2022年度 ベスト20発表

 

私の選んだ2022年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、原則として2022年1月1日〜12月31日の間に大阪にて公開されたものを対象にしております。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
ケイコ 目を澄ませて 三宅 唱
水俣曼荼羅 原 一男
エルヴィス バズ・ラーマン
線は、僕を描く 小泉 徳宏
クライ・マッチョ クリント・イーストウッド
RRR S・S・ラージャマウリ
パワー・オブ・ザ・ドッグ ジェーン・カンピオン
流浪の月 李 相日
ある男 石川 慶
10 さがす 片山 慎三
11 雪道 イ・ナジョン
12 アバター ウェイ・オブ・ウォーター ジェームズ・キャメロン
13 ギレルモ・デル・トロのピノッキオ ギレルモ・デル・トロ
14 マイ・ブロークン・マリコ タナダユキ
15 ブルー・バイユー ジャスティン・チョン
16 すずめの戸締り 新海 誠
17 マイスモールランド 川和田 恵真
18 土を喰らう十二ヵ月 中江 裕司
19 親愛なる同志たちへ アンドレイ・コンチャロフスキー
20 PLAN75 早川 千絵
夜明けまでバス停で 高橋 伴明

 

個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

1位 ケイコ 目を澄ませて
  年末ギリギリになって、素晴らしい作品に出合う事が出来ました。聴覚障害者でプロボクサーの女性の日常と練習ぶりを、ほとんど説明描写を排し、音楽もなく現実音だけで描く三宅唱監督のタイトかつ緊迫感溢れる演出が見事。実話という事もありますが、まるで元となった原作者のドキュメンタリーを観ているかのようでした。障害があろうとも、過酷な戦いにチャレンジし、迷い、悩みながらも前を向いて生きるケイコの姿に泣けました。岸井ゆきの、三浦友和の演技も素晴らしい。文句なしの傑作です。

2位 水俣曼荼羅
  2021年度の作品ですが、当地では公開が2022年になったので本年度のベスト20に入れさせていただきます。上映時間が6時間に及ぶ長い作品ですが、原一男監督の全身全霊を賭けた渾身のドキュメンタリーに圧倒されました。これだけ長いのに間延びする所なく、半世紀に及ぶ水俣闘争の歴史を縦軸に、多彩な人物を横軸としてさまざまな角度から記録映像実を積み重ね、全体としてまさに曼荼羅のようにそれらを撚り合わせた見事な作品になっています。11月までは絶対にベストワン確定と思っていたのですが、「ケイコ−」に抜かれてしまいました。気分的には2作同点ベストワンにしたいです。

3位 エルヴィス
 悪徳マネージャーと言われたトム・パーカー大佐の視点から不世出のロック・シンガー、エルヴィスの生涯を描くという構成がユニークですね。私も知らなかったエルヴィスの実像に迫った音楽伝記映画の秀作です。エルヴィスを演じたオースティン・バトラーの演技もいいですね。

4位 線は、僕を描く
 昔から応援していた小泉徳宏監督、「ちはやふる」も良かったですがさらに素晴らしい秀作になっています。全体を貫く、喪失から再生のテーマがきちんと描かれ、青春ドラマとしても人間ドラマとしてもよく出来ています。三浦友和や江口洋介の水墨画パフォーマンスには圧倒されましたね。

5位 クライ・マッチョ
 90歳を超えても、まだこんな力作を完成させてしまうクリント・イーストウッド、凄い。尊敬に値します。飄々としたトボけた味わいの中に、少年に本当の“マッチョ”(男らしさ、タフさ)とは何かを教え、さらに人生の重み、老いをどう楽しむかというテーマまで盛り込んだ、イーストウッドでなければ作れない作品だと思います。カウボーイ・ハットを被った彼の姿を見るだけでも泣けます。

6位 RRR
 これぞまさにインド映画。ダイナミックな踊りあり、パワフルかつ優雅なアクションあり、勧善懲悪王道エンタティンメントとしても見事な出来栄えですが、圧倒的軍事力で弱小国を植民地化して来た大国の横暴に鋭い批判の目を向けた、今の時代にふさわしいテーマも込められた力作だと思います。

