2023年度 ベスト20発表

 

私の選んだ2023年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、原則として2023年1月1日〜12月31日の間に大阪にて公開されたものを対象にしております。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
せかいのおきく 阪本 順治
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン マーティン・スコセッシ
フェイブルマンズ スティーヴン・スピルバーグ
君たちはどう生きるか 宮ア 駿
こんにちは、母さん 山田 洋次
モリコーネ 映画が恋した音楽家 ジュゼッペ・トルナトーレ
ゴジラ−1.0 山崎 貴
石井 裕也
PERFECT DAYS ヴィム・ヴェンダース
10 福田村事件 森 達也
11 ザ・ホエール ダーレン・アロノフスキー
12 北野 武
13 イニシェリン島の精霊 マーティン・マクドナー
14 キリエのうた 岩井 俊二
15 ほかげ 塚本 晋也
16 春に散る 瀬々 敬久
17 怪物 是枝 裕和
18 生きる LIVING オリバー・ハーマナス
19 エンドロールのつづき バン・ナリン
20 最後まで行く 藤井 道人
別れる決心 パク・チャヌク

 

個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

1位 せかいのおきく
  汚猥屋という仕事に生きる若者たちを通して、大いなる自然の循環というテーマが浮かび上がる、見事な秀作です。汚物まみれの映像が出て来るのに、物語はとてもピュアです。黒木華が素晴らしい。阪本順治監督の、最高作だと断言します。

2位 キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
  80歳とはとても思えない、マーティン・スコセッシ監督の熱のこもった演出に圧倒されます。3時間半近くもある大長編なのに、まったくダレ場がないのも凄い。アメリカ史の暗部を描いて、現代にも通じる人間の強欲さや醜さを炙り出す渾身の力作です。

3位 フェイブルマンズ
 スピルバーグの自伝的作品ですが、フィルムには隠しておくべき“真実”をも暴き出してしまう魔力を持っていて、映画を作る以上はその魔力も受け入れる覚悟が必要だ、という点をきちんと描いている点にも感動させられます。スピルバーグが子供の頃、如何に映画というものに夢中になって行ったかも描かれていて、スピルバーグ・ファンにはたまらない秀作です。

4位 君たちはどう生きるか
 10年ぶりに宮ア駿が新作を完成させた、それだけでもウルウルとして来ます。映画も圧倒的な映像の美しさ、壮大なイマジネーションの広がり、波乱万丈の冒険とまさに宮アワールド。82歳になってもこんな力作を作り上げてしまう宮アさんはやはり日本、いや世界屈指の映像作家でしょう。

5位 こんにちは、母さん
 こちらも、92歳になる山田洋次監督が、年齢を感じさせない演出ぶりで、寅さんの世界に通じる下町人情物語を余裕綽々、きちんと作り上げているのが素晴らしい。吉永小百合もこれまた年齢を感じさせない元気な姿を見せているのも感動的。小津安二郎オマージュも盛り込まれ、やっぱり山田監督は凄いと改めて思います。体の許す限り、これからも映画を作り続けて欲しいと心より願っています。

6位 モリコーネ 映画が愛した音楽家
 エンニオ・モリコーネという大作曲家の軌跡と仕事ぶりを追ったドキュメンタリーの秀作です。モリコーネが担当した映画の一場面を、音楽と共に見せてくれる編集・演出にも感動。モリコーネの盟友、ジュゼッペ・トルナトーレのモリコーネ愛が充満した、人間ドキュメンタリーの傑作です。これを観てまたモリコーネが担当した映画を観たくなりました。

7位 ゴジラ−1.0
 「シン・ゴジラ」の登場で、これを抜くゴジラ映画は当分不可能だと言われていましたが、山崎貴監督はそれを見事クリア、「シン・ゴジラ」以上のゴジラ映画の秀作を完成させました。時代を第1作より前の終戦直後に設定したのも秀逸。そして圧倒的に怖いゴジラ。放射熱線を吐くシーンには鳥肌が立ちました。全米公開でも初登場3位と、アメリカでも大好評なのも素晴らしい事です。

