私の選んだ2019年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、原則として2019年1月1日〜12月26日の間に大阪にて公開されたものを対象にしております。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
この世界の(さらにいくつもの)片隅に 片渕 須直
運び屋 クリント・イーストウッド
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド クエンティン・タランティーノ
女王陛下のお気に入り ヨルゴス・ランティモス
長いお別れ 中野 量太
バジュランギおじさんと、小さな迷子 カビール・カーン
海獣の子供 渡辺 歩
あの日のオルガン 平松 恵美子
火口のふたり 荒井 晴彦
10 アイリッシュマン マーティン・スコセッシ
11 ホテル・ムンバイ アンソニー・マラス
12 岬の兄妹 片山 慎三
13 宮本から君へ 真利子 哲也
14 シークレット・スーパースター アドベイト・チャンダン
15 荒野の誓い スコット・クーパー
16 人生をしまう時間(とき) 下村 幸子
17 天気の子 新海 誠
18 幸福路のチー ソン・シンイン
19 ジョーカー トッド・フィリップス
20 T−34 レジェンド・オブ・ウォー アレクセイ・シドロフ
新聞記者 藤井 道人

 

 個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

1位 この世界の(さらにいくつもの)片隅に
Konosekainosaraniikutumono  3年前の「この世界の片隅に」も素晴らしい感動の傑作でしたが、その時に時間の関係で割愛した原作のエピソードを追加し、前作より42分も長くなった完全版とでも言うべき作品ですが、前作よりもさらに素晴らしい傑作になっていました。片渕須直監督が本来作りたかったのはこちらのバージョンなのでしょうね。昨年観た映画の中で一番感動し、泣かされた作品です。文句なしのベストワン。これを昨年度のベストテンに入れるかどうかは意見の分かれる所でしょうが、題名も変わっているし、私個人としては別作品としてテンに入れていいと思います。何よりも昨年度は日本映画に、“これが絶対ベストワン”と呼べる作品がなかった事もあり、これを入れないとベスト20全体の収まりが悪くなりますので。とにかく、この作品に出会えて、とても幸せな1年になりました。

2位 運び屋
Themule  洋画のマイベストワンはこちら。クリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」以来10年ぶりの監督兼主演作ですが、88歳と言う年齢を全く感じさせない見事な秀作です。イーストウッド監督作としては「グラン・トリノ」に次ぐ傑作です。そして今年も早くも新作「リチャード・ジュエル」が公開待ち。何度も書いている事ですが、イーストウッド監督の新作が観られる事がとても幸せです。ああ待ち遠しい。

3位 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
 タランティーノ監督も私のお気に入りですが、映画界を舞台に、タラの映画愛が炸裂した大傑作ですね。上の2本がなかったら文句なくベストワンです。実在の人物を登場させながら、史実を変えて強引にハッピーなエンディングに持って行く荒業に感動しました。さらに全編に盛り込まれた映画オマージュを探すのも、この映画のもう一つの楽しみ方ですね。

4位 女王陛下のお気に入り
 これも、実在の人物を登場させた歴史劇と思わせておいて、史実を大胆に脚色し、単なる歴史劇にとどまらない、人間の業の深遠にせまる素晴らしい骨太人間喜劇の傑作に仕上がっています。ヨルゴス・ランティモス監督、お見事です。

5位 長いお別れ
 「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督の新作ですが、今回は“親の認知症”というテーマに切り込み、またも深い感動を与えてくれます。中島京子の原作を巧みに再構成し、最後にジワッと涙を誘う演出は見事ですね。もう新人監督と言えない風格さえ漂わせています。

6位 バジュランギおじさんと、小さな迷子
 最近のインド映画は凄い。他人の子供を行き掛かりで面倒を見るという、チャップリンの「キッド」以来の普遍的な物語展開も泣かせますが、この映画はさらに単なる感動の物語を超えて、インド、パキスタンの国家間対立をも巧みに物語に溶け込ませ、最後には「国境なんて無くする事こそ人々の平和と幸福に繋がるのだ」というテーマまで盛り込んだ、奇跡的な傑作になっています。こういう映画日本で果たして作れるでしょうか。