7位 パワー・オブ・ザ・ドッグ
 これも前年度の作品ですが、Netflix配信作品として一部でしか公開されず、やっと昨年春に劇場で観る事が出来たので本年度ベストに入れる事にします。西部劇的なスタイルの中に、人間というもののおぞましさ、人間の心の闇という根源的テーマに鋭く斬り込んだ、「ピアノ・レッスン」以来久しぶりのジェーン・カンピオン監督の秀作です。

8位 流浪の月
 李相日監督は相変わらず骨太、重厚な演出で魅せてくれます。そして「悪人」以降の作品に通底する、“正義とは、悪とは何か”というテーマも盛り込まれた、人間考察ドラマとしても見ごたえある力作になっています。松坂桃李、広瀬すずも熱演。

9位 ある男
 石川慶監督は一作ごとに演出力がレベルアップしていますね。向井康介の名脚本を得て、ミステリー的出だしから、やがて戸籍、名前、顔といったアイデンティティに振り回される人間の弱さが浮き彫りとなる終盤まで石川演出は快調。さらには差別・偏見を生む現代社会の闇にも迫った、堂々たる風格の力作です。

10位 さがす
 片山慎三監督の長編デビュー作「岬の兄妹」にも感動しましたが、長編2作目となる本作も見事な秀作です。謎だらけの前半から、後半、時制を遡って前半で撒かれた伏線を回収して行くストーリー・テリングの見事さに唸りました。強烈、パワフルな人間ドラマに圧倒されます。これがオリジナル脚本だから凄い(小寺和久、高田亮と共作)。片山監督の今後の活躍にも目が離せません。

11位 雪道
 従軍慰安婦問題を扱った韓国製ドラマですが、決して反日的な映画ではなく、困難な状況においても決して絶望する事なく、希望を失わず強く生きて行く事の大切さを力強く訴えた人間ドラマになっているのが素晴らしい。キム・セロン、相変わらず名演です。

12位 アバター ウェイ・オブ・ウォーター (3Dで鑑賞)
「アバター」の13年ぶりの続編。横暴な地球人対弱小民族の闘いという前作のテーマを引き継ぎつつも、今回は家族愛のドラマがメインで、終盤の怒涛のアクションに次ぐアクション演出はやはり見応えがあります。CG映像は前作にも増して素晴らしい出来で、これはやはり3D、出来ればI−MAXで観るべきですね。物語はやや引っかかる所もありますが、海中の美しい映像にはとにかく圧倒されました。

13位 ギレルモ・デル・トロのピノッキオ
 ディズニー・アニメでお馴染みのあの童話が、ギレルモ・デル・トロにかかると死の影が漂うダーク・ファンタジーっぽくなるのがさすがです。子供の命を理不尽に奪う戦争への怒りや、独裁者に対する痛烈な風刺などを盛り込み、最後は生きる事の意味、命の大切さというテーマを打ち出している点にとても感動しました。

14位 マイ・ブロークン・マリコ
 死んでしまった親友の遺骨との旅を通して、自分の生き方を見直して行く物語が、タナダユキ監督の繊細で丁寧な演出によって見事に描かれています。シイノを演じた永野芽郁がいいですね。タナダ監督のこれまでの最高作でしょう。

15位 ブルー・バイユー
 杓子定規な法律の狭間で、幸せに暮らしていた家族が引き離されるという物語を通して、移民問題、難民問題、人種差別といった現代をとりまく諸問題に鋭い批判の目を向けた、主演も兼ねたジャスティン・チョン監督の力作です。ラストの別れのシーンには泣かされました。

16位 すずめの戸締り
 前作「天気の子」がもう一つだったので心配してたのですが、これは良かったです。ふとした事から、草太という名の青年と共に日本列島を北に向かって、災厄を招く扉を閉める旅に出るという壮大なファンタジー。背景に3.11を配して、運命に立ち向かうすずめの健気な行動に涙します。ミミズと呼ばれる災厄のビジュアルも壮観。ただダイジンと呼ばれる魔力を持った猫が草太を呪いで椅子に変えてしまう所など、ダイジンの立ち位置が敵か味方かちょっと曖昧な点が引っかかって少し順位を落としました。

