この空の花 長岡花火物語

Konosoranohana 2011年・日本/配給:PSC、TMエンタテインメント
 監督:大林宣彦
 脚本:長谷川孝治、大林宣彦
 撮影台本:大林宣彦
 撮影:加藤雄大、三本木久城、星 貴
 音楽:久石 譲
 製作プロデューサー:大林恭子、渡辺千雅

 
 
 
 
毎年8月1日の長岡空襲があった日の夜に打ち上げられる“長岡花火”をモチーフに、戦争、大震災で亡くなった人々を悼み、命の大切さと未来への希望を、壮大な映像美を駆使して描く、本年最高の傑作ヒューマン・ドラマ。監督は「転校生−さよならあなた−」「その日のまえに」等の大ベテラン、大林宣彦。

天草の地方紙記者・遠藤玲子(松雪泰子)は、18年前に別れた、かつての恋人・片山健一(高嶋政宏)から突然届いた「長岡の花火を見てほしい」という手紙に心惹かれ、新潟・長岡市に取材にやって来た。玲子は新潟日報の記者、井上和歌子(原田夏希)や、歴史に詳しいタクシー運転手(笹野高史)の案内で、街に残る戦争の痕跡を辿るうちに、様々な人々と出会い、過去と現在を繋ぐ不思議な体験を重ねて行く。また一方片山は、自分が教師を勤める高校で、不思議な生徒・元木花(猪股南)が書いた「まだ戦争には間に合う」という野外劇の上演に力を注いでいた…。

…と一応のストーリーはあるが、そこに2004年の新潟県中越地震の記憶、昨年の東日本大震災でこの地に移住して来た被災者の復興への思い、さらに幕末の戊辰戦争、第二次大戦の長岡大空襲という歴史を辿り、戦争の記憶の語り部や、長岡花火の貼り絵を制作した放浪画家・山下清まで登場し、最後は空襲で亡くなった者たちへの鎮魂劇「まだ戦争には間に合う」の舞台上演と8月1日の壮大な長岡花火が派手に交錯するといった具合に、過去と現在、現実と空想が縦横に入り乱れ、いかにも大林監督らしい映像の洪水、思いのほとばしりに圧倒され、打ちのめされる。

この映画には、長岡に関する歴史やエピソードが多く盛り込まれている。
メインとなる長岡花火大会は、昭和20年8月1日のB29による大空襲で多くの人の命が失われた、その追悼の為に毎年8月1日に開催されているのだという。命と、生と死に関するテーマの作品を作り続けて来た大林監督が興味を惹かれたのも頷ける。
さらに長岡出身の、戊辰戦争後に米百俵を教育・人材育成に充てた小林虎三郎や、連合艦隊司令長官山本五十六のエピソード、長岡が大戦中、長崎型原爆“ファットマン”の模擬弾の投下実験地だった等の知られざる大戦秘話も盛り込む等、ぎっしりと詰め込まれたもの凄い情報量はハンパではない。上映時間は2時間40分と長いが、それでも描き足りない、という感じである。

また、この映画の撮影中の昨年7月末に集中豪雨が新潟を襲い、花火大会の会場が水没し、開催が危ぶまれながらも「イベントなら中止すべきだが、復興、追悼、祈りのメッセージが込められた花火大会は中止すべきではない」と市長が決断したエピソードも、その被災の記録映像と共に映画に取り込まれた。
登場人物のモデルとなった花火師や、空襲で子供を亡くし、紙芝居で戦争の悲惨さを訴え続けている(映画では富司純子が演じた)七里アイさんご本人も画面に登場する等、随所にドキュメンタリー的な手法が駆使されているのもユニーク。

映画はこうして、演劇、紙芝居、ドキュメンタリー、さらに登場人物が観客に語りかけるシネマヴェリテ、等のさまざまな手法が駆使され、圧巻のラストでは舞台的な書割り、オプティカル合成、アニメで空襲の炎が表現される等、まさにあらゆる表現手段がおもちゃ箱をひっくり返したように登場し、壮観である。

思えば大林作品は、商業映画デビュー作「HOUSE」でも、アニメ、SFX映像をフル活用した映像の洪水で楽しませてくれたし、登場人物が観客に語りかける手法は「青春デンデケデケデケ」でもおなじみ。亡くなった人物が現代に現れ、主人公たちと交流する展開は「異人たちとの夏」などで、戦争に対する静かな怒りは「野ゆき山ゆき海べゆき」などで(「HOUSE」にも戦死した恋人の逸話がある)それぞれ、大林作品によく登場する題材である。

そして何より、「ふたり」「あした」から「その日のまえに」に至るまで、ここ数本の大林作品には、死者への思い、死と向き合う事、を問いかけた作品が多くなっている。

まさしくこの作品は、大林宣彦監督の集大成的作品とも言えるのである。

今年74歳になり、本格デビューの「HOUSE」から35年、一つの節目として、大林監督は衰えるどころか、ますます若々しく、過激に、思いの丈を、それこそ花火のように盛大に打ち上げ、映画観客を魅了し、映画の語り部として、明日に生きる若者たちにメッセージを発信し続けているのである。
その熱い思い、姿勢に私は素直に感動し、涙が溢れた。

 
長岡花火の貼り絵を発表した山下清は、「世界中の爆弾を花火に変えて打ち上げたら、世界から戦争が無くなるのに」と語ったそうだ。

花火も爆弾も、どちらも火薬という同じ材質を使っているが、花火は人の心をなごませ、美しく、平和の祈りの象徴でもあるのに対し、爆弾は戦争の道具として多くの人の命を奪う。

原子力もまた、平和利用としては生活に必要なエネルギー=電気を生み出すが、核兵器(爆弾)として使われたら多くの人を虐殺する。その原発も一たび事故を起こせば、人々の生活を奪い苦しめる悪魔にもなり得る。

人間が産み出した文明の利器は、斯様にいろんな二面性を持っている。この映画はそういった、現代文明の複雑さ、矛盾についても考えさせてくれるのだ。

集大成に相応しく、過去の大林映画の常連俳優も大挙出演している。尾美としのり、ベンガル、根岸季衣、勝野雅奈恵、蓮佛美沙子、片岡鶴太郎、筧利夫、寺島咲、そして入江若葉…
そして若手新人女優を発掘する名人の大林監督が見出した新人、元木花を演じた猪股南はフレッシュで、これからの活躍が期待される。ちなみに彼女は一輪車の世界大会の優勝経験もあるそうで、どうりで一輪車の扱いがうまいはずだ。

ともかく本作は、大林宣彦監督にとっても渾身の、壮大なスケールと深いテーマを持った傑作である。私の本年のベストワンはこれで決まりである。

 
だが残念なことに、公開規模は極めて限定的で、特に大阪での初公開はキタでもミナミでもなく、東大阪市の布施ラインシネマであった。それもわずか2週間。後半の1週間は午前10時25分からの1回きり。仕方なく仕事を休んで観に行った。危うく見逃す所だった。まさしく“間に合って”良かった。

作品評価は高いので、これから少しづつ上映は増えて行くようだが、まだまだ限定的だ。出来るだけ多くの人に観てもらいたいが、個人的には全国民必見だと思う。マスコミももっと取り上げて欲しいと願う。

エンドロールに映される、長岡花火の映像も素晴らしい。ここでも涙が溢れた。これは是非劇場に足を運んで観て欲しい。そして観た人みんなで口コミで盛り上げて、上映規模の拡大に繋げて行く事を望みたい。  (採点=★★★★★