7位 海獣の子供
 単なる子供アニメを超えて、シュールかつ哲学的なテーマまで盛り込んだ、大人こそ見るべき問題作です。ビジュアルの美しさ、細部に亘り徹底してリアルな画の作り込みも飛び抜けています。アニメ版「2001年宇宙の旅」と言えば大袈裟すぎるでしょうか。

8位 あの日のオルガン
 戦時中の保育児疎開と言う知られざる実話を基にした、感動の秀作です。平松恵美子監督は山田洋次監督の助監督を長く務めていただけあって、時に笑えるシーンも盛り込んだ師匠譲りの緩急自在の演出ぶりが見事です。小規模な公開であまり話題にならなかったのが残念ですが、是非多くの人に観ていただきたい力作です。

9位 火口のふたり
 荒井晴彦の監督第3作ですが、一作ごとに演出力が格段に向上しています。腐れ縁の男と女がただただセックスを繰り返す物語の中に、人間の業、欲望の悲しさが浮かび上がる力作です。荒井さんも多くの脚本を書いたかつての日活ロマン・ポルノを思い起こさせます。出演者が2人だけなのに見入ってしまうのは、荒井さんの脚本も見事ですが、監督の力業による所も大きいでしょう。次回監督作が楽しみです。

10位 アイリッシュマン
 ネット動画配信サイト、Netflix用に作られた作品ですが、劇場でも公開されました。3時間29分もある長編ですが、さすがスティーヴン・ザイリアン脚本、マーティン・スコセッシ監督だけあってダレる事なく見事に物語を牽引して行きます。ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルという実力派かつクセのある俳優たちの演技合戦も素晴らしい。ただ、Netflixが資金を出して、上映時間無制限で監督に自由に作らせたからこそ傑作になったと思うと、複雑な気持ちになりますね。

11位 ホテル・ムンバイ
 実話を基にした、テロに襲われたホテル内において、宿泊客を守ろうとするホテル従業員の必死の行動を描いた作品ですが、スリリングな緊張感が全編持続し、手に汗握って見惚れてしまいました。どんなスリラー映画よりも怖かったです。単にテロ事件を描くだけでなく、テロリスト側の行動心理もきちんと描いている点も出色です。

12位 岬の兄妹
 これが新人監督の長編第1作とは思えないほど、見事な出来です。互いにハンディを背負った兄と妹が必死に生きる姿を通して、現代日本社会が抱えるさまざまな問題をも浮き彫りにする問題作です。たった一人で資金調達から脚本、監督、編集までやってのけ、完成・公開にこぎ着けた片山慎三監督の熱意にもあっぱれです。

13位 宮本から君へ
 「ディストラクション・ベイビーズ」で注目された真利子哲也監督の同名コミックの映画化作品ですが、題名からは想像出来ないほど強烈なインパクトがあって打ちのめされました。不器用で腕力もない男が、強姦された恋人の仇討ちの為、必死で体を鍛え、強大な敵に立ち向かう姿に最後は感動します。前作同様、異様なまでの暴力衝動に満ちたハイテンションな演出に圧倒されます。池松壮亮、蒼井優のそれぞれ体当たりの熱演も見事。両者にとってもこれまでの最高作品ではないでしょうか。

14位 シークレット・スーパースター
 これもインド映画の傑作。父親が暴力で家族を支配する家庭で、それでも歌手になりたいという夢をかなえる為奮闘する姿を描いて感動的です。インドのマネーメイキング・スター、アーミル・カーンが、本作では脇に回って作品を支えているのもいいですね。インド映画歴代世界興収第3位に輝いたのも納得の素敵な作品です。

15位 荒野の誓い
 最近少なくなった、アメリカ西部劇の快作です。死期の迫ったネイティブ・アメリカンの酋長とその家族をモンタナ州の居住地まで護送するというストーリーを通して、差別・偏見、民族対立、分断の続く現代社会への批判を行った問題作です。クリスチャン・ベイル主演の西部劇はどれも面白いですね。

16位 人生をしまう時間(とき)
 NHK- BS1で一昨年放送されたドキュメンタリーの再編集・劇場公開版です。在宅介護に携わる医師の奮闘を通して、超高齢化社会となった日本のさまざまな問題点が炙り出されて来ます。医療のあるべき姿とは、本当の介護とは、さらには生きるとは何なのか、人生とは、家族とは、といった根源的なテーマにまで迫った力作です。小規模公開なのが残念ですが、是非多くの人に観ていただきたいと思います。