17位 マイスモールランド
 これも「ブルー・バイユー」同様、難民に薄情な日本の法律のせいでクルド人一家の父親が強制送還されそうになり、家族が引き裂かれるという悲劇を描いた問題作です。ただそうした社会的テーマだけに留まらず、主人公サーリャの高校生活や爽やかな恋模様も絡めた青春映画でもあり、家族愛の物語としても見ごたえある作品になっています。これが監督デビュー作となる川和田恵真監督、主演のこれもデビュー作の嵐莉菜、共に見事です。

18位 土を喰らう十二ヵ月
 水上勉のエッセイを元にした、信州の山奥での自給自足生活を通して、人の生き死に、人生観、自然に行かされている人間といったさまざまなテーマを描いた中江裕司監督の久しぶりの力作です。沢田研二が人生の年輪を感じさせる好演。松たか子、奈良岡朋子ら役者もみんないいですね。

19位 親愛なる同志たちへ
 冷戦下のソ連で30年間も隠蔽されていた市民の虐殺事件という史実をベースに、巨匠アンドレイ・コンチャロフスキーが旧ソ連の暴虐の実態を容赦なく暴いた問題作です。2年前の作品とは言え、今のロシアでよく作れたものです。モノクロで描かれる虐殺・隠蔽の描写が生々しく、今こそ観るべき秀作だと思います。

20位 PLAN75
 超高齢化社会が進んだ日本で、満75歳から生死の選択権を与えるという制度「プラン75」が実施され、希望する老人は安楽死が認められるという近未来の姿を描いた問題作です。本当に将来そんな法律が出来てもおかしくない気がするだけに、ゾッとさせられます。映画は制度を受け入れる老人側と、職務に当たる役所の職員の仕事ぶりを並行して描く事で、人間の尊厳とは、生きるとは、命の権利とはといったテーマを問いかけています。これがデビュー作となる早川千絵監督、お見事です。


…さて、以上がベスト20ですが、例によってまだまだ入れたい作品がありますので、もう10本、ベスト30まで紹介しておきます(タイトルのみ)。

21位 夜明けまでバス停で
22位 金の糸
23位 余命10年
24位 ナイトメア・アリー
25位 冬薔薇
26位 香川1区
27位 ウエストサイド・ストーリー
28位 ベルファスト
29位 ベイビー・ブローカー
30位 あのこと

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うーん、まだまだある。31位以下も順不同で挙げておきます。

かがみの孤城
前科者
トップガン マーヴェリック

ツユクサ
ワン・セカンド 永遠の24フレーム
川っぺりムコリッタ
愛なのに
英雄の証明
君を想い、バスに乗る
CODAコーダ あいのうた


本年度も秀作が目白押し。特に日本映画は若手、新進、中堅監督の力作が続々と登場して、例年ならベスト20に入ったかも知れないベテラン監督の秀作(高橋伴明監督「夜明けまでバス停で」、阪本順治監督「冬薔薇」、原恵一監督「かがみの孤城」等)が洩れてしまいました。新人女性監督の長編デビュー作が17位、20位と2本も入ったのも快挙です。本当に昨年の日本映画は充実しておりました。残念なのは病院に入院してたりで重要な作品を見逃している事。「夜を走る」「窓辺にて」「千夜、一夜」は観たかったのですがね。
ネット配信作品も相変わらず好調で、一部で劇場公開もされた「パワー・オブ・ザ・ドッグ」「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」がベスト20に入りました。配信のみで劇場未公開作も多く、中には劇場でこそ観るべきスケールの大きな作品もあったりします。そうした作品を劇場でも是非公開して欲しいと切に願いたいですが、“劇場で公開されない作品を観たいが為に加入する”ユーザーを狙っての戦略も業者側にはあるのでしょうね(私もとうとう加入してしまいました。渋々ですが)。この傾向は益々強まって行くでしょう。映画業界にとっていい事とは思えないのですが。考えて欲しいですね。

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という事で、昨年はネット配信映画もかなり観ました。中にはベストテン級の作品も多くあったので、本年から「劇場未公開配信作品ベスト3」を新設する事としました。

