恒例の、私の選んだ2012年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、2012年1月〜12月の間に大阪にて公開されたものが対象となっております。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
この空の花 長岡花火物語 大林 宣彦
アーティスト ミシェル・アザナビシウス
おおかみこどもの雨と雪 細田 守
ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳 長谷川 三郎
戦火の馬 スティーヴン・スピルバーグ
ヒミズ 園 子温
ももへの手紙 沖浦 啓之
ヒューゴの不思議な発明 マーティン・スコセッシ
レ・ミゼラブル トム・フーパー
10 ミッドナイト・イン・パリ ウディ・アレン
11 アルゴ ベン・アフレック
12 桐島、部活やめるってよ 吉田 大八
13 J・エドガー クリント・イーストウッド
14 最強のふたり エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
15 別離 アスガー・ファルハディ
16 その夜の侍 赤堀 雅秋
17 希望の国 園 子温
18 鍵泥棒のメソッド 内田 けんじ
19 ドライヴ ニコラス・ウィンディング・レフン
20 終の信託 周防 正行
人生の特等席 ロバート・ローレンツ

 

 個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

 

1位 この空の花 長岡花火物語
 74歳という年齢を感じさせない、大林監督が荒々しくパワフルに、思いのたけを爆発させた渾身の大傑作。とにかく圧倒されました。

2位 アーティスト
 元はモノクロ、サイレントからスタートした映画という芸術。その原点に戻って、あの頃の映画の楽しさを再確認しようとするアザナビシウス監督の大胆な試みが見事に成功した秀作。映画好きである事が心から幸せに感じる作品ですね。

3位 おおかみこどもの雨と雪
 自然の中で育ち、やがて親から巣立って行く子供たちの成長を丹念に描いた脚本・演出とも見事な傑作。間違いなく細田守監督は、宮崎駿の後継者になるでしょうね。

4位 ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳
 福島菊次郎さんという、凄い人物の実像が、多面的な角度から見事に捉えられています。ラストで、福島さんの写真家としての原点となった、広島原爆後遺症で亡くなった方の墓前で号泣する姿にこちらも泣けました。

5位 戦火の馬
 もはや巨匠の風格さえ感じさせられる、スピルバーグの壮大な叙事詩的秀作。ラストの夕焼けシーンがいつまでも心に沁みます。

6位 ヒミズ
 主人公の少年・少女たちの再生に明日への希望を託した、青春映画の力作。「頑張れ!」の叫びが今も耳に残ります。

7位 ももへの手紙
 父を思い、母を労わるけなげな少女の思いに涙しました。沖浦啓之監督にはもっと映画を撮らせて欲しいですね。

8位 ヒューゴの不思議な発明
 絢爛たる映像技術を駆使して、映画創世記の不遇の作家、ジョルジュ・メリエスを称えた感動的傑作。「アーティスト」と並んで、映画という総合芸術の素晴らしさ、奥の深さを再認識させられます。

9位 レ・ミゼラブル
 壮大なスケールで、人間の業、悲しみを見事に描き、ミュージカルとしても人間ドラマとしても堪能出来る力作です。オリジナルの舞台も見たくなりました。

10位 ミッドナイト・イン・パリ
 パリの古き良き時代の芸術に思いをはせながら、夢のようなファンタジーとしても楽しめる秀作。悠々とこういう作品を作れるウディ・アレンは天才ですね。

11位 アルゴ
 不安な中東情勢の政治がからむ実話の映画化なのに、スリリングなサスペンス・エンタティンメントに仕上がっているのが凄い。ベン・アフレックの監督作は今後も楽しみです。

12位 桐島、部活やめるってよ
 同じ日の出来事を、視点を変えて描く中で、登場しない“桐島”という存在の重さが全体を支配して行く斬新な演出が見事。さりげなく描かれる映画への愛にも感動。ラストの夕暮れの光芒が画竜点睛で効いています。吉田大八監督は、1作ごとにどんどん凄くなってます。

13位 J・エドガー
 過去と現在巧みにを交錯させつつ、J・エドガー・フーバーという怪物の正体が次第に炙り出されて行く展開もさりながら、“アメリカの正義への疑義”にまでも迫ったイーストウッド監督の演出はいつもながら見事の一言。本当に凄い人です。

14位 最強のふたり
 粗暴で自分勝手な若者が、富豪の介護を通じて人間的に成長する姿を縦糸に、友情、人との絆、生きることへの問いかけ、を横糸に絡めた考えさせられる秀作。障害者を扱っているのに、暗くならずユーモラスに描く脚本・演出が秀逸です。

