私の選んだ2020年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、原則として2020年1月1日〜12月28日の間に大阪にて公開されたものを対象にしております。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
海辺の映画館 キネマの玉手箱 大林 宣彦
パラサイト 半地下の家族 ポン・ジュノ
アンダードッグ 前編・後編 武 正晴
朝が来る 河瀬 直美
カセットテープ・ダイアリーズ グリンダ・チャーダ
本気のしるし 《劇場版》 深田 晃司
異端の鳥 バーツラフ・マルホウル
れいわ一揆 原 一男
Mank マンク デヴィッド・フィンチャー
10 1917 命をかけた伝令 サム・メンデス
11 TENET テネット クリストファー・ノーラン
12 スパイの妻 黒沢 清
13 リチャード・ジュエル クリント・イーストウッド
14 浅田家! 中野 量太
15 佐々木、イン、マイマイン 内山 拓也
16 37セカンズ HIKARI
17 ソワレ 外山 文治
18 ジョジョ・ラビット タイカ・ワイティティ
19 ジョゼと虎と魚たち タムラコータロー
20 ラストレター 岩井 俊二
アルプススタンドのはしの方 城定 秀夫

 

 個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

1位 海辺の映画館 キネマの玉手箱
  大林宣彦監督の遺作であり、かつここ数年作り続けて来た戦争三部作(「この空の花 長岡花火物語」等)に込められた戦争反対の思いの丈をさらに集約した、まさに大林映画の集大成。絢爛豪華に繰り広げられる映像マジックにただ圧倒されました。ガンで余命宣告を受けながら、精力的に映画を作り続けて来られた大林監督には、ただただ尊敬の念しかありません。何度も観たくなる、素晴らしい傑作です。

2位 パラサイト 半地下の家族
  格差社会が世界的に広がる今の時代の問題点を、ブラック・ユーモアで塗し痛烈に皮肉った、ポン・ジュノ監督の最高作ですね。それにしてもカンヌ映画祭パルムドールはともかくも、米アカデミー賞作品賞まで獲得するとは想像出来ませんでしたね。これまではいつもイーストウッド監督作品に阻まれてキネマ旬報ベストワンを逃して来ましたが、今度こそ間違いなくキネ旬ベストワンに輝くでしょうね。

3位 アンダードッグ 前編・後編
 前後編合わせて4時間半を超える大長編ですが、底辺であえぎながらも、さまざまな人生を抱えて生きる人たちの思いと、夢に挑む若者たちの苦闘を巧みに交錯させ、すべてがラストの壮絶な闘いに集約される見事な人間ドラマの傑作です。ボクシング試合のダイナミックな演出も見ごたえあり。足立紳の脚本(原作も)、武正晴監督の演出、役者たちの演技、いずれもパーフェクト。見事と言うしかありません。

4位 朝が来る
 辻村深月の原作も良く出来ていますが、河瀬直美監督は作品に篭められたテーマをきちんと咀嚼し、子供を産む事、養子として得た子供を愛情をもって育てる事、それぞれの覚悟と強い信念の大事さを見事映像化し、深い感動を与えてくれます。監督独特の自然描写の挿入、ドキュメンタルな演出も効果的です。河瀬監督のこれまでの最高作でしょう。

5位 カセットテープ・ダイアリーズ
 グリンダ・チャーダ監督はこれまで知らなかったし、あまり期待していなかったけれど、これは素晴らしい傑作です。パキスタン移民の高校生が、ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会った事で新しい人生を獲得して行くまでを、社会的テーマを盛り込みつつも、見事な青春映画に仕上げています。1987年が舞台ですが、移民排斥、人種差別、不況による底辺労働者へのしわ寄せと、描かれる社会問題は今の時代とそのままリンクしている点も逃せません。

6位 本気のしるし 《劇場版》
 これまた上映時間が3時間52分もある大長編ですが、熱のこもった力作でした。困った人を放っておけない性格の男が、聖女とも悪女ともつかない不思議な女性に翻弄されるだけの物語ですが、それだけでダレる事もなく4時間近くを持たせる、深田監督の脚本(三谷伸太朗と共同)・演出、共に見事です。人間って、不思議で、困った存在だけれど、でも愛おしい、と思わせる魅力的な秀作でした。

7位 異端の鳥
 これも上映時間が3時間近くある作品ですが、エネルギッシュな演出に圧倒されます。ホロコースト物ですが、主人公が哀れな被害者だけではなく、異端者を排除する暴力と虐待に苛まれるうちに、社会に対する悪意、復讐心を顕在化させて行くという展開がユニークです。フィルムで撮影された端正なモノクロ映像も魅力的です。