17位 天気の子
 「君の名は。」という傑作を作った新海誠監督の新作です。今作も大ヒットが期待されるプレッシャーの中で水準作を作り上げた点は評価していいでしょう。少年と少女の、ナイーブな心の内面を繊細に描く演出は相変わらず見事です。ただ拳銃が必要だったのかとか疑問の残る点もあり、前作よりは少し落ちる出来です。

18位 幸福路のチー
 台湾製アニメの秀作です。主人公の少女時代の日常描写が日本の昭和ノスタルジー作品を思わせジンとしますが、それだけでなく台湾の現代史も背景に据えて、単なるノスタルジーに終わっていない所がまた素晴らしい。

19位 ジョーカー
 まさか、「バットマン」の敵役ジョーカーを主人公にして、感動の秀作が誕生するとは思いもしませんでした。その発想がまず秀逸ですし、格差社会が加速する時代状況を背景に、痛切な問題提起を行っている点も見事です。ホアキン・フェニックスの熱演も素晴らしい。発想の秀逸さにおいては昨年度ベストでしょう。

20位 T−34 レジェンド・オブ・ウォー
 ロシアからやって来た、戦車映画の傑作です。ロシアでも、こんな娯楽アクション映画の王道を行くエンタメ作品が作れるようになったと思うと感慨深いですね。 


…さて、以上がベスト20ですが、例によってまだまだ入れたい作品がありますので、もう10本、ベスト30まで紹介しておきます(タイトルのみ)。

21位 新聞記者
22位 存在のない子供たち
23位 僕たちのラストステージ
24位 
よこがお
25位 
i -新聞記者ドキュメント-
26位 
町田くんの世界
27位 
アルキメデスの大戦
28位 
愛がなんだ
29位 
バーニング 劇場版
30位 
家(うち)へ帰ろう 

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 うーん、それでも収まり切れない。31位以下も順不同で挙げておきます。


 ロング・ウェイ・ノース  地球のてっぺん
 見えない目撃者
 イエスタデイ
 
ラスト・ムービースター
 凪待ち
 さらば愛しきアウトロー
 洗骨
 ディリリとパリの時間旅行
 夜明け
 眠る村
 


上位こそ洋画が多くなりましたが、上に挙げた40本を集計すると、きっちり20本が日本映画。飛び抜けた作品こそ少なかったものの、小粒ながら水準以上の佳作は邦画にも結構あったという事になります。思ったより酷い結果にならなくて安堵しました。
それにしても改めて振り返ると、昨年はアニメに傑作が続出した点でも記憶に残る年となりました。1位を含め、ベスト20に4本も入ってる上、ベスト40まで見ると6本もアニメがランクイン。時間が取れず見逃してしまいましたが、「エセルとアーネスト 二人の物語」「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」も秀作と評判です。これらも追っかけて観たいですね。

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 さてお次は、恒例となった、楽しいおバカB級映画を集めた、「愛すべきB級映画大賞」。今回は4本だけとなりました。

1位 シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション
   
100トンハンマー実写でやるか!(笑)。
2位 爆裂魔神少女 バーストマシンガール
 
 「片腕マシンガール」よりは落ちるけど面白い。
3位 パペット大騒査線 追憶の紫影
    下ネタ満載お下品パペット・ムービー。
4位 シャザム!  どうやっておシッコするの?に笑いました。

1位はまさかの日本製コミックのフランス製実写作品。原作へのリスペクトもきっちり網羅されています。こういう作品がなぜ日本で作られないのでしょうかねぇ。2位。「片腕マシンガール」がカルト的傑作になったのはアメリカ資本で作られたからで、日本でもここまで出来ただけでも評価してあげたいですね。3位はお下品だけどきっちりハメット的ハードボイルド・ミステリーへのオマージュが盛り込まれてるのがグッド。4位は子供がスーパー・ヒーローになって大喜び、やりたい放題アホな事をする、「スーパーマン」のパロディになってるのが面白い。これはまさにおバカ映画です。

  
   ※ ワーストテンはこちら

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