1位 13人の命
 タイで起きた、洪水で洞窟に閉じ込められたサッカー・チームの少年とコーチ13人の救出劇を描いた実録ドラマですが、監督ロン・ハワード、出演者がヴィゴ・モーテンセン、コリン・ファレル、ジョエル・エドガートンと豪華で、セットによる洞窟の忠実な再現、ハラハラするスリリングな展開と、劇場公開されたならベストテン候補にもなったかも知れない堂々たる秀作です。そんなわけで映画ファンでも観た方は少数じゃないかと思います。もったいない。

2位 アポロ10号1/2 宇宙時代のアドベンチャー
 なんと10歳の少年が計算違いで小さく作られた「アポロ10号」に乗って宇宙に行くという、奇想天外なお話(無論フィクション)。だからタイトルが「10号1/2」(笑)。これを「スキャナー・ダークリー」のリチャード・リンクレイター監督が、同作と同じロトスコープ方式でアニメーションとして完成させた異色作です。1960年代末期のテレビ番組や映画、音楽等、リンクレイター自身の少年時代の思い出もいっぱい詰まった、当時少年時代を過ごした映画ファンなら絶対泣ける秀作です。これも劇場公開したなら評判になったと思います。

3位 愛すべき夫妻の秘密
 こちらは1950年代にアメリカで放送された人気TVドラマ「アイ・ラブ・ルーシー」で主人公のリカード夫妻を演じた、ルシル・ボールとデジ・アーナズの知られざる秘話を、台本読みから放映までの1週間の出来事の中で描く優れた伝記ドラマです。ルシルに扮したニコール・キッドマンがそっくりの快演、デジに扮したハビエル・バルデムもいい味を出してます。

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さて最後は、恒例となった、楽しいおバカ映画を集めた、「愛すべきB級映画大賞」 。本年度も3本だけとなりました。

1位 バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー
  おバカ道まっしぐらのフィリップ・ラショーに乾杯。
2位 ブレット・トレイン
   カネかけておバカ映画作れるアメリカがうらやましい。
3位 ザ・ロストシティ  
   ダニエル・ラドクリフが出て来るだけでおバカ映画決定。

1位は、「ヒャッハー」シリーズや「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」のフィリップ・ラショー監督・主演作だけに、おバカ映画になるのは当たり前。今回はアメコミ・ヒーローをネタにして相変わらず笑わせてくれます。2位は娯楽アクション大作なのですが、さすが「デッドプール2」のデビッド・リーチ監督だけあって「キル・ビル」まがいのニッポン・ネタとか脱力ギャグも一杯詰め込まれたバカ映画になってます。3位も「ロマシング・ストーン」を思わせる冒険活劇のはずが、やはりおバカな映画に転調。チャニング・テイタムが頼りにならないという意外性に、近年のおバカ映画に欠かせないダニエル・ラドクリフも参加とくればおバカ映画確定。ケッサクなのが2位と役者バーターやってる点で、こちらにブラピがゲスト出演したお返しにサンドラ・ブロックとチャニング・テイタムが「ブレット・トレイン」にカメオ出演と、お互い楽しんでやってますね。

…それにしても、笑えるおバカB級映画、最近少なくなりましたね。3位はやや苦しい選出です。

(番外) シャーケンシュタイン
 2016年製作の旧作で、しかも劇場未公開作品なので、劇場公開作品が対象である本賞には入れられませんが、本年度一番笑ったB級(C級?)おバカ映画でしたので紹介しておきます。
とにかくバカバカしい。フランケンシュタイン(の怪物)の心臓が第二次大戦中にアメリカに運ばれ、60年経ってマッドサイエンティストが継ぎはぎした鮫にその心臓を移植するというアホ丸出しの珍品です。出だしの元ネタは明らかに本多猪四郎監督・円谷英二特撮の東宝映画「フランケンシュタイン対地底怪獣」ですね。特撮も恐ろしくチープで、ロジャー・コーマン製作の「シャークトパス」の方がまだマシです。でもB級映画ファンにはこのチープさに却って愛着が湧くのですね。仲間とツッ込みながら楽しむには最適です。

  
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