8位 れいわ一揆
 なんと、これも上映時間が4時間もある大長編ドキュメンタリーです。しかしさすがドキュメンタリーの鬼才・原一男監督、ユニークな人たちの選挙活動を追って飽きさせません。ドキュメンタリーなのに、弱い者が力を合わせ、強大な敵に闘いを挑み勝利するという、まさにエンタティンメントの王道パターン通りの楽しめる作品になっているのが見事です。
それにしても本年度は1位の「海辺の映画館」も含めて、上映時間が3時間〜4時間もある長編映画が続々登場、それらがいずれもベスト上位に食い込んでいるのだから凄い。観るのに体力と時間が要りましたが(笑)。

9位 Mank マンク
 Netflixオリジナル作品ですが、劇場公開もされました。鬼才デヴィッド・フィンチャーが、父が残した脚本を執念の映画化。映画史上の傑作「市民ケーン」の脚本を書いた、マンクことハーマン・J・マンキウィッツを主人公にしたという着眼点が秀逸ですが、演出も熱が篭もっていて見ごたえがあります。マスコミ界で強大な権力を持つ人間の驕り、フェイクニュースで選挙戦を捻じ曲げる話も出て来たりと、今の時代に通じるテーマが盛り込まれる点も見どころです。

10位 1917 命をかけた伝令
 全編ワンカットが話題になりました(実際はCG処理でそう見せている)が、多くの人の命を守る為に、決死の覚悟で戦場を走り抜ける主人公の姿に感動を覚えます。ワンカット撮影は、我々自身も戦場にいるような臨場感を感じさせる為に必要な手法だったのでしょう。

11位 TENET テネット
 さすがクリストファー・ノーラン監督、進行していた時間の流れを途中から逆行させ、それまで経過した時間の流れと交差させるというアイデアが秀逸。一度観ただけでは判り辛いですが、“考えるより感じる”作品の1本として魅了させられました。これ、DVDで、あの時のあれはアレか、と確認しながら観直したらより楽しめるかも知れませんね。

12位 スパイの妻
 戦時中の大戦秘史的な物語で、731部隊の非道な作戦を告発する為にあえて売国奴になろうとする主人公の苦悩のドラマと、その夫を信じ続ける妻の物語、…と思わせておいて、最後には見事なドンデン返し的ミステリーになっているのが秀逸。これはやられました。まさに蒼井優のセリフ通り、「お見事!」と唸りたくなる秀作です。

13位 リチャード・ジュエル
 クリント・イーストウッド監督は相変わらずコンスタントに力作を発表しますね。これも最近続いている実話の映画化で、冤罪の怖さ、マスコミのえげつなさを容赦なく描きます。もう90歳になるのに、演出力はまったく衰えを見せません。今年も新作が観れるようで楽しみです。

14位 浅田家!
 ちょっとユニークな主人公の成長を通して、写真の持つ力、家族が強い絆で結ばれ、生きて行く事の大切さを訴え感動を呼びます。デビュー以来一貫して家族の物語を描き続ける中野量太監督ですが、本作は実話がベースでありながらも、紛れもなく中野監督らしい作品に仕上がっていますね。もう立派な日本を代表する名監督と言えるでしょう。

15位 佐々木、イン、マイマイン
 陽気でバカな事をやっているように見えて、実は心の中に深い孤独を抱えた佐々木という男との交流と友情を通じて、自分の人生を見つめ直そうとする主人公の生き方を凝視した青春映画の力作です。新人監督・内山拓也のシャープな演出も見ごたえあり。

16位 37セカンズ
 これも新人監督の作品。実際に車椅子生活を送る障碍者を主役に起用し、障碍があろうとも真っ直ぐに前に向かって歩もうとする主人公の生き方を描いて深い感動を呼ぶ秀作です。主人公を演じた佳山明さん、新人と思えないくらい才気に溢れる演出ぶりを見せた監督のHIKARIさん、共に素晴らしい。

17位 ソワレ
 これまた新人監督、外山文治の力作です。自分の生き方が見つけられずにいる若者と、父にずっと苦しめられ生きる意欲も失いかけている少女とが出会い、犯罪を犯して逃避行を続ける中で、藻掻きながらも二人がそれぞれに生きる意味を見つけようとする姿を描くロードムービーの秀作。上記3人の新人監督の次回作が楽しみです。

