私の選んだ2021年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
選考基準は、原則として2021年1月1日〜12月31日の間に大阪にて公開されたものを対象にしております。
順位 | 作 品 名 | 監 督 名 | 採 点 |
1 | ドライブ・マイ・カー | 濱口 竜介 | |
2 | ノマドランド | クロエ・ジャオ | |
3 | ファーザー | フロリアン・ゼレール | |
4 | リスペクト | リーズル・トミー | |
5 | ヤクザと家族 The Family | 藤井 道人 | |
6 | 空白 | 吉田 恵輔 | |
7 | すばらしき世界 | 西川 美和 | |
8 | 偶然と想像 | 濱口 竜介 | |
9 | サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜 | ダリウス・マーダー | |
10 | 孤狼の血 LEVEL2 | 白石 和彌 | |
11 | 街の上で | 今泉 力哉 | |
12 | 茜色に焼かれる | 石井 裕也 | |
13 | ラストナイト・イン・ソーホー | エドガー・ライト | |
14 | 由宇子の天秤 | 春本 雄二郎 | |
15 | DUNE/デューン 砂の惑星 | ドゥニ・ヴィルヌーヴ | |
16 | あのこは貴族 | 岨手 由貴子 | |
17 | ミークス・カットオフ | ケリー・ライカート | |
18 | 消えない罪 | ノラ・フィングシャイト | |
19 | いとみち | 横浜 聡子 | |
20 | 子供はわかってあげない | 沖田 修一 | |
次 | MINAMATA ミナマタ | アンドリュー・レヴィタス |
個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)
1位 ドライブ・マイ・カー
村上春樹の短編をベースにして、それで3時間近くもある長編映画を作ってしまうのも凄いですが、喪失感を抱える登場人物たちの心の変遷をじっくりと濃密に描いた脚本・演出の見事さには脱帽。ワザとセリフを棒読みさせて読み合わせをさせる“濱口メソッド”がそのまま映画内に取り入れられている点も含め、これは濱口映画の集大成とも言える傑作です。
2位 ノマドランド
「ノマド」という、職も家も失いアメリカを流離う人々を描く事で、格差、分断が広がる現代アメリカの抱える問題を鋭く抉った力作ですが、同時に“老後をどう生きるか”というテーマにも斬り込んだ点が素晴らしい。撮影監督ジョシュア・ジェームズ・リチャーズによる夕暮れの映像も特筆すべき美しさ。
3位 ファーザー
認知症の老人を扱った映画は数多くありますが、“認知症老人の目から見た主観映像”がほぼ全編を占めるというアイデアが秀逸。認知症になる事が本人にとってどれだけ悲しく絶望的であるかがまざまざと感じられます。アンソニー・ホプキンスが神がかり的熱演。高齢化が進む現代だからこそ作られるべくして作られた傑作です。
4位 リスペクト
アレサ・フランクリンの若き日の知られざる苦悩を赤裸々に描き、黒人差別・女性差別への強い抗議も込められた、伝記映画にして社会派的テーマも持った力作です。ジェニファー・ハドソンのアレサになり切った名演、そして見事な歌声にも心揺さぶられました。
5位 ヤクザと家族 The Family
「新聞記者」の河村光庸プロデューサー、藤井道人監督のコンビが又も世に放つ問題作。ヤクザ映画のフォーマットを維持しつつ、暴対法のおかげでヤクザが社会から徹底的に排除されるようになった現代、ヤクザは足を洗ってさえもまっとうに生きる事が許されないという現実を通して、社会の底辺で喘ぐ人たちが生き辛い現代社会に対する痛烈な批判が込められた秀作。特に“ヤクザ社会は疑似家族である”点を鋭く指摘し、人と人との繋がりの大事さをもテーマに据えた藤井道人脚本、演出が秀逸です。
6位 空白
これも河村光庸プロデューサー率いるスターサンズ作品。万引き、モンスター・クレイマー、交通事故による加害者と被害者それぞれの苦しみ、と誰にでも起こりうる事件、人物を巧みに配置し構成されたストーリー、はたまた人間の複雑な二面性までも盛り込んだ、これは見事な人間考察ドラマの傑作です。吉田恵輔監督はもう1本「BLUE/ブルー」というボクシング映画の秀作もあり、大活躍の年でした。それにしてもベスト上位に2本も傑作を送り込んだ河村プロデューサーの企画力と慧眼にはただただ敬服。
7位 すばらしき世界
西川美和監督はこれまでもいくつもの秀作を発表して来ましたが、これもまた素晴らしい秀作。5位の「ヤクザと家族」とも共通する、足を洗った元ヤクザの男がまともに暮らしにくい現実を通して、人はどう生きるべきか、正義とは何なのかなど、さまざまなテーマが盛り込まれた、優れた人間観察ドラマの力作に仕上がっています。役所広司は相変わらずうまい。
8位 偶然と想像