8位 
 実際の障碍者殺傷事件を題材にした問題作で、かなりリスキーな企画で批判も出たようですが、1昨年亡くなられた故・河村光庸プロデューサーの熱意と後押しもあって無事完成、公開されたのは喜ばしい事です。原作に登場しない夫妻を登場させ、犯人だけではない、誰の心にも不要な人間を排除しようとする意識が内在しているのではないかと問いかける、優れた作品になっています。石井監督は「茜色に焼かれる」に続き、意欲的な力作を連発していますね。

9位 PERFECT DAYS
 年末ギリギリに登場した秀作です。何気ない日常を描きながら、“変化のない日常の中にも幸せはある”というテーマを打ち出した、小津安二郎ファンのヴィム・ヴェンダース監督らしい心温まる作品になっています。なおキネ旬ベストテンでは、締切の12月21日の翌日からの公開なので、2023年度のテンには入らず翌年回しになるようです。たった1日違いなのだから融通利かせればいいのにね。

10位 福田村事件
 関東大震災の混乱の中で、日本人が朝鮮人と間違われて殺された実話の映画化です。これが劇映画として初の監督作ながら、森達也監督はしっかりした演出で見ごたえのある作品に仕上げました。人間の差別意識、群集心理の恐ろしさがリアルに描かれ、そして「朝鮮人なら殺してええんか」という行商団リーダーの言葉が胸に迫ります。

11位 ザ・ホエール
 過食症で健康を損ない、死期の迫った男が残された日々の中で、娘との絆を取り戻そうとする感動作。特殊メイクで、200キロを超える巨体の主人公に扮したベレンダン・フレイザーの鬼気迫る熱演が光ります。ダーレン・アロノフスキー監督の引き締まった演出も見事。

12位 
 まさに北野武監督らしい、首が斬り落とされ凄惨な死体が転がるスプラッター描写で戦国のいくさの残酷さを描き、一方で信長の狂気、秀吉、家康の狡猾さ、バカバカしさを徹底的にコケにしおちょくった、風刺劇の快作でしたね。北野武監督以外、誰も作れない異色のブラック・ユーモア時代劇と言えましょう。

13位 イニシェリン島の精霊
 主人公二人の、ちょっとした意志のすれ違い、いがみ合いがどんどんエスカレートする物語を通して、人間の愚かさ、いがみ合いの虚しさを描いた力作です。こちらもまたブラック・ユーモアが感じられますね。

14位 キリエのうた
 東日本大震災で家族、愛する人を失った人たちが、さまざまな人との触れ合いを通して心の傷を癒し、明日に向かって旅立つまでを描く岩井俊二監督の力作です。アイナ・ジ・エンドの魂に響く歌声が素晴らしい。

15位 ほかげ
 塚本晋也監督の、戦争三部作の最後の作品。戦争が終わっても、生き残った人たちの心には深い傷跡が残り続ける。そして何の罪もない子供たちが苦しめられる。現代にも通じる、戦争の愚かさ、虚しさを痛烈に描いた問題作です。趣里の熱演は見応えあり。

16位 春に散る
 ボクシング映画に外れはないですね。老境に至った元ボクサー・広岡(佐藤浩市)が、若い翔吾(横浜流星)に、自分が果たせなかったチャンピオンの夢を託すという物語ですが、他のボクシング映画と異なるのは、若者のボクシングに賭ける情熱と、死期が迫り、人生の終焉において自分が生きて来た証しをどう遺そうかと苦悩するする老人の物語、が並行して進む点ですね。横浜流星、佐藤浩市それぞれの熱演で、見ごたえのあるドラマになりました。広岡が桜の散る木の下で静かに人生を終えるラストは泣けますね。

17位 怪物
 3つの異なる視点からの描写で、物語が進むに連れ、それまでとは全く異なる側面が見えて来る「羅生門」的展開が面白いですね。坂元裕二の脚本も見事ですが、是枝裕和監督の腰の据わった演出もまた素晴らしい。是枝監督は子供の使い方が本当にうまいですね。もっと上位にするつもりでしたが、後から次々と秀作が登場してこんな位置に。本当に今年度の日本映画は秀作揃いですね。

