恒例の、私の選んだ2008年度・ベスト20を発表します。例年通り、邦画・洋画の区別なしに20本の作品を選び、順位をつけてみました。
 選考基準は、2008年1月〜12月の間に大阪にて公開されたものが対象となっております。

順位 作  品  名 監  督  名 採 点
おくりびと 滝田 洋二郎
ゼア・ウイル・ビー・ブラッド ポール・トーマス・アンダーソン
ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト マーティン・スコセッシ
その土曜日 7時58分 シドニー・ルメット
母べえ 山田 洋次
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち) 若松 孝二
ガチ☆ボーイ 小泉 徳宏
崖の上のポニョ 宮崎 駿
ダークナイト クリストファー・ノーラン
10 ノーカントリー ジョエル&イーサン・コーエン
11 WALL・E/ウォーリー アンドリュー・スタントン
12 シークレット・サンシャイン イ・チャンドン
13 僕たちと駐在さんの700日戦争 塚本 連平
14 歩いても 歩いても 是枝 裕和
15 闇の子供たち 阪本 順治
16 ミスト フランク・ダラボン
17 K−20 怪人二十面相・伝 佐藤 嗣麻子
18 イースタン・プロミス デヴィッド・クローネンバーグ
19 告発のとき ポール・ハギス
20 その日のまえに 大林 宣彦
アキレスと亀 北野 武

 

 個々の作品評については、以下の文中のリンクバー付タイトルをクリックすると、それぞれの批評ページに飛びますのでそちらを参照してください。 (ここに戻る場合はツールバーの「戻る」を使ってください)

 

1位 おくりびと
 これはもう文句なし。題材の取り上げ方、脚本のうまさ、緩急自在の演出の確かさ。すべて満点です。
 コメディから人間ドラマまで、多くの秀作を撮って来た滝田洋二郎監督にとっても、これは生涯の最高作でしょう。個人的にも、最近身内を亡くしたばかりで、なおの事泣けて仕方がありませんでした。

2位 ゼア・ウイル・ビー・ブラッド
 重厚な力作。ダニエル・デイ=ルイスの熱演が光ります。詳細は作品評参照。

3位 ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト
 60歳を超えても、青春溌剌のストーンズに唸らされました。スコセッシの演出もダイナミックかつスタイリッシュで文句なし。ラストの、満月がトレードマークのベロマークに変わるシーンでは拍手したくなりました。

4位 その土曜日、7時58分
 シドニー・ルメットの復活が嬉しい。強盗犯罪サスペンスで始まり、ギリシア悲劇のような結末に終わる構成の見事さに、ただ声もない。圧倒される秀作。

5位 母べえ
 山田洋次、うまい、としか言いようがない。笑わせ、ホロリとさせ、戦争に突き進むあの時代の庶民像を的確に捕らえ、かつ全体を親子と家族の物語にまとめる構成・演出の見事さ。映画作りのお手本です。

6位 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
 実は観た後、何度も原稿を書いては書き直し、しかしどうしても客観的にまとめられず、とうとう作品評を掲載しそびれました。それ程に私にとっては重い作品です。新左翼運動が如何に高揚し、そして瓦解して行ったかを見事に追求した、若松孝二監督にしか作れない、連合赤軍ものの最高傑作でしょう。…さて、何年もの間「連合赤軍」製作に意欲を燃やして来て、いまだ実現出来ていない長谷川和彦監督が、この作品をどう捕らえるのか、聞きたい所です。

7位 ガチ☆ボーイ
 詳細は作品評参照。泣けます。小泉徳宏監督は今後も注目です。

8位 崖の上のポニョ
 ストーリー的には破綻だらけなのですが、手づくりセル・アニメによる、宮崎監督の怒濤のごとき演出パワー、イマジネーションの洪水に圧倒されます。頭の中に巻き起こるイメージを、ここまで勢いのままに具現化出来る作家はそういないでしょう。

9位 ダークナイト
 アメコミ「バットマン」の世界を借りて、人間の内在する善と悪の相克をここまで描ききったクリストファー・ノーラン監督、それをビジュアルとして完璧に演じ切ったヒース・レジャー、共にお見事。…しかし我が国で、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」を、こんなハイレベルの芸術にまで高められる脚本家や監督がいるだろうか(笑)。

10位 ノーカントリー
 こちらも、犯罪サスペンスを芸術レベルに押し上げたコーエン兄弟の力量に感服。

以上、ベストテンでした。

11位 WALL・E/ウォーリー
 地球の未来に警告を与え、かつピュアなラブ・ストーリーとしても感動させられる、ピクサー・アニメーションの新たな展開に拍手。

12位 シークレット・サンシャイン
 子供を誘拐されたうえ殺害されるという不幸のどん底に突き落とされ、宗教に救いを求めるも満たされず、人生を迷い続けながらも、最後にささやかな光明を見出すヒロイン、チョン・ドヨンの存在感ある演技が秀逸。その彼女をずっと温かく見守り続けるソン・ガンホは相変わらずうまい。力作です。

13位 ぼくたちと駐在さんの700日戦争
 マンガチックなドタバタ騒動に、ホロリとした感動ドラマを巧妙にブレンドした構成がうまい。一歩間違えればメロメロに成りかねない、ギリギリの所で成功に導いた演出に非凡なものを感じます。塚本連平監督の次回作に注目です。

14位 歩いても 歩いても
 是枝裕和監督の成長ぶりが覗える、味わい深い秀作です。

15位 闇の子供たち
 現代社会の、人間の闇を骨太に描き切った阪本順治監督の演出が光る力作。子供たちの自然な演技が素晴らしい。

16位 ミスト
 さすがフランク・ダラボン監督、ホラーを撮らせても一級です。

17位 K-20 怪人二十面相・伝
 年末ギリギリに飛び込んだ、思わぬ拾い物の冒険活劇エンタティンメントの快作。日本映画でもここまで出来るようになった事に、感慨深いものがあります。