濱口竜介監督の本年度2本目の作品ですが、これがまた素晴らしい秀作。40分の短編3本を並べた短編集ですが、どれも“偶然”から生まれる人間同士の触れ合い、葛藤をテーマに、時には笑え、時には心が温かくなる素敵な人間ドラマを見事に描いています。1位の「ドライブ・マイ・カー」がなければもっと上位に来てもいい秀作です。本当に濱口監督、凄い。
9位 サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜
ネット配信作品ですが、後に劇場でも公開されました。突然聴覚を失ったドラマーの苦悩を描いているのですが、秀逸なのはまるで我々観客自身が主人公の耳の状態を体験しているかのような音響効果です。人工的に耳が聞こえるようになって、それが幸せか?というテーマにも考えさせられました。
10位 孤狼の血 LEVEL2
前作の3年後を描く続編。白石和彌の演出は相変わらず見事。鈴木亮平演じる上林という、強烈な悪の存在感も素晴らしい。原作にはないオリジナルの話なのに、原作と比べても違和感がない池上純哉の脚本もよく出来ています。
11位 街の上で
舞台となる下北沢という街のユルい雰囲気が物語にうまく生かされ、街自体が主役とも言える、風変りだけれど心に響く素敵なお話です。今泉力哉監督の、今までの最高作ですね。
12位 茜色に焼かれる
新型コロナ禍の現在を物語に取り込んだ、初めての映画でしょうね。ただでさえ貧困に喘いでいる低所得層が、コロナでさらに苦境に追いやられる、政治の貧困、差別、格差社会の現状を鋭く批判しながらも、それでも逞しく生きて行く人間の強さを丁寧に描いた、今の時代状況が見事に反映された傑作です。
13位 ラストナイト・イン・ソーホー
エドガー・ライト監督らしい、'60年代のポップ・ミュージックを全編に散りばめ、主人公が何度も夢見る'60年代のロンドンと現在とを交互に描きながら、やがてジワジワと恐怖が増幅して行く怪奇ホラー要素と、謎を孕んだサスペンス・ミステリー要素が見事に融合した快作です。緻密に再現された'60年代のロンドンの風景も見ものです。
14位 由宇子の天秤 新進、春本雄二郎監督の気合のこもった力作です。真実を追い求めるジャーナリストが、自分の身に降りかかった不都合な真実は隠蔽に走ってしまう矛盾を通して、人間の弱さ、マスコミの身勝手さを鋭く批判した問題作です。これが2作目とは思えない、春本監督のシャープな演出、主演の瀧内公美の熱演、共に素晴らしい。
15位 DUNE/デューン 砂の惑星
さすが「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、デヴィッド・リンチ監督が失敗した壮大な物語の映画化を見事成功させました。長大な原作を、じっくりと時間をかけて、重厚さと荘厳ささえ感じさせられる演出で完璧に描き切っています。続編が愉しみです。
16位 あのこは貴族
こちらも長編2作目となる新進、岨手由貴子監督による、富める者と貧しい者の間に横たわる抜きがたい階級格差の壁を乗り越え、両者が共に手を携え生きて行く望ましい未来を目指すまでを描いた、優れた社会派映画の力作です。春本監督といい、優れた実力を持つ新人監督が次々出て来る日本映画界には大いに期待したいですね。
17位 ミークス・カットオフ
ケリー・ライカート監督特集でやっと公開されましたが、こんな力作が未公開だったとは。西部劇の形を借りて、漂流し迷走するアメリカの現状を鋭く抉った力作です。この監督の作品をもっと見たいですね。
18位 消えない罪 これもネットフリックス配信作品で、劇場で先行公開されました。7位の「すばらしき世界」とも通じる、刑務所を出所した人間が、罪を償っても生き辛い現実を描きつつ、ラストに急転のどんでん返しを盛り込み、かつ現代が抱えるさまざまな問題をも浮き彫りにする社会派エンタティンメントの秀作です。
19位 いとみち
あの「ウルトラミラクルラブストーリー」の横浜聡子監督が、こんな解りやすく楽しいエンタメ作品を作るとは意外でした。津軽ナマリにコンプレックスを抱く少女が、津軽三味線の演奏を通して人間的に成長して行く感動の物語です。横浜監督、次回も是非本作のような楽しい作品を。
20位 子供はわかってあげない
お気に入りの沖田修一監督の、主人公の幼い頃に家を出たまま行方不明の父親を探す冒険の旅を通して、上の作品と同様、少女が成長して行く物語です。沖田監督らしい、アニメも活用したトボけた演出も楽しい。
…さて、以上がベスト20ですが、例によってまだまだ入れたい作品がありますので、もう10本、ベスト30まで紹介しておきます(タイトルのみ)。
21位 MINAMATA ミナマタ
22位 浜の朝日の嘘つきどもと
23位 BLUE/ブルー
24位 ONODA 一万夜を越えて
25位 JUNK HEAD
26位 春江水暖
27位 GUNDA/グンダ
28位 映画大好きポンポさん
29位 ミナリ
30位 アイダよ、何処へ?