18位 生きる LIVING
 黒澤明監督の傑作「生きる」のリメイクですが、カズオ・イシグロの脚本が素晴らしく、黒澤映画のリメイク作品の中では一番優れた作品に仕上がっています。特に黒澤作品にはない、若者に渡した遺書を通して、これからの時代を生きる若者に未来を託すラストは感動しましたね。

19位 エンドロールのつづき
 映画に夢中になった少年が、自分たちで映画を上映しようと奮闘する物語。素晴らしいのは終盤、フィルムの時代が終わり、映写はデジタル化され、フィルムは溶かされ腕輪になる。フィルムの挽歌とも言うべき作品ですが、それでも映画は残り続け人の心を熱くする事に変わりはない点はしっかり押さえられています。もう一つの「ニュー・シネマ・パラダイス」とも言うべき、映画ファンには泣ける秀作です。

20位 最後まで行く
 藤井道人監督は何を撮らせても秀作に仕上げますね。9年前の韓国映画のリメイクですが、オリジナルより面白い作品になっています。スリルあり、アクションあり、笑いあり、そして家族愛ドラマもありと娯楽映画のあらゆる要素てんこ盛り。途中で時制を戻して、別の視点で物語を追いかける展開が秀逸。サスペンス・エンタティンメントとしては近年の日本映画でも稀に見る出来の良さですね。


…さて、以上がベスト20ですが、例によってまだまだ入れたい作品がありますので、もう10本、ベスト30まで紹介しておきます(タイトルのみ)。

21位 別れる決心
22位 雑魚どもよ、大志を抱け!
23位 正欲
24位 エンパイア・オブ・ライト
25位 バビロン
26位 BAD LANDS バッド・ランズ
27位 渇水
28位 理大囲城
29位 ジョン・ウィック コンセクエンス
30位 ザ・クリエイター 創造者

・・・・・・・・・・・・・・

うーん、まだまだある。31位以下も順不同で挙げておきます。

そばかす
EO イーオー
CLOSE クロース

山女
ちひろさん
オマージュ
Air エアー
愛にイナズマ
TAR ター
ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE


前年より鑑賞本数がかなり減ったのに、本年度も秀作が目白押し。特に日本映画が好調で、ベストテンに何と7本、ベスト20まででも13本と過去最高を記録しました(「PERFECT DAYS」は邦画扱い)。中でも、私の敬愛する監督、宮ア駿、北野武、岩井俊二、塚本晋也らが久しぶりに監督作品を発表し、さらにこちらも大好きな監督、山田洋次、阪本順治、石井裕也、山崎貴らもそれぞれ秀作を発表、充実した1年となりました。見逃した作品が多かったのにこれですから、見逃した作品を入れれば下位の秀作がどんどんはみ出すかも知れません。悩みますね。

・・・・・・・・・・・・・・ 

お次は昨年から新設した、「劇場未公開配信作品ベスト5」です。前年以前に配信された物も交じっていますが、2023年に初見したという事で。

1位 西部戦線異状なし
 戦前にアメリカで作られた名作のリメイクですが、現代に作る意義がある傑作です。これが配信のみとはもったいない。是非劇場で公開していただきたいですね。

2位 ザ・ビートルズ Get Back
 映画「レット・イット・ビー」(1970)でも描かれた、解散間際のビートルズのアルバム造りの過程を収めた57時間以上の未公開映像と150時間以上の未発表音源を基に、ピーター・ジャクソン監督が、3年の歳月をかけて復元・編集し、それぞれ約2時間の3つのエピソードで構成した、計6時間に及ぶドキュメンタリーです。Disney+で2021年に配信されました。有名な屋上演奏の「ルーフトップ・コンサート」をノーカット完全版で収録しているのも魅力。これを見ると、「レット・イット・ビー」では4人が勝手気ままにバラバラに作っていたように見えていたのが、結構楽しそうに和気あいあいに作っていた事が分かり新発見でした。ビートルズ・ファンは必見ですが、Disney+に加入しないと見られないのは残念です。DVDも出して欲しいですね。

