恒例の、2015年度の私の選んだワーストテンを発表します。例年の通り、単に出来の悪い作品よりも、期待している作家がその期待を大きく裏切った場合に、厳しく採点しているケースがあります。対象期間はベスト20と同様、2015年1月〜12月大阪公開作品。なお、数は少ないですが、ベスト20と同様、アンダーライン付の作品は、クリックすれば作品批評にジャンプします (戻る場合はベスト20と同様、ツールバーの「戻る」を使用してください)。 では発表します。
順位 | 作 品 名 | 監 督 |
1 | ギャラクシー街道 | 三谷 幸喜 |
2 | 進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド | 樋口 真嗣 |
3 | 極道大戦争 | 三池 崇史 |
4 | チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密 | デビッド・コープ |
5 | 天の茶助 | SABU |
6 | 合葬 | 小林 達夫 |
7 | 映画 みんな!エスパーだよ! | 園 子温 |
8 | 予告犯 | 中村 義洋 |
9 | エイプリル・フールズ | 石川 淳一 |
10 | ボクは坊さん。 | 真壁 幸紀 |
次 |
トイレのピエタ | 松永 大司 |
1位は文句なしのワーストワン「ギャラクシー街道」。詳しくは作品評をお読みください。とにかくつまらない。全然笑えません。三谷監督作品は、デビュー作以来全部観ており、いつかビリー・ワイルダー作品のような、日本映画の規格を超えた、誰もが楽しめる洒落たコメディを作っていただけるものと、ずっと期待していただけに失望の度合いはハンパではありません。怒りよりも、悲しい気持ちです。次回こそ、素敵な、心温まるコメディを。期待しているからこそ、激励の意味で、あえてワーストワンといたします。
2位は「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」。前編もつまらなかったけれど、ひょっとしたら後編にとてつもないサプライズが用意されているのでは、と期待しただけに、その期待を無残に打ち砕いてくれた後編はワースト2で決まり。三谷作品がなかったら確実にワーストワンでしたよ。これも詳細は作品評を参照ください。
3位は「極道大戦争」。三池監督作品でこの題名なら、絶対面白いだろうとつい期待してしまいます。その分ガッカリ度も大きい。若い時なら破天荒で無茶な事やっても許されたが、今や「十三人の刺客」などで日本映画界を代表するメジャーな存在になったのですから、その重任を感じて欲しいですね。無茶をやるにしても、本作はどこか中途半端。昨年度のワースト評(「喰女」)で私は「三池監督に、一時のようなパワーが感じられなくなっているのは気がかり」と書きましたが、本作にも同じものを感じました。本当、期待してるんですから頑張ってくださいよ。
4位「チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密」。ジョニー・デップ主演のコメディなのですが、この主人公にまったく魅力が感じられず、ただウロチョロしてるだけ。むしろ脇のポール・ベタニーの方が笑いもさらうし魅力があるというのは困ったもんです。何を言いたいのかさっぱり要領を得ない脚本が一番の問題でしょう。観ていて腹が立ちました。
5位「天の茶助」。SABU監督は時たまキラリ光る作品を作るので注目してるのですが。本作はいただけませんね。人間の運命はすべて天国で書かれたシナリオ通りだった、という着想は面白いのですが、そのアイデアがうまく生かし切れていません。下界の女性ユリ(大野いと)に思いを寄せ、シナリオで彼女が事故死する事を知って、彼女の運命を変える為茶助(松山ケンイチ)が地上に降りる、という出だしなのですが、根本的に疑問に思うのは、人生がシナリオ通りなら、そのシナリオの方を書き直させなければいけないでしょうに。だったら地上に降りるのは無駄。天国でシナリオを書き直させるべくアクションを起こすべきではないでしょうか。また地上に降りた茶助が、何故かヤクザになるという展開も意味不明。そもそも天使(それも下っ端のお茶汲み係)が、天国のルール無視して好き勝手に動き回れるものなのか。そこはきちんと、どのランクの天使がどんな能力を有してて、どんな権限を持ってるのかという基準をどこかで明示しておくべくでしょう。いつもの事ですが、日本映画では脚本の問題点をチェックし修正させるシステムが全然機能していませんね。一人で脚本を書き一人で監督する場合(ワースト1位もそう)は特にそういう問題が発生し易い気がします。茶助が沖縄の狭い路地を走り抜けるシーンはいつものSABU節炸裂でそこだけは良かったのですがね。
6位「合葬」。原作・杉浦日向子に脚本が、「ジョゼと虎と魚たち」などの渡辺あや、と、一流どころが揃っているし、企画・制作が大手の松竹なので大いに期待したのだけれど、映画はまるでつまらなかったですね。いくら監督が新人だからといって、もう少し主役3人に演技指導しないと。柳楽優弥はもう中堅どころなのに演技が硬いし、他の2人は台詞も演技もぎこちない。彰義隊に参加して徳川家に殉じようとする若者たちの悲壮感、心の葛藤がまるで描けていません。これといって山場もなく、ダラダラ話が進むし、ラストに至っては、クライマックスとなるべき上野戦争がポンと飛んでしまってます。大手が噛んでるのですから、ここは「ラスト・サムライ」ばりの壮絶な戦闘シーンを入れないと。前半に登場するヘンな妖怪も意味不明。いくら原作者の作品に江戸妖怪ものがあるって言ったって、この物語とは関係ないでしょうが。せっかくの原作がぶち壊しです。