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うーん、それでも収まり切れない。31位以下も順不同で挙げておきます。
ウェンディ&ルーシー
聖なる犯罪者
パーフェクト・ケア
すべてが変わった日
アイの歌声を聴かせて
アメリカン・ユートピア
1秒先の彼女
Away
ラスト・フル・メジャー
知られざる英雄の真実
羊飼いと風船
本年度も前年に続いて、新型コロナウイルス蔓延による緊急事態宣言によって、シネコンを中心とした多くの映画館が1ヶ月以上も休館する状態が起き、またもやコロナに振り回された1年でしたが、それでも昨年度同様、素晴らしい映画に出会え、映画ファンにとってはまずまずの年だったのではないでしょうか。日本映画も前年に続き、ベスト20の内12本を占めるという健闘ぶりでした。ただ、21位以下になると外国映画が底力を発揮して、40位までだと逆転して洋画の本数が多くなりました。ネット配信作品も相変わらず良質の秀作を連発、9位と18位が配信作品で、いずれも劇場公開もされました。日本映画にもその傾向が現れつつあるようで、現に8位の「偶然と想像」はネット配信と劇場公開が同時で、その為劇場公開はごく限定的となりました。その方が収益的にいいらしいのですが、劇場で見たいのに見れない人が増えるわけで、映画産業としてこれでいいのか、考えさせられました。皆さんはどう思われますか?
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さて最後は、恒例となった、楽しいおバカB級映画を集めた、「愛すべきB級映画大賞」 。本年度は3本だけとなりました。
1位 ジャッリカットゥ 牛の怒り
インドでもこんなおバカ映画が作られるようになったのね。
2位 ガンズ・アキンボ
ダニエル・ラドクリフ、最近おバカな映画にばかり出ている。
3位 ドント・ルック・アップ
ラストシーンのオチでおバカ映画決定。
1位は、本編よりも予告編の方が面白い(笑)。出て来るキャッチ・コピーがケッサクで、「暴走機関車と化した牛をとめられるのか?」とか「牛追いワイルドスピード映画」、極めつけが「徒歩版『マッドマックス
怒りのデスロード』」。吹き出しましたよ。本編でも、ラストの人間ピラミッドに唖然。これがアカデミー賞国際映画賞部門のインド代表だなんて(笑)。2位、ダニエル・ラドクリフ出演映画は、前に見た「スイス・アーミー・マン」も相当なバカ映画でした。手に銃くっつけられたままで、トイレするのに悪戦苦闘するシーンは爆笑ものです。3位、ネットフリックス配信映画で劇場でも公開されました。「アルマゲドン」のようなディザスター・ムービーかと思ったら、キューブリック監督の「博士の異常な愛情」を思わせるブラック・ユーモア・コメディでした。メリル・ストリープ演じる大統領がとんでもないアホで、彗星の地球激突が避けられないと知るとさっさと自分たちだけ逃げ出す無責任ぶり。そしてあのラストには爆笑。ストリープ、よくこんなのに出ましたね。エラい。
実は、見たら多分ここに入るだろう園子温の2本の新作を、時間が取れず共に見逃してるのです。見てたら間違いなくここに入ったでしょうね。
※ ワーストテンはこちら。