3位 ジャンゴ&ジャンゴ: コルブッチとマカロニ西部劇のレガシー
 
クエンティン・タランティーノが、敬愛するマカロニ・ウエスタンの鬼才、セルジオ・コルブッチ監督について語り尽くし、そこにコルブッチ作品の映像も交えたドキュメンタリーです。タランティーノがとにかく喋る喋る、タラ監督の「ジャンゴ 繋がれざる者」を見ても判る通り、タランティーノがコルブッチ監督を如何に敬愛しているかがよく分かります。「ジャンゴ 繋がれざる者」の元ネタとなったコルブッチ監督の傑作「続・荒野の用心棒」に主演したフランコ・ネロがインタビューに答えるシーンも嬉しい。

4位 オクジャ Okja
 ポン・ジュノ監督による、Netflix配信作品。2017年製作で大分時間が経ちますが、Netflixに加入してようやく2023年に観る事が出来ました。食用にされる運命の、豚とカバの合いの子のような動物、オクジャを可愛がる少女・ミジャが主人公で、さらわれたオクジャを追ってミジャが大活躍します。ジャッキー・チェンばりのトラック飛び乗り、ぶら下がりシーンがあるのはご愛嬌。CGのオクジャが段々可愛く見えて来ます。ティルダ・スウィントンが怪演。最後はなんとかオクジャを取り戻すのですが、その他の無数のオクジャの仲間が殺されると思うと悲しくて胸に迫ります。食用と動物愛護をどう兼ね合いを付けるか、いろんな重いテーマも内包された秀作ですね。オクジャが時々トトロに見えたりするシーンもあります。自然の美しい風景も含めて、少し宮ア駿オマージュが入ってるかも。はやりポン・ジュノ作品は見逃せませんね。

5位 あの夏のルカ
 2021年製作のピクサー・アニメですが、コロナ禍の影響で劇場公開が見送られ、こちらもDisney+で配信されました。北イタリアの美しい港町ポルトロッソを舞台に、海に暮らす「シー・モンスター」と呼ばれる種族の少年ルカが、あこがれの人間の世界に足を踏み入れる、ひと夏の冒険を描いたファンタジーアドベンチャーです。海中では人魚のような姿をしていますが、陸に上がると人間の姿になるので、人間世界に紛れ込んだ後は、水がかかる度に元に戻り、それを必死で隠そうとするシーンがドタバタ・タッチで笑えます。ラストがとても爽やかで感動的です。2022年の第94回アカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネートされました。2024年にようやく劇場公開されるようなので、是非観てください。


・・・・・・・・・・・・・・ 

最後は、恒例となった、楽しいおバカ映画を集めた、「愛すべきB級映画大賞」 。公開作品も少ない上に映画を観る本数も減った事もあって、本年度はついに2本だけとなりました。

1位 マッド・ハイジ
  「アルプスの少女ハイジ」がエログロバイオレンス映画になるとはね。
2位 キラーカブトガニ
  昔懐かしい、放射能で巨大化した生き物のカブトガニ版です。

1位は、本年最高のバカ映画。「アルプスの少女ハイジ」のハイジが、独裁者にペーターを殺され、おじいも爆発で死んでしまった事で復讐の為立ち上がる、という設定だけで笑ってしまいます。エロシーンはあるし下ネタギャグはあるしモンスターも出て来るし、はたまたいろんな映画のパロディもてんこ盛り。そしてハイジは修行して日本刀、手裏剣の使い方をマスターします(笑)。もう笑った笑った。しかもこれがスイス映画です。スイスも太っ腹。日本でも昔、井口昇監督が「ロボゲイシャ」や「デッド寿司」といったパロディ・バカ映画を作ってましたが、近年はほとんど無くなりましたね。是非誰か作って欲しいものです。
2位、タイトルだけでバカ映画と分かります。放射能の影響で凶暴・巨大化した人食いカブトガニが人間を襲います。やがてはゴジラ並みに巨大化して(どう見ても人間が入った着ぐるみ(笑))、高校生が作った巨大ロボと戦ったり、最後は何故か日本にも登場します(笑)。特撮(あえてVFXとは言わない(笑))もチープ。こちらも映画のパロディ満載。いやあバカ映画って楽しいですね。

 

   ※ ワーストテンはこちら

            Top Pageへ戻る           Best10アラカルト 目次へ