15位 別離 (イラン)
 「彼女が消えた浜辺」でも感心させられたアスガー・ファルハディ監督の秀作。前作も心理ミステリーとして見事でしたが、今作もさまざまな謎を散りばめつつ、ちょっとした綻びから相互不信が修復不能にまで広がって行く、人間の愚かしさが見事に描かれていました。あるいはこれは、イランとそれを取り巻く国家間のメタファーとも見てとれます。考えさせられる問題作です。

16位 その夜の侍
 妻を殺された男の復讐劇と見せつつ、この現代に生きる人々の孤独感を、多様なキャラクターとさりげないエピソードを配して掬い取った人間ドラマの秀作。赤堀雅秋監督の次回作が楽しみです。

17位 希望の国
 これは重い問題作です。批評を書こうとしたのですが、どうしてもまとめられませんでした。題名は、“絶望の未来”に対する反語になっています。“フクシマ”という災厄を招いてしまった日本と日本人の現在を、再び繰り返してしまう悪夢の近未来像を通して園子温監督は問いかけています。“一歩一歩”前に進む若者たちに、せめてもの希望を託したいものです。

18位 鍵泥棒のメソッド
 内田けんじ監督の脚本は相変わらず秀逸です。多重的に入り組んだ構成はいつもながら緻密でよく出来ていますが、今回はラブ・ロマンスの要素も加わって心なごませる爽やかな作品に仕上がりました。エンディングが洒落てるのもいいですね。

19位 ドライブ
 デンマーク出身の新鋭、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の、スタイリッシュでクールな演出が光るフィルム・ノワール的佳作。題名といい、名前のない主人公といい、ウォルター・ヒル監督の秀作「ザ・ドライバー」を連想させますね、リュック・ベッソン監督「レオン」のスパイスもちょっと混じってます。今後が期待出来ますね。

20位 終の信託
 「それでもボクはやってない」から、周防正行監督の作劇は社会派的色合いが濃くなって来ましたね。“尊厳死”問題も描かれてますが、メインとなるのは前作と同じく、一人の人間を強引に、罪人にしてしまう検察・裁判制度への問題提起です。前半では綾乃(草刈民代)の患者に寄せる思いを丁寧に描いて観客の心情を彼女に向かわせ、後半では一転して検事が理詰めで彼女を屈服させて行く。検事としては自分が正しいという信念がブレていないだけに、余計“法の正義”について考えさせられてしまいます。ただ、前半の比重が少々重すぎて、テーマがやや拡散してしまった気がします。それで順位が下になってしまいました。

  
…さて、以上がベスト20ですが、例によってまだまだ入れたい作品が目白押しですので、もう10本、ベスト30まで紹介しておきます(タイトルのみ)。

21位 人生の特等席
22位 フランケンウィニー
23位 ヘルプ〜心がつなぐストーリー
24位 わが母の記
25位 哀しき獣
 
26位
 かぞくのくに

27位 メランコリア
28位 キツツキと雨

29位 
ALWAYS 三丁目の夕日'64
30位 
るろうに剣心

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昨年は何かと忙しくて、ベスト20の作品評があまりアップ出来なかったのが心残り。今年は出来るだけ多くアップしたいですね。

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さてお次は、恒例となった、楽しいおバカB級映画を集めた、「愛すべきB級映画大賞」ベストテンです。…と行きたい所ですが、残念ながら10本集まりませんでしたので、ベスト5だけ発表しておきます。

1位 トロール・ハンター  *大ボラに真剣に取り組んでる姿勢がいい。
2位 アタック・ザ・ブロック  *エイリアンものなのにショボい雰囲気がいい。
3位 アイアン・スカイ   *ナチスが月の裏側にいるという発想に唖然。 
4位 ムカデ人間2     *1作目ほどのインパクトはないけど、主人公のキャラに圧倒された。
5位 ゾンビアス     
 *いつもながら井口昇監督は着想が奇抜。

1位は、ノルウェーからやって来た珍品。フェイク・ドキュメントなるものをからかった、その姿勢を買います。チラシまで“これは全世界を揺るがす衝撃的な記録映像である!”と確信犯的に笑かしてくれます。2位はエドガー・ライトが製作総指揮を務め、ニック・フロストが出演してるだけあって、あのおトボケぶりがたまりませんなあ。これこそB級映画。バカバカしさではインド映画「ロボット」が最高なんですが、B級とは言えませんので、まあのおバカ大賞を差し上げておきましょう。

  
   ワーストテンもUPしましたので、そちらもご覧ください。

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