憲吾である所もミソ。意外に思うだろうが、この人は「今日もわれ大空にあり」「蝦夷館の決闘」など、スペクタクルも得意なのである。そしてコメディ・センスも抜群。偵察飛行の途中で故障から敵陣に近寄りすぎて、それを爆撃と間違えたドイツ軍のアタフタ・シーンは大爆笑である(重さを減らす為に落としたレンガを焼夷弾と間違え、水をかけるシーンにはアゴがはずれるほど笑った)。 |
双葉さんのベスト100:
(69)「五番町夕霧楼」 ('63 監督:田坂 具隆) (70)「にっぽん昆虫記」 ('63 監督:今村 昌平) *福田善之の戯曲を映画化した「真田風雲録」(63・加藤泰監督)も楽しい快作。最初は沢島忠が撮る予定だったという。隕石の放射能で超能力を得た猿飛佐助(中村錦之助)が活躍するという出だしからして荒唐無稽、時代考証無視のハチャメチャ・ミュージカルである。しかし実は60年安保闘争の巧みな戯画化でもある。加藤泰作品としては珍しい、楽しんで作ったような作品。こういうもの大好きですね。 *あまり知られていない佳作として挙げておきたいのが、渡辺祐介監督「恐喝」(63)である。ヤクザの幹部である高倉健が、ふと魔がさして組から預かった手形を持ち逃げする。怒った組の連中に追われ、次第に追い詰められ、最後はボロ布のように死んで行くプロセスが丁寧に描かれている。 高倉健がいい味を出している。渡辺祐介は風俗ものやドリフターズ・コメディくらいでしか知られていないが、こんな力作だって作れるのである。 |
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「関の弥太ッペ」 ('63) 東映/監督:山下 耕作
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*この年、鈴木清順が突然狂い咲き(?)する。「野獣の青春」(63)は大藪春彦のハードボイルドが原作だが、マカ不思議な色彩感覚、シュールなイメージショット、奇妙な趣味嗜好のヘンな悪人たち・・・と、まったく不思議なイメージが炸裂するとんでもない作品。小林信彦さんがまっさきに評価した事でも知られる。清順の最初の傑作として記憶に残る。 *続く「悪太郎」(63)は一転、爽やかなバンカラ青春映画の佳作。今東光の原作の映画化で、喧嘩にあけくれながら、幼馴染の少女(和泉雅子)をほのかに愛するという、後の傑作「けんかえれじい」の原点とも言うべき作品。ラストはとてもせつない。なお、この作品から清順映画になくてはならない美術監督、木村威夫氏が初参加しているという点でも、忘れてはならない作品である。 *さらに続いて「関東無宿」(63)を撮る。小林旭主演の任侠映画だが、クライマックスでアキラが敵の三下を叩き斬った途端、フスマがバタバタ倒れ、真っ赤な世界が現れるシーンは語り草になっている。オールナイト上映では、ここで大拍手が湧いていた。イカサマ賭博師を演じた伊藤雄之助も忘れ難い印象を残す。 *浦山桐郎の「非行少女」(63)も好きな作品である。悲惨な環境で、非行に走る少女と、彼女に好意を寄せる少年との交流が瑞々しい演出で語られる。和泉雅子が好演。浜田光夫もいい。 *市川崑監督「太平洋ひとりぼっち」(63)もよかった。裕次郎がヨットで一人太平洋を渡った堀江謙一青年を好演。 *今村昌平監督の「にっぽん昆虫記」(63)は、戦後をしたたかに生き抜いた女の年代記で、キネマ旬報ベストワンに輝いた。ただ、粘っこい今村演出は私にはどうも苦手で、力作なのは分かるがあまり好きになれない作品である。 |
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「十三人の刺客」 ('63) 東映/監督:工藤 栄一
