恒例の、私の選んだ2015年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、2015年1月〜12月の間に大阪にて公開されたものが対象となっております。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
あん 河瀬 直美
神々のたそがれ アレクセイ・ゲルマン
アメリカン・スナイパー クリント・イーストウッド
バクマン。 大根 仁
セッション デイミアン・チャゼル
沖縄 うりずんの雨 ジャン・ユンカーマン
野火 塚本 晋也
マッドマックス 怒りのデス・ロード ジョージ・ミラー
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
10 百円の恋 武 正晴
11 KANO 1931海の向こうの甲子園  マー・ジーシアン
12 この国の空 荒井 晴彦
13 海街diary 是枝 裕和
14 アンジェリカの微笑み マノエル・ド・オリヴェイラ
15 恋人たち 橋口 亮輔
16 激戦 ハート・オブ・ファイト ダンテ・ラム
17 岸辺の旅 黒沢 清
18 ナイトクローラー ダン・ギルロイ
19 悪党に粛清を クリスチャン・レブリング
20 群盗 ユン・ジョンビン
バケモノの子 細田 守

 

 個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

1位 あん
 観念的な作品が多かった河瀬直美監督が、こんな心温まる見事な傑作を作るなんて、まったく予想外でした。誰が観ても分かり易く、かつ静かに差別への怒りを滲ませた演出も見事。次もこんな作品を作って欲しいとお願いしておきます。

2位 神々のたそがれ
 ただただ圧倒されました。打ちのめされました。映画のパワーというものをまざまざと感じました。構想35年に及ぶアレクセイ・ゲルマン監督の執念が乗り移った奇跡の力作です。

3位 アメリカン・スナイパー
 クリント・イーストウッド、本当に凄い監督です。作った時84歳!ですよ。信じられません。戦争で人間が壊れて行く、重いテーマを背負った作品でありながら、スリリングな緊迫感とエンタティンメント的要素も絶妙に配分した、こんな素晴らしい傑作をこの歳で作れるなんて。脱帽です。

4位 バクマン。
 こちらは一転、軽やかにマンガ作りという夢に向かって突き進む青春群像をリズミカルかつスピーディに描いた秀作。大根仁監督、今後も期待大です。

5位 セッション
 ドラマーを目指す若者と、その彼を徹底的にしごく鬼教師。この二人の対決だけで映画を引っ張り、最後まで見せ切るデイミアン・チャゼル監督の引き締まった演出が素晴らしい。これが長編監督2作目だというから凄い。鬼教師を演じるJ・K・シモンズも鬼気迫る熱演。圧倒されました。単なる感動とお涙の作品にしていない点もいいですね。

6位 沖縄 うりずんの雨
 沖縄の歴史と現状をストレートに、かつ力強く描いたジャン・ユンカーマン監督の骨太ドキュメンタリーの傑作。沖縄問題に関心のある方は必見です。

7位 野火
 塚本晋也監督の執念を感じさせる、戦後70年の節目に登場した戦争映画の傑作。これが低予算の自主製作映画とは信じられないくらい。市川崑監督の旧作を凌ぐ、素晴らしい力作でした。

8位 マッドマックス 怒りのデス・ロード
 昔の旧作も凄く好きな作品なのですが、これにもやられました。パワフル、ダイナミック、そして狂気が充満したアクション映画の極北。ジョージ・ミラー監督、もういいお歳のはずなのに昔とまったく変わらない、どころか昔よりさらにアクションと狂気はスケールアップしてますね。まいりました。

9位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
 全編をほぼワンカットで撮るという無謀な冒険にチャレンジし、見事な成功を収めたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の戦略にまず敬意を表したいですね。映画はそれだけでなく、きちんと主人公マイケル・キートンの苦悩、恐れ、不安、そして復活に賭ける意欲を的確に表現しているのが見事。映画マジックはここまで来たか、という感慨もあります。

10位 百円の恋
 昨年度のキネマ旬報ほかの映画賞でベストテン入りを果たしていますが、当地で公開されたのは2015年初。なので今年度の私のベストに入れさせていただきます。安藤サクラが素晴らしい。武正晴監督の今後にも期待大ですね。

11位 KANO 1931海の向こうの甲子園
 台湾映画ですが、戦前は日本の領地だった、その歴史を踏まえた上できちんと感動のスポーツ・エンタティンメントに仕上がっているのが見事ですね。見ごたえあります。

12位 この国の空
 脚本家荒井晴彦氏の2本目の監督作ですが、ぐっと演出の腕を上げましたね。戦時中の時代風俗を丁寧に描き、その不安な時代の空気の中で次第に恋心を燃やす女の情念が的確に描かれています。監督・荒井晴彦の今後にも注目です。

13位 海街diary
 上の作品にも感じましたが、本作にも成瀬巳喜男監督作品の影響が垣間見えますね。純日本的な家屋や風景をバックに、異母妹のすずが姉たちとの暮らしの中で、少しづつ心を解きほぐして行くプロセスが丁寧にしっとりと描かれて感動を呼びます。写真家・瀧本幹也氏が担当した撮影も素晴らしい。是枝裕和監督、着実に名匠の域に近づいておりますね。