7位「映画 みんな!エスパーだよ!」。昨年は「新宿スワン」、「リアル鬼ごっこ」、「ラブ&ピース」それに本作と、園子温監督作が4本も公開されました。いくらなんでもこれは作り過ぎ。そりゃ2本立てのプログラム・ピクチャーが量産されていた時代には深作欣二監督が年間5本も監督した時もありましたが、それはプロデューサーや脚本家がきっちり準備してスタンバイしてたからやれたわけで、今の時代そういう環境がなく、有能なプロデューサーもいない状況で、一人で頑張るのも限界があります。まあそれでも前の3本はツッ込みどころはあれど、まあまあ楽しめる作品になってましたが、さすがにこれはダメでしょう。元はテレビドラマという事ですが、テレビを観てない観客は置いてけぼりというのも困ります。パンチラも盛大に飛び出しますが、もうそろそろ飽きましたよ(笑)。
8位「予告犯」。いかにも思わせぶりな予告編が面白そうなので観ましたが、ガッカリですね。法で裁けない悪い奴に制裁を加えようという予告犯たちの行動は、うまく描けば「正義とは何か」という問題提起・社会派ドラマになる可能性を秘めているのですが、やり方がなんとも稚拙で、例えれば2ちゃんねる等で、噂が立った特定の人物を集中的に叩きまくって騒ぐネット住民と同列にしか見えません。しかも中村義洋監督、私が「白ゆき姫殺人事件」でも指摘した、“画面上をスクロールコメントが延々と流れる、いかにもネット活用を映像化してますよ”的安直手法をまたまたやってます。もうこれで観る気をなくします。さらに加えて捜査する戸田恵梨香たち警察側も、もっと頭使えよ、と言いたくなるバカっぽさにだんだんイライラして来ます。警察に追われて捕まりそうになると、運よく助けてくれる市民が出てくるのもご都合主義。ラストに至って突然美談風に締めくくるオチにも唖然。それを暗示させる伏線もないから唐突にしか見えない。もしそれが本心なら、そもそも愉快犯みたいな行動は取らないでしょう。とにかく脚本が弱すぎます。もっと昔のミステリー映画を何度も観直し、研究しなさいと言いたいですね。
9位「エイプリル・フールズ」。脚本があの「キサラギ」の古沢良太だけに期待したのですが、残念ながらあの作品ほどの脚本の練りが感じられません。確かに一見、あの時のアレが実はこうだった、的なシーンはあるのですが、設定に無理があり過ぎて、なるほどと膝を打つ所まで至ってません。さらに、「キサラギ」が面白かったのは、脚本もさりながら佐藤祐市監督のテンポよくかつケレン味ある演出が相乗効果となっていたからです。こういうヒネった脚本は監督の技量が問われます。本作の監督(石川淳一)はその点まだまだ技術不足が感じられます。
それにしても、8位と同じくこちらにも戸田恵梨香が出てます。もっと作品を選ぶべきでしょう。
10位「ボクは「坊さん」。「ALWAYS 三丁目の夕日」等を作ったROBOTが製作に絡んでいるのでちょっと期待したのですが、これまた期待はずれ。坊さんになった若者が、さまざまな経験や人との出会いを通して人間的に成長する、という物語、らしいのですが、これも脚本(平田研也)が粗雑。単にブツ切りのエピソードを並べただけで、登場人物のキャラクターも描き込みが浅い。濱田岳が途中で引きこもるのだけれど、なんでそうなったのかも描かれておらず、いつの間にか治ってる、といった具合。調べたらこの脚本家、以前に「忍 SHINOBI」というヒドい駄作(文春でワーストワンだったはず)を書いた人だと知って納得。監督も新人らしいけど、平板でダラダラとした演出に眠気を催してしまいました。愛媛が舞台なのに、方言での会話がほとんどないのは、そこまで気が回らなかったのでしょうか。坊さん映画では以前に、当時は新人だった周防正行監督が「ファンシイ・ダンス」という快作を発表し、これで評価された周防監督は以後ベストワン作品を連打して行く事となります。そういう縁起のいい題材なのですから、真壁監督、あの映画を何度も観て、気合を入れて撮って欲しかったですね。
次点 「トイレのピエタ」。ヨコハマでベストテンに入る等、評価の高い作品ですが、私には合いませんでした。まず良くないのが、主演を務めた野田洋次郎。ロックバンドの歌手という事ですが、やはり演技がヘタ過ぎ。何を考えてるのか掴みどころがなく、最後まで感情移入出来ずに終わりました。そしてタイトルになっている、トイレの壁に描かれた絵。なんでキャンバスでなく、狭くて鑑賞に不向きなトイレなのか、その理由がまったく不明。だいたい臭いでしょうが(笑)。
胃がんで余命わずかと知らされた主人公が苦悩の末に、ある物を作って残し死んで行く…というストーリー、黒澤明監督の傑作「生きる」とほとんど同じ、というのもどうでしょうかね。ご丁寧に主人公に生きる希望を与える少女まで登場します(笑)。あの傑作には及ばずとも、もっと演技の出来る役者を起用し、脚本を練り込むべきでしょう。松永監督の演出は悪くはなかったとは思いますがね。
今年度も、ほとんどを日本映画(9本)が占めてしまいました。私の好きな監督や期待している人も入ってるのには余計ガッカリ。今年は頑張って名誉挽回していただきたいですね。