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小林さんのベスト100: (75)「十三人の刺客」 (左参照) (76)「宮本武蔵・一条寺の 決闘」 (No.46参照) *この年は、東映で“集団抗争時代劇”というジャンルが誕生した年でもある。その先陣を切ったのが「十七人の忍者」(63・長谷川安人監督)。池上金男のオリジナル・シナリオによるもので、城の奥深く隠された密書を奪い取る為に、忍者軍団が城に忍び込み、敵の根来忍者の頭領との間に壮絶な死闘が展開する。目的の為に、名もなく死んで行く忍者たちの悲しい末路があわれ。この主題は続く「十三人の刺客」へとつながって行く。知られざる傑作である。
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57 |
「車夫遊侠伝・喧嘩辰」 ('64) 東映/監督:加藤 泰
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小林さんのベスト100: (77)「赤い殺意」 ('64 監督:今村 昌平) (78)「帝銀事件・死刑囚」 ('64 監督:熊井 啓) *この年のキネ旬ベストワンは、勅使河原宏監督の「砂の女」(64)。安部公房原作。岸田今日子の体当たりの熱演、岡田英次の抑えた演技、いずれも素晴らしい。カフカ的不条理世界を日本映画で成功させた力作。言わずもがなだが、成人映画である為、当然リアルタイムでは見られなかった(笑)。 *小林正樹監督「怪談」(64)も見応えがあった。これはリアルタイムで見ている。「耳なし芳一」のエピソードが特に怖かった。 |
58 |
「狼と豚と人間」 ('64) 東映/監督:深作 欣二
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*今村昌平監督「赤い殺意」(64) 相変わらずねちっこい描写だが、サスペンス・タッチの藤原審爾の原作の良さもあって、前作よりはこちらの方が好きである。姫田真佐久の撮影が凄い。列車を追跡するカメラ、猛吹雪の逃避行など、カメラの力が大きく貢献している。 *熊井啓のデビュー作「帝銀事件・死刑囚」(64)も力作。平沢被告を演じた信欣三が熱演。骨太の社会派ドラマの佳作である。 *岡本喜八監督「ああ爆弾」(64)も大好きな作品。スラップスティック・ミュージカル・コメディとでも言うべき、岡本タッチ炸裂の快作。カルト・ムービーと言ってもいいだろう。伊藤雄之助怪(?)演。砂塚秀夫もムチャクチャ面白い。ただ、あまりに悪フザケが過ぎる…と会社からは睨まれたそうな。 *日活では、裕次郎主演のムードアクションが多く作られたが、その中でも代表的な秀作が「赤いハンカチ」(64・舛田利雄監督)。誤って恋人の父でもある犯人を殺してしまった男が、さすらいの果てに真相を知るというミステリー。裕次郎歌う主題歌が効果的に使われている。浅丘ルリ子も素敵。 |
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「馬鹿まるだし」 ('64) 松竹/監督:山田 洋次 藤原審爾原作の「庭にひと本白木蓮」を、山田洋次と加藤泰が共同で脚色した、山田洋次監督の最初の傑作喜劇(喜劇を監督したのもこれが最初)。クレージー・キャッツのリーダーであったハナ肇を、本格的役者として起用した冒険が大成功。山田と加藤が共に敬愛してやまない「無法松」のキャラクターも巧みに取り入れ(映画の中で主人公が芝居の「無法松の一生」を見て感動するシーンもある)、粗野で無学で一本気で、しかし高嶺の花のご新造さん(桑野みゆき)にほのかにあこがれる暴れ者のおかしくも哀しい一生が、笑いと涙で描かれ、感動してしまった。喜劇でありながら、ラストでは村の者に利用され、失明してしまう主人公の姿は、むしろ悲劇的ですらある。