18位 ジョジョ・ラビット
 なんとまあ、ヒトラーそっくりの男を頭の中に妄想する少年を主人公に、コメディ・タッチで始まりながら、途中からアンネ・フランクを思わせるユダヤ人少女を匿うサスペンスになり、最後は痛烈な反戦ヒューマニズムで締めくくられる、ジャンル分け不能の異色作です。監督と偽ヒトラーを演じる俳優とを兼任したタイカ・ワイティティ監督、お見事です。無論主役の10歳のジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイビスくんの演技も素晴らしい。

19位 ジョゼと虎と魚たち
 原作は2003年に犬童一心監督により一度実写映画化されていますが、今回はアニメでのリメイク。犬童作品が良かっただけにどうかなと思いましたが、こちらも見事な秀作に仕上がっています。アニメらしい幻想的な映像も素晴らしいし、前作と違ってセクシュアルなシーンもなく、終盤に向かって二人の若者が徐々に心を通わせて行く脚本・演出が秀逸です。特にジョゼが自作の絵本を朗読するシーンでは思わず涙が溢れました。ラストを前作とは変えてハッピーエンドにしたのも正解です。これは予想外の拾い物でした。年末ギリギリに観てベスト20滑り込みです。

20位 ラストレター
 岩井俊二監督が25年前のデビュー早々の頃に発表した傑作「Love Letter」を思い起こさせる、“手紙”をやりとりする事にこそ、人の思いが伝えられるというテーマがさらに深化した、爽やかなラブストーリーの秀作です。まさに岩井ワールド。前作の主人公たちを演じた豊川悦司と中山美穂を再登場させるお遊びもニヤリとさせられます。


…さて、以上がベスト20ですが、例によってまだまだ入れたい作品がありますので、もう10本、ベスト30まで紹介しておきます(タイトルのみ)。

21位 アルプススタンドのはしの方
22位 ミセス・ノイズィ
23位 フォードvsフェラーリ
24位 宇宙でいちばんあかるい屋根
25位 初恋
26位 燃ゆる女の肖像
27位 MOTHER マザー
28位 一度も撃ってません
29位 はちどり
30位 ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒

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うーん、それでも収まり切れない。31位以下も順不同で挙げておきます。

鵞鳥湖の夜
羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来
悪人伝
ぶあいそうな手紙
ストレイ・ドッグ

なぜ君は総理大臣になれないのか
男はつらいよ お帰り 寅さん
ウルフウォーカー
のぼる小寺さん
罪の声


というわけで、本年度はコロナ禍という異常事態にもかかわらず、日本映画に傑作、秀作が続出、ベスト20だけでも日本映画が12本も占めてしまいましたし、ベスト30までだと18本、と大豊作の年となりました。新人監督の意欲作がベスト20に4本(アニメ「ジョセと虎と魚たち」も含む)も入った事、長時間上映作品が上位を占めた事も本年度の特徴でしょう。そして、ネット配信作品の劇場上映作が昨年度に続き目立った事も見逃せません。この傾向は今年も続くでしょうね。

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おしまいは、恒例となった、楽しいおバカB級映画を集めた、「愛すべきB級映画大賞」。本年度も4本だけとなりました。

1位 脳天パラダイス
   お気に入りの山本政志監督の、まったく久しぶりのおバカコメディ。
2位 ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!
 
 まさか29年ぶりの続編。キアヌ、有名になってもこれやるとはエラい。
3位 ジェクシー!スマホを変えただけなのに   
   スマホが人格を持ったら、というアイデアがいい。

4位 ディック・ロングはなぜ死んだのか?
  とんでもないバカ映画です。

山本政志監督は'90年代、「てなもんやコネクション」、「アトランタ・ブギ」とおバカな怪作コメディを連発して好きだったのですが、最近は大人しくなってて心配してました。1位の本作は久しぶりのぶっ飛びコメディで大いに楽しませてもらいました。これぞ山本ワールド。2位、まだキアヌ・リーブスが無名時代に2作作られたおバカファンタジー・コメディのまさかの続編。昔とまったく変わっていない相変わらずの脱力ぶりに笑いました。3位、スマホ依存に陥っている現代人を徹底的におちょくった快作コメディです。笑ってばかりもいられませんね。4位は「スイス・アーミー・マン」のダニエル・シャイナート監督作品ですが、これもぶっ飛んでます。おバカ映画と言うより、人間のバカさ加減を冷たく見据えた怪作と言えるでしょう。

  
   ※ ワーストテンはこちら

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