18位 イースタン・プロミス
 緊迫した、ヒリヒリする演出のテンションに圧倒されます。クローネンバーグ監督は着実に名匠の域に近づいていると思います。ヴィゴ・モーテンセンの体を張った演技も見どころ。

19位 告発のとき
 イラク戦争告発映画がいくつか登場した年でしたが、これはその代表作。スリリングなミステリーとしても楽しめます。

20位 その日のまえに
 重松清の原作を大胆にアレンジ。過去の大林映画の断片に加え、宮沢賢治やくらむぼんまでぶち込んでコラージュした演出は評価の分かれる所ですが、メソメソ泣くよりも、爽やかな訣れにまとめた大林演出の姿勢は評価できます。何より、冒頭に登場する大林映画のトレードマーク“A MOVIE”が、この映画の方向性を示しています。ヒロインの最期のメッセージにはジンと来ました。ただし、夫を演じた南原清隆はやはりミスキャスト。妻を演じた永作博美が良かっただけに余計違和感が残りました。

 
…さて、以上がベスト20ですが、2008年は20本に収められないくらい秀作が目白押しでした。なので(いつもの事ですが)、ベスト30まで紹介しておきます。

21位 アキレスと亀
 北野武らしい、芸術商業主義を痛烈な皮肉交じりに描いた、笑いとペーソスの小品佳作。一般的にはあまり評価されませんでしたが、こういうブラックな笑いとカリカチュアが込められた映画はもっと作られても良いと思います。

22位 ぐるりのこと。 (監督:橋口亮輔)
 橋口監督の成長ぶりが感じられる秀作。夫婦の10年の歴史を、大きな歴史のうねりと対比させながら描いた視点は非凡です。ただ、主演のリリー・フランキーが、私的にはもう少しうまい役者を使って欲しかった。そこが難点でありました。

23位 この自由な世界で (監督:ケン・ローチ)
 不法移民の人材派遣業を始めた女性を主人公に、現代社会が抱える問題点を鋭く描き出す。いつもながら社会の底辺を見つめる、ケン・ローチらしい佳作です。雇用不安が広がる今の日本も他人事じゃない。タイトルが実に皮肉。

24位 クライマーズ・ハイ (監督:原田眞人)
 これも原田眞人らしい骨太の人間群像ドラマ。ラストはもう少しピシッと締めたらもっと上にしても良かったですね。

25位 潜水服は蝶の夢を見る (監督:ジュリアン・シュナーベル)
 これが実話だという事に驚きです。ドルトン・トランボ監督の秀作「ジョニーは戦場へ行った」を思い出す人も多いはず。

26位 さよなら。いつかわかること
 詳細は作品評参照。静かに感動が広がる佳作です。

27位 ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!
 昨年、一番楽しかった、笑いとギャグと映画愛がぎっしり詰まった快作。

28位 スカイ・クロラ
 相変わらずの押井ワールド。帰らざる青春への挽歌を奏でる作品ムードはやはり捨てがたい。好きですね。

29位 勇者たちの戦場
 監督のアーウィン・ウィンクラーには今後も注目を。

30位 アクロス・ザ・ユニバース
 ビートルズと'70年代に思い入れのある人には応えられない快作。

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これでも網羅し切れないので、おマケとして、いわゆる秀作とは言えないけれど、腹を抱えて笑った、楽しいB級映画の快作=名付けて「愛すべきB級映画大賞」ベスト10の発表です。…本当はこちらが好みなのですが(笑)。

1位 ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン! ベストにも入れてますが、固い事はナシで…

2位 片腕マシンガール  おバカ度では1位でしょう。チープでくだらないのに、作品からは真摯な態度が伝わって来ます。もっと予算を使えれば、さらに凄いものを作ってしまう気がします。井口昇監督の次回作に期待!。

3位 シューテム・アップ これもバカバカしい事を一生懸命やって、観客を楽しませようとする姿勢を買います。「タマを撃ち尽くした」に笑いました。

4位 Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!  笑いの中に、過去のコメディ映画に対するオマージュ(特にジャック・タチ)を感じます。詳細は作品評参照。

5位 ワイルド・バレット  意外と拾いもののアクション映画の佳作。これこそまさにB級映画!。

6位 トロピック・サンダー 史上最低の作戦  金をかけて、ビッグスターを招いて、おバカ映画を作ってしまうベン・スティラーの作戦には敬意を表したい。規模から言えばB級とは言えないんですがね。

7位 僕らのミライヘ逆回転  ホントはベストに入れたい秀作。前半バカバカしく、後半感動…という珍しい快作。

8位 ミラクル7号  従来路線とは異なり、下層庶民の生活とペーソスをリアルに描いて、チャウ・シンチー新境地開拓。しかしファンとしては、おバカなギャグ・アクション路線を続けて欲しいのですがね。

9位 ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発  くだらなさでは随一(笑)。邦画がこれ1本なのが残念。しかしサミット時の総理がアソウさんだったらもっとコケにできただろうな(笑)。フクダさんじゃ叩くと可哀相だから(笑)。

10位 燃えよ!ピンポン  おバカを狙ってたんでしょうが、ちょっとスベってましたね。惜しい。しかしクリストファー・ウォーケン、よく出演しましたね。しかも頑張ってる。彼の熱演に1票。

 

  
   ワーストテンもUPしましたので、そちらもご覧ください。

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