ご新造さんに無法松の名セリフを借りて心情を打ち明けるシーンは、笑いつつも涙を誘う。これほど心にジンと来て泣けるコメディは初めてであり、私は一辺でファンになってしまった。喜劇の形を借りて、人間の哀しみと生きるせつなさを描く山田洋次喜劇はここからスタートしたのである。この作品も好きだが、これのヒットによって作られた“馬鹿シリーズ”2作目「いいかげん馬鹿」(64)も私は大好きで、むしろこちらをランクインさせたいほどである。主人公は気が良くて、村の発展を願ってうさんくさい人物やグループを連れ帰ってはトラブルを起こし、いたたまれなくなって逃げ出しては又村に帰ってくる。そのうち最後はついに二度と故郷に帰れなくなってしまう。…そうした、故郷をこよなく愛しながらも、善意がいつもアダになり、ついには故郷を失ってしまう主人公もまたアイロニーに満ちた哀しい存在である。この、1作目の“高嶺の花の美女にかなわぬ恋をするヤクザな男”と、2作目の“トラブルを起こし、故郷を飛び出しながらも何度も故郷に帰って来る男”のキャラクターが、後の「男はつらいよ」の原型となったのは間違いがない。そういう意味でも、私にとってはこれらは「男はつらいよ」よりも好きで愛着のある作品なのである。 |
*東映集団時代劇がこの年も絶好調。 工藤栄一監督「大殺陣」は「十三人の刺客」と同じ池上金男脚本。ただストーリー、チャンバラシーン、いずれも前作には及ばない。まあ、あちらの方が奇跡的な大傑作ではあるのだが。 山内鉄也監督のデビュー作「忍者狩り」は傑作。外様大名に雇われた近衛十四郎、佐藤慶ら4人の浪人と、襲い来る幕府方忍者との死闘を描く。敵の首領・天津敏がものすごく強くてコワい。ラストの暗闇の中での対決は手に汗握る面白さ。高田宏治の脚本が秀逸。おススメ。 倉田準二監督の「十兵衛暗殺剣」も傑作。近衛十四郎の柳生十兵衛と、九鬼水軍の流れを汲む宿敵幕屋大休(大友柳太朗)との延々と続く息詰まる対決は見もの。あの十兵衛が刀を求めてころがり回るリアルな殺陣はチャンバラ映画史に残ると言っていいだろう。これも脚本は高田宏治。この頃の高田宏治は抜群に面白かったのだ。 *加藤泰監督の「幕末残酷物語」(64)も力作。新撰組という組織の矛盾、非人間性を容赦なく描き、その中で組織に反逆し、死んで行く若者を大川橋蔵が好演。沖田総司を演じる河原崎長一郎も印象的。藤純子もいい。いわゆる残酷ものだが、集団時代劇の要素も持つ。 |
60 |
「飢餓海峡」 ('64) 東映/監督:内田 吐夢 水上勉の推理小説を名ライター鈴木尚之が脚色、内田吐夢が斬新な撮影手法(16mmフィルム使用や、二重露出等。ワイド106方式と呼ばれた。106とは、トムを数字にしただけである(笑))を駆使して骨太に描いたサスペンスの大作。有名な洞爺丸沈没と、岩内の大火という2つの実際に起きた事件と、連続殺人事件とを結びつけたプロットが秀逸。サスペンスものとして見てもスリリングで面白いが、過去を隠して事業家として名をなした男(三国連太郎)が、当時を知る女(左幸子)の出現に動揺し、思い余って殺してしまい(この辺りは松本清張「砂の器」と似ている)、彼をずっと追い続けて来た老刑事(伴淳三郎)との息詰まる対決に至るという展開に、それぞれの人間が背負った業、宿命の悲しさを見ることができる。左幸子が絶妙の名演技を見せる(男が残した爪を体に当て、恍惚となるあたりは圧巻)。伴淳三郎も、コメディアンとは思えないリアルな演技が見事。3時間にも及ぶ長編だが、内田吐夢の渾身の演出の力強さには時間も忘れるほどである。何度見ても圧倒される、素晴らしい秀作である。 |
双葉さんのベスト100:
(71)「飢餓海峡」 (左参照)
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