レディ・イン・ザ・ウォーター (米:M・ナイト・シャマラン 監督)
「シックス・センス」が大ヒットしたおかげで、以後のシャマラン監督作品、どれもかなりの期待を持って多くの人が観てくれているが(かく言う私もその一人)、
毎回その期待を裏切る作品ばかり。
「アンブレイカブル」、「サイン」、「ヴィレッジ」・・・と、1作ごとにスケールダウンしているような気がする。
どれも、散々気を持たせといて、「そんなオチかよ〜」と言いたくなる結末ばっかりである(そのオチの意外性も1作ごとに薄れて来ているが)。
そう言えば主演スターも、ブルース・ウィリス→メル・ギブソン→エイドリアン・ブロディ…と、どんどん小粒化してて、本作ではぐっとギャラも少ない(多分)ポール・ジアマッティ(「サイドウェイ」「シンデレラマン」)である。予算も減って来てるのかな。
(そう言いながらも毎回封切られる度にイソイソ観に行ってしまう私(笑))
で、本作では、(あ、これもネタバレになるかな?)とうとう意外なオチが無くなった。
まあ、いつまでもワンパターンというわけには行かないだろうし、新境地開拓…という事ならそれも歓迎である。
が、
これから観る方の為にあんまり詳しく書くことは控えたいが、
ざっくばらんに言うなら、これはファンタジーである。
それも、話としては、“邪悪なパワーと対決してこの世に平和をもたらす”・・・という童話ファンタジーである。
もともとは、シャマランが自分の子供たちに聞かせていたお伽話(ベッド・タイム・ストーリー)なんだそうで、それなら舞台も架空の国にでもすればよさそうなものを、何故かフィラデルフィア(シャマランのホームグラウンド)の小さなアパートの中だけが舞台で、悪と立ち向かう正義の戦士たちもすべてアパートの住民ばかり。
なんだか、アパートの祭りの余興で上演される素人芝居みたいな感じである(これも予算がなかったのかなぁ(笑))。
そんなわけで、ツッ込み所満載。(以下ネタバレなので伏せます。読みたい方はドラッグして反転してください)
おとぎ話の詳細については、 アパートに住む韓国人の女性のお婆ちゃんが語ってくれるのだが、てことはこれは韓国に伝わる民話ってこと?
それがなんでアメリカのフィラデルフィアで現実に起きるのか謎である。
なんで都合よく、「守護者」「治癒者」「職人」といった正義の戦士がみんなアパートに住んでたのか? まるで世界はこのアパートしか存在しないかのようである。
こういうのをご都合主義と言う。
こういう、まともな人ならほとんど信じられない話を、物証もないうちから何故住人たちが簡単に信じてしまうのか?疑り深い人も何人かはいるはず。
あのプールの底の住み家は、いつの間に誰が作ったのか?
水の精なら、ラストでなんで空から鷲が迎えに来るのか。水に帰るのが普通では?
↑ネタバレここまで。
まあ、はっきり言ってこれはホラ話である。もっとも、これまでのシャマラン作品も、そういう意味では全部ホラ話なのだが…。
おそらくは賛否分かれるだろう。シャマラン作品を割り切って楽しんで来た人にはそれなりに楽しめるだろうが、「サイン」あたりからガッカリして来た人(私もそう)には、やっぱりガッカリする事請け合いである。
一番いけないのは、登場人物の内面描写が浅く薄っぺらい事である。
「シックス・センス」では、ブルース・ウィリス演じる主人公の医者の心の痛み、幽霊が見える少年のナイーブな心の動きを丁寧に描いていた。その為、あのオチがなくても十分感動出来る物語として完成していた。それ故傑作になったのである。
本作でも、主人公のクリーブランド(ジアマッティ)は妻と娘を亡くして心に空洞を抱えているはずである。
その心の痛み、悲しみが上っ面しか描かれていないし、物語とも絡んでいない。ただのエピソードに終わってしまっている。あれなら入れないほうがマシであった。
ところで、シャマラン監督が「シックス・センス」でブレイクする前に監督した作品に「翼のない天使」(1998)というのがある。
→ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005FXNZ
我が国では劇場未公開で、ビデオのみ出ている。
私はこれを観ている。物語は、大好きだったおじいさんを亡くし、すっかり無気力になった10歳の少年が、おじいさんが天国で無事なのかを知る為、神様を探そうとする…というものだが、少年がやがて初恋をし、周囲の人々と心を通わせて行くプロセスがとても丁寧に描かれていて感動した(この少年のキャラクターが「シックス・センス」の原型となったのであろう)。
最近のシャマランの迷走ぶりを見るにつけ、「シックス・センス」の大成功が逆に足枷となって、初期のナイーブな心を見失ってしまったのではないかと思う。
シャマラン監督よ、もう一度、不遇だったかも知れないがひた向きに頑張っていたあの頃に戻って自分自身を見つめ直すべきではないか。ファンから見捨てられないうちに…。 ()