14位 アンジェリカの微笑み
 世界最高齢監督のマノエル・ド・オリヴェイラ監督が101歳!の時に撮った秀作。カメラマンが、若くして亡くなった少女アンジェリカの写真を撮った事から、アンジェリカの亡霊に恋し、幽玄の世界に堕ちて行くという怪談物語なのですが、地元スペインの風景や労働者たち、下宿に同居する人々の会話などが随所に配されて生活感を滲ませ、単なる幽霊話に終わらず、人間という存在の不可思議さを追求した魅力的な映画に仕上がっています。凄い監督ですね。

15位 恋人たち
 橋口亮輔監督、7年ぶりの力作。それぞれに悩み、苦悩を抱えた3人の人物の日常描写を通して、人間の生き方の根源に迫った秀作です。素人俳優の使い方もうまい。もっと上位にしても良かったのですが、批評にもあるように若干引っかかる点があってこんな位置になりました。

16位 激戦 ハート・オブ・ファイト
 香港製の、格闘技をテーマとした感動の力作。若者が、元チャンピオンの落ちぶれた男にトレーナーになってもらい、過酷なトレーニングを経て勝ち続けるがチャンピオンに敗北、その姿を見て、元チャンピオンも再びどん底から這い上がり、闘いに挑んで行く、というよくあるベタな展開なのだけれど、人生の再起を賭けて立ち上がる男たちの熱い思いに泣かされる秀作です。主演のニック・チョンがとてもいいですね。

17位 岸辺の旅
 黒沢清監督の、幽霊になって戻って来た男と彼の妻との旅を描く不思議な物語。黒沢演出は円熟味と風格が出て来ましたね。

18位 ナイトクローラー
 映像パパラッチの男が、卑劣な手段を使ってでも名声を手に入れようとする物語で、マスコミ・テレビ局の視聴率主義エゴイズム、視聴者のあくなき欲望がモンスターを生んで行く、という痛烈な社会批判が込められた異色作。ジェイク・ギレンホールが怪演。

19位 悪党に粛清を
 珍しいデンマーク製の西部劇。アメリカ製とは微妙に違う、いかにも北欧的空気感が充満した異色作です。いろんな名作西部劇のエッセンスを巧妙に取り込んで、正統西部劇ファンも満足出来る見事な出来です。

20位 群盗
 こちらは韓国製のマカロニ・ウエスタン調アクション時代劇。単なるアクションに留まらず、敵役にも過酷な過去を背負わせたり、主人公たちが次第にチームワークを結束させて行くプロセスを丁寧に描いたりで奥は深い。新鋭ユン・ジョンビン監督は今後も注目ですね。

…さて、以上がベスト20ですが、例によってまだまだ入れたい作品が目白押しですので、もう10本、ベスト30まで紹介しておきます(タイトルのみ)。

21位 バケモノの子
22位 ヴィンセントが教えてくれたこと
23位 エール!
24位 
母と暮せば
25位 
百日紅 〜Miss HOKUSAI
26位 
女神は二度微笑む
27位 
戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)
28位 
私の少女
29位 
GONIN サーガ
30位 
ソロモンの偽証 前編・事件

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まだまだあって、やはり2015年度も30本でも収まらなかった。31位以下も順不同で挙げておきます…
 「トラッシュ! この街が輝く日まで」
 「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦(ディレクターズ・カット版)」
 「裁かれるは善人のみ」
 「黄金のアデーレ 名画の帰還」
 「顔のないヒトラーたち」
 「マイ・インターン」
 「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」
 「おみおくりの作法」
 「ミルカ」
 「ビッグ・アイズ」
ほとんど洋画ばかりですね。こういう準ベスト級というレベルの日本映画が少ない(秀作か駄作かの両極端)、という事でしょうね。

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さてお次は、恒例となった、楽しいおバカB級映画を集めた、「愛すべきB級映画大賞」。今回もベスト5のみです。

1位 シャークトパスVSプテラクーダ  *今年もロジャー・コーマンは健在(笑)。
2位 テッド2     マクファーレン、今回もやってくれました。
3位 ムーン・ウォーカーズ   シッチャカメッチャカ度では昨年ナンバーワン、
4位 ラブ&ピース     園子温、2015年はおバカに徹したようです。
5位 ホラー・シネマ・パラダイス  ホラーなんだけど脱力、笑えます。

1位は、1昨年も1位にしたけれど、昨年もやっぱりロジャー・コーマン。もうホント、くだらなくって笑いっぱなし。で、今年もまたまた未体験ゾーン2016で続編「シャークトパスVS狼鯨」(笑)が待機中。もうトコトンやってください。偉大なりロジャー・コーマン。「テッド2」はシネコンで大ヒットしたけど中身は相変わらずのお下劣おバカムービー。メインタイトルバックのMGMミュージカル・パロディには感動。3位はこちらもメインタイトルのアニメが最高。詳しくは作品表参照。4位の園子温、昨年は4本も監督し、どれもバカバカしいけれど、これは徹底的におバカでくだらない。だけど、その究極のくだらなさに愛着を感じたくなる不思議な作品。ただワーストとは紙一重ですね(笑)。5位はこれも未体験ゾーン映画祭で上映された作品で、監視カメラの殺人映像を間違ってスクリーンに映したら観客がホラー映画の場面だと思って熱狂するという展開が笑えます。POV映画がヒットしている時代状況をうまく取り入れたアイデアが秀逸。

  
   ワーストテンもUPしましたので、そちらもご覧ください。

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